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発情(2)※

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 やっとのことで目を開ける。

「……!」

 すると、サイラスが起き上がって、イリスを見下ろしていた。

「ふふ……あなたは、気をやるときに、とっても苦しそうな声を出すんですね……なんだか、いじめてるみたいな、いけない気持ちになります」

 サイラスが、イリスの上に覆いかぶさる。

「でも……これからもっとあなたをいじめることになります。許してくれますか?」

 彼の裸の下半身が密着し――イリスはふとももに、硬くて熱いモノを感じた。

(ひっ……けっこうでかい⁉)

 焦ったイリスは、頼み込んだ。

「あ、あ、あんまりっ……その、激しく、し、しないで……」 

 すると彼は微笑んだ。

「ええ、もちろん。優しくするし――たくさんあなたのことも、気持ちよくしますね」

 その笑顔は、逆らえない優しさと色気があって――イリスはおもわず気おされて、蚊の鳴くような声と共にうなずいた。

「は、はい……」

 足が開かれて、濡れた入口に彼のものがあてがわれる。

「はぁ……ぁ、入れますよ、イリス……ッ」

 間髪入れずに、その先端がイリスの中にねじ込まれる。
 しかし、たっぷり潤っているおかげか、痛みはなかった。むしろ、こそばゆいような、快感の扉をノックされたかのような――鈍い疼きがあった。

「く、ぅ……はあ、あったかい……あなたの中、が、私を、締め付けて……ッ」

 顔をしかめながら、サイラスはゆっくりと腰を進め、そしてついに、サイラスの腰とイリスの内ももの肌が、ぺたん、と触れ合った。

「はぁ、はぁ……全部、入りました……」

 すると感極まったように、サイラスはつながったまま、イリスを抱きしめた。

「イリス……っ、はぁ、あぁ……」

 奥に、彼のものが押し入っているのを感じる。そこで動きを止められているせいで、だんだんイリスの中が、彼のものを受け入れて、じわりじわりとなじんでいく。 

 その温かさをイリスが感じるのとは裏腹に、彼の背中はわずかに震えていた。

「っは……ぁ」

「だ……大丈夫です……?」

 イリスがおそるおそる聞くと、彼はやっと顔を上げて、はぁはぁ息をしながらも、微笑んだ。

「はい……すみません、きもち、よすぎて」

 動いてないのに。ただ、入れただけなのに。
 その言葉に、いやがおうにもキュンと胸が高鳴ってしまう。ずるい。

「く……動き、ますね」

 ゆっくりと、彼の下半身が動き出す。すっかりなじんでおさまっていたものが、ずるりと離れていく感触に、イリスの中はわなないた。必死に彼を離すまいと、本能的に締め付ける。

(あっ……う、そ、こんなの)

 ――知らなかった。引き抜かれる行為が、こんなに悦いなんて。

「っ……は、イリス……すごい、こんなに、私を、食いしめ、て……ッ」

 溜めた言葉と同時に、今度はゆっくりと杭が打ち込まれる。

「っぁ、あ……ッ」

 待ちわびている奥の部分に、ゆっくりとしかし確実に、彼のものがねじ込まれる。
 おさまるところにおさまって、奥が悦びながら、彼のものを締め付ける。

「くっ……あぁ、イリス……ッ嬉しい、です」

 ゆっくりと抜き差しをしながら、彼はつぶやいた。

「あなたの身体……私を、求めて、くれて……」

 彼の動きが、だんだんと早くなってくる。身体が揺れる。腹の底の熱がどんどん増して、頭の中も、はちみつのように甘くとろけていく。

「あなたは……っ、気持ちいい、です、か? その口から、聞かせて、ください……ッ」

 イリスはうなずいた。

「き、もちい……です……ぁ、先生……ッ」

 ああ、上司を相手に、こんな恥ずかしいことを言ってしまうなんて。
 まるで自分じゃないみたい。自分の体じゃないみたい。

(こんなに……こんなに、なっちゃうなんて)

