13 / 40
13 オレがバンプを好きな訳
しおりを挟む
趣味、か。
斗歩が帰ってから、オレはベッドで体を仰向けて、考えてた。確かに、オレの部屋に比べっと、斗歩ンとこは妙に殺風景だ。趣味も全く表れてねぇ。
おそらく、斗歩は自分の好きな物とかやりたいこととか、そういうのがはっきりしてねぇんだ。自分のこと、他人よりも掴み切れてねぇ。だからあんなにフワフワしてやがるんだ。
「趣味……」
気がつくと、声に出してた。
好きな物。見たりやったり聴いたりして、楽しいって思えること。オレにとって、バンプの曲聴くのはそういうことの一つだ。耳傾けてると、だんだん自分の気持ちとその曲の境界が溶けてなくなるような、自分の気持ちがその曲ン中にとっぷり浸かってあったまるような、そんな感じがする。かっこ悪ぃ言い方すりゃ「癒される」。
けど、なんでそんな風になんのかってことまでは、分かんねぇ。分かんねぇから、斗歩の気持ちをオレの気持ちみてぇに「癒して」やれねぇ気がする。あんなひでぇ目にあって、その気持ちを自分で包む方法が何もないなんてのは、たぶん良くねぇ。それで、考えてた。オレの場合は、どんなだったか。
オレは昔っからプライドが高かった。取り巻き連中から「すげぇ、すげぇ」って褒められて、自分は他人よりも優れてんだって、当たり前に思ってた。勉強も運動も誰にも負けねぇってことが、オレん中では「エジソンはえらい人」レベルの常識だった。
それが、あの日、斗歩にかけっこで負けて崩れた。オレの狭ぇ世界は、ひっくり返った。
もやしみてぇに弱そうなチビ。当時のオレの目に、斗歩はそう映ってた。その、もやしチビに、負けた。誰よりもすげぇはずのオレが、誰よりもひ弱そうな奴に、負けた。屈辱でしかなくて、それ以来、周囲の「すげぇ」って言葉を素直に受け取れなくなった。かけっこで一番になっても、他の運動で他人よりいい結果出しても、テストで満点近く取っても、「きっと、あいつはもっとできんだ」って思いが心の底にこびりついてた。
嬉しくないのに、周りのバカどもは軽々しくオレをおだててきた。鬱陶しくて仕方なかった。どこがすげぇんだよってムカついて、それでしょっちゅう他人を殴るようになった。
特に気に食わなかったのは、中学ん時のクラスメイトだった。畔川ってバカで、ダサくて弱えクセに他人にマウント取りたくて仕方ねぇって感じの奴だった。で、畔川はスクールカーストの頂点だったオレにくっついてきやがった。オレの機嫌取って仲良くなろうとしたのか、おだて上げてきた。ムカついて、ムカついて、視界に入れんのも嫌になって、オレは特別な理由もなく、奴をぶん殴るようになった。
褒められてんのに勝手にイラついて、暴力振るう。それが日常化すると、大人たちはオレを「問題児」として見るようンなった。毎日叱られた。本当に、毎日だ。逆に言うと、オレは毎日畔川を殴ってたんだけど、大人がオレだけを叱って一方的な悪者にして、いつも事を終わりにすんのは我慢なんなかった。バカが殴られることは問題なのに、オレがバカにイライラさせられんのは全く構わねぇってスタンスだ。オレの気持ちを何だと思ってやがる。そう思うと、周りのモン全部にムカついた。
気に入らねぇって感情がどんどん腹ン底に鬱積して、嫌な気分で心も体もパンパンになってた。そういう気持ちを和らげてくれたのが、バンプの曲だった。
斗歩が帰ってから、オレはベッドで体を仰向けて、考えてた。確かに、オレの部屋に比べっと、斗歩ンとこは妙に殺風景だ。趣味も全く表れてねぇ。
おそらく、斗歩は自分の好きな物とかやりたいこととか、そういうのがはっきりしてねぇんだ。自分のこと、他人よりも掴み切れてねぇ。だからあんなにフワフワしてやがるんだ。
「趣味……」
気がつくと、声に出してた。
好きな物。見たりやったり聴いたりして、楽しいって思えること。オレにとって、バンプの曲聴くのはそういうことの一つだ。耳傾けてると、だんだん自分の気持ちとその曲の境界が溶けてなくなるような、自分の気持ちがその曲ン中にとっぷり浸かってあったまるような、そんな感じがする。かっこ悪ぃ言い方すりゃ「癒される」。
けど、なんでそんな風になんのかってことまでは、分かんねぇ。分かんねぇから、斗歩の気持ちをオレの気持ちみてぇに「癒して」やれねぇ気がする。あんなひでぇ目にあって、その気持ちを自分で包む方法が何もないなんてのは、たぶん良くねぇ。それで、考えてた。オレの場合は、どんなだったか。
オレは昔っからプライドが高かった。取り巻き連中から「すげぇ、すげぇ」って褒められて、自分は他人よりも優れてんだって、当たり前に思ってた。勉強も運動も誰にも負けねぇってことが、オレん中では「エジソンはえらい人」レベルの常識だった。
それが、あの日、斗歩にかけっこで負けて崩れた。オレの狭ぇ世界は、ひっくり返った。
もやしみてぇに弱そうなチビ。当時のオレの目に、斗歩はそう映ってた。その、もやしチビに、負けた。誰よりもすげぇはずのオレが、誰よりもひ弱そうな奴に、負けた。屈辱でしかなくて、それ以来、周囲の「すげぇ」って言葉を素直に受け取れなくなった。かけっこで一番になっても、他の運動で他人よりいい結果出しても、テストで満点近く取っても、「きっと、あいつはもっとできんだ」って思いが心の底にこびりついてた。
嬉しくないのに、周りのバカどもは軽々しくオレをおだててきた。鬱陶しくて仕方なかった。どこがすげぇんだよってムカついて、それでしょっちゅう他人を殴るようになった。
特に気に食わなかったのは、中学ん時のクラスメイトだった。畔川ってバカで、ダサくて弱えクセに他人にマウント取りたくて仕方ねぇって感じの奴だった。で、畔川はスクールカーストの頂点だったオレにくっついてきやがった。オレの機嫌取って仲良くなろうとしたのか、おだて上げてきた。ムカついて、ムカついて、視界に入れんのも嫌になって、オレは特別な理由もなく、奴をぶん殴るようになった。
褒められてんのに勝手にイラついて、暴力振るう。それが日常化すると、大人たちはオレを「問題児」として見るようンなった。毎日叱られた。本当に、毎日だ。逆に言うと、オレは毎日畔川を殴ってたんだけど、大人がオレだけを叱って一方的な悪者にして、いつも事を終わりにすんのは我慢なんなかった。バカが殴られることは問題なのに、オレがバカにイライラさせられんのは全く構わねぇってスタンスだ。オレの気持ちを何だと思ってやがる。そう思うと、周りのモン全部にムカついた。
気に入らねぇって感情がどんどん腹ン底に鬱積して、嫌な気分で心も体もパンパンになってた。そういう気持ちを和らげてくれたのが、バンプの曲だった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる