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甜禾、と誰かが私を呼ぶ声がする。大丈夫、甜禾、ねえ、と言う声の後、頬にぱしんっ、と衝撃が走った。

「痛っ、え、あ……ざくろ、ちゃん……?」

目を開けるとそこには黒いロングヘアをポニーテールにして校則と寸分違わぬ制服をきた友人、石川ざくろちゃんが私の肩を揺すっていた。恐らく頬を叩いたのは彼女だろう。肩を揺らしていた方とは別の手が見事に振り抜かれている。多方意識の戻らない私を起こす為に頬を打ったのだろう。ちょっと痛いけど、意識を落とす前にしこたまぶつけた頭の方が重傷だ。クラクラする頭を抱えて私は体を起こす。ぼやける視界は未だ線を結ばないけどゆっくりと瞬きをする事でそれも緩和されていく。耳に届くのは戸惑いの声と嬉しそうな歓声、ぼやけた視界が実像を結ぶと、眼前に広がるのはこれまでの常識が覆される場所だった。

煌びやかな装飾と中世ヨーロッパのような服を着た男の人達。修道服を着た女性もいて、髪の色も明るい金や茶色だ。地面は石畳でそこにはよく分からない文字と線が引かれていて、まさか魔法陣か?なんて非日常な小説の一説を思い出す。甲冑に槍を持った男の人達が私達を取り囲んでいて、油断なくこちらを伺っていた。下手なことはしない方が良さそう?とざくろちゃんを見ると、小さくこくりと頷かれたので私は大人しくする。先に目を覚ましていた棗ちゃんが私とざくろちゃんの側で眠たげな目でクラスメイト達を見ていた。
どうやら、この魔法陣らしき線の上に私達はいるらしい。その魔法陣の外側にいる人達は私達を警戒しながらも敵意を向けているわけではないということが分かる。

「おいおい、何のドッキリだよこりゃ……」
「三田村くぅん、苺怖ぁい」
「何ここ、私達どうなって……」
「っ、おい、何だよあんたら!」
「みんな落ち着いて!」

明らかにおかしいこの状況にパニックまではいかずとも戸惑いの声があがっているのが分かる。そりゃそうか、私もどういう状況か分からないし。さっきまで意識を失っていたわけだし、みんなが戸惑ったりパニックになる気持ちはわからないでもないもの。

「おぉ、召喚が成功したか」

そう言って入ってきたのはマントを羽織り、王冠を被った男の人だった。マントの下には何というのだろう、外国の皇帝とか王様とかそういうのを着ているのが分かる。蓄えた髭は白髪混じりの髪と同じのロマンスグレー。威厳たっぷりの目は青くて、ここが異世界なのではないかという疑問が自分の中で確信に変わりそうになる。遺伝子の法則上、黒髪の人間の瞳の色が青くなることはないからね。ということは本当に異世界なのかな、ここは。

「貴殿らが異世界人か……」
「な、何だよおっさん」

刈安信治かりやすしんじ君が口を開くとその砕けた口調を咎めるかのように私達を囲んでいる兵士達が槍を彼に向ける。失礼だぞというようなその行動は威嚇であり本当に傷付けようとは思っていないようだ。ビク、と体を震わせる彼を押し除けて、杏さんが前に出る。明るめの茶髪に少しだけウェーブのかかったセミロングが少しだけ揺れた。

「あの、私達は果華学園の者です。修学旅行のバスに乗っていたはずなのですが、ここはどこでしょうか」
「突然召喚した非礼は詫びよう。我が名はジョルジュ・メルへニア。このメルへニア王国の王である」

あ、やっぱり王様だったんだ。メルへニア王国なんて国なかったし、やっぱりここは異世界で確定なのかな。でもどうしてクラス全員なんだろう。あのバスに乗っていた生徒は全員いるように思える。先生と運転手さんはいないみたいだけど。杏さんは王様の前に立って一礼して名前を名乗った。

「初めまして、メルへニア国王陛下。私は光野杏と申します。先ほど申し上げた通り、私達は修学旅行中で、次の目的地へと向かう為にバスに乗っていたはずなのですが……、気が付いたらこの場所にいたことに関してご説明いただいてもよろしいでしょうか?」
「そうそう。あんたらさっき、召喚に成功したとか言ってただろ?俺達をバスの中からここに連れてきたってことで良いのか?」

三田村君の言葉に、え、そうなの?とざくろちゃんと棗ちゃんに聞いたら、あんたが寝てる最中にね、と首を縦に振る。寝てるっていうか意識を失ってたんだけど、というのは言わない方が良いかもしれないな。
我がクラスのカーストトップである二人に任せておけば、余計なことは言わないだろうし大丈夫だろうな、なんて思って私は王様の言葉を待つ。

「そうだ。我が国は魔界の軍勢に立ち向かえる人間を召喚する為に儀式を行った。申し訳ないのだが、我が国の為に力を貸してもらえないだろうか……勇者達よ」

何これどっきりなの……?と坂崎李里さかざきりりさんが小さく呟いた。まぁ、普通そう思うよね。
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