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世界を救う種!?
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「わぁッ!…な、何ですかっ?」
芹花はとっさにアプリを閉じた。これはさすがに見られたくない。
「端末を、使いたいんですが」
芹花は慌てて場所をゆずった。
「あ、すみません。どうぞどうぞ」
サチが通信アプリを開いたので芹花はドキッとした。が、サチは冷静に芹花に告げた。
「酒流さんから連絡が来ています。明日、島に来るそうです」
「本当すか!?」
「そう書いてありますよ。よかったですね」
「えっ」
サチが言った以外な一言に、芹花は少し驚いた。
「彼を待っていたんでしょう」
さらにそう言われ、なぜか芹花は責められているような気がしてしどろもどろになった。
「彼というか…彼の持ってくる食料をとても待ってますが…。サチさんも、やっとまともなものが食べれるんですから、喜んでいいと思いますよ」
「私は今ので十分です」
芹花は口をへの字にした。そんなことはあってはならない。
「今のプロテイン生活は、もうお終いですよ!あっ、サチさんの好きな食べ物は何ですか?」
「…あまり味がわからないので」
サチはうんざりした顔をした。早く会話を切り上げたいと思っているのだろう。しかし芹花は粘った。
「でも、甘いものが好きとか辛いものが苦手とか、何かしらあるでしょ?」
「…水が好きですね、しいて言えば」
芹花はハァとため息をついた。
「とにかく、食料が届いたらまともなものを作るんで」
「私はいいです」
芹花は目を見開いてサチに詰め寄った。
「駄目ですよ!ちゃんと食べないから、体調崩したんですよ!絶対無視できないような、美味しいもの作るんで!」
そういって芹花は鼻息荒く去っていった。サチは小さくため息をついた。
正午ごろつくと伝えられていたので、芹花はその十分前から桟橋にスタンバイしていた。
(まだかな…まだかな…)
その横ではモフチーが珍しげに海をながめていた。彼は芹花と一緒でないと、海には近寄らないのだ。朝は少し曇り気味だったが、日が昇るにつれて薄雲が消えてゆき、今は快晴と言ってよかった。その紺碧の水平線に、白い点がふっと現れた。芹花は目をこらして点を見つめた。それは近づいてきていた。
「やった!来たよ、モフチー!」
芹花は立ち上がって電動手押し車に手をかけた。これは物置から発掘したもので、ところどころガタがきていたが直して使うことにしたのだった。
「酒流さーん!」
白い波しぶきをあげてクルーザーが桟橋に停止した。
「おお、久しぶりだねえ」
中から酒流が顔を出して挨拶した。相変わらずスーツでビシッと決めている。芹花はガチャンと橋渡しを船と桟橋の間に架けた。
「待ってましたよぉ、酒流さん」
「うーん、こんなに歓迎されたのは初めてだよ」
「で、食料どこです?」
芹花は台車を押してクルーザーに乗り込んだ。すると船室にもう一人いるのが見えた。
「おーい、こっちこっち」
酒流はその人物を手招きした。
「紹介しよう、芹花くん。彼は私の部下の松田だ」
「どうも、荷物運びに来ました」
松田なる青年はそういって軽く頭を下げた。背は酒流と同じくらいだが、彼よりも若く、体はがっしりしている。
「そんな、わざわざ来てもらうことなかったのに。なんだか申し訳ないすね」
「いやいや、子ども一人で運べる量ではないんでね。なにしろ半年分の物資だ」
「そんなの余裕っすよ、あ、これですね」
船室にはダンボールが山と積まれていた。あっという間にそれらを台車につんでしまった芹花を見て、酒流は舌を巻いた。
「その車、使えたのか。とっくに壊れて使い物にならないと思っていたが」
