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本編
06話
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共に愛することは難しい。僕らはすれ違いの日々を送る。
――これは、嫉妬か単なるヤキモチか?
「あいつ、誰だ?」
「アイツって?」
「…榎戸といつもいる、男子」
「あ、平内くん?」
「そうだ、あいつは何なんだ? 榎戸の何なんだよっ」
「直接、聞けばいいでしょ!」
「…最近、榎戸がここに来ないから…聞く機会がない」
「待ってるだけじゃダメだよ。会いに行けば?」
「…何ものにも囚われない雨森がうらやましいよ」
「どういう意味?」
「俺らは先生と生徒だ。愛なんて許されない…」
「キミはドコゾの悲劇のヒロインですか?」
「――は?」
「感傷にひたるなら、余所でやって。ほら、出ていく!」
「――ま、待て。ココは俺の部屋だ…」
バタン。
無情にも、雨森と柳瀬の間に重い扉が隔たった。
「柳瀬が榎戸さんに会わなきゃココを開けないからね」
「………分かったよ…会いにいってくる」
「うん! いってらっしゃい」
***
公立の学校なのに、広くて綺麗な廊下を柳瀬は小走りでいく。今日は試験のためか、廊下を歩く生徒は少ない。
「あ、柳瀬先生! こんにちはっ」
一人の生徒が声をかけてきた。
「飯塚か…こんにちは」
「あれ? 何で私の名前を…?」
公立とはいえ、全生徒の人数となると相当の数になる。まして、担任を持っていない生徒の名をすぐに言えるわけがない。
それを飯塚 陽菜は疑問に思ったのだろう。
「雨森の影響だ…」
「あ、なるほど。」
雨森と飯塚は、義理の兄妹にあたる。なので、不本意だが雨森と仲の良い俺は必然的に飯塚のことを知ったのだ。
「…ところで、榎戸を見なかったか?」
「榎戸センパイですか?」
学年の違う飯塚に聞いても分かるはずないと思うが、聞かないよりは聞く方がいいと思う。
飯塚は、少し首を傾げて呟いた。
「…クールな柳瀬先生に恐れ多くも愛を叫んでいる、あの榎戸センパイですかっ!?」
「どんな噂だ、それは!」
目を輝かしている飯塚に、少したじろいでしまった。
「見ましたよ! 保健室でっ」
「へ」
「確か男子と一緒でしたけど……何かあったんですか、先生と――」
「……ありがと、飯塚。テスト頑張れよ!」
「えぇっ」
走り去るようにして、柳瀬は飯塚の前からいなくなる。
(……何やってんだ、あのバカッ…!)
今日は、確か保健医は出張でいないはずだ。ならば、保健室には榎戸とたぶん平内は二人っきりでいる―――
ドカンッ!!!
扉が壊れてしまうってほど、強く開け放った。
「はあ、はあ……榎戸ッ!」
「…先生、静かに」
平内がにこりと微笑んだ。その笑顔がとてつもなくムカツク。ぐるぐると、どす黒い渦が俺のココロを埋めつくしていく。
感情も、今までにないくらいに高ぶっていて目の前の平内を殴り飛ばしてしまいそうになる。
――落ち着け、自分。
そうやって抑えるしかない。恋愛初心者の俺には、この状況の対処方法が分からない。
「どうしたんだ、榎戸は?」
ふぅと、一息吐いて平内に尋ねた。今、ベットの上で寝ている榎戸の頭を平内は何の違和感もなく撫でた。
「具合悪かったみたいです。今日、ずっと。それなのに、未侑ったら無理してテストなんか受けて――」
バンッ!!!
