【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

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ノアズアーク編

第182話 45日目⑤餅を作る

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 俺たちが何度も通っているうちに踏み固められて自然に出来た林の中の道を、仮拠点に向かって歩きながら腹ペコな嫁のための腹持ちのいい食事をどうするか考える。ついとっさに腹持ちのいいものを準備するなどど口走ってしまったがノープランである。
 この後の予定を考えると手早く作れて満腹感が得られるものが望ましい。

 元々の予定では海鮮をたっぷり使ったスープに葛粉でとろみを付けた中華粥っぽいものを作るつもりだったので、乾物の貝やエビや椎茸などは昨日の夜から水に浸けて戻してある。とりあえずこの戻した乾物は使わないと傷んでしまうのですぐに使わなきゃいけない。
 とはいえ予定通りの中華粥だと腹持ちが悪いからまたすぐに腹が減る。
 腹をグーグー鳴らして恥ずかしがってる美岬は大変に可愛いのだが、本人は嫌がってるのにそれを面白がってるのはよくないよな。

 腹持ちのことを考えると米があるといいんだが無いものはしょうがない。ジュズダマハトムギは殻剥きの手間がかかりすぎて主食には向かないから、最近はもっぱらメインの調味料である塩麹しおこうじの原料としてのみ使っている。
 今の俺たちの主な炭水化物の供給源は、まずスダジイのドングリ、次いで今の時期はヤマイモの蔓に付くムカゴ、葛粉の三種類だ。
 もう少しすれば野生の葛豆や藤豆、畑のインゲン豆、小豆、緑豆といった豆類の収穫期に入るし、晩秋になればサツマイモやヤマイモなどの芋類に加えて念願の米も収穫できるだろうから一気に炭水化物の選択肢も増えるだろうが。

 とりあえず石臼のおかげでドングリの粉はさほど労せずに生産できるようになったので、それを使った縄文クッキーが最近の主食になっているが、今日はそれにもう一手間加えて、食べ応えのある新しい主食メニューを試作してみようか。


 仮拠点に戻り、煎って石臼で挽いて粉にした状態でストックしてあるドングリ粉に葛粉と塩を混ぜてミックス粉を作り、それに熱湯を注いで木ベラでかき混ぜる。
 たちまちのうちに粉に含まれるデンプンが熱でαアルファ化してねっとりとしたペースト状になる。それをしっかり練って粉っぽさがなくなったら、中コッヘルに移し、弱火で火にかけながらさらに練り、全体にしっかりと熱を通し、ねばねば感がなくなってもちもちになるようにする。
 俺が作っているのはもちだ。といっても蒸した餅米をついて作るようなびよーんと伸びるやつではなく、ちまきとか白玉団子に近い食感のやつだ。

 鍋で火入れしながら練り上げて出来上がったドングリ餅のタネを水で濡らした葛の葉で包んで粗熱が取れるまでしばらく休ませておく。
 じゃあこの間に中華スープを作っておくとしよう。

 ビニール袋で水に浸けて戻してある乾物は次の通り。
 干し椎茸、タイラギ貝の貝柱、カサガイ、穴ダコ、そして最近カゴ罠で捕れるようになったエビ。
 これらの旨味が溶け込んだ戻し汁は塩味がないだけで凄まじく濃厚な旨味スープとなっているので、そのままダッチオーブンに入れ、水を足して薄めてからかまどの火に掛ける。

 スープを沸騰するのを待つ間に戻した乾物を食べやすいサイズに切り分けて順々にダッチオーブンに投入していく。
 椎茸は石付きを落として傘を四等分に、カサガイ、穴ダコ、エビは一口大に切り分けてスープで煮ていく。タイラギ貝の貝柱は煮崩れしやすいので最後に入れるために取り分けておく。

 スープが沸騰してきたら丁寧にアクを取り、ハマヒルガオの葉や食べられる海藻を加えて一煮立ちさせてから鍋にタイラギ貝の貝柱を戻す。
 そのまま少し煮てから味見してみる。

「……うお、旨っ!?」

 一度薄めたのに具材から溶け出した旨味の相乗効果でめちゃくちゃ濃厚な海鮮出汁になっている。これ以上旨味を加える必要はないので、味付けはシンプルに塩だけでいいだろう。
 ゴマ油とかタケノコなんかが入ると本格的になるが、それでも椎茸と貝とエビの味が交ざるとそれだけで十分中華っぽい味になる。

 塩で味を調えて、旨い海鮮スープが完成する。それから粗熱が取れて素手でも熱くない程度に冷めた餅のタネから、水で濡らした手で少しずつ千切り取り、手のひらで丸めて一口サイズの団子にしてスープの中にどんどん放り込んでいく。
 ……ふむ。初めて作ってみたけど、実際にやってみるとドングリ餅って案外簡単だし作業内容的にも何も難しくないからありだな。なんとなくイメージでもっと手にへばりついてやりにくいと思ってたが、ぜんぜんそんなことなかった。
 ドングリ餅を入れ終わった海鮮スープに水溶き葛粉を混ぜ、再び火にかけて一煮立ちさせていい感じのとろみがついたタイミングで美岬が戻ってくる。

「ただいまぁ。お腹ペコペコっすよぅ」

「おー、おかえり。メシ出来てるから手を洗ってきな」

「わぁい。めっちゃ美味しそうな匂いしてるから楽しみ~」

 鼻唄混じりに足取りも軽く小川に向かう美岬を見送り、配膳の準備をする。青いプラスチック製の四人掛けのキャンプテーブルの上を片付け、最近作ったばかりの焼き物の丼鉢どんぶりばちに具沢山の海鮮スープをたっぷりとよそって並べ、同じく最近作った大きめの木匙スプーンを添える。この一ヶ月でこういう食器類のアップデートもだいぶ進んだな。

 大コッヘルに残る朝の残りのドングリ茶を揃いのマグカップに注ぎ分けたところに美岬が戻ってくる。

「わぁ! 海鮮たっぷりの具沢山スープっすね! なにか手伝うこと残ってない?」

「いや、これで終わりだから食べよう」

「あざます。せめて片付けはあたしがやるっすからね」

「あいよ」

 そして二人でテーブルに向かい合って座り、手を合わせる。

「「いただきます」」

 美岬がさっそくスプーンでスープをかき混ぜ、ドングリ餅の団子を見つける。

「おろ? なんか団子みたいのが出てきたっすけど、これなにかな?」

「それが腹持ちのよさを考えて作ってみた餅団子だ。とりあえず食べてみ?」

「おおー、餅団子! 何気に初めてのメニューっすよね。じゃあさっそく」

 美岬がスプーンにとろみスープの絡んだ餅団子を掬い上げ、口に運ぶ。

「……はむ。……あつっ! はふはふっ! はふはふっ! でもおいひぃ!」

 想像以上に熱かったようで美岬が目を白黒させながらも嬉しそうに食べている。それを確認してから、俺も自分の器から餅団子を一つ掬って少し冷ましてから口に含む。
 餅そのものは軽めの塩味しか付けていないが、素材の煎りドングリの甘味と香ばしさによりなかなかバランスのいい優しい味になっており、濃厚な旨味ととろみのスープが絡むことでみたらし団子にも似た、外は塩味で中はほのかに甘くて噛み締めることで口の中で味が絶妙に混ざり合う状態になる。

 ごくり、と喉を鳴らした美岬がお茶を一口飲んで小さく息を吐く。

「はふぅ……ガクちゃん、これ、味からしてドングリ粉を使ってるっすよね? まるで白玉団子みたいなもちもち感だったっすけど、なにをどうしたらこんなにもちもちになるんすか?」

「うん。思った以上に餅らしくなってたな。これはドングリ粉と葛粉を混ぜた粉を熱湯で練って丸めてスープに入れただけなんだけどな」

「それだけでこんな風になるなんて……これ、かなり餅っぽいっすよ。いや、サークルの先輩が愛知のお土産にくれた“ういろう餅”がこんな感じだったかも」

「あー、ういろうは確かにこんな感じだな。そもそも、ういろうも材料は餅米じゃなくて小麦粉だから餅よりもこっち寄りだしな」

「なるほどっ! そしてガクちゃん、ここからが本題っすけど、これ、これからも作ってくれるよね?」

「……気に入ったんだな」

「うん! これすごく好き!」

 満面の笑顔で美岬が次の餅団子を口に運ぶ。

「美岬のために腹持ちのいいメニューを考えててたまたま思いついたから試しに作ってみたけど、それだけ反応がいいなら正式採用決定だな。作るのも難しくないし、バリエーションもいくらでも増やせそうだしな」

「やった。じゃあ、甘いバージョンも食べたいっす」

「おっけ。なにか考えてみるよ」

 こうして、俺たちの食卓に新たな定番メニューが加わったのだった。





【作者コメント】
 この部分を書くにあたり、ドングリ餅は作者も試作してみましたよ。石臼はさすがに無いのでフードプロセッサーで粉々にして、葛粉を混ぜて、熱湯で練って、フライパンで火入れしながら練り上げて。
 ラップに包んで少し冷ましたら包丁で切り分けられるので、醤油やきな粉やスープの具と色々試食してみました。
 個人的にはきな粉とスープの具が美味しかったですね。郷土料理として普通にありそうな感じです。
 ちなみにドングリではなく剥き甘栗を使うともっと手っ取り早く似た感じのものが作れるので気になる方はぜひどうぞお試しください。
 
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