女騎士と皇子

かい

文字の大きさ
上 下
14 / 26
第二章:ユリアの兄であるジンに会いに行く二人

2-4 ライバルの登場?

しおりを挟む
ラキスという青年は、文武両道でありながら…それにおごらず、日々鍛練を欠かさずに行なっていた。
しかし、我が道を行く―――つまり、ゴーイング-マイ-ウェイという性格だったために周りの人々を疲れさせてはいたが…。


***


ラキスが修行から帰ってきて、団長室に向かう途中に何人かの騎士にすれ違った。
そして、耳を疑うような話を騎士たちは話し始めたのだ。

「…なぁ、お前知ってるか? あの騎士団のマドンナ、ユリアちゃんがあの災いの皇子に食われちゃったらしいぞ。」
「マジか!? 俺が狙ってたのに~」

(―――何だって…? あの、無垢で愛らしいユリアちゃんが…嘘でしょ?)
信じたくはなかった、けれど………そんなことを冗談で言うとは思えない。
だから…ラキスは彼らに勢いよく近づいた。真相を聞くために―――。

「その話、もっと詳しく聞かせてくれ!」
とにかく―――ラキスは必死で叫んだ。


***


ラキスは目の前にいる皇子を睨んでいた。今朝、同僚の騎士たちに聞いた話が本当なら…この皇子がユリアちゃんを犯したことになる。
「とにかく…勝負しろ、皇子!」
「おい、何でいきなり俺につッかかるんだ?」
ロイドは話の流れが分からず、眉をつり上げて突然に現れたラキスを睨む。
「アンタが、ユリアちゃんを汚したからに決まってる!」
「―――っな、何で見知らぬ奴まで知ってるんだよッ!」
たまらずうめいてしまう。

「私が言いふらしたの。」
当然のようにリンは返事を返した。その笑みはエア並に寒気がする…。
「………何で言うんだよ…俺らにプライバシーはないのか?」
「ないわ」
リンは、にこやかに即答する。
そして、ジンは迷ったあげく止めに入ることに決めた。……とてもシャクだったが。

「とりあえず、落ち着け。オレも皇子を殴りたいところだが…ここで、やることじゃないだろ?」
さらりと、過激なことをいかにも当然のように言った。
ロイドがジンを一瞥したが――そんなことは、ジンにとってどうでもいいことだった。
今はラキスをなだめることが先決だ。
ユリアは心配そうに…その成り行きを見守っている。

「……軽はずみでした、すみません」
渋々…ラキスはジンに頭を下げる。しかし、決してロイドには謝らない。
「ま、いいさ。ラキスは次の任務があるまで待機しててくれ」
「……はい」
仕方なく…ラキスは部屋を出た。去り際に、ロイドに敵視丸出しの視線を送ってはいたが…何事もなくおわった。

(――――参ったな…)
と思ってみたものの、ロイドはそれ以上の感情は持たない。
ただ今は―――ジンさんにどうやって許してもらうか、を考えるのが重要だから。ロイドは再び、考えるのに没頭していた。


***


「さて、ユリア。オレの言いつけを見事に破ってくれたな? 待機してろなんて…誰にでもできるだろ?」
言いつけを守らなかった妹を、ジンは眉をつりあげて見た。
「…………兄さん、恐い」
「怒ってるンだから当たり前だ! 覚悟はできてるだろうな。」
(………できてませんっ!)
心の中で否定してみるけれど、無駄なわけで。非情な宣告が言い渡される。
「自室から一歩も出るな。ユリア、いいな?」
「…………はい」

「あ、ちょっと」

(待って―――)
と、ロイドは言おうとしたが遅かった…。考え事をしている間にユリアは、ジンとともに部屋を後にしていた。

「……ユリア…」
「―――あら、心配?」
「リン…さん?」
「大丈夫よ。あの子は、あんなので落ち込まないわ。…て、貴方が落ち込んでるみたいね?」
悪戯っぽく笑う女性にロイドは戸惑う。ロイドは、暖かい包容力に満たされた……俺は、人の温もりなんて知らなかったはずなのに。

「……行ってみたら? ユリアちゃんの部屋に。…ほら、これが案内図よ」
「…え、ありがとう…ございます」
困った顔をしながらも、ロイドは嬉しそうにその案内図を受け取って団長室から出ていく。

「世話が焼けるわ、二人とも…」
リンは、可愛い弟が出来たみたいで…つい恋の手助けをしてしまう。
「…ジンも、そろそろ妹離れしてもいい頃なのに…本当もう、やんなっちゃうわ」
やれやれ、とリンは溜め息をついたのでした。


***


ユリアの自室というのは簡素なもので…必要最低限のものしか置いていなかった。
(…………そういえば、ここでゆっくりするの久しぶりだなぁ)
ユリアはジンとわかれたあと、一人で部屋にいた。ジンはまだ騎士の仕事が残っているらしい…。

そこで、ユリアは今までのことを振り返った。いろいろなことが短い間に起こった、信じられないけれども。

好きな人もできて…。それで、初めてを経験してしまって――――。
あの時の自分を思い出すと身体が熱くなってしまう。
(…………どうしよ、これから私は…)
そう思ったけれど…ユリアは疲れて眠りについたのだった。



ロイドはユリアの部屋の扉を申し訳なさそうにノックをする。しかし、返事はなく―――駄目もとで扉を静かに押した。
ギギギ………幸か不幸か…扉は鈍い音をたてて開いた。

(不用心だぞ…おい)
部屋に入るとユリアが気持ちよさそうな寝顔でベットで寝ていた。ロイドはそれを愛しそうに見つめる。
強く想う、けれどそれに見合う態度を示すことなんてできない。いつも、奪うばかりで。損するのはいつもユリアで…。
「……俺、は…」
彼女に触れようとする。

「……くそ、」

こんなに愛しいのに彼女に触れると滅茶苦茶にしてしまいそうだ。
悔しい、………ああ…どうかせめて彼女の側にいさせてくれ。王家とか貴族とか抜きにして――――

ロイドはそのまま部屋から立ち去ろうとした。しかし…

「…ロイド様?」
ユリアがのそりと起き上がる。

「ユリア……お前は、俺を忘れられるか?」
「え………いきなり何を言って、」
「ジンさんは俺らの関係に反対だ。…もっともな話だが…好きでもない男に何度も体を重ねられるなんて、できないだろ? ……てか、最低だろ…そんなの」
「………好きでもない…?」
ユリアは涙目でロイドを見つめた。

――そんな顔をするな、ユリア……。
ロイドは、ムクムクと湧き上がる性欲を我慢していたのに、…ユリアの煽るような眼差しに負けてしまった。
「違うのか…? だったら、俺は少なくともお前を……」
ロイドの次の言葉はなかった。
なぜなら、ロイドはユリアにキスをして…そのままベットに押し倒したから――。


どうにかして気持ちを抑えようとも溢れてくる。底無し沼のように。
けれど、俺にはどうしようもなくて…。いっそ、お前を忘れられたらいいのに―――そしたら、誰も傷付くことはない。
出来たら良かった、そんなことが。
しかし……無理なんだ。俺には、ユリアを失うことがどれだけ悲しいことか…どれだけ苦しいことか…それは、もう計り知れない。
だから、身体だけじゃなく…お前の心さえも奪ってやる、この手で。

「……ん、…ふぁ」
「………いいか?」

ロイドはユリアのぷっくりとした唇から離れ、愛しいそうに抱きしめて言った。すでに下半身は暴れだしそうなくらい硬くなっていた。
(無理やりではなく…ちゃんとした形でユリアを感じたい…深く深く、俺以外考えられなくなるまで―――)

ユリアは甘い吐息をもらしながら頷いた。
そして、二人は再び…快楽の楽園に落ちていったのだった…。


***


場所変わって…ラキスは、ユリアの自室の前にいた。
誰よりも自分がユリアちゃんを想っているのに………アイツは突然現れてさらってゆくのか。取り返したい、全てを。

くぐもった、湿った声が部屋から聞こえてくる。
(…あれは…ユリアちゃん?)
ラキスは信じられなかった。

あの純粋な少女があの、腐れ皇子と重なり合っているなんて…。
だから、たまらず部屋の扉を開け放った。

「どーゆうことだよ、皇子!? 君そんなことしていいと思ってんの!?」

「………え、らきす?」
赤く染まった頬。つゆっぽい唇。そして、白い肌…その、すべてが――僕の心を刺激する。
それなのに、僕の愛しいユリアちゃんは…この国の皇子に恍惚な表情を向けていた。
(僕だけが、その顔を見たかったのに…そして、)
皇子の背中に隠れた、ユリアの見惚れるほどの美しい身体をこの目で見たかったのに―――何もかもが奪いとられた、この皇子に。

「違う……私が望んだことなの…っ」

(そんな顔するな、そんな……気持ち良さそうな表情を…しないで)

「……確か、あんた…ラキスさん? 悪いけど――俺はユリアを渡すつもりはない。出ってくれ」
「―――う、」
本気の目だった。僕だって本気なのに…言い返せない。
だって…目の前でユリアちゃんの、とろけるような表情をさせている男に勝てるとでも? 今からユリアちゃんを奪って無理やり身体を重ねろって?
…そんなの、最低な男と同じじゃないか…。
それに、僕には…ユリアちゃんの人生を束縛するなんてできない。キミが僕から離れていくなら仕方ない……でも、僕は…。

「ユリアちゃんと一緒にいたかったよ。」
「…ラキス、ごめんなさい」
「ああー、言われちゃった」
「………?」
「謝れたらフラれたと同じじゃないか。それに、僕はもう邪魔者みたいだし」

我慢できないというように、ロイドは繋がっているままの体勢でユリアの首筋にキスを落とす。
「……あ、あぁ…だめっ」
「見せ付けてくれんねぇ…僕にどうしろと?」
「さっさと消えてくれればいい」
ロイドはラキスへの当て付けのように、ユリアの身体を優しく刺激した。

「はいはい、お幸せに」

ラキスは、すぐに走り出す。見たくはない、乱れたユリアちゃんを…僕以外の男に抱かれているキミを見ると僕は怒りに狂いそうだよ。
だから……ラキスは、そのままの足取りである場所を訪れる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

皇妃は寵愛を求めるのを止めて離宮に引き篭ることにしました。

恋愛
ネルネ皇国の后妃ケイトは、陰謀渦巻く後宮で毒を盛られ生死の境を彷徨った。 そこで思い出した前世の記憶。 進んだ文明の中で自ら働き、 一人暮らししていた前世の自分。 そこには確かに自由があった。 後宮には何人もの側室が暮らし、日々皇帝の寵愛を得ようと水面下で醜い争いを繰り広げていた。 皇帝の寵愛を一身に受けるために。 ケイトはそんな日々にも心を痛めることなく、ただ皇帝陛下を信じて生きてきた。 しかし、前世の記憶を思い出したケイトには耐えられない。命を狙われる生活も、夫が他の女性と閨を共にするのを笑顔で容認する事も。 危険のあるこんな場所で子供を産むのも不安。 療養のため離宮に引き篭るが、皇帝陛下は戻ってきて欲しいようで……? 設定はゆるゆるなので、見逃してください。 ※ヒロインやヒーローのキャラがイライラする方はバックでお願いします。 ※溺愛目指します ※R18は保険です ※本編18話で完結

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

絶倫獣人は溺愛幼なじみを懐柔したい

なかな悠桃
恋愛
前作、“静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ”のヒーロー視点になってます。そちらも読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。 ※誤字脱字等確認しておりますが見落としなどあると思います。ご了承ください。

【R18】突然召喚されて、たくさん吸われました。

茉莉
恋愛
【R18】突然召喚されて巫女姫と呼ばれ、たっぷりと体を弄られてしまうお話。

処理中です...