【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

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箱庭スローライフ編

第166話 15日目⑬おっさんは即落ちする

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 しばらくしてゴマフを小脇に抱えた美岬が憮然とした表情で拠点から出てきた。アイナメを捌いている俺のそばまできてぷうっと頬を膨らませる。

「……刺客を送り込むなんて酷いっす。寝首掻かれて死んじまったじゃないっすか」

「おお、ゆうしゃみさちよ、しんでしまうとはなさけない。…………いや、ちょっと目を離した隙にゴマフが勝手にそっちに行ってしまっただけで俺が狙って悪戯を仕掛けたわけじゃないからな?」

「ううぅ~。じゃあそういうことにしとくっす。……ふぁ。目覚めは最悪だったっすけど、身体の疲れは取れたっすね。ガクちゃんの作業はどうっすか? そろそろ休憩できないっすか?」

「おう。元よりこのゴマフのエサだけ準備したら休憩するつもりだったよ」

「ん。ならいいっす。……ガクちゃんが休んでる間にあたしにやっといてほしいこととかないっすか?」

「んー……とりあえずトリュフを採ってきてほしいな。そのスキレットで作りかけのソースに足りない食材はそれだけなんだ。あとは……もし時間に余裕があるならでいいけど、今俺が捌いてるアイナメのアラで出汁を取って、燻製の貝の身も使って簡単なスープでも作っておいてもらえると助かるな」

「ふふ。おまかせられ! 美味しいスープを作っとくっすね」

「そうか。なら期待しとく。……よし、ゴマフのエサはこれでいいだろ。じゃ、あとは任せるからちょっと休んでくるな」

「あいあい。ごゆっくりどうぞーってどれぐらいで起こしたらいいっすか?」

 時計を確認すれば6時を少し回ったぐらい。箱庭はすでに陰っているが、日没はまだだから空は明るい。

「そうだな、1時間ぐらいで起こしてもらっていいか?」

「了解っす。じゃあそれぐらいで起こすっすね。では、あたしも暗くなる前にやることやっちゃうっすよ。まずはゴマフのご飯っすね」

「キュイ! キュイ!」



 拠点の奥、俺たちの寝床にはマットレスが敷かれていた。触るとフカフカしていてそれだけでちょっと感動する。今朝までは集めた砂の上に断熱シートを被せて、着替えやタオルなどを敷いただけの簡易寝床だったからな。

 ごろりと寝転がると砂の寝床と違って体重に反発するクッションの弾力が実に快適で思わずほぅっとため息が漏れてしまった。これはいいものだ。

 正直なところ、寝心地はちゃんとした敷き布団とは比べ物にならない。どっちかといえば学校の体育館で使う体操用マットを薄くしたような代物だからな。でも、今までの寝床に慣れた身にしてみればこれでも贅沢すぎるまである。
 横になればたちまちのうちに睡魔が襲ってくる。新しい寝床にテンションがぶち上がっているのに眠くてたまらないという謎の状態が拮抗していたのは僅かな時間だけ。まるで底無しの沼に一瞬で沈むように、とぷんっと俺の意識は闇に落ちた。

「…………ちゃん、ガクちゃん、起きてー! 1時間経ったっすよー!」

 体感的には意識を失った次の瞬間、身体を揺すられて意識が覚醒する。

「………………んあ? ……もう1時間、経ったのか?」

 ノロノロと腕時計を確認してみれば、7時半近くなっていた。拠点の中には簡易ランプがすでに灯され、オレンジ色の穏やかな明かりに照らされているが、外はすっかり薄暗くなっているようだ。
 ちなみにこの簡易ランプは、粘土の土台にバイ貝の殻を尖った方を下にして刺して固定し、内部にシーラカンスから採った液体蝋を流し込み、芯として麻紐を挿したロウソクのようなものだ。

「めっちゃ幸せそうな顔で熟睡してたっすね。ちょっと起こすのが申し訳なくなるぐらい」

 にへらっと笑いながら美岬が俺の頭を優しく撫でてくれる。

「……うん。久しぶりのまともな寝床が気持ちよすぎて完全に気絶してた」

「あは。分かりみしかないっす。あたしもそうだったっすもん」

「これ、一緒に昼寝してたら夜まで寝過ごしてたな」

「あー、それは間違いないっすね。交代でお昼寝したのは正解だったっすよ。あたしも一人寝が寂しいとか思う間もなく即落ちしてゴマフに起こされたっすからね」

 ともすればまた目を閉じてしまいそうになる誘惑を振り切って一気に起き上がる。寝足りないが頭はスッキリしてすっかり怠さも抜けている。

「よし、起きた。じゃあ、いよいよとっておきのスペシャルな夕食の仕上げをして一緒に食べようか。そういえばトリュフって採れたか?」

「ふふん。モチのロンっすよ。前回トリュフを見つけた木はちゃんと覚えてたんで、その周りを探したらすぐだったっす。とりあえずこれぐらいの3個採ってきたっすけど足りるっすかね?」

 美岬が人差し指と親指で輪っかを作って見せてくる。

「十分だ。さすがだな。今度は俺もトリュフ狩りに一緒に行っていいか? トリュフがどんな風に生えてるのか見てみたい」

「いいっすよ。キノコ狩りデートっすね」


 拠点を出て炊事場に戻れば、中コッヘルにスープが作られていて、作業テーブルのまな板にはウズラ卵サイズのトリュフが3個乗っていた。

「お、スープもできてるな」

「が、ガクちゃん、あ、味見! スープの味見してほしいっす」

「あいよ。どれどれ……」

 お玉で軽くかき混ぜてから少しだけ掬ったスープを味見してみる。
 アイナメのアラを煮出した上品な出汁がしっかり利いていて、そこにハマグリの燻製由来のスモーキーフレーバーと貝の旨味が加わって深みのある味わいになっており、塩味もちょうどよく、まさにいい塩梅あんばいだ。
 美岬に一つのメニューを完全に任せたのは初めてだがなかなか上手じゃないか。

「ほぅ、出汁も丁寧に美味しく取れてるし、貝の味のバランスや塩加減もちょうどよくて美味しくできてるな」

「ほんとっすか! よかったっす」

 と、ホッとした様子の美岬。ここまでは俺の指示通りだが、問題は美岬が自分なりのアレンジとして加えているものだ。

「ただ、気になるのはなぜかコショウの味がすることだな。スモーキーフレーバーとの相性は抜群だからむしろいいと思うんだが、そもそもコショウなんか無かったよな? それにただのコショウとも違うちょっと青臭い風味……みさち、これ何入れた?」

「うわぁ……あっさり気づかれちゃったっすね。……さっきトリュフを採りに林に入った時に見つけたんで試しに風味付けに入れてみたんすけど」

 出汁取りで出た骨などの生ゴミを漁り、そこに捨てられていたシンナリとしたハート形の葉が何枚か繋がった蔓を拾い上げる美岬。

「……ヤマイモじゃないよな」

「これはフウトウカズラっす。日本に自生する唯一のコショウの仲間っすよ。生薬名は南藤ナントウで煎じて咳止めや神経痛に服用するっすね。ただ、香りはコショウなんすけど、香辛料らしい辛さとかはぜんぜんなくて苦味が強いんで食用にはしないっすね。香りがいいから出汁取りの時に試しに一緒に煮てみたんすけど」

 美岬が拾い上げたそれの茎を軽く噛んでみれば、確かにコショウの香りと青臭さと苦味が混じった味。

「へえ。日本にコショウの仲間が自生してるとは知らなかったな。なるほど、ローリエみたいに煮込みの時点で使えば香草としては使えるのか。これは面白いな。みさち、これは俺もちょっと色々試してみたいから今度生えている場所を教えてもらえるか?」

「もちろんっす。トリュフを採りに行く時に一緒にこれも採ってくればいいっすよね」

「ああ。それにしてもこの使い方はなかなかいいな。漢方に通じたみさちらしく健康にも配慮したまさに医食同源スープだな。味もいいし、言うことなしだ」

「おぉー。なんかガクちゃんにめっちゃ誉めてもらっちゃったっす。なるほどなるほど。世の女子たちが彼氏のために手料理を一生懸命作る気持ちがちょっと分かったかもっす。誉めてもらえたら料理が苦手でもなんか頑張ろうってモチベーションが上がるんすね」

「それは男でもそうさ。みさちが俺の料理をいつも喜んでくれるから俺も旨い料理を作ってやろうってモチベーションに繋がってるからな」

「お互いに誉め合うのは夫婦円満の秘訣その1ということっすね」

「なるほど。その通りだな。じゃあこれからもお互いに誉め合うことを意識していこうか。夫婦円満のためにも」


 


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