近くにあった机を思いっきり蹴り飛ばした。柳瀬が珍しく感情的になっている。
「榎戸を名前で呼ぶな」
「どうしてです? 先生は彼女の何なんですか? 付き合っているとでも言うんですか? だったら、彼女の全てが貴方のものだとでも言うのですか?」
「そんなわけ、ないだろっ俺が勝手にコイツを好きなだけだ」
「先生と生徒なのに? だったら、貴方は彼女に好きだと言えるんですか?」
「コイツが望むなら、気が済むだけ『好き』と言ってやる。」
予想外だとでも言うように、平内は目を見開いた。
「…ウワサと全然違いますね…」
平内はその言葉を吐き捨てるように呟いた。
「…平内?」
「―――気をつけた方がいいですよ。貴方が思っているより恋は難しいですから、ね」
忠告と取るべきか、挑発と取るべきか――意味ありげなコトを言って平内は保健室を後にした。
(……何をしたかったんだ、アイツは。)
榎戸を単純に心配しただけなのだろうか…それとも、好意を持っての行動なのだろうか――悩んでしまう。とにかく、用心しておこう。
そう、決心して柳瀬は榎戸の側に駆け寄った。
すると、規則的な寝息が聞こえてきた。
(…具合悪かったと言っていたが…大丈夫そうだな。)
顔色からみて、榎戸は単に疲れているだけのようだ。
――心配させんなよ、未侑……
ベットのヨコにしゃがみ込んで柳瀬は深い溜め息をついた。
「……せ、せんせ? 泣いているの?」
やわらかな声が耳元から聞こえてきた。ふわりと包み込まれるような不思議な感覚に襲われる。
「――誰が泣くかよ。お前を心配してたんだ」
「…えっ。どうしよ、嬉しい…」
「そーかよ」
照れ臭くて、彼女の瞳を直視することができない。
「ところで、何で平内と居たんだ?」
「ん、とね…平内くん、保健委員だから。私が気分悪いって言ったらついてきてくれたの」
無条件に笑顔をふりまく榎戸にイライラとしてしまう。その笑顔が平内にも見せていると思うと、どうしようもない感情が湧き出てくる。
「平内なんかより俺を頼れ。弱くなった榎戸を誰にも見せたくない」
「…え、えぇっ!?」
彼女の胸元に俺は顔を埋めた。怯えるように、甘えるように。柳瀬は彼女を求めた。
「…これは、焼きもちですか?」
「そうかもな」
「えっどうしたの、先生? 変な物でも食べた?」
「……雨森と同じことを言うな」
「だ、だって…何か今日の先生変だよ?」
それは、彼女への想いがさらに強くなっているから。
――ソレは、嫉妬かヤキモチか。
答えは両方だ。
この内なる想いを、いまアナタに打ち明けよう。たとえ、叶わぬ恋でも。
「――榎戸のコトが好きだから、……だから…普段の自分じゃなくなる。もう、どうしようもないくらい好きになってた」
「ほ、本当に!? ホントの本当!?」
「ああ、本当だ」
「――うれしい。私も好きです。世界中の誰よりもっ!」
「……大袈裟だな」
「そんなことないっ」
たとえ、これが一時の恋でも俺には大切なことで。
変わりたい、愛したい―――彼女のもとで。
――これは、嫉妬か単なるヤキモチか?
「あいつ、誰だ?」
「アイツって?」
「…榎戸といつもいる、男子」
「あ、平内くん?」
「そうだ、あいつは何なんだ? 榎戸の何なんだよっ」
「直接、聞けばいいでしょ!」
「…最近、榎戸がここに来ないから…聞く機会がない」
「待ってるだけじゃダメだよ。会いに行けば?」
「…何ものにも囚われない雨森がうらやましいよ」
「どういう意味?」
「俺らは先生と生徒だ。愛なんて許されない…」
「キミはドコゾの悲劇のヒロインですか?」
「――は?」
「感傷にひたるなら、余所でやって。ほら、出ていく!」
「――ま、待て。ココは俺の部屋だ…」
バタン。
無情にも、雨森と柳瀬の間に重い扉が隔たった。
「柳瀬が榎戸さんに会わなきゃココを開けないからね」
「………分かったよ…会いにいってくる」
「うん! いってらっしゃい」
***
公立の学校なのに、広くて綺麗な廊下を柳瀬は小走りでいく。今日は試験のためか、廊下を歩く生徒は少ない。
「あ、柳瀬先生! こんにちはっ」
一人の生徒が声をかけてきた。
「飯塚か…こんにちは」
「あれ? 何で私の名前を…?」
公立とはいえ、全生徒の人数となると相当の数になる。まして、担任を持っていない生徒の名をすぐに言えるわけがない。
それを飯塚 陽菜は疑問に思ったのだろう。
「雨森の影響だ…」
「あ、なるほど。」
雨森と飯塚は、義理の兄妹にあたる。なので、不本意だが雨森と仲の良い俺は必然的に飯塚のことを知ったのだ。
「…ところで、榎戸を見なかったか?」
「榎戸センパイですか?」
学年の違う飯塚に聞いても分かるはずないと思うが、聞かないよりは聞く方がいいと思う。
飯塚は、少し首を傾げて呟いた。
「…クールな柳瀬先生に恐れ多くも愛を叫んでいる、あの榎戸センパイですかっ!?」
「どんな噂だ、それは!」
目を輝かしている飯塚に、少したじろいでしまった。
「見ましたよ! 保健室でっ」
「へ」
「確か男子と一緒でしたけど……何かあったんですか、先生と――」
「……ありがと、飯塚。テスト頑張れよ!」
「えぇっ」
走り去るようにして、柳瀬は飯塚の前からいなくなる。
(……何やってんだ、あのバカッ…!)
今日は、確か保健医は出張でいないはずだ。ならば、保健室には榎戸とたぶん平内は二人っきりでいる―――
ドカンッ!!!
扉が壊れてしまうってほど、強く開け放った。
「はあ、はあ……榎戸ッ!」
「…先生、静かに」
平内がにこりと微笑んだ。その笑顔がとてつもなくムカツク。ぐるぐると、どす黒い渦が俺のココロを埋めつくしていく。
感情も、今までにないくらいに高ぶっていて目の前の平内を殴り飛ばしてしまいそうになる。
――落ち着け、自分。
そうやって抑えるしかない。恋愛初心者の俺には、この状況の対処方法が分からない。
「どうしたんだ、榎戸は?」
ふぅと、一息吐いて平内に尋ねた。今、ベットの上で寝ている榎戸の頭を平内は何の違和感もなく撫でた。
「具合悪かったみたいです。今日、ずっと。それなのに、未侑ったら無理してテストなんか受けて――」
バンッ!!!
近くにあった机を思いっきり蹴り飛ばした。柳瀬が珍しく感情的になっている。
「榎戸を名前で呼ぶな」
「どうしてです? 先生は彼女の何なんですか? 付き合っているとでも言うんですか? だったら、彼女の全てが貴方のものだとでも言うのですか?」
「そんなわけ、ないだろっ俺が勝手にコイツを好きなだけだ」
「先生と生徒なのに? だったら、貴方は彼女に好きだと言えるんですか?」
「コイツが望むなら、気が済むだけ『好き』と言ってやる。」
予想外だとでも言うように、平内は目を見開いた。
「…ウワサと全然違いますね…」
平内はその言葉を吐き捨てるように呟いた。
「…平内?」
「―――気をつけた方がいいですよ。貴方が思っているより恋は難しいですから、ね」
忠告と取るべきか、挑発と取るべきか――意味ありげなコトを言って平内は保健室を後にした。
(……何をしたかったんだ、アイツは。)
榎戸を単純に心配しただけなのだろうか…それとも、好意を持っての行動なのだろうか――悩んでしまう。とにかく、用心しておこう。
そう、決心して柳瀬は榎戸の側に駆け寄った。
すると、規則的な寝息が聞こえてきた。
(…具合悪かったと言っていたが…大丈夫そうだな。)
顔色からみて、榎戸は単に疲れているだけのようだ。
――心配させんなよ、未侑……
ベットのヨコにしゃがみ込んで柳瀬は深い溜め息をついた。
「……せ、せんせ? 泣いているの?」
やわらかな声が耳元から聞こえてきた。ふわりと包み込まれるような不思議な感覚に襲われる。
「――誰が泣くかよ。お前を心配してたんだ」
「…えっ。どうしよ、嬉しい…」
「そーかよ」
照れ臭くて、彼女の瞳を直視することができない。
「ところで、何で平内と居たんだ?」
「ん、とね…平内くん、保健委員だから。私が気分悪いって言ったらついてきてくれたの」
無条件に笑顔をふりまく榎戸にイライラとしてしまう。その笑顔が平内にも見せていると思うと、どうしようもない感情が湧き出てくる。
「平内なんかより俺を頼れ。弱くなった榎戸を誰にも見せたくない」
「…え、えぇっ!?」
彼女の胸元に俺は顔を埋めた。怯えるように、甘えるように。柳瀬は彼女を求めた。
「…これは、焼きもちですか?」
「そうかもな」
「えっどうしたの、先生? 変な物でも食べた?」
「……雨森と同じことを言うな」
「だ、だって…何か今日の先生変だよ?」
それは、彼女への想いがさらに強くなっているから。
――ソレは、嫉妬かヤキモチか。
答えは両方だ。
この内なる想いを、いまアナタに打ち明けよう。たとえ、叶わぬ恋でも。
「――榎戸のコトが好きだから、……だから…普段の自分じゃなくなる。もう、どうしようもないくらい好きになってた」
「ほ、本当に!? ホントの本当!?」
「ああ、本当だ」
「――うれしい。私も好きです。世界中の誰よりもっ!」
「……大袈裟だな」
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たとえ、これが一時の恋でも俺には大切なことで。
変わりたい、愛したい―――彼女のもとで。
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