(ブラウザでクリックで動く挿絵も稀にあり)イラスト解説版 小説とあらすじを短編小説にしたもの 

くまざわ

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返却日

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肌寒い冬
私は暖房の効いた病室の中で
庭の木々から枯れ葉が落ちゆくのを眺めていた

私はミキ

病気が発覚し
余命3ヶ月と言われ
最期までの一週間をここで過ごしている


室内の花瓶には
見舞いの花束が生けてある

でも誰も心配なんてしてないことは
知ってた…


私の家族には血の繋がった人は居ない
両親ともども既に他界している

元は親の離婚で
片親について行き
同じ連れ子の義母と再婚するが
その父親も不慮の事故で亡くなる

しかし義母は直ぐに別の男と再婚して今に至る…


義母ともその連れ子たちとも
もちろん義父も
義母の娘でもない私を
心の底から可愛がるはずはなく
私は邪魔者になっていた

親しいわけでもなかったのに付け加え
その連れ子と義母とは相性が悪く
義父も義母も連れ子だけに
愛情を注いでいて
彼女はわがままに育った

いつも優先順位は彼女の方だった


でもそんな横暴な人生も
悲劇が襲った

「ドナーを見つけないと
ユキコの目は見えなくなるですって…⁉」

彼女…ユキコも
一ヶ月前
別の重い病気にかかっていた

だが彼女の場合
なんでもドナーが見つかれば
元の生活に戻れるらしい

そして義母たちはこんなことを
思いついた

「ミキは助からない…
でもユキコはドナーさえいれば
元の生活に戻れる…


…どうせ死ぬならミキから」


そうして私は
身勝手ながらも
義母の圧力により
ドナーに
させられてしまった

私自身
死期を宣告されていたため
賛成する頃には
投げやりだったのもある

でも 憎い
ユキコが羨ましい…

きっと手術が終わっても
見てみぬふりをして
生きていくことだろう

…そんなこと絶対に
させるものか


私はスマホを手に取った

一つだけ
復習する方法があるのを
知っているのだ

検索の後、開いたサイトには
こう書かれていた

〈返却屋〉




それから
3年が経った


幼稚園まで自分の子供を送ってきた
ユキコの姿があった

「行ってらしゃ~い」


病気だったとは
思えないほどまで体調面は回復し
今では息子一人の両親二人とユキコの両親の5人家族の
順風満帆の家庭を彼女は築いている

「ええっと…今日は
スーパーでトイレットペーパーと
洗剤と…色々買わなきゃいけないわね」

帰宅後
家の日用品のストックを確認すると
紙とペンを用意した

しかし思いとどまる

「…そういえば
この前、メモを家に忘れたまま
出かけちゃったんだ…

…なら腕にでも書いてくか」


そうして左腕の肌を晒した

…だが
そこには既に
何か黒字で文字のようなものが書かれている



「…何?これ…

『返却日・23/05/05』…?」

それは日付だった
しかし彼女には
そのメモに思い当たるフシがない

「何か借りてたっけ?

マサルが読む絵本は
図書館でこの前返したし


dvdもcdも借りてない…」


でも返却日は今日までだ

しばらく考え込んだが
本当に見覚えがない

「きっと、間違えて書いたのよね」

そう思うと
洗面所へと行き
濡れ布巾で
左腕の文字を擦った


だがいくら擦っても
黒いインクの文字は取れない


「…もしかして
油性で書いちゃったとか…?


…はぁ~ウソでしょ⁉最悪~!」

ユキコはため息を付き
擦るのをやめた

それから午前中が過ぎた頃
幼稚園に息子のマサルを迎えに行く

「ママぁ~!」


「よいしょっと!
ほーら!じゃあ家に帰ろうねぇ~!」


マサルを抱きしめた後
車の後部座席のベビーシートに乗せ
出発した


その時だった
幼稚園の敷地の曲がり角の
道路から標識無視で
猛スピードのトラックが
飛び出してきたのだ

「え?」


そのままトラックは
ユキ子たちの乗った車目掛けて
激突した



…気づいたときにはもう遅く
マサルとユキコ側の車半分は
衝撃で凹み上がり

削れた氷を地面に散らべるように
ガラスが粉々に割れた窓からは
血まみれの二人が首を傾けていた


ソレを見ていた
幼稚園の先生達はすぐに
救急車とパトカーを呼んだ


病院では
緊急搬送されてきた二人を
手術室へと運び込む


ユキコは
朦朧とした意識の中
周りの医師たちの声を聞いた


「子供のほうの眼球が潰れてしまっている…」

その言葉に
無理やり体を起こし
ユキコは医師の袖を掴んだ

「お…お願い

私の眼球を彼に…移植してください
すべては…私の不注意で

この子を巻き込んだの…

この子だけでも…助け…て」


その言葉を最後に
ユキコとの会話は途絶え
緊急手術が行われた

それから
ふと、気がつくと
彼女らは病室のベッドの上に寝ていた


ユキコも目を覚ますが
移植した左目は当然ながら…無く
見える片目だけで
マサルを探した

見渡すと
向かいのベッドに
マサルが座っているのを発見した

「マサル!」

おぼつかない足取りで
勢いよく駆けていき
抱きしめるユキコ


「…よかったぁ!///」


正座で座ったまま
ユキコを受け止めるマサルは
笑みを浮かべる

「目玉…返してくれて




…ありがと、ユキコちゃん♪」


普段の声とは少し違う
声色を変えた甲高い女性のような
マサルの声に
ユキコは聞き覚えがあった



「…み




みっ…ミキ…」


そして我に返ったユキコは
ふと、左腕の脈に書かれた
あの文字を確認した


だが昨日まであった
日付と返却日と書かれた文字は
跡形もなく消えていた

こうしてユキコは気がついた
返却日それは
昔、私から移植された目玉を
彼女にまた、返すという意味だったと


「そっそれじゃあ…あんた
まさか生まれ変わってたの…?

私の…大切なマサルに」


問い尋ねると
マサルは
もとの子供らしい声色に戻し
不敵な笑みを浮かべた


「さぁ…僕知らなーいw」


「違う違う違う…!この子は
マサルじゃない…ミキが
この女がマサルに乗り移ってるのよ…!
生まれ変わってなんかいない!


この悪魔!
マサルから出てけぇ!」


声を張り上げても
手をあげることは出来ず
どうしようもなくベッドの上を這うように
シーツを掴み涙を流した


さてと…いい加減可愛そうだし
また、息子のフリでもしてやるか…


まさかユキコの息子に
生まれ変わるとは思わなかったけど
これで復習はできた…

そのあと、私は小さな手で頭を撫で
崩れ泣くママ(ユキコ)を
宥めてあげた

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