「ちょっとガタはきてるけど、まだまだ使えそうですよ」
しゃべりながら、芹花は慎重に台車を押した。もしここでぐらついたら母なる海に食料を還元することになってしまう。
「大したもんだなぁ…」
その後姿を見ながら、酒流は一言つぶやいた。
「サチさーん、食料…じゃなくて酒流さんがきましたよー!」
芹花は研究室まで行って元気に声を掛けた。が、見事なまでに沈黙が帰ってきた。おそるおそる薬品棚の向こうをのぞいてみると、サチは座って書類をそろえていた。
「えっと、サチさん…」
「言われなくても、わかってます」
明らかに不機嫌そうな声だったので、芹花もそれ以上なにも言えず、首をひっこめるしかなかった。が、気をとりなおして作業台の周りにイスを4つ並べた。仕事とはいえ、はるばるきてくれたのだ。しかも今回は二人も。お茶の一杯でも出すべきなのだろうが、あいにくそんなものはないので冷蔵庫のミント水を注いで出した。
「いやはや…イスに飲み物まで出るとは…初体験だよ」
酒流は腰掛けて嬉しそうに氷の浮いたコップを手に取った。その時、薬品棚の影からやっとサチが姿をあらわした。
「おっ、サチ、久しぶり」
いつものことながらサチは愛想の欠片もなく書類を机に置いた。
「これが今回分の書類です。それと植物サンプルは…」
「あっちのボックスに入ってます!今朝、私がつめました。ほうれん草に小松菜とトマト!おいしそうに育ってます。食べるの我慢するの、大変でした!」
その芹花の言葉に、酒流はハッハッハと笑った。
「いやあ、申し訳なかったよ芹花くん。我々も食料のことが頭から抜け落ちていていね。サチはこのとおり、あまり食べ物に関心がないからね」
話をふられたサチは嫌そうに顔をしかめた。
「まぁ、2人とも座ってくれたまえ。次の仕事の説明をするから」
酒流は机の上に置いたアタッシュケースから、金属の小箱を取り出した。
「何です?これ」
芹花もサチもそれを覗き込んだ。
「これこそ、世界を変える可能性のある種だよ。名づけてチャモロコシ・ワン」
芹花はとっさにアプリを閉じた。これはさすがに見られたくない。
「端末を、使いたいんですが」
芹花は慌てて場所をゆずった。
「あ、すみません。どうぞどうぞ」
サチが通信アプリを開いたので芹花はドキッとした。が、サチは冷静に芹花に告げた。
「酒流さんから連絡が来ています。明日、島に来るそうです」
「本当すか!?」
「そう書いてありますよ。よかったですね」
「えっ」
サチが言った以外な一言に、芹花は少し驚いた。
「彼を待っていたんでしょう」
さらにそう言われ、なぜか芹花は責められているような気がしてしどろもどろになった。
「彼というか…彼の持ってくる食料をとても待ってますが…。サチさんも、やっとまともなものが食べれるんですから、喜んでいいと思いますよ」
「私は今ので十分です」
芹花は口をへの字にした。そんなことはあってはならない。
「今のプロテイン生活は、もうお終いですよ!あっ、サチさんの好きな食べ物は何ですか?」
「…あまり味がわからないので」
サチはうんざりした顔をした。早く会話を切り上げたいと思っているのだろう。しかし芹花は粘った。
「でも、甘いものが好きとか辛いものが苦手とか、何かしらあるでしょ?」
「…水が好きですね、しいて言えば」
芹花はハァとため息をついた。
「とにかく、食料が届いたらまともなものを作るんで」
「私はいいです」
芹花は目を見開いてサチに詰め寄った。
「駄目ですよ!ちゃんと食べないから、体調崩したんですよ!絶対無視できないような、美味しいもの作るんで!」
そういって芹花は鼻息荒く去っていった。サチは小さくため息をついた。
正午ごろつくと伝えられていたので、芹花はその十分前から桟橋にスタンバイしていた。
(まだかな…まだかな…)
その横ではモフチーが珍しげに海をながめていた。彼は芹花と一緒でないと、海には近寄らないのだ。朝は少し曇り気味だったが、日が昇るにつれて薄雲が消えてゆき、今は快晴と言ってよかった。その紺碧の水平線に、白い点がふっと現れた。芹花は目をこらして点を見つめた。それは近づいてきていた。
「やった!来たよ、モフチー!」
芹花は立ち上がって電動手押し車に手をかけた。これは物置から発掘したもので、ところどころガタがきていたが直して使うことにしたのだった。
「酒流さーん!」
白い波しぶきをあげてクルーザーが桟橋に停止した。
「おお、久しぶりだねえ」
中から酒流が顔を出して挨拶した。相変わらずスーツでビシッと決めている。芹花はガチャンと橋渡しを船と桟橋の間に架けた。
「待ってましたよぉ、酒流さん」
「うーん、こんなに歓迎されたのは初めてだよ」
「で、食料どこです?」
芹花は台車を押してクルーザーに乗り込んだ。すると船室にもう一人いるのが見えた。
「おーい、こっちこっち」
酒流はその人物を手招きした。
「紹介しよう、芹花くん。彼は私の部下の松田だ」
「どうも、荷物運びに来ました」
松田なる青年はそういって軽く頭を下げた。背は酒流と同じくらいだが、彼よりも若く、体はがっしりしている。
「そんな、わざわざ来てもらうことなかったのに。なんだか申し訳ないすね」
「いやいや、子ども一人で運べる量ではないんでね。なにしろ半年分の物資だ」
「そんなの余裕っすよ、あ、これですね」
船室にはダンボールが山と積まれていた。あっという間にそれらを台車につんでしまった芹花を見て、酒流は舌を巻いた。
「その車、使えたのか。とっくに壊れて使い物にならないと思っていたが」
「ちょっとガタはきてるけど、まだまだ使えそうですよ」
しゃべりながら、芹花は慎重に台車を押した。もしここでぐらついたら母なる海に食料を還元することになってしまう。
「大したもんだなぁ…」
その後姿を見ながら、酒流は一言つぶやいた。
「サチさーん、食料…じゃなくて酒流さんがきましたよー!」
芹花は研究室まで行って元気に声を掛けた。が、見事なまでに沈黙が帰ってきた。おそるおそる薬品棚の向こうをのぞいてみると、サチは座って書類をそろえていた。
「えっと、サチさん…」
「言われなくても、わかってます」
明らかに不機嫌そうな声だったので、芹花もそれ以上なにも言えず、首をひっこめるしかなかった。が、気をとりなおして作業台の周りにイスを4つ並べた。仕事とはいえ、はるばるきてくれたのだ。しかも今回は二人も。お茶の一杯でも出すべきなのだろうが、あいにくそんなものはないので冷蔵庫のミント水を注いで出した。
「いやはや…イスに飲み物まで出るとは…初体験だよ」
酒流は腰掛けて嬉しそうに氷の浮いたコップを手に取った。その時、薬品棚の影からやっとサチが姿をあらわした。
「おっ、サチ、久しぶり」
いつものことながらサチは愛想の欠片もなく書類を机に置いた。
「これが今回分の書類です。それと植物サンプルは…」
「あっちのボックスに入ってます!今朝、私がつめました。ほうれん草に小松菜とトマト!おいしそうに育ってます。食べるの我慢するの、大変でした!」
その芹花の言葉に、酒流はハッハッハと笑った。
「いやあ、申し訳なかったよ芹花くん。我々も食料のことが頭から抜け落ちていていね。サチはこのとおり、あまり食べ物に関心がないからね」
話をふられたサチは嫌そうに顔をしかめた。
「まぁ、2人とも座ってくれたまえ。次の仕事の説明をするから」
酒流は机の上に置いたアタッシュケースから、金属の小箱を取り出した。
「何です?これ」
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