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本編
第三話 あなたの言葉が俺の心を救い上げてくれたのです
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ここはルーナ王国。王国とはいえ、とても田舎で、大自然を利用して野菜などを作り、自給自足をしていた。
その野菜を外国に売ることはなく(自分たちが食べれるだけしか作っていないため)、その為外貨が全く入らず、とても貧乏な国であった。
この王国が生き残っていくためには政略結婚のような策略で政争を戦い抜くしかできなかった。
この国の姫・セシリアは、幼い頃から帝王教育を受けていて、いつか自分は政略結婚で好きでもない人と結婚するのだと、小さいながらも理解していた。
将来は王妃になることを周りに期待され、まだ、7歳だというのに優雅な動作、気配り、語学の才など一生懸命に学んでいた。
そんな頃、孤児であったレグナルドと出会ったのだ。
人が良い王は、よく親を亡くした子供たちを引き取っていた。
だから田舎とはいえ、食料だけは豊富なルーナ王国は将来有望な人材もたくさん集まってきたのだ。
今回も孤児院に入れられる子供なのだろう、とセシリアは、彼と初めて会ったときに思った。
遠くからそっと彼を観察すると、他の子とは違っていて生きる気力を失っていなくて、少し体つきが少年にしてはがっちりしていることが分かった。
セシリアにとって、彼はちょっと近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
そう感じていたのに、彼が護衛としてセシリアの側にくることになり、単純に彼女は嬉しくなってしまった。
父の専属の騎士様ではなく、自分専属の騎士様が来てくれて、彼女は姫という立場を忘れてはしゃいだのだ。
(彼が来たらどうしようかしら!)
まずは遊びたい、と。わくわくする。
だって、近しい人達はみんな大人たちで、子供のセシリアはいつもいつもつまらなかったから。
(そうだ! お人形さんで遊んでもらおうかしら)
子供でも12歳の男の子はあまりお人形遊びをしないのだが、セシリアはこの時は理解していなかった。
(彼は確か私より5才上だったわよね……)
セシリアは最初は怖いと感じていたことを忘れ、彼が来てくれたらどうしようか、ウキウキと考えていた。
(……そうね、まずは彼を私のーー)
彼の呼び名を決めて、彼が待つ広間へと急いだのだった。
「今日からおまえは私のお兄さまね」
はじめまして、と簡単に挨拶を済ましてからセシリアは、すっかり騎士として装いを整えた姫の護衛として来たレグナルドを迎えた。
「お兄さま、ですか……姫様?」
セシリアはレグナルドのことを兄と呼び、仲良くなろうとした。
そんな彼女に、レグナルドは困惑してしまったのだけれど。
「えっと……あまり、初対面で姫様をしかりたくはないのですが」
困惑したまま、彼は小さな姫様のために体を屈め、少し強めの口調で言い含めた。
「俺は兄ではありません。ただの護衛です。下の人間なのだと理解して下さい」
「???」
幼いセシリアにとって、彼の言葉は難しかった。
「………お兄さまにはなってくれないの?」
少し悲しくなったセシリアは泣きそうになってしまった。
「お、畏れ多いです、姫様」
レグナルドはまたも困惑した。
「おそれおおい?」
「えーと……もったいないお言葉です、で伝わりますか?」
「じゃあ、なってくれるのね!」
「いや、あのーー」
押しの強い彼女にどんどん流されていく。
「レグナルド、さっそく私の部屋に来てくれる?」
「それは……お許しください」
「あら、どうして?」
「こんなどこの馬の骨とは分からない輩を簡単に自分の領域に入れてはいけませんよ」
「??」
「うーん。伝わりませんか」
「だって、あなたは私を守ってくれるのでしょう?」
それなら、自分の部屋にいれても大丈夫だ、と彼女は言うのだ。
「ーー守ります。あなたを何者からも絶対に」
「じゃあ、大丈夫ね」
「ああ……でも、それとこれとは話が別なのですよ、姫様」
「むぅ……じゃあ、ここでいいからお人形さんで遊びましょ!」
「…………えーと、姫様、俺とお人形で遊ぶんですか?」
「ええ、おまえはこの王子様のお人形ね! 私はとうぜんお姫様のお人形なの」
「………………それで、遊ぶとはどのように?」
