【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
167 / 227
箱庭スローライフ編

第167話 15日目⑭おっさんはオードブルを完成させる

しおりを挟む
 美岬が採ってきてくれたトリュフを使って俺の方も料理の仕上げにかかるとしよう。美岬は3個も採ってきてくれたが、今夜のメニューに使うのは1個で十分だ。残りは後日トリュフ塩にでも加工するとしよう。

 トリュフを洗って水分を拭き取り、ナイフで可能な限り薄くスライスしていく。
 トリュフ1個分をスライスにすれば、丸のままでは鼻を近づけてもほとんど感じられなかったトリュフ独特の香りが、離れていてもはっきりと嗅ぎ取れるほど強くなる。スライスすることで空気に触れる表面積が増えて匂い成分が気化しやすくなるのだ。
 トリュフは味というより香りを楽しむキノコだから、フレンチやイタリアンでも香りをより際立たせるために薄くスライスして使われることが多い。

 出来上がったトリュフスライスのうち、白黒のマーブル模様がはっきりしていて形が整っているものを仕上げ用に取り分けておき、残りは細かいみじん切りにする。
 みじん切りはスキレットで作りかけのグレイビーソースに混ぜ込み、再加熱して火を通す。
 プツプツと煮立ってきたところで味見してみれば、肉汁の旨味とブランデーとトリュフの風味が素晴らしく調和していたので、そのまま仕上げに移り、塩で味を調え、水溶き葛粉でトロミを付けてグレイビーソースを完成させる。

 グレイビーソースは完成したが、このソースを使うメインディッシュは出来立ての熱々で供したいので、先に小川で冷蔵してある尾肉ローストとテリーヌを仕上げることにする。こちらは多少温くなってもかまわないからな。

 小川からローストとテリーヌの入ったビニール袋を持って戻ると、美岬が驚きと呆れが入り混じったような顔をする。

「ちょ、ガクちゃん、あたしが寝てた短い時間でいったいどれだけのメニューを作っちゃってるんすか? あたしたちが二人で食べれる量なんてたかが知れてるっすよ?」

「大丈夫だ。一度に全部食べなくても冷蔵して明日とか明後日に回せばいいから。……まあ、確かにみさちの喜ぶ顔が見たくてついつい作りすぎたのは否定できないけど」

「むぅ……。それ言われちゃうともう何も言えないっす。それで、それはどんなお料理なんすか?」

「こっちのソースに浸かってるのが尾肉ブロックのローストで、こっちの台形の塊がテリーヌだな。テリーヌは芯までしっかり火が通っているから急いで食べ切らなくても大丈夫だけど、尾肉のローストは中は半生だからなるべく早めに食べないといけないな」

「うぅ……また美味しそうなものを作ってるぅ」

「じゃ、切って盛り付けていこうか。みさち、器を準備してもらっていいか?」

「あい。牡蠣皿は何枚いるっすか?」

「そうだな……なら4枚準備してもらおうか。そのうちの2枚にはハマボウフウの葉を敷いておいてほしいな」

「おまかせられ」

 尾肉のローストをまな板に出し、端をまず切り落とし、そこから1枚ずつスライスにしていく。
 外側は茶色くこんがりと焼けているが、内部はピンク色のミディアムレア。完全な生ではなく、おそらく45℃ぐらいまでは中心温度が上がっているので、生肉の弾力は失われ、それでいて焼き固まってもいない、つまりめちゃくちゃ柔らかい状態になっているということだ。
 
「はい、みさち。味見だ」

「わわっ! いいんすか? あーん」

 端の切り落としを摘まんで美岬の口の中に放り込んでやる。

「んん──っ!? にゃ、にゃんすかこれ!? 噛んでないのに肉がとろけたっすよ!」

「元々が霜降りの柔らかい肉だったからな。その様子だといい感じの仕上がりっぽいな」

「これはすごいっすね。霜降り肉って霜のように溶けて無くなるから霜降り肉っていうんすね! 納得っす!」

「いや、違うけどな。そう言いたくなる気持ちは分かるけど」

「えー違うんすか」

「肉に入った白い脂(サシ)を霜が地面に降りている状態に見立ててるんだ」

「くっ……なんすかその情景が浮かぶような洗練された比喩は。口の中で霜みたいに溶けるから霜降りとか言ってるあたしのアホさが恥ずかしくなるじゃないっすか」

「まあ、美岬の解釈も肉の本質そのものをずばり表現している感じで嫌いじゃないぞ。むしろ嬉しそうに肉を頬張りながらこれが霜降りかーと納得している姿は可愛いまである」

「やめて。その生暖かい目は追加ダメージ食らうっす」

 駄弁りながらも手は動かしている。美岬がハマボウフウを敷いてくれた2枚の牡蠣皿に薄くスライスした尾肉ローストを扇状に見映えよく並べていく。
 
 次いでテリーヌの塊をまな板の上に出す。

「テリーヌ? ってよく知らないっすけど、成形肉の生ダネをコッヘルに詰めてオーブンで焼き固めたもので合ってるっすか?」

「だいたい合ってるけど、それだけだったら俺はミートローフと呼ぶな」

「ほう、つまりそれだけではないと?」

「それは見てのお楽しみだ。切るぞ」

 ナイフで端を切り落とすと切り口から見える内部は綺麗な層になっていて美岬が歓声を上げる。

「わぁっ! なんすかこれ! めっちゃオシャレじゃないっすか。中が層になってるっすけど、これどうなってるんすか?」

「上と下は成形肉で、クリーム色の層がレバーと岩牡蠣のペーストを固めたもの、緑色の層が葛の新芽をベースにしたグリーンペーストを固めたものだ」

 説明しながら1㌢ぐらいの厚みで切り出したテリーヌを1枚ずつ、尾肉ローストがすでに並んでいる牡蠣皿の空きスペースに盛り付け、さっきまで尾肉ローストを漬け込んであったビニール袋に残っている魚介和風ソースを上からかける。

「さあこれで一皿目は完成だ」

「ふおおおお! すごい! 見た目からしてめっちゃ豪華っす。料理名はなんすか?」

「……それは特に考えてなかったな。そうだなー……」

 牡蠣皿の上に緑色のハマボウフウが敷かれ、その上に紅の尾肉ローストが盛り付けられ、カラフルなテリーヌが横に添えられ、茶色のソースが見苦しくならない程度にかけてある。

「無難に【海竜のオードブル神島風】あたりでどうだろう?」










【作者コメント】
 作中では詳細説明していないトリュフ塩ですが、ぶっちゃけ乾燥させて細かく砕いたトリュフを塩に混ぜただけの調味料です。完成した料理に軽く振りかけるだけでトリュフの風味を追加できるフレーバーソルトです。トリュフを丸ごと干すと乾燥に時間がかかりすぎて中が腐ってしまうリスクもあるので、岳人は残りのトリュフをすぐに乾燥するようにスライスして干して乾かし、すり鉢で粉々に砕いて塩と混ぜてトリュフ塩に加工するつもりです。








しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...