 自分の中から、蜜があふれていく。奥を突かれると、そのたびにナカがうずいてたまらない。

「ずっと……こうして、いたい……あなたとつながって……ッ」

 その声が切なくて、イリスは思わず、彼の首に腕をまわした。

「……いいよ、せん、せいの、の好きにして……」

「はぁ……ぁ、どうして、イリス……ッ」 

 すると彼は、ぎゅっとイリスを抱きしめながら、奥を貫いた。

「私がいちばん欲しい言葉を……くれるんですか……ッ」

 ずん、と重い一撃に、腰がわななく。がっちり上から抑え込まれて、逃げようもなく、奥の奥を、彼のものが押しつぶす。

「~~~ッ!」

 身体を貫くような快感。弓なりになった身体を、サイラスはいとおし気に撫でた。

「ぁ、今……、中でイきましたね……ッ、わかりました、私のものを通して……ッ」

 彼は目じりを下げながら、容赦なくイったばかりのイリスの体をゆさぶった。

「はぁ、今ので、私も、もう……ッ」

 最後にぎゅっと、サイラスがイリスの体を抱きしめる。
 その体がびくん、と震えて――彼が精を吐き出したのがわかった。

「っ……ぅ……」

 イリスの肩口に顔をうずめて、そのあとしばらくサイラスは動かなかった。

「イリス……はぁ……イリス……」

 名前を呼びながら、その背中が震えている。
 彼の肌は、吸いつくように濡れて、しっとりしていた。必死に動いたせいで汗だくなのだ。イリスは回した手をほどいて、その背中を労うように撫でた。

「う……イリス……?」

「先生、震えています。大丈夫、ですか……?」

 するとサイラスは、顔を上げて、イリスを見た。驚いたように目を見開いた紫の目が、星を散らしたかのようにうるんで光っていた。

「イリス……は、どうして、そんな、優しいんですか……」

 聞かれたので、イリスはわりかし真面目に答えた。

「先生、辛そうでしたから……少しでも、楽になりましたか?」

 微笑みながら目をみて答えると、彼の目に浮かんだ星の光が、雫になって、ぽた、ぽた、とイリスの頬に落ちた。落ちたところから、じわり、とぬくもりが広がっていく。
 涙は、紫の光を映したかのように発光してみえた。発情の光とは違う、暖かく柔らかな光に、イリスは一瞬目を奪われた。

「う……ぅ……」

 泣いてる。泣かせてしまった。

(私なんかの、こんな雑な励ましで……相当つらかったのかなぁ……)

 そう思って、どうにか慰めてあげようと、イリスは少し上半身を起こして、その頬に唇をくっつけた。

「大丈夫ですよ。元気出してください」

 すると、彼はふぅぅ、と獣のように息をついて、一層強くイリスを抱きしめた。

「もう……もうこの夢から覚めたくないです、ずっとこうしていたい、耐えられない、イリス……」

 濡れた声。イリスはただ、彼の背中をさすり続けた。

「イリス、離したくない。離さないで……」

 泣き言をいう彼を、イリスは寝入るまで、抱きしめ続けてやった。

「よしよし……大丈夫、大丈夫ですから……」

 彼を抱きしめているこの時間、イリスの頭はふわふわと現実感がなく、ただただうっすらと幸福を感じて――やがて自分も、休息の眠りに落ちたのだった。





 半刻後。二人の体温ですっかり温まったベッドで、イリスはぱちりと目を覚ました。

(あれ、待って……まずい)

 サイラスにかけられた麻痺はすっかり溶けて、頭の中のほわほわは消え失せ、イリスは焦った。

(まだ、仕事中だっていうのに! 主任に任せてきてしまった!)

 サイラスは、まだ目を閉じて眠っていた。イリスはそーっと彼の腕から抜け出すと、慌てて服を集めて身に着けた。

(早く戻らないと! っていうか――肝心の荷物のことって、伝わってる⁉)

 さすがに今起こして告げるのは、ちょっと気まずい。彼が眠っている間にそっと去りたいイリスは、メモに伝言を書いて残した。

「薬が届いています……と。これでOK。あっ、あと窓、割っちゃってすみません、と」

 応急処置として、とりあえず修復テープを張って、穴をふさいでおく。
 そして窓からすたこらっさ……と出ていこうとした、その時。
 寝室から、何かが落ちるようなものすごい音がした。

「⁉ 大丈夫ですか?」
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