223 / 227
ノアズアーク編
第223話 52日目⑦テナガエビ
しおりを挟む
俺と美岬が翡翠の家族──ジュエリーズに魚を差し入れて巣作りの手伝いを始めると、その様子を見ていたノアがジュエリーズへのサポートの必要性に気づいたらしく、すぐに自分たちも魚を捕って応援に駆けつけてくれた。
おそらくこれまでは巣作りはあくまで家族単位で行うものと決まっていたので、他所の家族の巣作りの手伝いをすることなど考えもしなかったのだと思う。しかし俺たちが手伝い始め、ノアも率先して手伝いに加わってくれたおかげで、残りの連中にも家族の枠を越えた助け合いが箱庭での新たなルールだと理解してもらえたようで、その後、手伝う余裕のある者も応援に加わった。
ヒイロがモエギに付き添い、マツバが年少組のミルとゴマフを見てくれているので、手空きのシノノメとドーラが海に入り、やがて魚を捕ってきてジュエリーズに差し入れ、そのまま巣作りの手伝いに参加してくれた。
やっぱり単純に頭数が増えると作業効率が格段に上がる。そしてこういう作業をやらせると器用な手と道具を使える人間という生き物のスペックはチートだと実感する。
海中での行動に特化したプレシオサウルスのヒレは陸での穴掘りには向いていないのは明白なので、俺と美岬がスコップと鍬で一気に巣の大雑把な形だけ整えてやり、これ以上はさすがにやりすぎだと思ったのでそこまでで俺たちは手伝いから手を引いてあとは見守ることにした。
巣の内部にルビーが入って、中のプールの深さや壁の内側の形など細かいところを自分好みに整えていき、ヒスイとオニキスがそれを直接サポートし、それ以外の連中は巣の外側の壁の補強作業をしたり、それに必要な材料の海藻や石を集めてきたりしていた。
そう、巣作りを手伝うにあたって観察してみて気づいたが、この巣の外壁はただ砂を積み上げて叩いて固めただけではなかった。骨材として大きめの石を使い、さらに細かく噛んで唾液と混ぜてネバネバになった海藻をつなぎとして砂に混ぜ込むことで簡単な漆喰のようにして丈夫で長持ちするようにしてあった。おそらくツバメのように、番で毎回同じ場所に営巣して、古い巣が残っていたら補修して使うスタイルなんだろう。
しかし、石と海藻のつなぎを使ったこの規模の漆喰の巣がそれなりにいい保存状態で残っていて、それがうっかり考古学者に発掘でもされようものなら、古代人類の遺跡と勘違いされて古代人類史が色々と書き換えられることになりそうだな。逆も然りで、プレシオサウルスがこんなに高度な巣作りをしていることが明るみに出たら、古代人類の叡智の結晶と思われていた遺跡が実は人類由来ではなかったかも、とそれまでの定説を覆す結果にもなりかねない。この情報は考古学にとってはパンドラの箱だな。
巣作りの方は目処が立ったようなので、俺と美岬は畑の世話に向かった。水やりと雑草引きをして、今日食べる分を少し収穫する。
インゲン豆の若い実はサヤインゲンとしてそのまま食用になるのでそれを何本か収穫。
畑に植えたハマダイコンはまだ根は成長していないが葉はスーパーで売られているホウレン草ぐらいのサイズまで育っているので、間引きを兼ねて3株ほど引き抜く。
海浜植物ゾーンに植えたアイスプラントもだいぶ成長しているので、柔らかい葉を選んで必要なだけむしっていく。
そんな畑仕事が一段落する頃にはすでに太陽が真上に来ていた。腕時計を確認すると12時を回っている。
「さすがに腹へったな~」
「うん。もうおなかペッコペコで力が出ないよぅ」
さっきから美岬の腹が頻繁にメシの催促の声を上げてるからな。
「今日は午前中しっかり肉体労働したもんな。普段なら昼は軽めに済ますとこだけど、今日は昼をしっかり食べて夜は軽めにしようかと思うんだがそれでいいか?」
「もちろん! それで、今日のお昼はなににするの?」
「うん。昨晩食べる予定で結局食べ損ねたアナゴをいいかげんに食べないとマズイな。で、あのサイズのアナゴになると小骨が気になるから、それを気にせず食べようと思うならやっぱり揚げ物かな」
