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歪んだ悲しみ
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二人の、とりわけリッキーの言葉に腹が立っていたせいか、足はすごいスピードで地面を蹴った。でも、家にたどり着き、持て余した時間をやり過ごし、ご飯を食べてお風呂に入って、一日の最後にしなくてはならない一連のことを全部し終えて布団に入る頃には、怒りは不安に変わってた。明日、宮崎くんは真美ちゃんに「付き合えない」と話すのだろう。じゃあ、私は真美ちゃんにどんな顔をして会えばいいのだろうか。
うつうつとした気持ちは朝にはもっと大きくなっていた。足が重くて学校へ向かう道のりが、いつもの倍くらいに思えた。
朝のホームルームが始まる少し前に教室へ着くと、私の目は真美ちゃんを探していた。真美ちゃんの席には、女の子たちが――あの、ピアスのことを噂していた女の子たちが集まっていて、その中心にいるだろう彼女の顔は見えなかった。仕方なく、自分の席へ行き、荷物を下ろす。真美ちゃんの気持ちを確かめたいし、こっちを見ているかも分からないリッキーの視線が気になった。それを表情に出さないように気を張りつめたまま、私はイスに座った。
ホームルームが終わった。人が集まってくる前にと、私はパッと立ち上がって真美ちゃんの元へ向かった。
「真美ちゃん、宮崎くん、何か言ってた?」
考えるより前に言葉が出て、しまった、と思った。真美ちゃんの顔が、どしゃ降り間際の空みたいに、一気にクシャクシャになったからだ。まずい……。思い切り地雷を踏み込んだ。
「一緒に帰んの、もうやめようって……」
声に涙がにじんでいる。どうしよう、と思い、必死で頭になぐさめの言葉をかき集めた。でも、それを口にするより前に、真美ちゃんが言った。
「もう付き合う可能性とかないからって言って、宮崎くん、そのまま清水さんの机で一緒に勉強し始めて……」
最悪だ。さすがにそれはまずいって気づけよ、宮崎くん。清水さんも、断りきれなかったんだろうな。私が考えていると、
「清水さんの、どこがいいんだろう?」
真美ちゃんのその声は、低く、暗く、でも心の芯までグサリと届くような感じだった。胸にゾッと悪寒が突き上げてくる。
「だって、清水さんだよ? 周りの男子から、気持ち悪いとか騒がれるような子だよ? 言っちゃ悪いけど、実際、そう言われんのもすごい分かるし――」
耳をふさぎたかった。真美ちゃんの怒りや悲しみは変な風にねじ曲がって、宮崎くんじゃなく清水さんの方へ向かってしまっている。胸の悪寒はジワジワと全身へ広がっていった。
私の頭には清水さんの顔が、キョドキョドしながらも間隔の広い垂れ目をキラキラさせた清水さんの顔が浮かんでいた。ちゃんと見れば、清水さんはかわいい。私はそれを知っているから、ちょっと清水さんが怖くて、だけど好きでもあるんだ。彼女はこんな風に言われるような子じゃない。絶対に。
「清水さんは悪くないよ」
私が口を開くと、清水さんの悪口を言っていた真美ちゃんが、目を見開いて言葉を止めた。
「それに、清水さんは気持ち悪くもない。そう思うのは、あの子のことよく知らないからだよ。それに……真美ちゃんはそういうこと言う子じゃないじゃん。やめなよ」
真美ちゃんはきょとんとしていたけれど、すぐに眉間を険しくした。
「かなちゃんは清水さんの味方なんだ。最近、仲良いもんね」
「敵とか味方とかじゃないよ」
私が言っても、真美ちゃんの態度は変わらなかった。こっちの言葉など全く受けつけないと示すような冷たい隙のなさを感じた。
私は清水さんがこんな風に言われるのも、真美ちゃんがこんなことを言ってしまうのも悲しくて、それがみんな自分のせいだと思うと心がキリキリ痛んだ。
「文句言う相手は宮崎くんでしょ? あの人が悪いかは置いといて、真美ちゃんと付き合わないって言ってるのは、宮崎くんなんだから」
