世界で一番やさしいリッキー

ぞぞ

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友情の儀式

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 森を歩く。前日に雨が降っていたためか、空気はしんと冷たく、湿っていた。私の後には、水分を含んだ落ち葉を踏むくしゅくしゅいう音がついてくる。清水さんだ。
 みんなで相談した結果、清水さんを、中学生と決闘したあの場所へ連れていくことになった。そこで仲間に入れる儀式を行うらしい。私たちの誰も、このグループに入るのにそんな儀式をした覚えはないのだけど、言い出しっぺがリッキーなので、仕方がない。本当に、思いつきでそれっぽいことをしたがるんだから。
 しょうがないな、と思いながらも、私の胸は高鳴っていた。リッキーと清水さんのことを思うと、相変わらず心はチクチク痛んだけれど、それでもやっぱり私はリッキーの思いつきに冒険心をくすぐられる。なんだか不安と高揚感がお腹の中をグルグルグルグル回っているみたいだった。
 道を進むうち、空を塞いでいた枝や葉っぱが消え、目の前へ光りが斜めに差し込んできた。まぶしくて、まぶたに力が入る。狭まった視界には切り株や地べたに座るリッキーたちの姿が映っていた。
「遅せぇよ。タラタラ歩きやがって」
 リッキーはそう口にして立ち上がり、じっと私を見つめた。遠視用メガネにギョロリと大きくされた彼の目は、濡れて光って見えた。その眼差しの真剣さに、胸がぎゅっと縮まる。何か言わなきゃ、と言葉を探し始めた時、背後から声がした。
「力也くん、あの、連れてきてくれてありがとう」
「ばーか。連れてきたのはメスゴリラだろ」
「あ、うん、そうだね。ありがとう、山崎さん」
 二人の会話を聞いた数秒間で、リッキーが見ていたのは私の後ろの清水さんだったのだと分かった。お腹の底から恥ずかしさが突き上げてくる。顔面がものすごく熱くなった。そのせいか、ついでのようにお礼を言われたのが無性に腹立たしくて、私は返事もなしにリッキーの後ろに座る宮崎くん、上島くんのところへ行って、清水さんと向かい合う格好をとる。すると、リッキーが再び話し出した。
「お前、本当にオレらの仲間に入りたい?」
 清水さんはちょっと視線を下げてうなずいた。
 「じゃあ、これから友情の儀式を執り行う」
 リッキーはそう言うと、足元に置いてあった、ちょうど肘から手首くらいの長さの枝を拾い上げた。
「お前らも、こんくらいの枝、拾ってこい」
 あの枝、準備して足元に置いといたのかな? なんてどうでもいいことを考えつつ、私は地面へ視線を這わせて、ちょうどいい枝を探した。下を見ながらウロウロしていると、周りの様子が目に入らない。うっかりぶつかったりしないよう、目を地べたへ貼り付け、頭のてっぺん辺りの気配にも注意して歩き回った。しばらくみんなでそうやっていたけれど、それぞれに良さそうな枝を見つけ出し、数分後には元の場所に集合していた。前日に降った雨のせいか、どの枝も少し濡れている。
「よし、じゃあ円陣組むぞ」
 リッキーが言うと、すぐに私たち四人は彼を起点としてぐるっと輪を作った。全員がそれぞれに場所を決めると、リッキーは枝を高々と上へ掲げた。天を突き刺すように、先を上へ向けて。
「みんな、オレと同じようにしろ。剣の先、合わせんだぞ」
 その言葉まで聞いて、私はやっと気がついた。これは、あれだ。『三銃士』とかいうやつだ。ヨーロッパのどこかの国の、お城の剣士たちの話だったっけ? 確か、みんなで輪になって、上に掲げた剣先を合わせて誓い合うんだ。ね? そうでしょ? 絶対それでしょ? リッキー。
 リッキーは全員が枝先を合わせると、引き締まった力強い声で、
「みんなは一人のために、一人はみんなのために!」
 やっぱりな! 想像の言葉とリッキーの声がピッタリ重なって、あんまり捻りもなんにもないから笑いそうになった。でも、なんだか気持ちが高まって、私は声を張ってリッキーの言葉を繰り返した。みんなそうした。重なった声が、ぽっかり空いた円い空へ高く響いていくのが分かった。頭上から注ぐ少しオレンジがかった陽へ向けられた五つの枝先。そこに溜まった雫が本物の剣みたいにチラチラ光りを反射した。
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