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siriの妹、viv
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草木も眠る丑三つ時。雨は止み、外はさわやかな秋風が吹いていた。そんな中サチは息を切らせて研究所まで戻ってきた。
(はぁ、つかれた…)
なんとかソファまでたどり着いたサチは、横になって少し息を整えた。その手には博士の端末が握られていた。掘り起こすのは弱ったサチには大変な作業だった。が、場所をはっきりと思い出したので一発で見つけることができた。
この時間なら芹花に見つかることもないだろう。サチは起き上がって端末の起動スイッチを押した。画面が明るくなり、声が静寂を破った。
「こんにちは、私はVIVです。あなたの名前を教えてください」
突然聞こえたその声に、サチはびくっとして周りを見渡した。もちろん誰もいない。
「わたしは、サチ。もう少し音を小さくしてくれないか」
端末は如才なく答えた。
「かしこまりました。この音量でよろしいでしょうか」
音が少し小さくなって、サチは肩の力を抜いた。
「ああ、大丈夫だ」
「ではサチさん、質問にお答えください。あなたのカナリアの名前はなんですか」
サチは相手が機械とわかっていながらむっとした。
「あれは私のカナリアじゃない。名前は…ローラ」
画面が切り替わり、白く光った。
「質問、指紋をともに確認しました。あなたをサチと認証いたします」
「私の指紋なんて、いつの間に」
即座にVIVはつぶやきに答えた。
「サチヤ博士が、あなたの指紋を登録しました」
「そ、そうか…」
たしかに取る機会はいくらでもあっただろう。という事は、博士はこの端末を私に見せたかったという事なのだろうか…。
「サチ、あなた宛の文書があります。アイコンをタップして下さい」
VIVがそう告げた。だがサチはそれに興味はなかった。目的は外部と連絡を取ることだ。そのためには、この端末の監視システムを解かねばならない。一筋縄ではいかないだろうから、一刻も早く取り掛からねば。サチはシステムを開こうとした。が、VIVが邪魔をした。
「サチさん、文書の開封をお願いします」
「システムを開きたいのだが」
「システムへのご用件は何でしょうか?」
このVIVとの会話が監視されていないとも限らない。サチは慎重に聞いた。
「この会話は、社の記録に残るのだろうか」
するとVIVは驚くことを言った。
「いいえ。この会話および全てのシステムは、GNG社の監視外にあります」
「何だって?ではこの端末は、どの回線を使っているんだ?」
「回線は、こちらになります」
VIVが表示した回線名は、空の上のものだった。
「そうか…GNG社の回線を抜いて、衛星の回線につないだのか…博士がそれを?」
「サチヤ博士が、私に指示をしました。2210年5月7日に既存の回線を切断し、衛星につなぎました」
ちょうど博士が連れて行かれた次の日だ。つまり博士は自分で手を下さず、安全な場所に端末を隠してからVIVにそれを行わせたという事だ。まさに完全犯罪だ。
「その作業後、私はすべての電源を切り眠りにつきました。再び目覚めたとき、サチさんに文書をお見せするためにです」
サチは勢い込んで尋ねた。
「VIV、この端末から電話をすることはできるか?博士はいつも誰かと話していた」
「サチヤ博士が話していた相手は私です」
サチはがっくりと肩を落としかけた。
「ですが、どなたへでも通話をすることはできます」
「本当か?!なら頼む、話したい相手がいるんだ」
「承知しました。ただし、あなたが文書を読んだ後でしたら」
博士はサチによほどそれを見せたかったと見える。サチは諦めた。
「わかった、見る」
サチはアイコンをタップした。とても長そうだ。だがその文章を読み進むにつれ、サチの表情は険しくなっていった。すべて読み終えるころには、だいぶの時間が経過していた。だがサチはそれにも気が付かず片手を額に当てた。
(…なんということだ。博士たちは、これをずっと上書きしつづけてきたのか…)
あまりの内容にサチの頭痛は強くなった。だが、もう一仕事残っている。
「VIV、すべて目を通した。通話をしたい」
「おつかれさまです。では番号をお願いします」
「番号は、034…」