おままごとをやるんだと理解しているのだが、小さな女の子とやるとなるといろいろヤバい絵面になりそうな気がする、とレグナルドは思った。
「姫様はステキな王子様に出会うの。しだいに彼らはお互いを好きになるのよ」
嬉しそうに彼女は語る。
「それで……王子とお姫様の二人は最終的にはどうなるんです?」
「? もちろん結婚するわ。そして幸せになるの!」
「そうですか………因みに、王子は何番目の王子様なんですか?」
そこを聞くのはなぜ? とセシリアは疑問に思ったが素直に答えていた。
どうしてか、彼にとってその質問は重要な気がしたからだ。
「うーん、第四王子だと思うわ!」
「………四って。よりによってその数字ですか。不吉な数字ではないですか」
「そうかしら。よんは、『幸せ』のよんなのよ」
四つ葉のクローバーの花言葉に『幸福』というものがある。古い教えでは四つ葉のクローバーを見つけた人には幸運が訪れる、と言われているらしい。
そこから四は不吉なものではない、と姫様は力説した。
「姫様は、優しい方ですね」
「?? どうして、よんは、とても良い数字と言っただけよ」
「……はい、ありがとうございます」
「なんで、おまえが礼を言うのよ」
「なんでもです」
やはり彼の言うことはよく分からないわ、とセシリアはぼやく。
「姫様、もしかしたらいつか意味が分かるかもしれませんが、『四』は俺にとって呪縛の意味があるんです」
「じゅばく……?」
「はい。逃げたいのに逃げられない……俺はきっと臆病な人間なんです」
「よく分からないわ」
「そうですよね、すみません。そうですね、人形遊びの続きをしましょうか」
「……よく分からないけど、レグナルドが悲しむなら私が助けるわ! にげたいのなら私がにがしてあげる! だって、この城のぬけ道は誰よりもくわしいもの」
まかせて! と胸をたたいた。
「姫、様……」
レグナルドは目を見開いて驚いたかと思うと、「ご無礼をお許しください」と言ってセシリアを抱きしめた。
「じゃあ、抜け道を教えていただく代わりに俺は姫様に何を差し上げたら、良いですか?」
なぜか少し鼻声だ。
「ほしいものはないわ。ただ……」
「セシリア様?」
「レグナルド、あなたが私のそばにずっと、ずーっといてほしいわ!」
「………! それだけ、ですか?」
「それだけじゃないわ。そんなにもよ。だって、私がしわしわのおばあさんになるまでなのよ?」
「……俺もしわしわのおじいさんだから大丈夫です」
「そうね。なら、レグナルド、私のそばにいてほしいわ」
「はい。喜んで」
この時は王家のしがらみなんか考えていなくて。
いつかセシリアはここではないどこかに嫁がなければならないのに。
そして、その時レグナルドは姫と一緒についていけるか分からないのだ。
セシリア姫は未来の王妃様。
自由など許されない。
まして、好きになった男性と結婚なんてできはしない。
そう、この先セシリアがレグナルドを好きになったとしても結ばれることはないのだ。
それでも、人形遊びだけは女の子らしく可愛らしい夢を見ていたいのだった。
その野菜を外国に売ることはなく(自分たちが食べれるだけしか作っていないため)、その為外貨が全く入らず、とても貧乏な国であった。
この王国が生き残っていくためには政略結婚のような策略で政争を戦い抜くしかできなかった。
この国の姫・セシリアは、幼い頃から帝王教育を受けていて、いつか自分は政略結婚で好きでもない人と結婚するのだと、小さいながらも理解していた。
将来は王妃になることを周りに期待され、まだ、7歳だというのに優雅な動作、気配り、語学の才など一生懸命に学んでいた。
そんな頃、孤児であったレグナルドと出会ったのだ。
人が良い王は、よく親を亡くした子供たちを引き取っていた。
だから田舎とはいえ、食料だけは豊富なルーナ王国は将来有望な人材もたくさん集まってきたのだ。
今回も孤児院に入れられる子供なのだろう、とセシリアは、彼と初めて会ったときに思った。
遠くからそっと彼を観察すると、他の子とは違っていて生きる気力を失っていなくて、少し体つきが少年にしてはがっちりしていることが分かった。
セシリアにとって、彼はちょっと近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
そう感じていたのに、彼が護衛としてセシリアの側にくることになり、単純に彼女は嬉しくなってしまった。
父の専属の騎士様ではなく、自分専属の騎士様が来てくれて、彼女は姫という立場を忘れてはしゃいだのだ。
(彼が来たらどうしようかしら!)
