聖植物園日誌

小達出みかん

文字の大きさ
上 下
14 / 41

学生の本分ですし

しおりを挟む
 ――ルルルルル…ロロロロロ…
 やわらかいカナリアの声が、聞こえてくる。その歌声は人間の耳に心地よく、高くなったり低くなったりを繰り返している。人間を喜ばせるために、カナリアは朝な夕な歌っていた。
 だが少年は、そのカナリアが好きではなかった。
 物心ついたときからそれはいた。つまり、少年がこの島に来る前からいたということだ。
 一つの情景が思い出された。
 光差すアトリウムで、博士がカナリアの籠と向かい合っている。手に持った端末から、別のカナリアの声を流している。手本を聞かせて、カナリアがもっと上手に歌えるように仕込んでいるのだ。朝の光に照らされたその表情は穏やかだ。
――それは少年にとって、不快な光景だった。
(なんで博士は、鳥なんかに時間を費やすんだろう…)
 その思いから、美しいはずのカナリアの声が少年にとってはただの雑音になってしまった。
(きらい……きらいだ……)
 少年は耳をふさいで、かごにむかってそうつぶやいた――。

「うわーーー!」
 芹花はそう叫んで机につっぷした。
 サチに読めといわれた本はどれも難しかった。簡単に読み進められるわけがなく、3ページごとに芹花はこうして頭を抱えていた。
「アウ」
 モフチーはベッドでごろんと手足を投げ出して横になっていたが、申し訳程度に顔を上げて芹花を見た。そのアーモンド型の目はうるさいなぁ、と思っているようでも、もうちょっと頑張れよ、と思っているようでもあった。芹花は都合よく後者と受け取ることにした。
「うん、もうちょっとがんばるよ、モフチー」
 芹花は目をこすってもう一度本を開いた。すると、開いたページに薄い紙がはさまっているのを見つけた。何やら手書きの文字が見えたので、芹花はそれを手にとって読んでみた。
「①、ミントをひとにぎり、②、よく洗い、清潔な水に漬け込む、③、冷やす…これってあれか、ミント水の作り方?」
 そこには、簡単なイラストと共にミント水の作り方が記してあった。たしか、丘の果樹園にはミントらしきものが生えていた。昔ここにいた誰かが、あのミントを利用しようと書いたものかもしれない。
(いいじゃん、やってみようかな)
 まともな食べ物はほとんどないが、水とハーブならこの島は豊富にある。本物のミントをつけこんだ水なんて、きっと美味しいに違いない。
(よーし、明日つくってみようっと)
芹花はそのメモを引き出しにしまった。

『その上司って人、流星くんに似てるの?!気になる~!写真見たいよ!…やだ、つい興奮しちゃった。でも芹花大丈夫?そんなイケメンと2人きりで仕事してるなんて…芹花が大人の階段、登っちゃわないか心配だよ…。モフチーは元気みたいで安心したけど。
そうそう、うちもとうとう猫を飼うことになったの。やっとママが折れてくれさー!これははじめて膝にのってきてくれたときの写真。ラグドールのマロンちゃんです♡』
 最近忙しくて見れなかった通話アプリをのぞくと、茉里から何通か写真つきの通信が来ていた。茉里の膝の上で、つんとした様子で首をかしげてこちらを見ているマロンちゃんは、子ねこなのに一丁前の表情をしていて芹花はついわらってしまった。
(かわいいなぁ…たまには、よその子を見るのもいいな)
 新しい子猫のことは祝い、上司のことは何も間違いなどおこらないから安心してくれと芹花は通信アプリにしたためた。ドキドキどころか、同じ屋根の下に住んでいながら一言も言葉を交わさない日がざらなのだ。芹花は送信しながら首をふった。
「ない、ない。ありえない」
「何がありえないんですか」
 急に後ろから声をかけられたので芹花は飛び上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...