真美ちゃんはどこか痛んだかのように顔を歪めた。
「そうだよ。でも、もういい。宮崎くんの趣味が悪いことも分かったし、もうどうでもいい」
「どうでもよくないから清水さんのことネチネチ言ってんでしょ。宮崎くんと話しなよ。私、宮崎くんに言ってあげるから」
「いい!」
真美ちゃんは、らしくない、大きな声を出した。その声が私の中の何かのボタンを押したらしく、急にお腹の底から怒りがせり上がってきた。
「じゃあ、いいよ。でも、私、フラれたからって関係ない子に逆恨みするような人嫌いだから、もう真美ちゃんとは話さない」
感情のままにそう言い捨て、私は真美ちゃんから離れていった。
その日の放課後も、宮崎くんは清水さんに勉強を教えてもらっていた。昨日まで、まぶたに幸せを浮かべた真美ちゃんと並んで帰っていた時間に。
頭に来た。
真美ちゃんへ感じた怒りがぐるっと形を変えて、ケロリとした宮崎くんへ向かっていった。
「宮崎くん、もうちょっと気ぃ使いなよ」
私は小声で、でも精一杯の非難を込めて言った。宮崎くんはきょとんとして、私を見た。あんまりすっとぼけた表情で、余計に腹が立つ。
「気ぃ使うって、何? 誰に?」
「真美ちゃんに決まってんでしょ!」
もう、この人はだめだ。空気が読めないって言うか、察しが悪すぎるって言うか、バカって言うか……。
宮崎くんの顔がくもる。
「でも、オレ、そういうのが嫌だから真美ちゃんと付き合えないって話したんだよ」
「だからって、今日の今日で、真美ちゃんに見えるとこで、こんなことしなくていいじゃん。そういうことして睨まれんのは、宮崎くんじゃなくて――」
と言いかけた時、視界の隅の清水さんの姿が私の意識をとらえた。慌てて言葉を飲み込んだけれど、清水さんの目元に悲しげな気配がよぎって、手遅れだと分かった。
「え? 何? 続きは? オレじゃなくて?」
宮崎くんは相変わらず目を丸くするばっかりだ。こいつにこそガツンと言ってやりたいって相手には、こんなにもこっちの考えが伝わらないなんて。
「まーたやってんのかよ。メスゴリラ、しつこすぎ」
リッキーのカラッとした声で、こわばりかけていた雰囲気がちょっとほどけた。私の険しい表情か、トゲトゲしい声か、それとも私たち三人の空気の悪さかに目をとめたんだろう。
「もう吉村さんには話したんだし、いいじゃん。いつまでも文句つけんなよ」
「だって、宮崎くんが空気読まないせいで、関係ない清水さんが悪く言われてんだよ!」
真美ちゃんと清水さんの痛みが、あんまり軽々しく扱われた気がして、一気に頭に血が上ってぶちまけてしまった。リッキーと宮崎くんは突然スズメバチでも見つけたみたいにぎょっと目を見張った。
「何だよ? それ」
リッキーが聞いてきて、こいつも鈍いんだなと思った。
「宮崎くんが真美ちゃんのことフッて清水さんと仲良くするから、清水さんが逆恨みされちゃってるの。関係ないのに」
私が言っても、宮崎くんはまだびっくりした顔をしている。一方、リッキーの表情に浮かんだ驚きは、下りてきたまぶたに吸い込まれるみたいに消えて、代わりに目に不満の気配がさした。
「本っ当に女って、めんどくせぇ。なんで算数教えてやっただけで逆恨みされんの?」
「それは真美ちゃんが本当に宮崎くんのことが好きだからだよ!」
リッキーの言葉が、私の心のやわらかいところを思い切り突き刺してきて、吐き捨てるように言い返した。さっき、私は真美ちゃんに怒っていたはずなのに、今は真美ちゃんのことがすごくかわいそうに思えていた。そう、かわいそうだ。だって、大好きな宮崎くんにとって自分がなんでもなかったことが、はっきり分かってしまったんだから。自分は何でもなかったのに、ひっそり格下と思っていた清水さんに、宮崎くんが進んで勉強を教えてもらっているのを目にしたんだから。宮崎くんの方から何か頼んできてくれたことなんて、自分には一度もなかったのに。いっぺんに悲しいことが重なりすぎだ。私だって、もし……もし、リッキーにフラれて、その直後にリッキーが清水さんと仲良くしているのを見たら、辛くなる。今だって、そういう可能性があるって――清水さんは本当はかわいいし、リッキーはバカで鈍感で、誰かをフッた直後に他の女の子と仲良くすんのを当たり前くらいに思ってるから、そういう可能性は十分にあるって分かって、それだけで怒りみたいな激しい悲しさにかられてしまうんだから。
そうだ。真美ちゃんが悪いわけじゃない。ただ、真美ちゃんの悲しさは自分一人で抱えるには大きすぎるだけなんだ。
「まぁ、でも今回の件は和真にもちょっとは責任あんな」
リッキーが声の調子を落として言った。私の心でくすぶっていた黒い煙りが、すっと薄らぐ。同時に宮崎くんは、いきなりパンチを食らったみたいな顔になった。
「え!? うそ、だって、リッキー、清水さんと勉強したっていいって言ってたじゃん」
急に裏切られた驚きでか、宮崎くんの声はちょっと高くなっていた。リッキーは深く息をついて、ちげぇよ、と返す。
「前から言ってんじゃん。『付き合うって思われてもいい』なんつって、変な期待させんのがそもそも悪かったんだよ。期待させるから、急にフラれたって思うんだろ」
宮崎くんは眉を八の字にし、困り切った表情をした。
「そんなこと言ったって……」
「お前が思うより、付き合う付き合わないは重い話だったってこと。とりあえず、吉村さんに謝れよ。そんで、清水さんに一対一で勉強教えてもらうのはやめろ。オレかメスゴリラかかみっちょと一緒に、全員でもいいけど、とにかく何人かで教えてもらうようにすりゃいい。他の奴もいんならそんなに嫉妬したりしないだろ」
「え? なんで?」
「『なんで?』じゃねぇよ。二人っきりだからなんかあんじゃねぇかとか勘ぐってくんだろ。他にも誰かいりゃあ、友だち同士で納得するって」
さっきはリッキーのことをバカだと思って苛立ったけれど、感情ばかり突っ走ってしまう私に比べて、リッキーは頭が回っている。確かに、一対一じゃなければ、真美ちゃんも嫌な気持ちにはならないかもしれない。悔しいけど、納得した。
宮崎くんは、まだリッキーの言うことが飲み込みきれない様子で首を傾げていたけれど、分かった、と仕方なさそうに応じた。
うつうつとした気持ちは朝にはもっと大きくなっていた。足が重くて学校へ向かう道のりが、いつもの倍くらいに思えた。
朝のホームルームが始まる少し前に教室へ着くと、私の目は真美ちゃんを探していた。真美ちゃんの席には、女の子たちが――あの、ピアスのことを噂していた女の子たちが集まっていて、その中心にいるだろう彼女の顔は見えなかった。仕方なく、自分の席へ行き、荷物を下ろす。真美ちゃんの気持ちを確かめたいし、こっちを見ているかも分からないリッキーの視線が気になった。それを表情に出さないように気を張りつめたまま、私はイスに座った。
ホームルームが終わった。人が集まってくる前にと、私はパッと立ち上がって真美ちゃんの元へ向かった。
「真美ちゃん、宮崎くん、何か言ってた?」
考えるより前に言葉が出て、しまった、と思った。真美ちゃんの顔が、どしゃ降り間際の空みたいに、一気にクシャクシャになったからだ。まずい……。思い切り地雷を踏み込んだ。
「一緒に帰んの、もうやめようって……」
声に涙がにじんでいる。どうしよう、と思い、必死で頭になぐさめの言葉をかき集めた。でも、それを口にするより前に、真美ちゃんが言った。
「もう付き合う可能性とかないからって言って、宮崎くん、そのまま清水さんの机で一緒に勉強し始めて……」
最悪だ。さすがにそれはまずいって気づけよ、宮崎くん。清水さんも、断りきれなかったんだろうな。私が考えていると、
「清水さんの、どこがいいんだろう?」
真美ちゃんのその声は、低く、暗く、でも心の芯までグサリと届くような感じだった。胸にゾッと悪寒が突き上げてくる。
「だって、清水さんだよ? 周りの男子から、気持ち悪いとか騒がれるような子だよ? 言っちゃ悪いけど、実際、そう言われんのもすごい分かるし――」