「A・GE・MO・NO!? あなた今、揚げ物って言いました!? 言いましたよね!? あたしの聞き間違いじゃないよね!?」
すごい食いつきだった。そういえば本土では揚げ物とコンビニの廃棄弁当が主食だったって言ってたな。普通に揚げ物は好きだったってことか。
「落ち着け。しゃべり方まで変わってるぞ」
「だってぇ。油が貴重なこの島では揚げ物なんて食べれないと思ってたし」
「もちろんしょっちゅうは無理だけど、ま、たまにはな。それに今の俺たちの食生活のバランスを考えるともうちょっと脂質を摂った方がいいしな」
「やったぁ! 楽しみすぎる! 揚げ物ってなにするの?」
「そうだな、ハトムギ粉と山芋の衣を使って天ぷらと、いくつかの野菜を使ったかき揚げかな」
「あは。最高じゃん! はいっ! あたしエビ天が食べたいです!」
「エビ天かぁ。うん。それは俺も食べたいな。ならちょっと戻る前に海に寄ってエビ罠をチェックしていくか。もし入っていたらエビ天もするってことで」
「賛成!」
ちなみにこの箱庭の内湾には小さいスジエビから大きなイセエビまで、何種類ものエビが棲息している。その中でも砂浜の東側の葦の群生地、
小川の伏流水と海水が混ざる汽水域には、かなり大きめのおそらく固有種のテナガエビが棲息している。
日本の本土にいるテナガエビは頭から尻尾までの体長が大きくても10㌢程度だが、ここのは20㌢ぐらいあり、長いハサミを含める全長だと30㌢ほどにもなるから1匹でもかなり食べ応えがある。
夜行性なので昼間は葦の根元の隙間や岩陰などの暗い物陰に隠れているが、その習性を利用した簡単な罠を仕掛けてあるからそれをチェックしてみよう。
俺たちが砂浜に戻ると、ジュエリーズの巣もついに完成したようでルビーが中で休んでおり、ヒスイとオニキスもお疲れモードで乾いた砂浜にうつ伏せに寝そべって昼寝していた。さっきまで手伝っていた面々もすでに三々五々に散っている。
ヒスイたちジュエリーズと同様にカラーズの面々もモエギの巣の周囲の乾いた砂浜にうつ伏せに寝そべって背中に太陽の光を浴びて昼寝している。これは亀がよくする甲羅干し的なものだろう。
ゴマフは? と探してみれば、どうやら遊び疲れたようでミルとくっついて一緒に寝ていた。いい姉ができたようで微笑ましい。
「…………オネショタかな」
「おねしょた? なんだそれ?」
「……う。これは失言だから聞かなかったことにして」
「お、おう」
なんにせよ、ようやく一段落して落ち着けたノアズアークの邪魔にならないようにそっと葦の群生地に向かう。塩に強い葦は満潮時は水に沈むような場所でも平気で育つ。
今はだいぶ潮が引いているのでほとんど海水には浸かっていないが、小川の水が地中に潜って伏流水として湧き出してくるあたりなので、そこかしこから綺麗な水が湧き出て海に流れ込んでいる。
この辺りに穴を掘っておくと、干潮時には穴の周りは干上がるが内部には水が溜まった小さいプールになる。そして穴の上に板状摂理によって薄い板状になっている石を蓋のように被せておき、エビが出入りできるぐらいの隙間を開けておけば、夜の満潮時にこの辺りを歩き回っているエビにとっては昼の干潮時に身を潜めるための理想的な隠れ家となる。これだけでもエビは勝手に入ってくるが、ダメ押しで穴の中に魚の骨や頭や内臓などのエビのエサになる生ゴミを入れておけば完璧だ。甲殻類は海の清掃動物だから匂いに釣られて入ってくる。
「よーし、じゃあ開けるぞ」
「わくわく」
石の蓋の縁を掴み、一気に持ち上げる。
──バシャバシャバシャ……
いきなり明るくなったことでパニックを起こしたエビたちが逃げ惑って跳ね回り、中には勢い余って穴から飛び出して干上がった砂の上でビチビチしているものもいる。
「おぉー! けっこう入ってるね!」
エビが暴れたせいで水が一瞬で濁ってしまったが、狙っていた大型のテナガエビを含め、大小10匹ぐらいのエビ、イソガニ、カブトエビなんかが入っているようだ。
「とりあえず、大きめのエビが1人2匹もあれば十分だからそれだけ捕ったらあとは無視でいいな」
「あいあい。おまかせられ」
美岬が軍手をはめた手をプールに突っ込んで大きめのテナガエビを次々に掴み出して砂地の上に転がしていく。最初に飛び出した1匹と合わせて4匹が砂の上でビチビチと跳ね回る。エビの仲間でもザリガニなんかは足がしっかりしているので陸上でも這い回ることができるが、水中特化のテナガエビの足は華奢なので陸上で自分の体重を支えて歩き回ることはできない。横向きになって尻尾をビチビチさせるのが精一杯の抵抗となる。
必要な分のエビは捕れたので簡易罠の石の蓋を戻し、満潮時にまたエビが出入りできるように少し隙間を開けておく。
「ついでだしエビの下処理はここでしておくか」
「生ゴミの処理を考えたらその方が楽だもんね。どこまでする?」
「頭を折って外して、尻尾の真ん中の尖った部分を折ってハラワタを抜いて、尻尾以外の殻を剥くところまでかな」
「あいあい。つまり最後までだね」
すでに何度かしている作業なので詳しい説明はしなくても美岬は心得たもので石の蓋を作業台代わりにしてすぐに作業に取りかかる。
まだ元気なエビの胴体と頭の継ぎ目を背側にサバ折りにして、頭と脚とハサミをまとめて外す。次いで尻尾の真ん中にある尖った部分を指先でパキッと折って引っ張って糞の詰まった腸を引き抜く。
尻尾だけを残し、胴体を回しながら殻をクルリと剥がせばエビの剥き身の完成となる。ここまでしておけばあとは持ち帰って衣を付けて揚げるだけだ。
その場で4匹の処理を終え、出た生ゴミはそのまま次のエサとして簡易罠の中に入れておき、俺たちは集めた食材を手に仮拠点に引き上げたのだった。
【作者コメント】
岳人は高卒と同時にアニメやゲームを卒業したクチなので性癖の趣味趣向が多様化した現在のヲタク界隈の用語には通じていないのです。当然オネショタとかビーエルとか言われてもちんぷんかんぷんです。ヤオイなら理解できます。そういえば作中では触れてなかったかもですが、ゴマフはオスです。
おそらくこれまでは巣作りはあくまで家族単位で行うものと決まっていたので、他所の家族の巣作りの手伝いをすることなど考えもしなかったのだと思う。しかし俺たちが手伝い始め、ノアも率先して手伝いに加わってくれたおかげで、残りの連中にも家族の枠を越えた助け合いが箱庭での新たなルールだと理解してもらえたようで、その後、手伝う余裕のある者も応援に加わった。
ヒイロがモエギに付き添い、マツバが年少組のミルとゴマフを見てくれているので、手空きのシノノメとドーラが海に入り、やがて魚を捕ってきてジュエリーズに差し入れ、そのまま巣作りの手伝いに参加してくれた。
やっぱり単純に頭数が増えると作業効率が格段に上がる。そしてこういう作業をやらせると器用な手と道具を使える人間という生き物のスペックはチートだと実感する。
海中での行動に特化したプレシオサウルスのヒレは陸での穴掘りには向いていないのは明白なので、俺と美岬がスコップと鍬で一気に巣の大雑把な形だけ整えてやり、これ以上はさすがにやりすぎだと思ったのでそこまでで俺たちは手伝いから手を引いてあとは見守ることにした。
巣の内部にルビーが入って、中のプールの深さや壁の内側の形など細かいところを自分好みに整えていき、ヒスイとオニキスがそれを直接サポートし、それ以外の連中は巣の外側の壁の補強作業をしたり、それに必要な材料の海藻や石を集めてきたりしていた。
そう、巣作りを手伝うにあたって観察してみて気づいたが、この巣の外壁はただ砂を積み上げて叩いて固めただけではなかった。骨材として大きめの石を使い、さらに細かく噛んで唾液と混ぜてネバネバになった海藻をつなぎとして砂に混ぜ込むことで簡単な漆喰のようにして丈夫で長持ちするようにしてあった。おそらくツバメのように、番で毎回同じ場所に営巣して、古い巣が残っていたら補修して使うスタイルなんだろう。
しかし、石と海藻のつなぎを使ったこの規模の漆喰の巣がそれなりにいい保存状態で残っていて、それがうっかり考古学者に発掘でもされようものなら、古代人類の遺跡と勘違いされて古代人類史が色々と書き換えられることになりそうだな。逆も然りで、プレシオサウルスがこんなに高度な巣作りをしていることが明るみに出たら、古代人類の叡智の結晶と思われていた遺跡が実は人類由来ではなかったかも、とそれまでの定説を覆す結果にもなりかねない。この情報は考古学にとってはパンドラの箱だな。
巣作りの方は目処が立ったようなので、俺と美岬は畑の世話に向かった。水やりと雑草引きをして、今日食べる分を少し収穫する。
インゲン豆の若い実はサヤインゲンとしてそのまま食用になるのでそれを何本か収穫。
畑に植えたハマダイコンはまだ根は成長していないが葉はスーパーで売られているホウレン草ぐらいのサイズまで育っているので、間引きを兼ねて3株ほど引き抜く。
海浜植物ゾーンに植えたアイスプラントもだいぶ成長しているので、柔らかい葉を選んで必要なだけむしっていく。
そんな畑仕事が一段落する頃にはすでに太陽が真上に来ていた。腕時計を確認すると12時を回っている。
「さすがに腹へったな~」
「うん。もうおなかペッコペコで力が出ないよぅ」
さっきから美岬の腹が頻繁にメシの催促の声を上げてるからな。
「今日は午前中しっかり肉体労働したもんな。普段なら昼は軽めに済ますとこだけど、今日は昼をしっかり食べて夜は軽めにしようかと思うんだがそれでいいか?」
「もちろん! それで、今日のお昼はなににするの?」
「うん。昨晩食べる予定で結局食べ損ねたアナゴをいいかげんに食べないとマズイな。で、あのサイズのアナゴになると小骨が気になるから、それを気にせず食べようと思うならやっぱり揚げ物かな」
「A・GE・MO・NO!? あなた今、揚げ物って言いました!? 言いましたよね!? あたしの聞き間違いじゃないよね!?」
すごい食いつきだった。そういえば本土では揚げ物とコンビニの廃棄弁当が主食だったって言ってたな。普通に揚げ物は好きだったってことか。
「落ち着け。しゃべり方まで変わってるぞ」
「だってぇ。油が貴重なこの島では揚げ物なんて食べれないと思ってたし」
「もちろんしょっちゅうは無理だけど、ま、たまにはな。それに今の俺たちの食生活のバランスを考えるともうちょっと脂質を摂った方がいいしな」
「やったぁ! 楽しみすぎる! 揚げ物ってなにするの?」
「そうだな、ハトムギ粉と山芋の衣を使って天ぷらと、いくつかの野菜を使ったかき揚げかな」
「あは。最高じゃん! はいっ! あたしエビ天が食べたいです!」
「エビ天かぁ。うん。それは俺も食べたいな。ならちょっと戻る前に海に寄ってエビ罠をチェックしていくか。もし入っていたらエビ天もするってことで」
「賛成!」
ちなみにこの箱庭の内湾には小さいスジエビから大きなイセエビまで、何種類ものエビが棲息している。その中でも砂浜の東側の葦の群生地、
小川の伏流水と海水が混ざる汽水域には、かなり大きめのおそらく固有種のテナガエビが棲息している。
日本の本土にいるテナガエビは頭から尻尾までの体長が大きくても10㌢程度だが、ここのは20㌢ぐらいあり、長いハサミを含める全長だと30㌢ほどにもなるから1匹でもかなり食べ応えがある。
夜行性なので昼間は葦の根元の隙間や岩陰などの暗い物陰に隠れているが、その習性を利用した簡単な罠を仕掛けてあるからそれをチェックしてみよう。
俺たちが砂浜に戻ると、ジュエリーズの巣もついに完成したようでルビーが中で休んでおり、ヒスイとオニキスもお疲れモードで乾いた砂浜にうつ伏せに寝そべって昼寝していた。さっきまで手伝っていた面々もすでに三々五々に散っている。
ヒスイたちジュエリーズと同様にカラーズの面々もモエギの巣の周囲の乾いた砂浜にうつ伏せに寝そべって背中に太陽の光を浴びて昼寝している。これは亀がよくする甲羅干し的なものだろう。
ゴマフは? と探してみれば、どうやら遊び疲れたようでミルとくっついて一緒に寝ていた。いい姉ができたようで微笑ましい。
「…………オネショタかな」
「おねしょた? なんだそれ?」
「……う。これは失言だから聞かなかったことにして」
「お、おう」
なんにせよ、ようやく一段落して落ち着けたノアズアークの邪魔にならないようにそっと葦の群生地に向かう。塩に強い葦は満潮時は水に沈むような場所でも平気で育つ。
今はだいぶ潮が引いているのでほとんど海水には浸かっていないが、小川の水が地中に潜って伏流水として湧き出してくるあたりなので、そこかしこから綺麗な水が湧き出て海に流れ込んでいる。
この辺りに穴を掘っておくと、干潮時には穴の周りは干上がるが内部には水が溜まった小さいプールになる。そして穴の上に板状摂理によって薄い板状になっている石を蓋のように被せておき、エビが出入りできるぐらいの隙間を開けておけば、夜の満潮時にこの辺りを歩き回っているエビにとっては昼の干潮時に身を潜めるための理想的な隠れ家となる。これだけでもエビは勝手に入ってくるが、ダメ押しで穴の中に魚の骨や頭や内臓などのエビのエサになる生ゴミを入れておけば完璧だ。甲殻類は海の清掃動物だから匂いに釣られて入ってくる。
「よーし、じゃあ開けるぞ」
「わくわく」
石の蓋の縁を掴み、一気に持ち上げる。
──バシャバシャバシャ……
いきなり明るくなったことでパニックを起こしたエビたちが逃げ惑って跳ね回り、中には勢い余って穴から飛び出して干上がった砂の上でビチビチしているものもいる。
「おぉー! けっこう入ってるね!」
エビが暴れたせいで水が一瞬で濁ってしまったが、狙っていた大型のテナガエビを含め、大小10匹ぐらいのエビ、イソガニ、カブトエビなんかが入っているようだ。
「とりあえず、大きめのエビが1人2匹もあれば十分だからそれだけ捕ったらあとは無視でいいな」
「あいあい。おまかせられ」
美岬が軍手をはめた手をプールに突っ込んで大きめのテナガエビを次々に掴み出して砂地の上に転がしていく。最初に飛び出した1匹と合わせて4匹が砂の上でビチビチと跳ね回る。エビの仲間でもザリガニなんかは足がしっかりしているので陸上でも這い回ることができるが、水中特化のテナガエビの足は華奢なので陸上で自分の体重を支えて歩き回ることはできない。横向きになって尻尾をビチビチさせるのが精一杯の抵抗となる。
必要な分のエビは捕れたので簡易罠の石の蓋を戻し、満潮時にまたエビが出入りできるように少し隙間を開けておく。
「ついでだしエビの下処理はここでしておくか」
「生ゴミの処理を考えたらその方が楽だもんね。どこまでする?」
「頭を折って外して、尻尾の真ん中の尖った部分を折ってハラワタを抜いて、尻尾以外の殻を剥くところまでかな」
「あいあい。つまり最後までだね」
すでに何度かしている作業なので詳しい説明はしなくても美岬は心得たもので石の蓋を作業台代わりにしてすぐに作業に取りかかる。
まだ元気なエビの胴体と頭の継ぎ目を背側にサバ折りにして、頭と脚とハサミをまとめて外す。次いで尻尾の真ん中にある尖った部分を指先でパキッと折って引っ張って糞の詰まった腸を引き抜く。
尻尾だけを残し、胴体を回しながら殻をクルリと剥がせばエビの剥き身の完成となる。ここまでしておけばあとは持ち帰って衣を付けて揚げるだけだ。
その場で4匹の処理を終え、出た生ゴミはそのまま次のエサとして簡易罠の中に入れておき、俺たちは集めた食材を手に仮拠点に引き上げたのだった。
【作者コメント】
岳人は高卒と同時にアニメやゲームを卒業したクチなので性癖の趣味趣向が多様化した現在のヲタク界隈の用語には通じていないのです。当然オネショタとかビーエルとか言われてもちんぷんかんぷんです。ヤオイなら理解できます。そういえば作中では触れてなかったかもですが、ゴマフはオスです。
51
お気に入りに追加
565
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる