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かい

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本編

04話

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愛されることだけが僕の願いだった。だから、愛することを知らない。

どうやったら、一人の人間を好きになれる?
どうしたら、いいんだろう。


先生と呼ばれることに違和感を感じていたあの頃。人から慕われることに不安を感じた。

家族から必要とされることなんてなくて。頼られることもなかったから。
逆に頼ることもできなかった。

今も変わらない。いや、変わることができない。

愛すことをいまだにできていないのだから。俺は何ら変わっていないのだ。

悔しい。俺は一生、このままなのか?


「先生…つらいの?」

目が覚めたら、榎戸 未侑えのきど みうの瞳とがちりと目が合った。いつの間にか準備室で寝入ってしまったようだ。

「……別に辛くないが…俺、何か言っていたか?」

昔の、人の感情を欠いた俺を思い出してしまった。辛いか否か、そんなことどうでもいい。あんなの、昔のことだ。

「………え、っと…」

何故だか、榎戸が頬を染めて俯いた。

「どうした?」
「聞かなかったことにしたかったんですけど…」
「何だよ、言えよ」

戸惑うように、それでもはっきりと榎戸はその言葉を音として表した。

「…愛したいって…」

「――は? ソレ、俺が言ったのか?」
「そうだよ。……なんか無理してる?」

急に榎戸が涙を溜めて、俺を見る。いきなり何だよ…てか、俺なんてこと言ってんだっ!?

「…無理して好きにならないで。無理するなら好きにならない方がいい」
「―――…どういう意味だ」

なんでだ。
相手に好きになってもらった方がいいだろ? 無理してでも、相手から愛されたいだろ?

―――愛されることだけが僕の願いだった。だから、愛することを知らない。どうやったら、一人の人間を好きになれる?

こうやって、疑問に思っても無駄だ。俺の中では、答えを見い出すことなんてできないのだから。

「愛されたいだろ、お前も…」
「いいえ。それよりも、相手の幸せを願います。たとえ、それがキレイ事だと笑われても…私には大切なことなんです」

―――まっすぐに、それは眩しかった。
その瞳とぶつかるのが怖くて、俺の心が見透かされてしまうみたいで……
うつむくしかなかった。

「…先生、急にどうしたんですか? 愛なんて口が裂けても言わない人なのに」

「……うるさい。俺だって、愛したいって思うんだよっ」

「おかしぃ~愛なんて自然に想うことなのに。私は、自然に…あるがままに先生を好きになったんですよ?」

「――おま、ソレ……反則だ」
「?」
涙目の瞳で上目遣いで見つめてくる彼女。赤くなった頬。すべてが、その彼女の表情すべてが俺の内なる感情を刺激した。

ぱんっ、と軽快な音をたててその感情は俺のもとへ舞い降りた。
――――――この感情を何と呼べばいい?


「……そろそろ授業が始まるぞ。行かなくていいのか?」
「いいの。今日は特別っ」
「な、んで…」
「今日の先生、情緒不安定だから。私が側にいてなぐさめてあげるっ」

俺は彼女の笑顔によって、心が苦しいくらいに締め付けられた。

「…お前の笑顔…何か苦しい…」
「ほ、本当っ!?」

「なんだ、コレ?」
「それが愛なんだよっ」

これが、愛?
苦しくて、切なくて。けれど、いとおしい―――

そうか、これが愛なんだ。

「――て、お子様なお前に愛なんて感じるかよ」
「いじわるっ」

ぷくーって、頬を膨らます彼女の表情でさえ恋しい。
―――まさしく、これは番狂ばんくるわせだ……

生徒に恋愛感情を抱くなんて。それが、初めての恋なんて…悔しい。

「…だから、お前にはまだ言わない」
「?」

大人気ないなんて思わない。だって、俺は恋愛初心者なんだから。大目にみてくれよな。

「先生、嬉しいの?」
「そうだな。嬉しいよ」

―――これが、俺の愛の始まり。
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