呼び出し音が鳴る、ここまできたらもう後戻りはできない。サチは覚悟を決めた。芹花を、生きて逃がす。そのためには相手を説得しなくてはいけない。
「こんばんわ、サチと申します…」
(はぁ、つかれた…)
なんとかソファまでたどり着いたサチは、横になって少し息を整えた。その手には博士の端末が握られていた。掘り起こすのは弱ったサチには大変な作業だった。が、場所をはっきりと思い出したので一発で見つけることができた。
この時間なら芹花に見つかることもないだろう。サチは起き上がって端末の起動スイッチを押した。画面が明るくなり、声が静寂を破った。
「こんにちは、私はVIVです。あなたの名前を教えてください」
突然聞こえたその声に、サチはびくっとして周りを見渡した。もちろん誰もいない。
「わたしは、サチ。もう少し音を小さくしてくれないか」
端末は如才なく答えた。
「かしこまりました。この音量でよろしいでしょうか」
音が少し小さくなって、サチは肩の力を抜いた。
「ああ、大丈夫だ」
「ではサチさん、質問にお答えください。あなたのカナリアの名前はなんですか」
サチは相手が機械とわかっていながらむっとした。
「あれは私のカナリアじゃない。名前は…ローラ」
画面が切り替わり、白く光った。
「質問、指紋をともに確認しました。あなたをサチと認証いたします」
「私の指紋なんて、いつの間に」
即座にVIVはつぶやきに答えた。
「サチヤ博士が、あなたの指紋を登録しました」
「そ、そうか…」
たしかに取る機会はいくらでもあっただろう。という事は、博士はこの端末を私に見せたかったという事なのだろうか…。
「サチ、あなた宛の文書があります。アイコンをタップして下さい」
VIVがそう告げた。だがサチはそれに興味はなかった。目的は外部と連絡を取ることだ。そのためには、この端末の監視システムを解かねばならない。一筋縄ではいかないだろうから、一刻も早く取り掛からねば。サチはシステムを開こうとした。が、VIVが邪魔をした。
「サチさん、文書の開封をお願いします」
「システムを開きたいのだが」
「システムへのご用件は何でしょうか?」
このVIVとの会話が監視されていないとも限らない。サチは慎重に聞いた。
「この会話は、社の記録に残るのだろうか」
するとVIVは驚くことを言った。
「いいえ。この会話および全てのシステムは、GNG社の監視外にあります」
「何だって?ではこの端末は、どの回線を使っているんだ?」
「回線は、こちらになります」
VIVが表示した回線名は、空の上のものだった。
「そうか…GNG社の回線を抜いて、衛星の回線につないだのか…博士がそれを?」
「サチヤ博士が、私に指示をしました。2210年5月7日に既存の回線を切断し、衛星につなぎました」
ちょうど博士が連れて行かれた次の日だ。つまり博士は自分で手を下さず、安全な場所に端末を隠してからVIVにそれを行わせたという事だ。まさに完全犯罪だ。
「その作業後、私はすべての電源を切り眠りにつきました。再び目覚めたとき、サチさんに文書をお見せするためにです」
サチは勢い込んで尋ねた。
「VIV、この端末から電話をすることはできるか?博士はいつも誰かと話していた」
「サチヤ博士が話していた相手は私です」
サチはがっくりと肩を落としかけた。
「ですが、どなたへでも通話をすることはできます」
「本当か?!なら頼む、話したい相手がいるんだ」
「承知しました。ただし、あなたが文書を読んだ後でしたら」
博士はサチによほどそれを見せたかったと見える。サチは諦めた。
「わかった、見る」
サチはアイコンをタップした。とても長そうだ。だがその文章を読み進むにつれ、サチの表情は険しくなっていった。すべて読み終えるころには、だいぶの時間が経過していた。だがサチはそれにも気が付かず片手を額に当てた。
(…なんということだ。博士たちは、これをずっと上書きしつづけてきたのか…)
あまりの内容にサチの頭痛は強くなった。だが、もう一仕事残っている。
「VIV、すべて目を通した。通話をしたい」
「おつかれさまです。では番号をお願いします」
「番号は、034…」
呼び出し音が鳴る、ここまできたらもう後戻りはできない。サチは覚悟を決めた。芹花を、生きて逃がす。そのためには相手を説得しなくてはいけない。
「こんばんわ、サチと申します…」
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