まずは遊びたい、と。わくわくする。
だって、近しい人達はみんな大人たちで、子供のセシリアはいつもいつもつまらなかったから。
(そうだ! お人形さんで遊んでもらおうかしら)
子供でも12歳の男の子はあまりお人形遊びをしないのだが、セシリアはこの時は理解していなかった。
(彼は確か私より5才上だったわよね……)
セシリアは最初は怖いと感じていたことを忘れ、彼が来てくれたらどうしようか、ウキウキと考えていた。
(……そうね、まずは彼を私のーー)
彼の呼び名を決めて、彼が待つ広間へと急いだのだった。
「今日からおまえは私のお兄さまね」
はじめまして、と簡単に挨拶を済ましてからセシリアは、すっかり騎士として装いを整えた姫の護衛として来たレグナルドを迎えた。
「お兄さま、ですか……姫様?」
セシリアはレグナルドのことを兄と呼び、仲良くなろうとした。
そんな彼女に、レグナルドは困惑してしまったのだけれど。
「えっと……あまり、初対面で姫様をしかりたくはないのですが」
困惑したまま、彼は小さな姫様のために体を屈め、少し強めの口調で言い含めた。
「俺は兄ではありません。ただの護衛です。下の人間なのだと理解して下さい」
「???」
幼いセシリアにとって、彼の言葉は難しかった。
「………お兄さまにはなってくれないの?」
少し悲しくなったセシリアは泣きそうになってしまった。
「お、畏れ多いです、姫様」
レグナルドはまたも困惑した。
「おそれおおい?」
「えーと……もったいないお言葉です、で伝わりますか?」
「じゃあ、なってくれるのね!」
「いや、あのーー」
押しの強い彼女にどんどん流されていく。
「レグナルド、さっそく私の部屋に来てくれる?」
「それは……お許しください」
「あら、どうして?」
「こんなどこの馬の骨とは分からない輩を簡単に自分の領域に入れてはいけませんよ」
「??」
「うーん。伝わりませんか」
「だって、あなたは私を守ってくれるのでしょう?」
それなら、自分の部屋にいれても大丈夫だ、と彼女は言うのだ。
「ーー守ります。あなたを何者からも絶対に」
「じゃあ、大丈夫ね」
「ああ……でも、それとこれとは話が別なのですよ、姫様」
「むぅ……じゃあ、ここでいいからお人形さんで遊びましょ!」
「…………えーと、姫様、俺とお人形で遊ぶんですか?」
「ええ、おまえはこの王子様のお人形ね! 私はとうぜんお姫様のお人形なの」
「………………それで、遊ぶとはどのように?」
おままごとをやるんだと理解しているのだが、小さな女の子とやるとなるといろいろヤバい絵面になりそうな気がする、とレグナルドは思った。
「姫様はステキな王子様に出会うの。しだいに彼らはお互いを好きになるのよ」
嬉しそうに彼女は語る。
「それで……王子とお姫様の二人は最終的にはどうなるんです?」
「? もちろん結婚するわ。そして幸せになるの!」
「そうですか………因みに、王子は何番目の王子様なんですか?」
そこを聞くのはなぜ? とセシリアは疑問に思ったが素直に答えていた。
どうしてか、彼にとってその質問は重要な気がしたからだ。
「うーん、第四王子だと思うわ!」
「………四って。よりによってその数字ですか。不吉な数字ではないですか」
「そうかしら。よんは、『幸せ』のよんなのよ」
四つ葉のクローバーの花言葉に『幸福』というものがある。古い教えでは四つ葉のクローバーを見つけた人には幸運が訪れる、と言われているらしい。
そこから四は不吉なものではない、と姫様は力説した。
「姫様は、優しい方ですね」
「?? どうして、よんは、とても良い数字と言っただけよ」
「……はい、ありがとうございます」
「なんで、おまえが礼を言うのよ」
「なんでもです」
やはり彼の言うことはよく分からないわ、とセシリアはぼやく。
「姫様、もしかしたらいつか意味が分かるかもしれませんが、『四』は俺にとって呪縛の意味があるんです」
「じゅばく……?」
「はい。逃げたいのに逃げられない……俺はきっと臆病な人間なんです」
「よく分からないわ」
「そうですよね、すみません。そうですね、人形遊びの続きをしましょうか」
「……よく分からないけど、レグナルドが悲しむなら私が助けるわ! にげたいのなら私がにがしてあげる! だって、この城のぬけ道は誰よりもくわしいもの」
まかせて! と胸をたたいた。
「姫、様……」
レグナルドは目を見開いて驚いたかと思うと、「ご無礼をお許しください」と言ってセシリアを抱きしめた。
「じゃあ、抜け道を教えていただく代わりに俺は姫様に何を差し上げたら、良いですか?」
なぜか少し鼻声だ。
「ほしいものはないわ。ただ……」
「セシリア様?」
「レグナルド、あなたが私のそばにずっと、ずーっといてほしいわ!」
「………! それだけ、ですか?」
「それだけじゃないわ。そんなにもよ。だって、私がしわしわのおばあさんになるまでなのよ?」
「……俺もしわしわのおじいさんだから大丈夫です」
「そうね。なら、レグナルド、私のそばにいてほしいわ」
「はい。喜んで」
この時は王家のしがらみなんか考えていなくて。
いつかセシリアはここではないどこかに嫁がなければならないのに。
そして、その時レグナルドは姫と一緒についていけるか分からないのだ。
セシリア姫は未来の王妃様。
自由など許されない。
まして、好きになった男性と結婚なんてできはしない。
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