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14 人生ワーストファイブのクソ
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「おい、澤上」
家に斗歩呼んだ次の週の木曜日、登校するなりオレは斗歩へ円盤突き出した。
「これ、貸してやる」
斗歩がきょとんとして、こっち見た。
「なんで?」
「なんでじゃねぇよ。てめぇ、こないだ聴いてみるっつってただろ。まさか忘れてんじゃねぇだろうな?」
「いや、自分で探してみるつもりだったんだけど……いいのか?」
「よくなきゃ渡さねぇっての」
オラッて押し付けると、斗歩は困ったように眉下げて受け取った。ありがとなって、手の中のモン見つめる。
「返すの、ちょっと遅くてもいいか?」
「ああ、気ぃ済むまで聴いてろ」
薄くて控え目な唇に、笑みの気配が差した。
「ありがとな」
もう一度言ったその声には丸みがあって、戸惑いはさっぱり消えていた。
オレが満足して席へ戻ろうと踵返しかけると、声が飛んできた。
「おはよう、澤上くん!」
見てみれば、斗歩とよくつるんでるメガネとデブが、こっちに寄ってきてやがった。
「高橋くんは、また澤上くんに用なのか」
メガネは前と同じこと言ってきたが、その声に険はなかった。でも、ムカつくことに変わりはねぇ。
「てめぇにンなこと言われる筋合いねぇんだよ。オレが澤上と話すのと、てめぇらが話すのと、何が違うってんだ?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
メガネはなんか焦ったらしく、声乱した。
「今日も仲が良いなと思ったんだよ」
「あ?」
脅すみてぇに語気が強まった。メガネに対する威嚇なのに、なぜかデブの方がビクッとする。ケロリとしたメガネが、メガネのブリッジを指で押し上げると、メガネの縁がキラッと光った。
「澤上くんに仲のいい友だちが増えて、僕も嬉しいよ。君のこと、誤解してたみたいだ。ごめん」
オレの目の前に、手が差し出された。は? って思って視線上げれば、メガネはにこやかに笑った。
「握手しよう! 今日からは僕たちも友だちだ!」
「は!?」
思いがけない発言に、思いがけないでけぇ声が出た。
「なんだそれ、キモ……。握手とか、しねぇだろ、フツー」
「握手くらいしてやれよ」
斗歩の低い声がした。頬杖ついて、机の上にあるバンプのアルバム眺めてやがる。
「そうだよ。澤上くんは素直に握手してくれたぞ」
「きンめぇ!!」
声へさらに力が入った。キメェ。マジでキメェ。なんなんだ、こいつ。握手した? 斗歩と? 斗歩の手ぇ握ったのか?
オレは机へ目ぇやった。そこに置かれた斗歩の右手の白い傷跡が、やけに目立って見える。ふと、この傷に触ったら、どんな感じなんだろうって疑問が過った。
そん時、ボソッとした声が聞こえた。
「自分はもっとすげぇことするクセに」
一気に血が上って来て、顔がマジで発火するかと思うほど熱くなった。今、この瞬間までなかったことになってたあの二回のキスの件が、とんでもねぇスピードで投げつけられた。
「すげぇこと?」
メガネとデブが、声揃えて追い討ちかけてきた。
「ああ、こないだ呼び出された時――」
「おい、こら、てめぇ」
オレは反射的に斗歩の顔――口んとこ掴んでた。
「わざとやってんじゃねぇだろうな。殺すぞ?」
「お前、殺害予告し過ぎだ」
そう言って、斗歩はオレの手ぇ払った。
ムカついて声へさらに凄みがかかる。
「てめぇは、いつもすっとぼけ過ぎなんだよ」
他人に言わねぇだろ、アレ。てめぇだって、知られたかねぇはずだ。
斗歩は肩で息ついた。
「まぁ、オレらのことはいいけど、あんま田井にひでぇこと言うんじゃねぇよ。お前が当たり前に言ってることで、傷つく奴もいんだぞ」
「あ?」
とっさに出た声の後、やっとオレは察した。こいつ、怒ってやがんのか?
斗歩は、あんま表情が変わらねぇ。困ったり戸惑ったりした時に眉ひそめるくらいはするが、その程度だ。だから分かりにきぃが、よく見れば、こん時のこいつの顔は感情全部とっぱらわれたみてぇで、ただ瞳にだけ静かで冷てぇ真剣さが宿ってた。
「いいんだよ、澤上くん。僕も不躾だったんだから」
メガネは相変わらずの妙にハキハキした口調で言ったが、斗歩の尖った態度は崩れなかった。
「お前はそんな不躾じゃないよ。こいつの態度のがよっぽどひどい」
「何キレてんだよ、てめぇ。オトモダチは大事にしたいってか? てめぇら全員クソきめぇな」
言い捨てて、背ぇ向けた。腹の底に淀んだ気持ちが、ずんと重かった。
後ろめたがった。ただ、それはメガネに言ったことに対するモンじゃなく、斗歩を怒らせたことに対する感情だった。あいつに悪く思われたことが、堪えてた。情けねぇ。何がって、斗歩が怒ったその原因は、どうとも思えねぇってことがだ。自分のしたこと省みる気なんか一ミリだってありゃしねぇのに、ただ斗歩に嫌われたくねぇって気持ちだけが心乱してた。クソだな、と我ながら思う。オレのこれまでの人生でワーストファイブに入るレベルのクソさ加減だった。
家に斗歩呼んだ次の週の木曜日、登校するなりオレは斗歩へ円盤突き出した。
「これ、貸してやる」
斗歩がきょとんとして、こっち見た。
「なんで?」
「なんでじゃねぇよ。てめぇ、こないだ聴いてみるっつってただろ。まさか忘れてんじゃねぇだろうな?」
「いや、自分で探してみるつもりだったんだけど……いいのか?」
「よくなきゃ渡さねぇっての」
オラッて押し付けると、斗歩は困ったように眉下げて受け取った。ありがとなって、手の中のモン見つめる。
「返すの、ちょっと遅くてもいいか?」
「ああ、気ぃ済むまで聴いてろ」
薄くて控え目な唇に、笑みの気配が差した。
「ありがとな」
もう一度言ったその声には丸みがあって、戸惑いはさっぱり消えていた。
オレが満足して席へ戻ろうと踵返しかけると、声が飛んできた。
「おはよう、澤上くん!」
見てみれば、斗歩とよくつるんでるメガネとデブが、こっちに寄ってきてやがった。
「高橋くんは、また澤上くんに用なのか」
メガネは前と同じこと言ってきたが、その声に険はなかった。でも、ムカつくことに変わりはねぇ。
「てめぇにンなこと言われる筋合いねぇんだよ。オレが澤上と話すのと、てめぇらが話すのと、何が違うってんだ?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
メガネはなんか焦ったらしく、声乱した。
「今日も仲が良いなと思ったんだよ」
「あ?」
脅すみてぇに語気が強まった。メガネに対する威嚇なのに、なぜかデブの方がビクッとする。ケロリとしたメガネが、メガネのブリッジを指で押し上げると、メガネの縁がキラッと光った。
「澤上くんに仲のいい友だちが増えて、僕も嬉しいよ。君のこと、誤解してたみたいだ。ごめん」
オレの目の前に、手が差し出された。は? って思って視線上げれば、メガネはにこやかに笑った。
「握手しよう! 今日からは僕たちも友だちだ!」
「は!?」
思いがけない発言に、思いがけないでけぇ声が出た。
「なんだそれ、キモ……。握手とか、しねぇだろ、フツー」
「握手くらいしてやれよ」
斗歩の低い声がした。頬杖ついて、机の上にあるバンプのアルバム眺めてやがる。
「そうだよ。澤上くんは素直に握手してくれたぞ」
「きンめぇ!!」
声へさらに力が入った。キメェ。マジでキメェ。なんなんだ、こいつ。握手した? 斗歩と? 斗歩の手ぇ握ったのか?
オレは机へ目ぇやった。そこに置かれた斗歩の右手の白い傷跡が、やけに目立って見える。ふと、この傷に触ったら、どんな感じなんだろうって疑問が過った。
そん時、ボソッとした声が聞こえた。
「自分はもっとすげぇことするクセに」
一気に血が上って来て、顔がマジで発火するかと思うほど熱くなった。今、この瞬間までなかったことになってたあの二回のキスの件が、とんでもねぇスピードで投げつけられた。
「すげぇこと?」
メガネとデブが、声揃えて追い討ちかけてきた。
「ああ、こないだ呼び出された時――」
「おい、こら、てめぇ」
オレは反射的に斗歩の顔――口んとこ掴んでた。
「わざとやってんじゃねぇだろうな。殺すぞ?」
「お前、殺害予告し過ぎだ」
そう言って、斗歩はオレの手ぇ払った。
ムカついて声へさらに凄みがかかる。
「てめぇは、いつもすっとぼけ過ぎなんだよ」
他人に言わねぇだろ、アレ。てめぇだって、知られたかねぇはずだ。
斗歩は肩で息ついた。
「まぁ、オレらのことはいいけど、あんま田井にひでぇこと言うんじゃねぇよ。お前が当たり前に言ってることで、傷つく奴もいんだぞ」
「あ?」
とっさに出た声の後、やっとオレは察した。こいつ、怒ってやがんのか?
斗歩は、あんま表情が変わらねぇ。困ったり戸惑ったりした時に眉ひそめるくらいはするが、その程度だ。だから分かりにきぃが、よく見れば、こん時のこいつの顔は感情全部とっぱらわれたみてぇで、ただ瞳にだけ静かで冷てぇ真剣さが宿ってた。
「いいんだよ、澤上くん。僕も不躾だったんだから」
メガネは相変わらずの妙にハキハキした口調で言ったが、斗歩の尖った態度は崩れなかった。
「お前はそんな不躾じゃないよ。こいつの態度のがよっぽどひどい」
「何キレてんだよ、てめぇ。オトモダチは大事にしたいってか? てめぇら全員クソきめぇな」
言い捨てて、背ぇ向けた。腹の底に淀んだ気持ちが、ずんと重かった。
後ろめたがった。ただ、それはメガネに言ったことに対するモンじゃなく、斗歩を怒らせたことに対する感情だった。あいつに悪く思われたことが、堪えてた。情けねぇ。何がって、斗歩が怒ったその原因は、どうとも思えねぇってことがだ。自分のしたこと省みる気なんか一ミリだってありゃしねぇのに、ただ斗歩に嫌われたくねぇって気持ちだけが心乱してた。クソだな、と我ながら思う。オレのこれまでの人生でワーストファイブに入るレベルのクソさ加減だった。
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