女騎士と皇子

序説

運命に抗え

それは昔のことでありました。
まだ、この世界が平和だった時代……飢えで苦しむ人もいなければ、戦いに巻き込まれて死ぬなんてこともなかった、
そんな時代に生を受けた王家の子が、桜の舞う夜更けに大きな産声とともに周囲の人々を騒がせた。

『 なに？ やっと生まれたのか 』
『 男の子ですって 』
『 それはそれは。王はどうするのかねぇ 』
『 災難なことよ 』

口々に貴族たちは噂する。
それは、やっと生まれた長子に喜んでいるのではなく、この赤ん坊の逃れられない運命に嘆いたからである。

―――長子は必ず、二十三になる年に不幸を起こすなり。決して王家に長子、産むべからず。

無理な話である。
王は嘆き、妃は悲しんだ。

「陛下、御子様の名を」
近衛大将は急かすように促した。

「―――名は」
王は静かに息をはき、少し間をおいて言葉を続けた。

「ロイド=ハルトだ」

赤ん坊の名は、王家の姓――"ローズ"を受け継ぐことはなかった。
そして、時は流れ世界に変化が訪れようとしていた。御子が齢、二十ニになったばかりのころである。