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ノアズアーク編
第207話 51日目⑦一つの区切りと名付け
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崖の上に昇った太陽の光が箱庭の底を明るく照らし出し、眩い光の中でゴマフとたぶん父親である桑紫色のオスのプレシオサウルスが楽しそうに戯れている。
ムラサキ君(仮称)は群れの中では、レッド君一家の娘 (たぶん)である3㍍級のメスに次いで2番目に小さい個体だからおそらくまだ若くて成竜になったばかりなんだろうなーと思う。爬虫類って確か死ぬまで大きくなり続けたはず。だけどメスたちに比べると筋肉が発達していて牙も大きく体表も傷だらけで、若くても群れのために戦う戦士なんだろうね。
そんなちょっといかつい見た目のムラサキ君だけど、ゴマフを見る目はどこまでも優しく、大切な宝物を扱うように丁寧にゴマフと触れ合っている。ゴマフも初めて会ったにも関わらずムラサキ君のことをちゃんと父親と認識しているようで、完全に心を許して、あたしたちにするのと同じようにお腹を上にして無防備にコロコロ転がりながら甘えている。
「よかったねぇ。よかったねぇゴマフ……ぐすっ」
嬉しいんだけど一抹の寂しさもあり、なんか気持ちがぐちゃぐちゃになって涙が出てきた。
ゴマフを取り上げたあの日から、母親の代わりとしてガクちゃんと一緒に育ててきたけど、この育て方でいいのか、ゴマフがいつかプレシオサウルスの群れに出会ってもちゃんと仲間として受け入れてもらえるのか、ずっと不安に思っていた。
巣から落ちた鳥の雛は、人間が拾って巣に戻しても親鳥が世話するのを放棄して結局死んでしまう。ゴマフもそんな感じで群れに戻しても仲間として認められずに除け者にされて苛められて死に追いやられてしまうんじゃないかと。
あたし自身も苛められて孤立して辛い思いをしたからこそ、ゴマフがそんなことになったら耐えられないと思っていた。……幸い、それは全部杞憂だった。プレシオサウルスたちはあたしが考えていたよりずっと理知的で仲間想いで愛情深い生き物だった。
「大丈夫か? 美岬」
心配してくれるガクちゃんの手を握り、その顔を見上げて泣き顔のまま精一杯の笑顔を見せる。
「うん。うん。大丈夫。ただ……なんかゴマフがちゃんと受け入れてもらえたのが嬉しくて、ほっとしちゃったのと、ちょっと寂しいのと、なんか……なんていうかうまく言えないけど気持ちがぐちゃぐちゃになって涙が止まらないんだよね」
そう正直な想いを口にしたら、ガクちゃんが空いた方の手であたしの頭を優しく撫でてくれて、そのまま後頭部に滑らせた手でぐっとあたしを自分の方に引き寄せてくれたので、あたしは抗わずにポスッと彼の胸に抱きついた。
あたしを優しく、それでいてしっかりと抱き締めた彼が囁く。
「よく、頑張ったな。美岬は本当に立派に母親の代役を果たしていたよ。ゴマフを愛情深く世話する美岬を見てて、将来、俺たちの間に子供ができても美岬ならきっといい母親になるだろうなって思えたよ」
「ふふ。そうかな? でもガクちゃんだってゴマフの父親代わりをしっかりやってたと思うよ。あたしのフォローもいっぱいしてくれたし。あたしもガクちゃんはいいパパになると思ったよ」
「…………くっ。みさちにパパって呼ばれるのは破壊力すごいな。まだまだ先の将来の話だけど、そうなったら二人で一緒にいい親になれるといいな」
「あは。ゴマフのお陰で、ちょっとだけ、親になるってことがどういうことなのか体験できたのはよかったよね」
「そうだな。思っていたより俺たちの手を離れるのは早かったけど、実の父親とその群れが来たんだから、あとは彼らに任せるのが筋ってもんだろう。これから出産を控えてるメスもいるし、ゴマフにとって遊び仲間も増えるだろうから群れに返すならこのタイミングがベストだろうな」
「だね。群れがここで暮らすならお別れってことでもないしね。……ゴマフ!」
「キュイ?」
ガクちゃんのハグをほどいて波打ち際にしゃがみ、ゴマフに手を伸ばして呼び掛けると、ゴマフはいつものように嬉しそうに寄ってきてあたしに抱きつき、首を伸ばしてあたしの顔に頬擦りしてきた。
あたしはそんな可愛いゴマフを軽く抱きしめ、優しく頭を撫でてから身を離し、くるりと方向転換させ、ムラサキ君の方に向かせ、そっとお尻を押した。
「これからは本物のパパと一緒に、プレシオサウルスとしての生き方を学ぶんだよ? あたしたちはこれからも見守ってるからね」
「キュウ……」
あたしの言葉が理解できたわけではないと思うけど、意図は察したようで、何度も振り返りながらもゴマフはあたしから離れ、ムラサキ君の元に向かう。あたしがゴマフを呼んだ時、ちょっと不安そうにしていたムラサキ君はホッとしたようにゴマフを迎え、再び戯れ始めた。
膝の砂を払って立ち上がり、顔を上げて見れば、プレシオサウルスたちはそれぞれの小グループに別れて内湾のあちこちに散らばりつつあった。
あたしの肩にそっと手が置かれる。
「……さて、俺たちも、俺たちの日常に戻ろうか」
「そうだね。思わぬアクシデントで色々遅れちゃったから、ここからは巻きでやらないとね」
そして、あたしたちとゴマフの生活は一つの区切りを迎えたのだった。
その後、あたしが朝の日課である畑の世話をしている間に、ガクちゃんは自分の朝の日課は取り止めて一度仮拠点に戻り、ノートとペンを取ってきて、砂浜に書き付けた情報を書き写し、またノアの群れの1頭1頭を見分けられるようにそれぞれの特徴をメモしていた。
「畑仕事終わったよー」
畑の世話を終えたあたしが合流すると、ガクちゃんがそれまで真剣に書き込んでいたノートから顔を上げて真面目な顔をして宣言した。
「来たか。では、ここにプレシオサウルスたちの命名会議を開催するっ!」
「わああぁ! パチパチパチ! ぴゅーぴゅー♪ パフパフ~♪ ドンドーン!」
拍手して指笛を吹いて口でパフパフドンドン言って1人チンドン屋で盛り上げに努めるあたし。それを見たガクちゃんは即座に選挙活動中の政治家みたいな胡散臭い笑顔になって、見えない聴衆に向けて手を振りながら愛想を振り撒く。
「ありがとう皆さん! ありがとーう! 盛大な拍手と鳴り物での応援ありがとーう! 皆さんの期待、しっかりと受け止めました!」
「あひゃひゃひゃ! なにそれー! ウケるー!」
普段からは想像もできないような薄っぺらい笑顔と大袈裟な仕草と嘘臭い言葉のギャップにお腹を抱えて笑い転げる。
「……む。みさちの悪ノリに付き合っただけなのに笑い転げるとは失敬な奴だな。……それはさておき、一気にこれだけご近所さんが増えた以上、なる早で名前を付けないと不便だから、取り急ぎ名前だけは決めようってことになったわけだ。とりあえずみさちにはチーム・ブルーとチーム・レッドの面々の名前を考えてもらったがどんな感じだ?」
ゴマフを群れに返してそれぞれの活動に分かれる前に、名前を付ける相手をあたしとガクちゃんで割り振り、各々の宿題として考えてきた。
あたしはチーム・ブルー3頭とチーム・レッド4頭の合わせて7頭。ガクちゃんはノアの2頭の番たちとぼっちのメス1頭とゴマフの父親の合わせて4頭。
ガクちゃんの方が少ないとはいえ、すでにネームドのノアとゴマフの家族の名前となれば、すでに付いている名前とのバランスなんかも考えなきゃいけないから、一から自由に名前を決めることができるあたしよりかえって面倒かもしれない。
「似たような色や体格の子たちもいるから、ごっちゃにならないようにチームごとにカラーというか統一感は出した方がいいよね。あと、やっぱり色由来の名前が覚えやすいと思うから、とりあえずそんな感じで考えてきたよ」
「それはいい考えだな。では、聞かせてもらおうか」
「あい。まず、群れのサブリーダーにして、ノアの息子だと思われる5㍍級の青緑君は、その色合いが宝石の翡翠に似ているから『ヒスイ』でどうかな? 翡翠は古代世界では王族の色だったから、この群れの次期リーダーと目される彼にはぴったりの名前じゃないかと」
「ヒスイか。分かりやすくていいな」
「ヒスイ君の奥さんたちは、宝石つながりで赤い子が『紅玉』、黒い子が『黒玉髄』で如何でしょ?」
「なるほど。宝石でまとめたか。いいセンスだな。ヒスイ、ルビー、オニキス。とりあえずこの3頭は確定でいいだろうな」
ガクちゃんも気に入ってくれたようでさっそくノートに3頭の名前を書き込んだ。
「次はチーム・レッドを率いる群れのNo.3にして青緑系女子が大好きな5㍍級のレッド君。もうそのままレッド君でもいい気がしたけど、一捻りして『緋色』ってどうかな? ちなみに英雄も掛けてるよ」
「ヒイロか。なるほど。これも分かりやすい良い名だ。ヒスイとヒイロ。サブリーダーたちがどっちも三文字でヒから始まる共通点があるのも覚えやすくて良いと思うぞ」
「ヒイロ一家は和の伝統色つながりでまとめるよ。奥さんたちは色の系統的にもノアの娘だと思うけど、微妙に色が違うから異母姉妹だよね。現在妊娠中のやや暗めの青緑ちゃん、この色は確か萌葱色だったと思うから『モエギ』。相方の少し黄色っぽい青緑ちゃんの色は松葉色だから『マツバ』」
「ほぅ、モエギとマツバ。日本の伝統色でまとめるとはこれもまたハイセンスだな。それにしても、陽が昇る前の薄暗がりだと青緑系はみんな同じような色だと思ったけど、明るい陽射しの下で見るとけっこう違うよな」
「だね。お陰で見分けやすいし、血縁関係もなんとなく見えるからこっちとしてはありがたいよね。ヒイロ一家の一番小さい子はマツバの色をもうちょっと赤寄りにした感じだから、ヒイロとマツバの間に生まれた子でほぼ確実だね。この色は一般的にはカーキ色っていわれるけど日本の伝統色としては海松色だからあの子は『ミル』。響きも女の子らしくていいと思わない?」
「確かに。カーキ色って和名だとミルっていうのか。どういう字だ?」
「海の松で海松だね。海松っていう海藻があってそれがちょうどあんな感じの色だかららしいよ」
「食材のミル貝とも関係あるのかな?」
「そこまではあたしに聞かれても分からないよ。あたしの専門はあくまで植物で、そっちはむしろガクちゃんの専門分野だし」
「それもそうだ」
「ということであたしの宿題は完了。先生の評価は如何でしょうか?」
「文句なしの満点です。やっぱりみさちはセンスいいな」
「わぁーい! 先生、あざーす! さあ、残りの4頭にガクちゃんはどんな素敵な名前を付けたのでしょうか? 命名会議は盛り上がりつつ攻守交代で後半戦に移ります! 乞うご期待!」
「実況風でハードル上げるな。こういうセンスは絶対みさちの方が上なんだから」
ガクちゃんが困ったように頭を掻きながら肩を竦める。でもあたしは知っている。ガクちゃんは知識の幅と深さがすごいから、きっとあたしでは思いもよらないような深い意味のある名前を出してくるんだって。
あたしはワクワクしながらガクちゃんの名付けの発表を待つのだった。
【作者コメント】
本文中に色という字が出すぎてゲシュタルト崩壊。色ってこの字で合ってたっけ? と混乱する作者。
今回決まった名前まとめ。
【チーム・ブルー】
・ヒスイ(青緑の5㍍級のオス)
・ルビー(赤の4㍍級のメス。妊娠中)
・オニキス(黒の4㍍級のメス)
【チーム・レッド】
・ヒイロ(赤の5㍍級のオス)
・モエギ(萌葱色の4㍍級のメス。妊娠中)
・マツバ(松葉色の4㍍級のメス)
・ミル(海松色の3㍍級のメス。マツバの子)
楽しんでいただけましたら応援お願いします。
ムラサキ君(仮称)は群れの中では、レッド君一家の娘 (たぶん)である3㍍級のメスに次いで2番目に小さい個体だからおそらくまだ若くて成竜になったばかりなんだろうなーと思う。爬虫類って確か死ぬまで大きくなり続けたはず。だけどメスたちに比べると筋肉が発達していて牙も大きく体表も傷だらけで、若くても群れのために戦う戦士なんだろうね。
そんなちょっといかつい見た目のムラサキ君だけど、ゴマフを見る目はどこまでも優しく、大切な宝物を扱うように丁寧にゴマフと触れ合っている。ゴマフも初めて会ったにも関わらずムラサキ君のことをちゃんと父親と認識しているようで、完全に心を許して、あたしたちにするのと同じようにお腹を上にして無防備にコロコロ転がりながら甘えている。
「よかったねぇ。よかったねぇゴマフ……ぐすっ」
嬉しいんだけど一抹の寂しさもあり、なんか気持ちがぐちゃぐちゃになって涙が出てきた。
ゴマフを取り上げたあの日から、母親の代わりとしてガクちゃんと一緒に育ててきたけど、この育て方でいいのか、ゴマフがいつかプレシオサウルスの群れに出会ってもちゃんと仲間として受け入れてもらえるのか、ずっと不安に思っていた。
巣から落ちた鳥の雛は、人間が拾って巣に戻しても親鳥が世話するのを放棄して結局死んでしまう。ゴマフもそんな感じで群れに戻しても仲間として認められずに除け者にされて苛められて死に追いやられてしまうんじゃないかと。
あたし自身も苛められて孤立して辛い思いをしたからこそ、ゴマフがそんなことになったら耐えられないと思っていた。……幸い、それは全部杞憂だった。プレシオサウルスたちはあたしが考えていたよりずっと理知的で仲間想いで愛情深い生き物だった。
「大丈夫か? 美岬」
心配してくれるガクちゃんの手を握り、その顔を見上げて泣き顔のまま精一杯の笑顔を見せる。
「うん。うん。大丈夫。ただ……なんかゴマフがちゃんと受け入れてもらえたのが嬉しくて、ほっとしちゃったのと、ちょっと寂しいのと、なんか……なんていうかうまく言えないけど気持ちがぐちゃぐちゃになって涙が止まらないんだよね」
そう正直な想いを口にしたら、ガクちゃんが空いた方の手であたしの頭を優しく撫でてくれて、そのまま後頭部に滑らせた手でぐっとあたしを自分の方に引き寄せてくれたので、あたしは抗わずにポスッと彼の胸に抱きついた。
あたしを優しく、それでいてしっかりと抱き締めた彼が囁く。
「よく、頑張ったな。美岬は本当に立派に母親の代役を果たしていたよ。ゴマフを愛情深く世話する美岬を見てて、将来、俺たちの間に子供ができても美岬ならきっといい母親になるだろうなって思えたよ」
「ふふ。そうかな? でもガクちゃんだってゴマフの父親代わりをしっかりやってたと思うよ。あたしのフォローもいっぱいしてくれたし。あたしもガクちゃんはいいパパになると思ったよ」
「…………くっ。みさちにパパって呼ばれるのは破壊力すごいな。まだまだ先の将来の話だけど、そうなったら二人で一緒にいい親になれるといいな」
「あは。ゴマフのお陰で、ちょっとだけ、親になるってことがどういうことなのか体験できたのはよかったよね」
「そうだな。思っていたより俺たちの手を離れるのは早かったけど、実の父親とその群れが来たんだから、あとは彼らに任せるのが筋ってもんだろう。これから出産を控えてるメスもいるし、ゴマフにとって遊び仲間も増えるだろうから群れに返すならこのタイミングがベストだろうな」
「だね。群れがここで暮らすならお別れってことでもないしね。……ゴマフ!」
「キュイ?」
ガクちゃんのハグをほどいて波打ち際にしゃがみ、ゴマフに手を伸ばして呼び掛けると、ゴマフはいつものように嬉しそうに寄ってきてあたしに抱きつき、首を伸ばしてあたしの顔に頬擦りしてきた。
あたしはそんな可愛いゴマフを軽く抱きしめ、優しく頭を撫でてから身を離し、くるりと方向転換させ、ムラサキ君の方に向かせ、そっとお尻を押した。
「これからは本物のパパと一緒に、プレシオサウルスとしての生き方を学ぶんだよ? あたしたちはこれからも見守ってるからね」
「キュウ……」
あたしの言葉が理解できたわけではないと思うけど、意図は察したようで、何度も振り返りながらもゴマフはあたしから離れ、ムラサキ君の元に向かう。あたしがゴマフを呼んだ時、ちょっと不安そうにしていたムラサキ君はホッとしたようにゴマフを迎え、再び戯れ始めた。
膝の砂を払って立ち上がり、顔を上げて見れば、プレシオサウルスたちはそれぞれの小グループに別れて内湾のあちこちに散らばりつつあった。
あたしの肩にそっと手が置かれる。
「……さて、俺たちも、俺たちの日常に戻ろうか」
「そうだね。思わぬアクシデントで色々遅れちゃったから、ここからは巻きでやらないとね」
そして、あたしたちとゴマフの生活は一つの区切りを迎えたのだった。
その後、あたしが朝の日課である畑の世話をしている間に、ガクちゃんは自分の朝の日課は取り止めて一度仮拠点に戻り、ノートとペンを取ってきて、砂浜に書き付けた情報を書き写し、またノアの群れの1頭1頭を見分けられるようにそれぞれの特徴をメモしていた。
「畑仕事終わったよー」
畑の世話を終えたあたしが合流すると、ガクちゃんがそれまで真剣に書き込んでいたノートから顔を上げて真面目な顔をして宣言した。
「来たか。では、ここにプレシオサウルスたちの命名会議を開催するっ!」
「わああぁ! パチパチパチ! ぴゅーぴゅー♪ パフパフ~♪ ドンドーン!」
拍手して指笛を吹いて口でパフパフドンドン言って1人チンドン屋で盛り上げに努めるあたし。それを見たガクちゃんは即座に選挙活動中の政治家みたいな胡散臭い笑顔になって、見えない聴衆に向けて手を振りながら愛想を振り撒く。
「ありがとう皆さん! ありがとーう! 盛大な拍手と鳴り物での応援ありがとーう! 皆さんの期待、しっかりと受け止めました!」
「あひゃひゃひゃ! なにそれー! ウケるー!」
普段からは想像もできないような薄っぺらい笑顔と大袈裟な仕草と嘘臭い言葉のギャップにお腹を抱えて笑い転げる。
「……む。みさちの悪ノリに付き合っただけなのに笑い転げるとは失敬な奴だな。……それはさておき、一気にこれだけご近所さんが増えた以上、なる早で名前を付けないと不便だから、取り急ぎ名前だけは決めようってことになったわけだ。とりあえずみさちにはチーム・ブルーとチーム・レッドの面々の名前を考えてもらったがどんな感じだ?」
ゴマフを群れに返してそれぞれの活動に分かれる前に、名前を付ける相手をあたしとガクちゃんで割り振り、各々の宿題として考えてきた。
あたしはチーム・ブルー3頭とチーム・レッド4頭の合わせて7頭。ガクちゃんはノアの2頭の番たちとぼっちのメス1頭とゴマフの父親の合わせて4頭。
ガクちゃんの方が少ないとはいえ、すでにネームドのノアとゴマフの家族の名前となれば、すでに付いている名前とのバランスなんかも考えなきゃいけないから、一から自由に名前を決めることができるあたしよりかえって面倒かもしれない。
「似たような色や体格の子たちもいるから、ごっちゃにならないようにチームごとにカラーというか統一感は出した方がいいよね。あと、やっぱり色由来の名前が覚えやすいと思うから、とりあえずそんな感じで考えてきたよ」
「それはいい考えだな。では、聞かせてもらおうか」
「あい。まず、群れのサブリーダーにして、ノアの息子だと思われる5㍍級の青緑君は、その色合いが宝石の翡翠に似ているから『ヒスイ』でどうかな? 翡翠は古代世界では王族の色だったから、この群れの次期リーダーと目される彼にはぴったりの名前じゃないかと」
「ヒスイか。分かりやすくていいな」
「ヒスイ君の奥さんたちは、宝石つながりで赤い子が『紅玉』、黒い子が『黒玉髄』で如何でしょ?」
「なるほど。宝石でまとめたか。いいセンスだな。ヒスイ、ルビー、オニキス。とりあえずこの3頭は確定でいいだろうな」
ガクちゃんも気に入ってくれたようでさっそくノートに3頭の名前を書き込んだ。
「次はチーム・レッドを率いる群れのNo.3にして青緑系女子が大好きな5㍍級のレッド君。もうそのままレッド君でもいい気がしたけど、一捻りして『緋色』ってどうかな? ちなみに英雄も掛けてるよ」
「ヒイロか。なるほど。これも分かりやすい良い名だ。ヒスイとヒイロ。サブリーダーたちがどっちも三文字でヒから始まる共通点があるのも覚えやすくて良いと思うぞ」
「ヒイロ一家は和の伝統色つながりでまとめるよ。奥さんたちは色の系統的にもノアの娘だと思うけど、微妙に色が違うから異母姉妹だよね。現在妊娠中のやや暗めの青緑ちゃん、この色は確か萌葱色だったと思うから『モエギ』。相方の少し黄色っぽい青緑ちゃんの色は松葉色だから『マツバ』」
「ほぅ、モエギとマツバ。日本の伝統色でまとめるとはこれもまたハイセンスだな。それにしても、陽が昇る前の薄暗がりだと青緑系はみんな同じような色だと思ったけど、明るい陽射しの下で見るとけっこう違うよな」
「だね。お陰で見分けやすいし、血縁関係もなんとなく見えるからこっちとしてはありがたいよね。ヒイロ一家の一番小さい子はマツバの色をもうちょっと赤寄りにした感じだから、ヒイロとマツバの間に生まれた子でほぼ確実だね。この色は一般的にはカーキ色っていわれるけど日本の伝統色としては海松色だからあの子は『ミル』。響きも女の子らしくていいと思わない?」
「確かに。カーキ色って和名だとミルっていうのか。どういう字だ?」
「海の松で海松だね。海松っていう海藻があってそれがちょうどあんな感じの色だかららしいよ」
「食材のミル貝とも関係あるのかな?」
「そこまではあたしに聞かれても分からないよ。あたしの専門はあくまで植物で、そっちはむしろガクちゃんの専門分野だし」
「それもそうだ」
「ということであたしの宿題は完了。先生の評価は如何でしょうか?」
「文句なしの満点です。やっぱりみさちはセンスいいな」
「わぁーい! 先生、あざーす! さあ、残りの4頭にガクちゃんはどんな素敵な名前を付けたのでしょうか? 命名会議は盛り上がりつつ攻守交代で後半戦に移ります! 乞うご期待!」
「実況風でハードル上げるな。こういうセンスは絶対みさちの方が上なんだから」
ガクちゃんが困ったように頭を掻きながら肩を竦める。でもあたしは知っている。ガクちゃんは知識の幅と深さがすごいから、きっとあたしでは思いもよらないような深い意味のある名前を出してくるんだって。
あたしはワクワクしながらガクちゃんの名付けの発表を待つのだった。
【作者コメント】
本文中に色という字が出すぎてゲシュタルト崩壊。色ってこの字で合ってたっけ? と混乱する作者。
今回決まった名前まとめ。
【チーム・ブルー】
・ヒスイ(青緑の5㍍級のオス)
・ルビー(赤の4㍍級のメス。妊娠中)
・オニキス(黒の4㍍級のメス)
【チーム・レッド】
・ヒイロ(赤の5㍍級のオス)
・モエギ(萌葱色の4㍍級のメス。妊娠中)
・マツバ(松葉色の4㍍級のメス)
・ミル(海松色の3㍍級のメス。マツバの子)
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