206 / 227
ノアズアーク編
第206話 51日目⑥海竜をO・MO・TE・NA・SHI (後編)
しおりを挟む
ボスであるノアとその番が率先して俺から魚を貰って食べたことで吹っ切れたようで、群れの中から次にノアと同じ青緑の5㍍級のオスが、赤の4㍍級と黒の4㍍級のメス2頭を引き連れて近づいてきた。このうち赤の4㍍級がお腹が大きいから妊娠していると思われる。
この5㍍級がおそらく群れのサブリーダーで、色が同じだからノア直系の後継者なんだろう。番が赤と黒なのもノアと同じだが、親子だけあって嫁の好みが同じなのかもしれない。
「美岬、可能な範囲でいいからグループごとの組み合わせを覚えておいてくれないか? たぶん、この食事グループが群れの中での番というか家族だと思うんだ」
「あ~なるほど。そういう感じね。おまかせられ」
美岬がその辺で拾った小枝で砂にグループごとのそれぞれの個体の特徴を書きつけていく。
俺は3匹の魚を〆て青緑、赤、黒にそれぞれ1匹ずつ渡した。
「とりあえず仮でこのグループはチーム・ブルーってことにしとくね。ノアのグループはそのままチーム・ノアで」
「了解。いずれ必要になるだろうから名前の候補も考えておいてもらえると助かる」
「…………う、一応考えとくけど、数が多いからガクちゃんも考えてよね」
魚を受け取り終わったチーム・ブルーが脇にずれると、次に赤の5㍍級のオスが青緑の4㍍級のメス2頭と群れで一番小さい青緑の3㍍級のメス1頭を引き連れて近づいてきた。この赤の5㍍級が群れのNo.3なんだろうな。そして4㍍級の2頭が番で、3㍍級はまだ若そうだから子供の可能性もあるな。ちなみに4㍍級のうちの1頭がお腹が大きい。
「こいつらはさしずめチーム・レッドってところか。リーダー以外みんな青緑だけど」
「あはぁ、さてはリーダーは青緑系女子が好みなんだね」
美岬が冗談っぽく言うが、案外それは正解かもしれない。ここまで組み合わせを見てきて気づいたことがある。
「番は必ず色が違うもの同士だな。もしかすると血が濃くなりすぎないようにあえて同じ色でのカップリングを避けているのかもしれない」
「おー……ということは、赤系とか黒系とか紫系の群れが別にいて、合コンでメンバーをトレードしてるってことかな」
「その可能性はある。で、ノアの群れに婿入りして青緑の嫁さんを2頭、もしかしたら3頭も貰ってるこのレッド君が本当に青緑系女子が好きって可能性は大いにあるな」
「……わぉ、冗談のつもりだったのに、マジすか」
「まだ確定じゃない、あくまで現時点での観察による仮定だけどな」
そんなことを言いながらも魚を4匹〆て、美岬にも手伝ってもらいながらチーム・レッドの面々に手渡していく。群れで一番小さい3㍍級の子が妊娠してない方の4㍍級にやたら甘える仕草を見せているからやっぱり親子っぽいな。近づいてよく見れば色も青緑にやや赤っぽさが混じってるようだし。
群れで一番の大所帯のチーム・レッドにも魚を渡し終え、残るは4㍍級の青緑のメスとそれよりやや小柄な紫のオス2頭となる。消去法でこの2頭も番なのかな、と思いきやどうやら違ったようで青緑のメスが1頭だけで先にやってきて魚を受け取って去り、最後に紫のオスが近づいてきた。
この紫君、なんだかやたらソワソワしている。待たせすぎて腹が減りすぎたのか?
「ずいぶん待たせて悪かったな。お前の分だ」
せめて大きい魚を選んで渡すと、喉を鳴らしながら受け取ってぺろりと丸呑みにしたが、食べ終わっても離れていかず、その目は俺の足の後ろにいるゴマフに注がれている。
紫君が俺の足元に首を伸ばし、ゴマフに呼びかける。
「クオォォン……クルルル……」
「キュッ!?」
紫君の声にゴマフがはっきりとした反応を見せ、俺の後ろから出て紫君の方にひょこひょこと近寄っていく。この反応は初めてだな。もしかして……。
「クルル……クルルル……」
「キュイ! キュイキュイ!」
地面すれすれまで頭を下げた紫君にゴマフが近づき、ゴマフも首を伸ばして、お互いに頭と首を擦り合わせて明らかなスキンシップをしている。その姿を見てはっきりと分かった。
この紫君がゴマフの父親なんだな、と。
その時、ついに崖の上に昇った朝陽の一条の光がさぁっとを谷底に差し込み、楽しそうに戯れる父仔を照らし出した。
跳ねた飛沫が陽光の中で煌めき、鏡のような海面で乱反射した光が崖に映し出されてさながらオーロラのような光の帯となって幻想的に揺らめく。
それはまるで宗教画のような荘厳で尊ささえ感じられるような美しい光景で、俺はこのシーンを忘れないように心の中でシャッターを切った。
◻️◻️◻️ノア視点◻️◻️◻️
紫の若き戦士がついに我が仔──この場所の主である友からはゴマフと呼ばれている──とついに対面し、水辺で戯れている様子を見て、ノアは安堵していた。
海竜たちは群れごとに決まった営巣地で出産と仔育てを行い、仔が回遊に耐えられるぐらいまで育ったら営巣地を離れてエサの豊富な外洋を回遊する生活を送り、出会いの季節になったら他の群れと合流して番を探す。
紫の若き戦士は元々は紫の群れに所属する成体になったばかりのオスで、同じく成体になったばかりのノアの仔であるメスと番になり、戦士の数が少ないノアの群れに移ってきた。ちなみに新たな番となった者たちがどちらの群れに所属するかは、当の番が決める。
紫の若き戦士の加入により、群れの戦士はノアを含めて5頭になったが、当時はもう3頭のメスと成体になる前の若い仔が2頭いたので戦士の数はまだ十分とはいえなかった。
そして、出産と仔育てのために戻ってきた群れの営巣地近くに住み着いた狡猾な敵との戦いで戦士1頭、身重のメス3頭、若い仔2頭が喪われ、失意のうちに営巣地を逃げ出して、せめて残る2頭の身重のメスが安全に仔を産み育てられる場所を探している時に、たまたま聞こえてきたゴマフの声に導かれてこの場所にたどり着くことができた。
あの時、ゴマフの声が聞こえなければ本能が危険を告げるこの場所には近寄ろうとも思わなかったことだろう。
単身偵察に赴いた紫の若き戦士からゴマフの無事と共に暮らす者たち──この地を縄張りとするかつての友の子孫たち──の存在を知らされ、自ら会いに赴いて知った。この地をかつて支配していた危険な敵は今はもうおらず、この場所こそが自分たちが探し求めていた理想的な営巣地であると。
この地の主である新たな友たちは陸に棲む生き物であるので、もしかしたら自分の群れが海側に棲むことを許してくれるのではないかと期待して、潮の流れが再び島の中へ流れ込み始めた時に群れの全員を連れてそこに向かった。
言葉の通じない友に自分たちの願いをどうやって伝えるべきか、夜が明けるまでずっと考えていた。縄張りを奪いに来た敵とは思われたくない。しかし、群れの全員を引き連れて無断で縄張りに入った以上、敵と思われて攻撃されてもおかしくない。
夜が明けて浜に姿を現した友は明らかに警戒していた。それで、害意がないことを示すために単身で陸に上がり、友の前で群れが維持できなくなって他の群れの庇護下に入ることを願う降伏の姿勢を取ったところ、友は自分たちの願いを察して受け入れてくれ、縄張りから我々を追い出そうとせず、それどころか群れの全員に魚を食わせてくれた。移動の途中で全員が空腹だったから非常にありがたかった。しかも、簡単に獲れる群れて泳ぐ銀の小さな魚ではなく、狭い岩陰にすぐに隠れてしまうので滅多に食えない特別な赤や茶色の大きな旨い魚だ。
この場所に棲むことを許され、滅多に食えない特別な魚を与えられたことで、群れの全員が友に対する不信感や警戒心を緩め、完全に信頼したわけではないが、この地を支配する主として畏敬の念を抱くようになった。
営巣地から逃げ出した時、とりわけ身重の2頭のメスは非常に動揺しており、その番である戦士たちも殺気立っていた。
先の戦いで番である戦士と仔を両方とも喪った我が仔であるメスは、すっかり意気消沈して生きる気力も失っており、見張っていないと移動する群れからはぐれてしまいそうだった。
そのメスがはぐれないように側についてくれていた紫の若き戦士も、最愛の番を喪ってひどく落ち込んでいる状態でありながら、無理して戦士としての自分の役目を果たしていた。
たった1日前まで、いつ群れが維持できなくなって散り散りになってもおかしくないほどの危うい状態だった。
しかし今は、身重のメスたちもすっかり安心した様子で、他の仲間たちに支えられながら出産の準備を進めている。
殺気立っていた番の戦士たちもすっかり穏やかになった。
番と仔を喪って生きる気力さえ失っていた我が仔は、友からもらった魚を食べて少しだけ元気を取り戻し、今は姉妹である身重のメスを支えるために寄り添っている。
紫の若き戦士は、最愛の番と共に喪われたと諦めていた我が仔とようやく会えて我を忘れるほどに喜んでいる。
友から魚をもらったあともゴマフのそばを離れず、波打ち際でずっとゴマフと戯れている。しばらく側にいた友とその番も、いつしか父仔から離れて浜辺から居なくなっていた。
ここに来るまでに多くを喪った我々だが、友のお陰で未来に希望を繋ぎ、ここからまたやり直すことができる。
この素晴らしい安息の海に快く迎えてくれて、たくさんの佳いことを我々にしてくれた友には感謝しかない。そんな友に対し、我々はどのように恩義を返せるだろうか。
今の我々は一方的に施してもらうばかりでなにも返せない。友も今は我々の助けなどまったく必要としていないかもしれない。だがいつか、友の末裔が我々の助けを必要としてくれる時がくるかもしれない。その時に力になれるよう、友が我々にしてくれた佳いことをすべて記憶し、群れ全体で共有し、未来へ繋いでいかねばならない。
我が群れが未来永劫に渡り、友の群れの良き隣人、信頼できる味方であり続け、共にずっと栄えていけるように。
【作者コメント】
海竜のおもてなし回の後半でした。なんか1日の終わりのまとめみたいになってますが、まだ朝なんですよねw そんなわけで51日目はもうちょっとだけ続くんぢゃな。
楽しんでいただけましたら引き続き応援お願いします。
この5㍍級がおそらく群れのサブリーダーで、色が同じだからノア直系の後継者なんだろう。番が赤と黒なのもノアと同じだが、親子だけあって嫁の好みが同じなのかもしれない。
「美岬、可能な範囲でいいからグループごとの組み合わせを覚えておいてくれないか? たぶん、この食事グループが群れの中での番というか家族だと思うんだ」
「あ~なるほど。そういう感じね。おまかせられ」
美岬がその辺で拾った小枝で砂にグループごとのそれぞれの個体の特徴を書きつけていく。
俺は3匹の魚を〆て青緑、赤、黒にそれぞれ1匹ずつ渡した。
「とりあえず仮でこのグループはチーム・ブルーってことにしとくね。ノアのグループはそのままチーム・ノアで」
「了解。いずれ必要になるだろうから名前の候補も考えておいてもらえると助かる」
「…………う、一応考えとくけど、数が多いからガクちゃんも考えてよね」
魚を受け取り終わったチーム・ブルーが脇にずれると、次に赤の5㍍級のオスが青緑の4㍍級のメス2頭と群れで一番小さい青緑の3㍍級のメス1頭を引き連れて近づいてきた。この赤の5㍍級が群れのNo.3なんだろうな。そして4㍍級の2頭が番で、3㍍級はまだ若そうだから子供の可能性もあるな。ちなみに4㍍級のうちの1頭がお腹が大きい。
「こいつらはさしずめチーム・レッドってところか。リーダー以外みんな青緑だけど」
「あはぁ、さてはリーダーは青緑系女子が好みなんだね」
美岬が冗談っぽく言うが、案外それは正解かもしれない。ここまで組み合わせを見てきて気づいたことがある。
「番は必ず色が違うもの同士だな。もしかすると血が濃くなりすぎないようにあえて同じ色でのカップリングを避けているのかもしれない」
「おー……ということは、赤系とか黒系とか紫系の群れが別にいて、合コンでメンバーをトレードしてるってことかな」
「その可能性はある。で、ノアの群れに婿入りして青緑の嫁さんを2頭、もしかしたら3頭も貰ってるこのレッド君が本当に青緑系女子が好きって可能性は大いにあるな」
「……わぉ、冗談のつもりだったのに、マジすか」
「まだ確定じゃない、あくまで現時点での観察による仮定だけどな」
そんなことを言いながらも魚を4匹〆て、美岬にも手伝ってもらいながらチーム・レッドの面々に手渡していく。群れで一番小さい3㍍級の子が妊娠してない方の4㍍級にやたら甘える仕草を見せているからやっぱり親子っぽいな。近づいてよく見れば色も青緑にやや赤っぽさが混じってるようだし。
群れで一番の大所帯のチーム・レッドにも魚を渡し終え、残るは4㍍級の青緑のメスとそれよりやや小柄な紫のオス2頭となる。消去法でこの2頭も番なのかな、と思いきやどうやら違ったようで青緑のメスが1頭だけで先にやってきて魚を受け取って去り、最後に紫のオスが近づいてきた。
この紫君、なんだかやたらソワソワしている。待たせすぎて腹が減りすぎたのか?
「ずいぶん待たせて悪かったな。お前の分だ」
せめて大きい魚を選んで渡すと、喉を鳴らしながら受け取ってぺろりと丸呑みにしたが、食べ終わっても離れていかず、その目は俺の足の後ろにいるゴマフに注がれている。
紫君が俺の足元に首を伸ばし、ゴマフに呼びかける。
「クオォォン……クルルル……」
「キュッ!?」
紫君の声にゴマフがはっきりとした反応を見せ、俺の後ろから出て紫君の方にひょこひょこと近寄っていく。この反応は初めてだな。もしかして……。
「クルル……クルルル……」
「キュイ! キュイキュイ!」
地面すれすれまで頭を下げた紫君にゴマフが近づき、ゴマフも首を伸ばして、お互いに頭と首を擦り合わせて明らかなスキンシップをしている。その姿を見てはっきりと分かった。
この紫君がゴマフの父親なんだな、と。
その時、ついに崖の上に昇った朝陽の一条の光がさぁっとを谷底に差し込み、楽しそうに戯れる父仔を照らし出した。
跳ねた飛沫が陽光の中で煌めき、鏡のような海面で乱反射した光が崖に映し出されてさながらオーロラのような光の帯となって幻想的に揺らめく。
それはまるで宗教画のような荘厳で尊ささえ感じられるような美しい光景で、俺はこのシーンを忘れないように心の中でシャッターを切った。
◻️◻️◻️ノア視点◻️◻️◻️
紫の若き戦士がついに我が仔──この場所の主である友からはゴマフと呼ばれている──とついに対面し、水辺で戯れている様子を見て、ノアは安堵していた。
海竜たちは群れごとに決まった営巣地で出産と仔育てを行い、仔が回遊に耐えられるぐらいまで育ったら営巣地を離れてエサの豊富な外洋を回遊する生活を送り、出会いの季節になったら他の群れと合流して番を探す。
紫の若き戦士は元々は紫の群れに所属する成体になったばかりのオスで、同じく成体になったばかりのノアの仔であるメスと番になり、戦士の数が少ないノアの群れに移ってきた。ちなみに新たな番となった者たちがどちらの群れに所属するかは、当の番が決める。
紫の若き戦士の加入により、群れの戦士はノアを含めて5頭になったが、当時はもう3頭のメスと成体になる前の若い仔が2頭いたので戦士の数はまだ十分とはいえなかった。
そして、出産と仔育てのために戻ってきた群れの営巣地近くに住み着いた狡猾な敵との戦いで戦士1頭、身重のメス3頭、若い仔2頭が喪われ、失意のうちに営巣地を逃げ出して、せめて残る2頭の身重のメスが安全に仔を産み育てられる場所を探している時に、たまたま聞こえてきたゴマフの声に導かれてこの場所にたどり着くことができた。
あの時、ゴマフの声が聞こえなければ本能が危険を告げるこの場所には近寄ろうとも思わなかったことだろう。
単身偵察に赴いた紫の若き戦士からゴマフの無事と共に暮らす者たち──この地を縄張りとするかつての友の子孫たち──の存在を知らされ、自ら会いに赴いて知った。この地をかつて支配していた危険な敵は今はもうおらず、この場所こそが自分たちが探し求めていた理想的な営巣地であると。
この地の主である新たな友たちは陸に棲む生き物であるので、もしかしたら自分の群れが海側に棲むことを許してくれるのではないかと期待して、潮の流れが再び島の中へ流れ込み始めた時に群れの全員を連れてそこに向かった。
言葉の通じない友に自分たちの願いをどうやって伝えるべきか、夜が明けるまでずっと考えていた。縄張りを奪いに来た敵とは思われたくない。しかし、群れの全員を引き連れて無断で縄張りに入った以上、敵と思われて攻撃されてもおかしくない。
夜が明けて浜に姿を現した友は明らかに警戒していた。それで、害意がないことを示すために単身で陸に上がり、友の前で群れが維持できなくなって他の群れの庇護下に入ることを願う降伏の姿勢を取ったところ、友は自分たちの願いを察して受け入れてくれ、縄張りから我々を追い出そうとせず、それどころか群れの全員に魚を食わせてくれた。移動の途中で全員が空腹だったから非常にありがたかった。しかも、簡単に獲れる群れて泳ぐ銀の小さな魚ではなく、狭い岩陰にすぐに隠れてしまうので滅多に食えない特別な赤や茶色の大きな旨い魚だ。
この場所に棲むことを許され、滅多に食えない特別な魚を与えられたことで、群れの全員が友に対する不信感や警戒心を緩め、完全に信頼したわけではないが、この地を支配する主として畏敬の念を抱くようになった。
営巣地から逃げ出した時、とりわけ身重の2頭のメスは非常に動揺しており、その番である戦士たちも殺気立っていた。
先の戦いで番である戦士と仔を両方とも喪った我が仔であるメスは、すっかり意気消沈して生きる気力も失っており、見張っていないと移動する群れからはぐれてしまいそうだった。
そのメスがはぐれないように側についてくれていた紫の若き戦士も、最愛の番を喪ってひどく落ち込んでいる状態でありながら、無理して戦士としての自分の役目を果たしていた。
たった1日前まで、いつ群れが維持できなくなって散り散りになってもおかしくないほどの危うい状態だった。
しかし今は、身重のメスたちもすっかり安心した様子で、他の仲間たちに支えられながら出産の準備を進めている。
殺気立っていた番の戦士たちもすっかり穏やかになった。
番と仔を喪って生きる気力さえ失っていた我が仔は、友からもらった魚を食べて少しだけ元気を取り戻し、今は姉妹である身重のメスを支えるために寄り添っている。
紫の若き戦士は、最愛の番と共に喪われたと諦めていた我が仔とようやく会えて我を忘れるほどに喜んでいる。
友から魚をもらったあともゴマフのそばを離れず、波打ち際でずっとゴマフと戯れている。しばらく側にいた友とその番も、いつしか父仔から離れて浜辺から居なくなっていた。
ここに来るまでに多くを喪った我々だが、友のお陰で未来に希望を繋ぎ、ここからまたやり直すことができる。
この素晴らしい安息の海に快く迎えてくれて、たくさんの佳いことを我々にしてくれた友には感謝しかない。そんな友に対し、我々はどのように恩義を返せるだろうか。
今の我々は一方的に施してもらうばかりでなにも返せない。友も今は我々の助けなどまったく必要としていないかもしれない。だがいつか、友の末裔が我々の助けを必要としてくれる時がくるかもしれない。その時に力になれるよう、友が我々にしてくれた佳いことをすべて記憶し、群れ全体で共有し、未来へ繋いでいかねばならない。
我が群れが未来永劫に渡り、友の群れの良き隣人、信頼できる味方であり続け、共にずっと栄えていけるように。
【作者コメント】
海竜のおもてなし回の後半でした。なんか1日の終わりのまとめみたいになってますが、まだ朝なんですよねw そんなわけで51日目はもうちょっとだけ続くんぢゃな。
楽しんでいただけましたら引き続き応援お願いします。
53
お気に入りに追加
565
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる