【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
204 / 227
ノアズアーク編

第204話 51日目④ノアの望み

しおりを挟む
 数えたら12頭いるプレシオサウルスの群れのリーダーであるノアが、単身で浜に上陸して坂の上にいるあたしたちの方に這い上がって来るのを見て、ガクちゃんもノアの誠意に応えるために石槍をあたしに預けて一人で坂を下って行ってしまった。正直気が気じゃないけど、ガクちゃんの決定だし、向こうの群れも自分たちのリーダーが1頭だけで自由に動けない陸地に上がり、得体の知れない生き物と接触しようとしている現状をハラハラしながら見守ってるんだと思えば、あたしだけが勝手に動くわけにはいかない。
 ガクちゃんとノアがそれぞれの家族の代表として平和的に関係を構築しようとしているのに、あたしが誤解を与えるような行動をしてピリピリしている向こうの群れと一触即発の引き金を引くわけにはいかない。
 あたしにできるのはガクちゃんのサポート。ガクちゃんが正しい決定ができるように、ガクちゃんが気づいていない危険や情報を見つけて彼に伝えることだ。

 両手を広げて害意が無いことをアピールしながらゆっくりとノアに正面から近づいていくガクちゃんがついにノアの攻撃範囲に入る。その背中から緊張が伝わってくる。ずっと大きなノアが本気で噛みついてきたら大怪我をするに違いないからガクちゃんの緊張は当然だと思うし、それでも近づけるのはすごい勇気だと思う。

 ノアの動向に集中しているガクちゃんに代わり、あたしは群れの方にも意識を向けて怪しげな動きをしないか見張っておく。プレシオサウルスたちは1頭残らずガクちゃんとノアのやり取りに意識を集中しているようであたしの方に向いている視線はない。
 その様子を見て、プレシオサウルスたちにとって、リーダーであるノアがこれからガクちゃん相手に行う交渉はよほど大切なことなんだと気付いた。

 きっとプレシオサウルスたちはあたしたちになにか望むことがあるんだろう。自分たちよりずっと小さくて数も少ないあたしたちに対してリーダーがこんなにも下手に出るほど大切なことが。
 ノアがあたしたちに望んでいることはノアの独断ではなく、きっと群れ全体の望みだ。だとしたら彼らはあたしたちになにを望んでいるんだろう? それに気付くことができればガクちゃんの助けになれるはずだ。

 もしゴマフを群れに返してほしいということなら、断る理由もないしもとよりそのつもりだけど、それはなんか違う気がする。そもそも昨晩、ノアはゴマフに一声かけただけで連れていこうとはしなかったし、あたしたちもゴマフを返したくないという意思表明をノアにしたわけでもない。
 まだ幼い頃のノアが徳助大叔父さんに捕まった時は、成体のプレシオサウルスたちが漁船を取り囲んで子供を返せと圧力をかけたことがノートに記録されていたから、もしノアがゴマフを取り返そうと思っていたなら同じような行動をしたと思う。

 あたしはもう一度群れ全体を見回した。
 こうして見るとけっこう色が違うんだね。ノアと同じ青緑系が一番多くて、ノアを含めて6頭。残りは赤系が3頭、黒系が2頭、紫系が1頭。
 大きさで色が変わるという感じでもない。ノアの次に大きな5㍍級の2頭は青緑系と赤系だし、一番小さな3㍍級は青緑系だ。
 
 それぞれの色の違いを頭に入れながら特徴で見分けられるように1頭ずつチェックしていて気付いた。群れの配置がどうも2頭の4㍍級を群れの内側にかばっているように見える。その2頭だけが妙に動きに落ち着きが無く、浮上状態が安定せずに背中が海面から出たり沈んだりを繰り返しており、周囲の仲間たちが気遣っているようだ。

 あの2頭は体調が悪いの? もしかして怪我してる? ゴマフの母親みたいに襲われた? ……ゴマフの母親?
 そこまで考えたところでピーンと点と点が繋がる感覚があった。

「……まさか」

 体調が悪そうな2頭に特に注目して観察してみて、自分の推測がたぶん正しいと確信を強める。もしそうならノアがガクちゃんに対して下手に出るのも、群れにやけに余裕がなさそうなのも納得だ。

「…………っ!?」

 あたしが群れの方に意識を向けている間に、ガクちゃんとノアの方にも進展があったようで、ガクちゃんが驚いて絶句している。
 慌ててそちらに振り向けば、ノアが信じられないような行動に出ていた。

「……そこまでするんだ。ノア、あなたは本当に群れのみんなが大切なんだね」

 ノアがなにを思ってこんな行動に出たのか分かってしまったあたしはその仲間想いの自己犠牲に胸を打たれてしまった。

 ノアは前肢後肢を大きく広げて地面に臥せ、首も顎までペタリと地面に着けて力を抜き、目まで閉じてしまっていた。人間でいうなら五体投地。いや、無条件降伏ともいえるほどの無防備状態だ。
 ノアによる噛みつき攻撃を警戒しているガクちゃんへの、自分からは絶対に危害を加えないというノアからの誤解の余地のない意思表明。

「………………美岬、俺にはノアがなぜここまでするのかが理解できない。少なくとも、昨晩の魚を分け合った時点では対等な関係だったはずだ。なのになんで今日は群れの皆が見ている前でこんなにへりくだるんだろう? こんなことをしたら群れの長の座を追われることになりかねないのに」

 ノアの行動の理由が理解できずに困惑しているガクちゃんに小声で伝える。

「ノアのそれは群れの総意……というか、ノアはここまですることでこの場所が本当に安全であたしたちが敵じゃないってことを群れのみんなに見せようとしてるんだと思うよ」

「なにか気付いたことがあるのか?」

「うん。群れに妊娠中……たぶん出産間近の雌が2頭いるよ。安心して産める安全な場所を求めてここに来たんだよ」

 それを聞いてガクちゃんがハッと群れの方に目を向け、やがて納得したように小さく頷く。

「…………そういうことか。教えてくれてありがとな。ようやく色々と腑に落ちた。なるほど、それならこのノアの必死さも納得だ。……繁殖と子育ての時期になんらかの理由で営巣地を放棄せざるをえなくなり、群れ全体で移動している途中で俺たちがゴマフを安全に育てているこの場所に辿り着いて、ここを縄張りにしている俺たちに移住の許可を求めてこうしてるってことか」

「うん。たぶんノアたちにはもう後がないから必死なんだよ」

「なるほどな。だがそれでも縄張りを実力行使で奪いに来るんじゃなくて、こういう行動に出るあたり、こいつらはほんとにお人好しというか善良というか……対立するよりできれば共存するというのが基本理念なんだろうな」

 ガクちゃんが肩の力を抜き、いまだに五体投地中のノアの頭のそばに腰を下ろし、手を伸ばして首に触れ、ゴマフにするように顎の下を掻いてやる。

「ノア、お前の望みはたぶん分かった。それはもういいぞ」

「クルルルル……」

 ノアが目を開き、ムクリと地面から首をもたげ、ガクちゃんと目線の高さを合わせて、機嫌良さそうに喉を鳴らす。

「じゃあ、ノアたちにここで暮らすことを許すってことでいいんだね?」

「俺はいいと思うけど美岬はどうだ?」

「もちろん大歓迎だよ。正直、さっきのノアの五体投地には感動しちゃったし、こんなに仲間想いのリーダーが率いる群れとなら仲良くなれると思う」

「決まりだな。あとは……この俺たちの考えをどうやって言葉の通じない群れの他の連中に伝えるかだが……」

「それだったら……昨晩のあれを群れの全員を相手にまたやればいいんじゃない?」

 昨晩のあれ、とはつまり魚を振る舞うことだ。幸いにして釣った魚を活かしておく為の浮き篭には、ゴマフの餌用とあたしたちが食べる分として、群れの全員に1匹ずつ振る舞えるぐらいの根魚はストックされている。

「…………天才かよ。確かにあれなら手っ取り早くてこの上なく分かりやすい信頼の証になるな。先にゴマフとノア相手にデモンストレーションしてみせれば他の連中にもこちらの意図はちゃんと伝わるだろうし。いや、よく思い付いたな」

「うへへへ。誉められちった」

 ガクちゃんが賛成してくれたのでさっそく行動を開始することにした。
 あたしはゴマフを囲いに迎えに行き、ガクちゃんは魚の入った浮き篭を回収しに行く。
 言葉は通じなくても食べ物を分け合うというのは野生動物的には友好の証らしいから、飲みニケーションならぬ食べニケーションで他のプレシオサウルスたちの信頼を勝ち得ることができたら大成功だろう。
 さあ、O・MO・TE・NA・SHIだ。







【作者コメント】
 言葉の通じない相手とどうやって信頼関係を築くか? やっぱり食べ物を分け合うのが一番かな、と。
 楽しんでいただけたら、引き続き応援いただけると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...