18 / 40
18 他人=モブじゃなかった
しおりを挟む
よく眠れたからかいつもの調子を取り戻した斗歩は、オレらと一緒に教室に戻った。もう平気なのかって訊いても、大丈夫だっつーし、実際、朝に見えた疲れの気配はすっかり顔から消えてた。
「でも無理したら、またぶり返すかもしれないから程々にね。今日、昨日休みだった代わりにバイトあんだろう? それも休んだ方がいいよ」
言葉の輪郭が溶けてるような、優しい含み声でメガネが言った。けど、斗歩の返事は素っ気なかった。
「いや、行くよ。ただの寝不足だから、もう大丈夫だ」
「いや、でも――」
言いかけたメガネを、オレは遮った。
「なんで寝れなかったんだよ?」
昨日の夜は平気そうな面、してやがったのに。そういうニュアンス込めたのが伝わったのか、斗歩はごめんってこぼした。お前と一緒の時、何ともなかったもんな。悪い。
「お前と別れた後、何つーのかな……親戚? みたいな人が調子悪くなったって連絡があってさ、会いに行ってたんだ」
「実家から連絡があったの?」
メガネの質問に、斗歩は首振った。
「違う、病院からだ。入院中の親戚がいて、オレんとこしか、連絡つかなかったらしい」
斗歩の説明に、メガネは腑に落ちねぇって感じの面したが、それ隠すみてぇに笑み広げた。
「そっか! 大変だったね。大丈夫ならいいんだけど、本当に無理はしないでね」
「ああ。ありがとな」
斗歩は薄く笑って応えた。
学校からの帰り道、オレはいつも通り斗歩と並んで歩きながら、ずっとうわの空だった。特に何も訊きゃしなかっが、斗歩の説明はおかしいとこばっかだ。親戚って、誰だよ? 今のこいつに、里親ンとこ以外に「親戚」なんて呼べる人間がいるはずねぇこと、オレは知ってる。斗歩の言葉聞いてから、胸ン中にはしこりみてぇなモンが溜まって、どうしようもなかった。どういうことだって訊いて、納得いかねぇって思いを全部吐き出しちまいたかった。けど、歯切れ悪い斗歩の口調を思うと、できなかった。一緒にいると、つい問い詰めちまいそうで、その日は斗歩ん家寄らずに帰った。
ベッドに体投げ出して、天井見る。電灯以外は何もねぇそこをぼんやり眺めてっと、いつの間にか頭には、斗歩の顔が浮かんでた。ちょっと困ったような眉間と、とりあえず口元に浮かべたって感じの薄い笑み。あの表情の後ろには、絶対に何がある。「親戚」ってのの存在が斗歩を眠れなくさせたり、あんなビミョーな顔させたりしてるに違いねぇ。どんどん勝手な想像が広がって、そうと気づくとベッドから起き上がった。だめだ。本人に訊けもしねぇのに妄想ばっか膨らませて、みっともねぇ。
オレはどうにか思考を斗歩の言った「親戚」から引き離すため、全く別のこと思い浮かべようとした。真っ先に見つけたのは、あのメガネのことだ。
いい奴だった。
認めざる得なかった。あの野郎の口にした斗歩への「尊敬」の気持ちはニセモノなんかじゃなかった。オレに対して周りの奴らが向けてきた軽薄な褒め言葉とは、全然違った。上面だけじゃなく、ちゃんと斗歩の中身へ目ぇ向けて、あいつなりに斗歩を理解して「尊敬」してるっつってた。他人なんてのはただのモブだと、深い考えなんて持ってやいねぇと、そう思って生きてきたオレにとって、あいつの真摯さは鮮烈な発見だった。あいつはモブじゃない。そのことが、目の前でいきなり事実ンなった。メガネは――いや田井は、オレが嫌ってきた薄っぺらい奴らとは違うんだ。そう思うと視界遮る邪魔なモンが消えて、ちょっと世の中の見晴らしが良くなった気がした。
「でも無理したら、またぶり返すかもしれないから程々にね。今日、昨日休みだった代わりにバイトあんだろう? それも休んだ方がいいよ」
言葉の輪郭が溶けてるような、優しい含み声でメガネが言った。けど、斗歩の返事は素っ気なかった。
「いや、行くよ。ただの寝不足だから、もう大丈夫だ」
「いや、でも――」
言いかけたメガネを、オレは遮った。
「なんで寝れなかったんだよ?」
昨日の夜は平気そうな面、してやがったのに。そういうニュアンス込めたのが伝わったのか、斗歩はごめんってこぼした。お前と一緒の時、何ともなかったもんな。悪い。
「お前と別れた後、何つーのかな……親戚? みたいな人が調子悪くなったって連絡があってさ、会いに行ってたんだ」
「実家から連絡があったの?」
メガネの質問に、斗歩は首振った。
「違う、病院からだ。入院中の親戚がいて、オレんとこしか、連絡つかなかったらしい」
斗歩の説明に、メガネは腑に落ちねぇって感じの面したが、それ隠すみてぇに笑み広げた。
「そっか! 大変だったね。大丈夫ならいいんだけど、本当に無理はしないでね」
「ああ。ありがとな」
斗歩は薄く笑って応えた。
学校からの帰り道、オレはいつも通り斗歩と並んで歩きながら、ずっとうわの空だった。特に何も訊きゃしなかっが、斗歩の説明はおかしいとこばっかだ。親戚って、誰だよ? 今のこいつに、里親ンとこ以外に「親戚」なんて呼べる人間がいるはずねぇこと、オレは知ってる。斗歩の言葉聞いてから、胸ン中にはしこりみてぇなモンが溜まって、どうしようもなかった。どういうことだって訊いて、納得いかねぇって思いを全部吐き出しちまいたかった。けど、歯切れ悪い斗歩の口調を思うと、できなかった。一緒にいると、つい問い詰めちまいそうで、その日は斗歩ん家寄らずに帰った。
ベッドに体投げ出して、天井見る。電灯以外は何もねぇそこをぼんやり眺めてっと、いつの間にか頭には、斗歩の顔が浮かんでた。ちょっと困ったような眉間と、とりあえず口元に浮かべたって感じの薄い笑み。あの表情の後ろには、絶対に何がある。「親戚」ってのの存在が斗歩を眠れなくさせたり、あんなビミョーな顔させたりしてるに違いねぇ。どんどん勝手な想像が広がって、そうと気づくとベッドから起き上がった。だめだ。本人に訊けもしねぇのに妄想ばっか膨らませて、みっともねぇ。
オレはどうにか思考を斗歩の言った「親戚」から引き離すため、全く別のこと思い浮かべようとした。真っ先に見つけたのは、あのメガネのことだ。
いい奴だった。
認めざる得なかった。あの野郎の口にした斗歩への「尊敬」の気持ちはニセモノなんかじゃなかった。オレに対して周りの奴らが向けてきた軽薄な褒め言葉とは、全然違った。上面だけじゃなく、ちゃんと斗歩の中身へ目ぇ向けて、あいつなりに斗歩を理解して「尊敬」してるっつってた。他人なんてのはただのモブだと、深い考えなんて持ってやいねぇと、そう思って生きてきたオレにとって、あいつの真摯さは鮮烈な発見だった。あいつはモブじゃない。そのことが、目の前でいきなり事実ンなった。メガネは――いや田井は、オレが嫌ってきた薄っぺらい奴らとは違うんだ。そう思うと視界遮る邪魔なモンが消えて、ちょっと世の中の見晴らしが良くなった気がした。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる