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第一章:二人の初めての出会い
1-5 二人の第一歩
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―――体を重ねてはじめて自分の気持ちに気付くなんて情けない………。
私の胸をぎゅっと強くしめつける。
この人が好きだ、と私の心が告げている…感じているんだ。
「―――ろ、いど様ーー……」
すき、と二文字の言葉が音として出てくれない。
その想いは彼女の中で静かに宿るだけ。
***
ロイドはユリアの首筋にキスをするように唇を寄せていた。
彼らはまだ最後の作業を終えてはいない。それは、『純潔の乙女』の血を貰うことだ。
ロイドは繋がったまま、ユリアの首筋にピンク色の花びらを撒きちらす。
チクリ、と……キバを突き刺さした。
その光景はまさに一方的な搾取――つまり、吸血鬼のごとき血を啜る。
それは刻印および契約だ。
ロイドは涙を流しながら、けれども、淡々とその行為を行なった。
「………………っ!」
ユリアは一瞬の激痛に顔を歪めたが、ゆっくりと眠りについたのだった――――
ロイドはユリアの血を体内に受け取ると強大な力を徐々に制御してゆく。純潔の乙女の血だけがロイドにとって理性を維持することができるのだ。
ロイドと強大な力は一心同体。一方が命の危険に晒されると、もう一方がその状態を回避する。
どんな手を使ってでも、ロイドは生き延びることを選択してしまう。
「…………………う、」
ロイドは呻いた。口許に真っ赤な血を滴らせて、自分の手を見つめた。
(この手で……………………俺は、)
「ユリアを……抱いてしまったんだ………ッ」
徐々に理性を取り戻しつつあるロイドは……、目の前の惨状に戸惑った。
美しくかわいらしい少女が白い肌をさらけ出して、俺と交わっているなんて…ロイドは動揺するしかなかった。そして、彼女の瞳が涙でにじんでいることに気付く…きっと、恐かったに違いない。
ロイドは、ゆっくりと彼女との繋がりを解く。
そうすることで、逆に"交わり"を実感してしまったが。そして、一気に疲労が襲ってきた。
再び一筋の涙を流しながらロイドは眠りに落ちたのだった………。
***
男女が同じベットで眠っている。二人は何の衣服を纏っていない。
爽やかな朝、とは言い難い風景がそこにはあった。
もそりとロイドが目を覚ます。ロイドはいつのまにか真っ白なシーツに埋もれていたことに気付く。
(いや、それよりも……いつ寝たんだ………?)
横を見るとユリアが気持ちよさそうに寝息をたてている。
(………………………………ユリア?)
彼女は裸で。ベットには血痕が残っていて。
(………俺は、)
昨日のデキゴトが一気に駆け巡る。
(……………やっちまった、のか。)
―――前のとは違う『暴走』に眩暈がする。
あの時は、心臓が痛くて…。自らの力の存在を感じて…。
近くにいた兵士に襲いかかったんだ、…………人ひとりを殺しておいて、俺はなぜまだ生きているというのだろう?
皇子だから? 災いの子だから?
あれ以来…自分が分からない。俺は何なんだ、よ……。てか、
「……………ユリア、何でお前は………」
(すんなりと、受け入れてしまったんだ…?)
昨晩の彼女は無抵抗で…何かを思いつめているようで……。
―――――もう誰も傷付けたくはないと思ったのに。
ユリアの首筋に純潔の乙女――つまり『いけにえ』――となった証拠がくっきりと残っていた。
ピンク色の花びらが、刻印が………見える。
(……………アレは俺がやっちまったんだな。)
「あ゛~~…」
自己嫌悪に陥る。
――そうまでして俺は生き残りたいのか、少女を犠牲にしてまで――…俺は。
「…おはよ、うございます?」
ふいにユリアの声がした。
ロイドは俯いて自分を責めていたので、ユリアが起きたことに気付かなかったのだ。
「………ゆ、りあ?」
泣きそうになる…。もう成人も過ぎた大人が情けない話なのだが。
彼女がシーツを胸元まで上げて、恥ずかしそうに、それでも必死に俺を見つめていて…。
自分が情けなくなった…。
こんな幼気な少女を、俺が犯してしまったんだ…
「…………ごめん、謝って許されることじゃないけど…ごめん。」
ロイドはユリアに詰られることを覚悟していた、のに…。
ユリアは怒るでもなく、泣くでもなく、俺に抱きついてきた。
「…………ユリア?」
「戻った…………いつものロイド様に、戻ったんですよね?」
安心したように、彼女は呟く。
それほど、怖かったのだろうか?
「戻ったっていうか…昨日は理性が吹き飛んだだけっていうか…」
そう、あの乱暴な言動になってしまうのは…二重人格とかではなく、単に人の本能が表に現れただけ。
だから、アレも俺自身なのだ。
「…………あの状態は昨日が初めてじゃない、んですか…?」
「ああ」
意外に鋭いユリアに少々驚くが、素直にロイドは頷いた。
「…もしかして…ロイド様、記憶がある………?」
聞きにくそうにユリアは呟いた。
もちろん、記憶はちゃんと残っていた。彼女の乱れた、あの表情も、彼女の身体も………すべて鮮明に覚えている。
ロイドも、また答えにくそうに返事をかえす。
「……残念ながら、覚えてる。」
「――忘れて下さいっ! あんなの、………私じゃないですっ」
ロイドの言葉に重なるようにユリアは叫んだ。顔は真っ赤で、目はうるんでいる。
(…………おい、素で襲いたくなるような顔すんな。)
彼女は無意識だろうが、その可愛さは半端じゃない。
「……………忘れたくないけど。」
「へ…それってどういう意味ですか……?」
ロイドは自分が言った発言に焦る。
(忘れたくない………て、俺はただの変態か……ッ!)
誤魔化すように、ロイドは話題を変えた。
「―――とりあえず、服着るか。」
お互い、裸だということも忘れて話していたが………このままでは風邪を引く。
というよりも、ロイドは目の遣り場に困っていた。
「あ…………そうですね。」
ユリアも俺から目を反らして、床に置いてある衣服を手にした。
背中合わせで、無言が続く。ふと、ロイドは横目でユリアの体を見遣る。
(………確か、十六だとか言ってたよな?)
ユリアの年齢を思い出し、改めて観察する。
(……にしては、グラマーすぎる…)
成人にも達していない少女なのに体はすっかり成熟していて。こんな魅力的な体を俺が抱いてしまったなんて…。
…………………信じられない。
けれど、昨日のデキゴトは現実で。変えることのできない真実だ。
ぐぅ~………
不意に低く音が鳴る。その音は少女のお腹から聞こえたもので…。
「……えっと…朝めし食べにいくか?」
何だかんだで、殆ど物を口にしていなかったことを忘れていた。少女の空腹は限界に近かったようだ。
「そ、そうですね。食べましょうっ」
真っ赤になってユリアは賛同する。そして、立ち上がろうとした…………
ぺたん、と。
力が抜けたように床にしゃがみ込んでしまう。
「………ユリア?」
「…えーと…力が入らない、です…」
にこりと可愛くユリアは首を傾げてみせた。
けれど、ロイドにとっては『ソノコト』は重大で。
(――――そこまでヤりまくった、ことだよなぁ……)
ユリアの身体に負担をかけるほど、俺は女に飢えていたと思うと…自分が嫌になる。
「乗れよ」
「はぃ?」
背中をユリアに向けて、乗るように指示した。
「背負ってやる。それくらいさせろ」
これは自分が招いた結果だから。責任をとらせてほしい、と切に願う。
「…分かりました。」
ユリアは異論もなく、素直に背負われた。そして、ロイドの耳元で呟いた。
「―――私、後悔してませんから」
「…何だって?」
空耳じゃないか、と本気でそう思った。だって、彼女の言っていることは俺にとって好都合すぎるから。
―――責められたっておかしくないのに。
「…イヤだったんだろ?! 初めてだったんだろ?! それを…こんな、簡単に―――奪われて…」
奪ったのは、紛れもなく俺。最低だ、本当に。
「自分を責めないで」
優しく、響く声。天使みたいに心地よい…あったかい温もり。
「私が決めたことなんですよ? ロイド様を助けたい、って。だから…これからもお側にいさせてください…」
「…この、お人好しバカ! 俺のそばにいたって良いことねーぞ? それでも、……いいなら……居てくれ」
「は、はいっ」
ユリアは嬉しそうに顔を綻ばせる。
―――ありがとう、ユリア…。
恵まれた運命に感謝しよう、それが俺のできる唯一の懺悔なのだから。
***
食事に向かう途中で、何人かのメイドとすれ違った。
たとえ、ロイドが災いの子と呼ばれていても、高貴な存在とは変わりなくて。メイドたちは深々と礼をしてゆく……。
「おはようございます、ロイド様。」
「ああ、おはよ」
このように挨拶を交わすのはいいのだが、何人かのメイドが集まってヒソヒソと話をするのはやめてもらいたい、と皇子は思った。
「あら、ロイド様ったら婦女子を背負って…はしたないですわ。あれでは、足が開いて下品になってしまいますのに。」
「そうですわね、お姫様だっこでもして差し上げれば宜しいのよ。」
(できるかーっ!)
内心でツッコミを入れる。ユリアはたぶん真っ赤な顔でいると思う。
背負うよりお姫様だっこの方が緊張する、絶対恥ずかしいとロイドは激しく思った。
理性が吹き飛んでいればできたかもしれないが…今の状態では無理に決まってる。
そんなことを考えながら、二人は厨房に着く。
すると、見慣れた男が待ち構えるように立っていて。それが、エアだと理解するのにさほど時間はかからなかった。
因みに、朝食はすでに用意されていた。
オートミールやコンソメスープやチキンなどの御馳走が並んでいた。さすが宮廷といったところか…。
「エア……おはよ」
気まずそうにロイドは挨拶をする。
「あ! 二人共、どこにいたんですかぁー? 捜したんですよ?」
「………ちょっと、な。」
エアに、ユリアといかがわしい行為を昨夜していたなどと言えばどうなるか………
(ぜってぇ遊ばれる!)
と思った直後にユリアの首筋を見て、エアが細く笑った。
簡単に、アレが見つかってしまったのだ。
「虫に刺されてますよ?」
「へ…?」
当然、ユリアは分かるはずもなく…疑問付を浮かべる。
(違う、虫じゃない………………)
ロイドは自分がした行為なので、理解したくもないのに分かってしまった…。
(……………それは俺が付けた"印"だ。)
「激しく付けましたね、皇子?」
「…………」
返す言葉もない。分かってる、最低なんだよ………俺は。
「野蛮ですね、ていうか最低?」
「――――――っ!」
図星を突かれて顔を歪ませた。自分で思うより他人に言われるとすごく心が痛い。落ち込む、すごく。
「?」
ユリアはエアの言っていることがまだ分かっていないようだ。
「皇子、騎士団本部に行きましょうね?」
ニコリと悪魔の笑顔を湛え、最悪な宣告をされる。
「…………本当に行かなきゃダメか?」
「当然です! 団長さんにきちんと挨拶してきて下さいよ!」
エアは情け無用に告げた。そして、ユリアも無垢な笑顔で言ったものだ。
「ロイド様が本部に来ていただけるなんて光栄ですっ! 一緒に行きましょうっ」
この日ほど「はい」という返事をしたくなかったことはない。
知ってる?
アイリス騎士団の団長はものすごく怖くて……強いらしい。
(……俺、生きて帰ってこられるだろうか…)
「………やっぱり嫌だぁー!!」
無駄な叫びが、朝の食卓に響いて消えたのでした………。
私の胸をぎゅっと強くしめつける。
この人が好きだ、と私の心が告げている…感じているんだ。
「―――ろ、いど様ーー……」
すき、と二文字の言葉が音として出てくれない。
その想いは彼女の中で静かに宿るだけ。
***
ロイドはユリアの首筋にキスをするように唇を寄せていた。
彼らはまだ最後の作業を終えてはいない。それは、『純潔の乙女』の血を貰うことだ。
ロイドは繋がったまま、ユリアの首筋にピンク色の花びらを撒きちらす。
チクリ、と……キバを突き刺さした。
その光景はまさに一方的な搾取――つまり、吸血鬼のごとき血を啜る。
それは刻印および契約だ。
ロイドは涙を流しながら、けれども、淡々とその行為を行なった。
「………………っ!」
ユリアは一瞬の激痛に顔を歪めたが、ゆっくりと眠りについたのだった――――
ロイドはユリアの血を体内に受け取ると強大な力を徐々に制御してゆく。純潔の乙女の血だけがロイドにとって理性を維持することができるのだ。
ロイドと強大な力は一心同体。一方が命の危険に晒されると、もう一方がその状態を回避する。
どんな手を使ってでも、ロイドは生き延びることを選択してしまう。
「…………………う、」
ロイドは呻いた。口許に真っ赤な血を滴らせて、自分の手を見つめた。
(この手で……………………俺は、)
「ユリアを……抱いてしまったんだ………ッ」
徐々に理性を取り戻しつつあるロイドは……、目の前の惨状に戸惑った。
美しくかわいらしい少女が白い肌をさらけ出して、俺と交わっているなんて…ロイドは動揺するしかなかった。そして、彼女の瞳が涙でにじんでいることに気付く…きっと、恐かったに違いない。
ロイドは、ゆっくりと彼女との繋がりを解く。
そうすることで、逆に"交わり"を実感してしまったが。そして、一気に疲労が襲ってきた。
再び一筋の涙を流しながらロイドは眠りに落ちたのだった………。
***
男女が同じベットで眠っている。二人は何の衣服を纏っていない。
爽やかな朝、とは言い難い風景がそこにはあった。
もそりとロイドが目を覚ます。ロイドはいつのまにか真っ白なシーツに埋もれていたことに気付く。
(いや、それよりも……いつ寝たんだ………?)
横を見るとユリアが気持ちよさそうに寝息をたてている。
(………………………………ユリア?)
彼女は裸で。ベットには血痕が残っていて。
(………俺は、)
昨日のデキゴトが一気に駆け巡る。
(……………やっちまった、のか。)
―――前のとは違う『暴走』に眩暈がする。
あの時は、心臓が痛くて…。自らの力の存在を感じて…。
近くにいた兵士に襲いかかったんだ、…………人ひとりを殺しておいて、俺はなぜまだ生きているというのだろう?
皇子だから? 災いの子だから?
あれ以来…自分が分からない。俺は何なんだ、よ……。てか、
「……………ユリア、何でお前は………」
(すんなりと、受け入れてしまったんだ…?)
昨晩の彼女は無抵抗で…何かを思いつめているようで……。
―――――もう誰も傷付けたくはないと思ったのに。
ユリアの首筋に純潔の乙女――つまり『いけにえ』――となった証拠がくっきりと残っていた。
ピンク色の花びらが、刻印が………見える。
(……………アレは俺がやっちまったんだな。)
「あ゛~~…」
自己嫌悪に陥る。
――そうまでして俺は生き残りたいのか、少女を犠牲にしてまで――…俺は。
「…おはよ、うございます?」
ふいにユリアの声がした。
ロイドは俯いて自分を責めていたので、ユリアが起きたことに気付かなかったのだ。
「………ゆ、りあ?」
泣きそうになる…。もう成人も過ぎた大人が情けない話なのだが。
彼女がシーツを胸元まで上げて、恥ずかしそうに、それでも必死に俺を見つめていて…。
自分が情けなくなった…。
こんな幼気な少女を、俺が犯してしまったんだ…
「…………ごめん、謝って許されることじゃないけど…ごめん。」
ロイドはユリアに詰られることを覚悟していた、のに…。
ユリアは怒るでもなく、泣くでもなく、俺に抱きついてきた。
「…………ユリア?」
「戻った…………いつものロイド様に、戻ったんですよね?」
安心したように、彼女は呟く。
それほど、怖かったのだろうか?
「戻ったっていうか…昨日は理性が吹き飛んだだけっていうか…」
そう、あの乱暴な言動になってしまうのは…二重人格とかではなく、単に人の本能が表に現れただけ。
だから、アレも俺自身なのだ。
「…………あの状態は昨日が初めてじゃない、んですか…?」
「ああ」
意外に鋭いユリアに少々驚くが、素直にロイドは頷いた。
「…もしかして…ロイド様、記憶がある………?」
聞きにくそうにユリアは呟いた。
もちろん、記憶はちゃんと残っていた。彼女の乱れた、あの表情も、彼女の身体も………すべて鮮明に覚えている。
ロイドも、また答えにくそうに返事をかえす。
「……残念ながら、覚えてる。」
「――忘れて下さいっ! あんなの、………私じゃないですっ」
ロイドの言葉に重なるようにユリアは叫んだ。顔は真っ赤で、目はうるんでいる。
(…………おい、素で襲いたくなるような顔すんな。)
彼女は無意識だろうが、その可愛さは半端じゃない。
「……………忘れたくないけど。」
「へ…それってどういう意味ですか……?」
ロイドは自分が言った発言に焦る。
(忘れたくない………て、俺はただの変態か……ッ!)
誤魔化すように、ロイドは話題を変えた。
「―――とりあえず、服着るか。」
お互い、裸だということも忘れて話していたが………このままでは風邪を引く。
というよりも、ロイドは目の遣り場に困っていた。
「あ…………そうですね。」
ユリアも俺から目を反らして、床に置いてある衣服を手にした。
背中合わせで、無言が続く。ふと、ロイドは横目でユリアの体を見遣る。
(………確か、十六だとか言ってたよな?)
ユリアの年齢を思い出し、改めて観察する。
(……にしては、グラマーすぎる…)
成人にも達していない少女なのに体はすっかり成熟していて。こんな魅力的な体を俺が抱いてしまったなんて…。
…………………信じられない。
けれど、昨日のデキゴトは現実で。変えることのできない真実だ。
ぐぅ~………
不意に低く音が鳴る。その音は少女のお腹から聞こえたもので…。
「……えっと…朝めし食べにいくか?」
何だかんだで、殆ど物を口にしていなかったことを忘れていた。少女の空腹は限界に近かったようだ。
「そ、そうですね。食べましょうっ」
真っ赤になってユリアは賛同する。そして、立ち上がろうとした…………
ぺたん、と。
力が抜けたように床にしゃがみ込んでしまう。
「………ユリア?」
「…えーと…力が入らない、です…」
にこりと可愛くユリアは首を傾げてみせた。
けれど、ロイドにとっては『ソノコト』は重大で。
(――――そこまでヤりまくった、ことだよなぁ……)
ユリアの身体に負担をかけるほど、俺は女に飢えていたと思うと…自分が嫌になる。
「乗れよ」
「はぃ?」
背中をユリアに向けて、乗るように指示した。
「背負ってやる。それくらいさせろ」
これは自分が招いた結果だから。責任をとらせてほしい、と切に願う。
「…分かりました。」
ユリアは異論もなく、素直に背負われた。そして、ロイドの耳元で呟いた。
「―――私、後悔してませんから」
「…何だって?」
空耳じゃないか、と本気でそう思った。だって、彼女の言っていることは俺にとって好都合すぎるから。
―――責められたっておかしくないのに。
「…イヤだったんだろ?! 初めてだったんだろ?! それを…こんな、簡単に―――奪われて…」
奪ったのは、紛れもなく俺。最低だ、本当に。
「自分を責めないで」
優しく、響く声。天使みたいに心地よい…あったかい温もり。
「私が決めたことなんですよ? ロイド様を助けたい、って。だから…これからもお側にいさせてください…」
「…この、お人好しバカ! 俺のそばにいたって良いことねーぞ? それでも、……いいなら……居てくれ」
「は、はいっ」
ユリアは嬉しそうに顔を綻ばせる。
―――ありがとう、ユリア…。
恵まれた運命に感謝しよう、それが俺のできる唯一の懺悔なのだから。
***
食事に向かう途中で、何人かのメイドとすれ違った。
たとえ、ロイドが災いの子と呼ばれていても、高貴な存在とは変わりなくて。メイドたちは深々と礼をしてゆく……。
「おはようございます、ロイド様。」
「ああ、おはよ」
このように挨拶を交わすのはいいのだが、何人かのメイドが集まってヒソヒソと話をするのはやめてもらいたい、と皇子は思った。
「あら、ロイド様ったら婦女子を背負って…はしたないですわ。あれでは、足が開いて下品になってしまいますのに。」
「そうですわね、お姫様だっこでもして差し上げれば宜しいのよ。」
(できるかーっ!)
内心でツッコミを入れる。ユリアはたぶん真っ赤な顔でいると思う。
背負うよりお姫様だっこの方が緊張する、絶対恥ずかしいとロイドは激しく思った。
理性が吹き飛んでいればできたかもしれないが…今の状態では無理に決まってる。
そんなことを考えながら、二人は厨房に着く。
すると、見慣れた男が待ち構えるように立っていて。それが、エアだと理解するのにさほど時間はかからなかった。
因みに、朝食はすでに用意されていた。
オートミールやコンソメスープやチキンなどの御馳走が並んでいた。さすが宮廷といったところか…。
「エア……おはよ」
気まずそうにロイドは挨拶をする。
「あ! 二人共、どこにいたんですかぁー? 捜したんですよ?」
「………ちょっと、な。」
エアに、ユリアといかがわしい行為を昨夜していたなどと言えばどうなるか………
(ぜってぇ遊ばれる!)
と思った直後にユリアの首筋を見て、エアが細く笑った。
簡単に、アレが見つかってしまったのだ。
「虫に刺されてますよ?」
「へ…?」
当然、ユリアは分かるはずもなく…疑問付を浮かべる。
(違う、虫じゃない………………)
ロイドは自分がした行為なので、理解したくもないのに分かってしまった…。
(……………それは俺が付けた"印"だ。)
「激しく付けましたね、皇子?」
「…………」
返す言葉もない。分かってる、最低なんだよ………俺は。
「野蛮ですね、ていうか最低?」
「――――――っ!」
図星を突かれて顔を歪ませた。自分で思うより他人に言われるとすごく心が痛い。落ち込む、すごく。
「?」
ユリアはエアの言っていることがまだ分かっていないようだ。
「皇子、騎士団本部に行きましょうね?」
ニコリと悪魔の笑顔を湛え、最悪な宣告をされる。
「…………本当に行かなきゃダメか?」
「当然です! 団長さんにきちんと挨拶してきて下さいよ!」
エアは情け無用に告げた。そして、ユリアも無垢な笑顔で言ったものだ。
「ロイド様が本部に来ていただけるなんて光栄ですっ! 一緒に行きましょうっ」
この日ほど「はい」という返事をしたくなかったことはない。
知ってる?
アイリス騎士団の団長はものすごく怖くて……強いらしい。
(……俺、生きて帰ってこられるだろうか…)
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