耳をふさぎたかった。真美ちゃんの怒りや悲しみは変な風にねじ曲がって、宮崎くんじゃなく清水さんの方へ向かってしまっている。胸の悪寒はジワジワと全身へ広がっていった。
私の頭には清水さんの顔が、キョドキョドしながらも間隔の広い垂れ目をキラキラさせた清水さんの顔が浮かんでいた。ちゃんと見れば、清水さんはかわいい。私はそれを知っているから、ちょっと清水さんが怖くて、だけど好きでもあるんだ。彼女はこんな風に言われるような子じゃない。絶対に。
「清水さんは悪くないよ」
私が口を開くと、清水さんの悪口を言っていた真美ちゃんが、目を見開いて言葉を止めた。
「それに、清水さんは気持ち悪くもない。そう思うのは、あの子のことよく知らないからだよ。それに……真美ちゃんはそういうこと言う子じゃないじゃん。やめなよ」
真美ちゃんはきょとんとしていたけれど、すぐに眉間を険しくした。
「かなちゃんは清水さんの味方なんだ。最近、仲良いもんね」
「敵とか味方とかじゃないよ」
私が言っても、真美ちゃんの態度は変わらなかった。こっちの言葉など全く受けつけないと示すような冷たい隙のなさを感じた。
私は清水さんがこんな風に言われるのも、真美ちゃんがこんなことを言ってしまうのも悲しくて、それがみんな自分のせいだと思うと心がキリキリ痛んだ。
「文句言う相手は宮崎くんでしょ? あの人が悪いかは置いといて、真美ちゃんと付き合わないって言ってるのは、宮崎くんなんだから」
真美ちゃんはどこか痛んだかのように顔を歪めた。
「そうだよ。でも、もういい。宮崎くんの趣味が悪いことも分かったし、もうどうでもいい」
「どうでもよくないから清水さんのことネチネチ言ってんでしょ。宮崎くんと話しなよ。私、宮崎くんに言ってあげるから」
「いい!」
真美ちゃんは、らしくない、大きな声を出した。その声が私の中の何かのボタンを押したらしく、急にお腹の底から怒りがせり上がってきた。
「じゃあ、いいよ。でも、私、フラれたからって関係ない子に逆恨みするような人嫌いだから、もう真美ちゃんとは話さない」
感情のままにそう言い捨て、私は真美ちゃんから離れていった。
その日の放課後も、宮崎くんは清水さんに勉強を教えてもらっていた。昨日まで、まぶたに幸せを浮かべた真美ちゃんと並んで帰っていた時間に。
頭に来た。
真美ちゃんへ感じた怒りがぐるっと形を変えて、ケロリとした宮崎くんへ向かっていった。
「宮崎くん、もうちょっと気ぃ使いなよ」
私は小声で、でも精一杯の非難を込めて言った。宮崎くんはきょとんとして、私を見た。あんまりすっとぼけた表情で、余計に腹が立つ。
「気ぃ使うって、何? 誰に?」
「真美ちゃんに決まってんでしょ!」
もう、この人はだめだ。空気が読めないって言うか、察しが悪すぎるって言うか、バカって言うか……。
宮崎くんの顔がくもる。
「でも、オレ、そういうのが嫌だから真美ちゃんと付き合えないって話したんだよ」
「だからって、今日の今日で、真美ちゃんに見えるとこで、こんなことしなくていいじゃん。そういうことして睨まれんのは、宮崎くんじゃなくて――」
と言いかけた時、視界の隅の清水さんの姿が私の意識をとらえた。慌てて言葉を飲み込んだけれど、清水さんの目元に悲しげな気配がよぎって、手遅れだと分かった。
「え? 何? 続きは? オレじゃなくて?」
宮崎くんは相変わらず目を丸くするばっかりだ。こいつにこそガツンと言ってやりたいって相手には、こんなにもこっちの考えが伝わらないなんて。
「まーたやってんのかよ。メスゴリラ、しつこすぎ」
リッキーのカラッとした声で、こわばりかけていた雰囲気がちょっとほどけた。私の険しい表情か、トゲトゲしい声か、それとも私たち三人の空気の悪さかに目をとめたんだろう。
「もう吉村さんには話したんだし、いいじゃん。いつまでも文句つけんなよ」
「だって、宮崎くんが空気読まないせいで、関係ない清水さんが悪く言われてんだよ!」
真美ちゃんと清水さんの痛みが、あんまり軽々しく扱われた気がして、一気に頭に血が上ってぶちまけてしまった。リッキーと宮崎くんは突然スズメバチでも見つけたみたいにぎょっと目を見張った。
「何だよ? それ」
リッキーが聞いてきて、こいつも鈍いんだなと思った。
「宮崎くんが真美ちゃんのことフッて清水さんと仲良くするから、清水さんが逆恨みされちゃってるの。関係ないのに」
私が言っても、宮崎くんはまだびっくりした顔をしている。一方、リッキーの表情に浮かんだ驚きは、下りてきたまぶたに吸い込まれるみたいに消えて、代わりに目に不満の気配がさした。
「本っ当に女って、めんどくせぇ。なんで算数教えてやっただけで逆恨みされんの?」
「それは真美ちゃんが本当に宮崎くんのことが好きだからだよ!」
リッキーの言葉が、私の心のやわらかいところを思い切り突き刺してきて、吐き捨てるように言い返した。さっき、私は真美ちゃんに怒っていたはずなのに、今は真美ちゃんのことがすごくかわいそうに思えていた。そう、かわいそうだ。だって、大好きな宮崎くんにとって自分がなんでもなかったことが、はっきり分かってしまったんだから。自分は何でもなかったのに、ひっそり格下と思っていた清水さんに、宮崎くんが進んで勉強を教えてもらっているのを目にしたんだから。宮崎くんの方から何か頼んできてくれたことなんて、自分には一度もなかったのに。いっぺんに悲しいことが重なりすぎだ。私だって、もし……もし、リッキーにフラれて、その直後にリッキーが清水さんと仲良くしているのを見たら、辛くなる。今だって、そういう可能性があるって――清水さんは本当はかわいいし、リッキーはバカで鈍感で、誰かをフッた直後に他の女の子と仲良くすんのを当たり前くらいに思ってるから、そういう可能性は十分にあるって分かって、それだけで怒りみたいな激しい悲しさにかられてしまうんだから。
そうだ。真美ちゃんが悪いわけじゃない。ただ、真美ちゃんの悲しさは自分一人で抱えるには大きすぎるだけなんだ。
「まぁ、でも今回の件は和真にもちょっとは責任あんな」
リッキーが声の調子を落として言った。私の心でくすぶっていた黒い煙りが、すっと薄らぐ。同時に宮崎くんは、いきなりパンチを食らったみたいな顔になった。
「え!? うそ、だって、リッキー、清水さんと勉強したっていいって言ってたじゃん」
急に裏切られた驚きでか、宮崎くんの声はちょっと高くなっていた。リッキーは深く息をついて、ちげぇよ、と返す。
「前から言ってんじゃん。『付き合うって思われてもいい』なんつって、変な期待させんのがそもそも悪かったんだよ。期待させるから、急にフラれたって思うんだろ」
宮崎くんは眉を八の字にし、困り切った表情をした。
「そんなこと言ったって……」
「お前が思うより、付き合う付き合わないは重い話だったってこと。とりあえず、吉村さんに謝れよ。そんで、清水さんに一対一で勉強教えてもらうのはやめろ。オレかメスゴリラかかみっちょと一緒に、全員でもいいけど、とにかく何人かで教えてもらうようにすりゃいい。他の奴もいんならそんなに嫉妬したりしないだろ」
「え? なんで?」
「『なんで?』じゃねぇよ。二人っきりだからなんかあんじゃねぇかとか勘ぐってくんだろ。他にも誰かいりゃあ、友だち同士で納得するって」
さっきはリッキーのことをバカだと思って苛立ったけれど、感情ばかり突っ走ってしまう私に比べて、リッキーは頭が回っている。確かに、一対一じゃなければ、真美ちゃんも嫌な気持ちにはならないかもしれない。悔しいけど、納得した。
宮崎くんは、まだリッキーの言うことが飲み込みきれない様子で首を傾げていたけれど、分かった、と仕方なさそうに応じた。
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『オレはこいつの「半分ヒーロー」』で「BL小説大賞」に参加しています。よろしければこちらもご覧ください。
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