女騎士と皇子

かい

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第三章:いろいろな問題を残しながらも、久々に城に帰る二人だが…?

3-4 終演、そして和解

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「陛下、……皇子が成功したようです」

「まさか……あの少女があの『化物』を受け入れた?」
「……はい。やっと王家の『災い』は解けました」

夜半、王とエアは静かに対話していた。二人は真剣に前だけを見据えて―――核心をく。


「……エア、そなたも…解けたのかね? 『不死』という呪縛が」
「いえ、わたくしは吸血鬼ですので…正確には不死ではなく、ただ人間より少し長生きなだけです」
「……少し、か。私は羨ましいのだがね。」

「……………陛下、近いのですか?」
「ああ…私はそんなに長くは持たないだろう…」
「そうですか…」
「後は頼んだぞ、エア。」

「…………陛下も変わっておられますね。吸血鬼なんかを近衛に置いて…しかし、確かに承ります。ですから…陛下、安心して下さい。」
「ああ」

穏やかに王は言った。そして、夜が明ける――――。

***


「………ちょ、待って……ください」

ユリアは焦りを露にする。

「待ってられるかっ!」
「ダメです―――っ」

と大袈裟にソレを制す。二人はごろごろと階段をころげ落ちてゆく。誰も助けるものはいない。

「……うっ、……痛っ!」

この状況はどういうことかというと、ユリアがロイドにリボンを頭につけていたところ、それを拒んだロイドが足を外して二人共々階段から落ちた、というわけだ。


「…てか、何で俺にこんなのもの付けようとした?」
「ろ、ロイド様が……女装すればきっとキレイですよねって、エアさんが言ったんです」

ユリアは至極真面目に答えた。もともと悪ふざけをするとは思えない子だ。エアの言葉からどうやって、ロイドにリボンをつけるなどと馬鹿げた考えになったのか…甚だ疑問だが…。

「それで、『リボンでも付けてみましょう。ユリア殿、付けてきて下さい』って。」

「………素直に付けんな。(…襲うぞ、バカ)」

コイツは馬鹿だ、と前にも思ったことをロイドは考えてしまった。どうやら、ユリアは見た目に反して賢い子ではないらしい。

「とにかく、退け。重たい…」
「は、はい…すみません」

階段から落ちて、そのままの体勢を保っていたため、二人は恋人同士が行うような体勢を広い廊下で堂々とさらしていたのだ。いや、実際に…結婚まで約束した仲なのだが。

「朝からウルサイ奴らだな、お前たちは。」

「師匠?!」
「ディアス様……!?」

突然、といっても…ここは公共の場なので誰かが居てもおかしくはないのだが…。まさかディアスが現れるとは…二人は思ってもみなかっただろう。

「何だ、幽霊でも見たような顔だな。私は生きてるぞ?」

「シャレにならないのでやめて下さい…」

「そうか…そういえば、お前らはこんなところで何をしているんだ。王に謁見えっけんするんじゃないのか?」

「…え、聞いてないです……っ!」

ユリアは驚いた顔をした。当然だ、ロイドは何も言っていないのだから。
彼は一人で今回の騎士団訪問を報告するつもりでいた。そして、跡継ぎのことも。

「いいんだよ、お前は。俺一人で充分だ」

「無理するな、ロイド。お嬢さんは必要だろ?」

「………師匠までからかわないで下さい。」
「すまん…つい」

(…ついって…。俺は一生、からかいの対象になるのか…?)

容易にそれが想像できてしまい、背筋がぞくっとした。

「…とにかく、王に会いに行ってくる」
「はい、待ってますっ」

笑顔のユリアに和みつつ、ロイドは二人と別れて王のいる部屋へと向かう。


***

どすり、と重たい空気が漂う。これは彼の放つ重々しい雰囲気のせいだろうか。


「……………王…お久しぶりです」

『災い』の皇子であったため、実の親ともろくに会ったことがないロイドは…今目の前にいる王を『父』と呼べるには難しかった。

王は一段高い場所で、ロイドを見つめて平然と言った。

「…殺されてなかったか、我が息子よ」
「お前の息子だという自覚があるなら、殺せとか言うなよ」

いきなりの爆弾発言に驚きつつも、どこか懐かしさを感じていた。

「そういえば、昔 俺に言ってたよな。お前は『災い』の子なのだと。王家には必要ないって…そんなに俺が邪魔なのか?」

その答えを聞くのは少し怖い気がした。何度も自分を否定し続きた父を目の前にして……今さら、大人になってまで自分の存在を消してほしくなかった。けれど、王の言葉は意外なものであった。

「邪魔ではない。寧ろ男のそなたは王家に必要だが?」

「は……?」

「だがな…そなたの『災い』は正直、王家には不要のものだ。まして、人を殺められる力などと…普通の人間ならば恐ろしいだろう」

ロイドは、初めて王が言っていることが正論だと感じた。だが…

「…災いって…俺はもう、普通の人間になったんだ。とやかく言われる筋合いはない」

「息子よ……少女を犯して…救われたと思っているのか?」

「!」

(……………それを言われたら…黙るしかないじゃないか)

初めてを奪ってしまったのは事実だから。言い訳なんてできるわけがない。

「別に責めているわけではない。ロイド=ハルト…そなたは少女によって救われたのだから。私も少女には感謝してる」

「はあ…ま、そうだな。」

ユリアのおかげで助かったことは本当だ。けれど、一度はロイドの命を狙っていた王がロイドの『災い』が解けて喜んでいることに違和感を感じた。

(…………なんだ、この状況は…? 王に覇気はきがない)

弱々しく頭を垂れる王にロイドは堪らず近寄った。

「王!」

「…ロイドには言わなければならんな。私の命は…長くはもたん。だから…そなたが王をついでくれるか?」

その王の発言に俺は言葉を失ってしまった…。父が死を目前のことと、まさか、王から跡継ぎの話をしてくるとは思わなくて…しばらく、ロイドはぽかんと呆然とするしかなかった。


***


その頃のユリアは…エアとばったりと廊下で会ってしまった。

「やあ、ユリア殿。調子はどうです?」
「…元気ですよ…?」

「腰の方も?」

「―――――っ!」

そうだ、紛れもなく…ロイドに「部屋に行って押し倒せ」と言ったのはエアだった。…昨日の夜、閨房けいぼうでさんざんロイドにかされたことを思い出してしまい、ユリアは顔を真っ赤にさせた。

「……わかりやすい人、ですね」
「…からかってるんですか?」
「そうですよ。よく分かりましたねー」

「………エアさんって…性格、悪いです」

「否定はしません……それよりも、わたくし…貴女に聞きたいことがあったんです」
「? 何ですか…?」

「……災いの皇子、その人格も皇子だってことです。二人はひとつ。ユリア殿に本当の皇子を愛せますか?」

ユリアはいつになく真剣なエアに少したじろいでしまった。……けれど、その質問の答えは決まっている。

「愛せますか、ではないんです。もう…愛しているんですっ」

ユリアは微笑んで、エアを見た。

「参ったですね…そこまで、皇子が愛されるとは思ってもみませんでしたよ」
「………あ、そうなんですか…」

今さらながら恥ずかしくなったのか…ユリアは頬を染めて俯いた。

「あれ、でも…エアさん言いましたよね? 『災い』は解けたって。なら、『災いの皇子』という人格もなくなるはずでは…?」

「まあ、普通はそう考えますよね。事実上は『災い』は消えました。でも、あの獣じみた性格も…もともとは皇子の隠れた人格ですから。それは、消えません。だから…ユリア殿、頑張って下さい!」

「…………」


(何を、ですか……なんて聞いたら私は恥ずかしくてこの場にいられなくなってしまう…と思います)

ただ、ユリアはエアの言葉に顔を真っ赤にするしかなかった。


***


場所は変わって、再び王の部屋だ。

ロイドは「命が助かる可能性はないのか」と問うたが、王は静かに否定しただけだった。


「そうか………でも、側近たちが黙っていないと思うけどな」

「それは、エアとディアスが何とかしてくれるだろう。だから、そなたは安心して政をしてよいぞ。騎士団長に約束したのだろう? 良い王になる、と。」

「な、なんでそれを?」

「エアに話しただろう。それで、今までの経緯を報告するついでにエアが話してくれたぞ。」

心なしか王は嬉しそうだった。

「そなたはきっと私よりは民衆を想い、良い政をするであろうな…」

何を根拠に王がそう言っているのか分からなかったが…何故だかその言葉が悲しく聞こえた。

「だから、心置きなく隠居できる。もし、…心残りがあるとすれば、ロイドが好いた少女と話しを出来なかったことだ」

「しなくていい!」

とっさに叫んでしまったが…

その後に王が、

「息子の妻になる娘なのだぞ。親なら誰もが興味を持つところだろう?」
と無邪気に笑う姿を見てふと思った。

もし、俺が『災い』の皇子でもなくて…普通の皇子だったら、案外、王は親ばかになっていたかもしれないと…心の中でぽつりと呟いた。

これは、誰にも言えない……。

そして、根強くあった王の印象――王族の残忍な人――が、父という存在に変わっていたことは本人も気づいてなかったことである。
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