世界で一番やさしいリッキー

ぞぞ

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「真美ちゃん、あの、宮崎くんの件なんだけど」
 他の四人と別れた私は、真美ちゃんのところへやってきていた。私が切り出すと、真美ちゃんの顔がみる間に真っ赤に染った。
「うん、えっと……宮崎くん、何か言ってた?」
 真美ちゃんの反応を見ると、頭の中で組み立てていたはずの説明が、急にグラグラし始めた。何をどう言うつもりだったんだっけ? 大きく息をついてその揺れをしずめてから、もう一度用意した言葉をひとつひとつすくい上げていく。
「あのね、宮崎くんが『付き合おう』って言ったのは、私が原因なんだ。昨日、宮崎くんと話してる時に、流れで真美ちゃんが宮崎くんのこと好きなんだって言っちゃって。でも、宮崎くんは真美ちゃんのことよく知らないって言ってて、だから、真美ちゃんのことが好きってわけじゃなくて、ただ真美ちゃんのことをよく知ろうと――」
「お試しで、ちょっと付き合ってみようってこと?」
 とりあえず全部言ってしまえとまくし立てていた私を、真美ちゃんがさえぎった。数珠繋ぎになっていた言葉の列がプツンと切れて、頭が真っ白になってしまう。あ、えっと……付き合うっていうか……一緒にいてみる、みたいな……。自分のたどたどしい声が聞こえた。真美ちゃんは、うん、と言い、少し悲しげに眉を下げた。
「それでも、嬉しいよ。宮崎くんは私のこと、真剣に考えてくれたから、ああ言ってくれたんでしょ? 今好きじゃなくても、好きになるか試してくれるんでしょ?」
 ええっと……。私は口ごもった。思っていたのと全然違う方向に話がころがってしまっている。どうしよう……。
 でも、宮崎くんの言葉を思い返してみれば、確かに「好きかどうか分かるほど真美ちゃんのこと知らないから、よく知った方がいい」と言っていた。それは、真美ちゃんの言う通り、好きになる可能性があると思っているともとれる。
「それは私には分かんないから、宮崎くんに聞いてみて」
 私は、宮崎くん呼んでくるね、と言い、逃げるようにその場を離れた。
 
 私がみんなが待っている空き教室へ駆けつけると、宮崎くんは「メスゴリラ、おつー」なんてゆうちょうに声をかけてきた。
「宮崎くんさ、さっき、『好きかどうか分かるほど真美ちゃんのこと知らないから、よく知った方がいい』って言ってたよね? それ、どういうこと? 好きって思ったら、真美ちゃんと付き合うつもりなの?」
 宮崎くんは何かをよく見ようとするみたいに目を細めた。
「えー、どうかな? 考えてなかった」
「考えろよ」
 盛大につっこんでやったけれど、すぐ横からリッキーが答えた。
「付き合うつもりなんかない。考えてないってのは、そういうことだろ」
 かなり的を射た言葉だった。付き合うつもりなら、ちゃんとその後のことを考えているはずだ。
「じゃあ、付き合うつもりはないって、真美ちゃんに言ってね。真美ちゃん、いつか宮崎くんが自分のこと好きになってくれるんじゃないかって、期待しちゃってるよ」
「は!?」
 リッキーが大きな声を出した。
「なんでそうなんだよ。ちゃんと話せって言っただろ」
「私は宮崎くん本人じゃないから、言えることも限られてんじゃん。しょうがないでしょ」
 私は眉間を険しくしたリッキーから、きょとんとした宮崎くんへ視線を移した。
「付き合うつもりないんなら、はっきりそう言ってよね」
 うん、と小さく答えた宮崎くんは、うつむいて視線をウロウロさせている。何考えてんの? と聞こうとした時、宮崎くんが口を開いた。
「オレ、付き合うかもって思われても、いいかも知んない」
「は!?」
 私とリッキーと上島くんの声が重なった。清水さんは声こそ出さなかったものの、ギョロリと目を見開いている。
 宮崎くんは顔を上げ、真っ直ぐに私たちを見た。
「だって、今は別に好きじゃないって、真美ちゃんは分かってくれてんでしょ? その後、好きになるかならないかはオレにも分かんないし、もし好きになったら付き合ったって問題ないじゃん? 好きにならない可能性もあるって分かってくれてんなら、それでもいいよ」
「和真、それはまずいだろ」
 リッキーが言っても、宮崎くんはとぼけた表情で「なんで?」なんて返すだけだ。リッキーの表情が歪む。
「だって、期待させたら後でめんどくさいだろ。吉村さんだって、好きになんなきゃそれでいい、なんて割り切れないだろうし」
 どうした、リッキー。めちゃくちゃまともなこと言ってるぞ。特に後半。
 でも宮崎くんはケロッと返す。
「それは、ちゃんと言っとくよ。好きにならないかもしれないって。それでもいいんなら、仲良くしようって」
 私たちは顔を見交わした。みんな困惑の表情を浮かべている。本当にそれで、大丈夫なんだろうか……?
 結局、誰も宮崎くんの決意――というか思いつきを変えられないまま、彼は真美ちゃんと一緒に帰ることになった。リッキーはめちゃくちゃ心配しているらしく、二人の後をつけよう、なんて言い出したけれど、それはかえってまずい。もし真美ちゃんに尾行がバレたら、リッキーの悪ふざけの餌食になったと誤解されかねない。リッキーはそこまで悪い奴ではないけれど、たぶん真美ちゃんは、そこまで悪い奴だと思っている。仕方がない。私たちは私たちで家へ帰り、後でリッキーの家に集合した時に話を聞こうということになった。
 
 真美ちゃんは分かってくれた。
 宮崎くんの説明はそれだけだった。みんな、あやしいもんだと言いたげに眉をひそめていたけれど、当の本人はさっぱりした表情でジュースをグビグビ飲み、「リッキー、チャンバラしようよー」と言っている。リッキーが、チャンバラより吉村さんのこと話せよ、と突っぱねても、宮崎くんはどこ吹く風。別に普通に話しながら歩いて帰っただけだよー。好きにならないかもしれないからねって言ったら、ちゃんと分かってくれて、それからはずっとオレが話してたかなー? そんな感じで二人の様子がなんとなくつかみ切れない感じのまま、時間だけが過ぎてしまった。
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