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箱庭スローライフ編
第164話 15日目⑪おっさんはオーブン料理を作る
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成型肉のステーキで腹ごしらえを終えた時点で午後3時頃になっていた。美岬が大きなあくびをする。
「ふあぁあ……食べたら眠くなってきたっす」
「そりゃ眠くもなるだろ。朝早くにゴマフに叩き起こされてそのままぶっ通しで作業してたんだから。そろそろマットレスもいい感じに乾燥したんじゃないか? あれを拠点に運び込んでそのまま昼寝してきたらどうだ?」
「ふあ……いいっすねぇ。ならガクちゃんも一緒にお昼寝しましょうよ」
「んー……いや、今はやめとこうかな。まだ生ダネも残ってるし別の仕込みもしたいから、俺はこのまま作業を続けるよ。みさちが休んでる間にある程度切りのいいところまで終わらせて、それから交替でちょっと休ませてもらおうかな」
「むぅ~」
俺が誘いを断ると美岬はちょっと拗ねたように軽く頬を膨らませたが、それでも俺の言うことにも一理あると納得したようで寝に行くために立ち上がる。
「……分かったっす。旦那さまに同衾を断られた新妻は独りで寂しくお昼寝に行くっす」
「言 い 方! 一人寝が寂しいならゴマフでも連れていったらどうだ?」
「分かっててわざと言ってるっすね! それ絶対寝れないやつじゃないっすか! ゴマフの相手はお昼寝後にするっすよ」
べぇっと舌を出して美岬が干してあるマットレスの方に歩き出そうとしたのでその背中に声をかける。
「……タイミング見てちゃんと起こしてやるからゆっくりお休み」
美岬が立ち止まり、くるりと振り向いてにっこりと笑う。
「あざっす。……あたしの後でガクちゃんもちゃんと休んでくださいよ? もし休憩しないでお疲れモードでも今夜はすぐには寝かさないっすからね?」
「お、おう。分かった。そうするよ」
「んふふ」
美岬の笑顔の圧力に気圧されながら頷くと、美岬はすっかりご機嫌になってふんふんと鼻唄を歌いながら洞窟の方に歩いていって昼前から干していたマットレスを抱えて拠点の中に入っていった。
さて、美岬にも釘を刺されたことだし、ちゃんと自分も休憩できるようにさっさと晩の仕込みを進めるとしよう。
だがその前に美岬がさっきまで頑張ってくれていた採油作業の後片付けをする。
美岬は洞窟で見つけた一升瓶に油を集めてくれていた。この油にはまだ水分や肉片などの不純物が混ざっているから放っておくとすぐに腐ってしまう。保存性を高めるには更なる精製が必要だ。
とはいっても、どうしても今日やらなきゃいけないほど急ぎの作業じゃないから、一旦後回しで一升瓶ごと小川の冷水に浸けておく。
油を絞って残った脂身の山は佃煮っぽく甘辛く炊く予定だが、これも別に急ぎの作業じゃないから、一旦袋に集めて冷蔵。
空いたコッヘルを洗い、大コッヘルで再び湯を沸かし始め、沸騰を待つ時間を利用して追加の食材──葛の新芽を採りに行き、帰ってくる途中の小川で、冷蔵してあった生レバーと卵巣を回収して炊事場に戻る。
まず、沸騰している湯で葛の新芽を茹でて柔らかくし、新芽を引き上げた後の残り湯でキンカンを下茹でする。
さらに残った湯に朝ゴマフ用に捌いた魚のアラを投入して煮出して出汁を取り、そこに朝採ってきた岩牡蠣を殻ごと入れて殻の蓋が開くまで茹でる。
岩牡蠣を殻ごと引き上げ、鍋に残ったアラとアクを濾して出来た出汁を味見してみれば、魚と岩牡蠣の出汁がしっかり出て、そこに葛とキンカン由来の味も加わり、なかなか複雑で深みのあるスープになっていた。しかし、もう一味欲しいと感じたので、半生の干しシイタケを細かく刻んでスープに加え、さらにしばらく煮出す。
スープがだいぶ煮詰まったところで味見してみれば、濃厚な旨みの理想的な仕上がりになっていた。今日はこれをスープではなく料理の味付け──ソースとして活用しようと考えている。
ソースを煮詰めている間に、レバーの処理はすでに進めてあった。
昨日の味見で最高級のフォアグラにも匹敵すると判明したレバーの塊から、ソテーにするためにハムステーキぐらいの厚みのスライスを2枚切り出してそれだけ別にしておき、それ以外は岩牡蠣の身と一緒にナイフで叩いて細かくし、さらにすり鉢で擂り潰しでペースト状にした。
それが終わる頃にちょうどソースも煮詰まっていたので、少し冷ましたソースをレバーペーストに混ぜ込んで味を調えた。
レバーペーストとは別に、茹でた葛の新芽も細かく刻んで叩いてペーストにした。こちらは──便宜上グリーンペーストと呼ぼう。ペーストにした後でレバーペーストと同様にソースで味を調え、こちらには加熱すれば固まるように葛粉を混ぜておいた。
昼食で使った残りの生ダネ、茹でた卵巣、レバーペーストとグリーンペースト。これらを使って今回作る料理はずばりテリーヌだ。中コッヘルにこれらの材料を順番に詰めていって層を形成し、それをコッヘルごとダッチオーブンで焼き固めて作る。
しっかり火を通したテリーヌは常温のままでも数日間は食べられるから、一度作っておけばしばらく俺たちの食卓を賑やかしてくれるだろう。
以前に作った木炭をかまどに入れて着火し、赤々と燃える炭火を火床に移してその上に空のダッチオーブンを掛け、被せた分厚い鋳物の蓋の上にも炭火を積み上げて下と上の両方から予熱を始める。
予熱を待つ間に、型となる中コッヘルの内側に油をたっぷり塗り、まず生ダネの半分を詰めて一層目とし、その上に茹でたキンカンを並べてレバーペーストを詰めて二層目、グリーンペーストを詰めて三層目、最後に残った生ダネを詰めて四層目。テリーヌは味と見た目の違う素材で層を作ることで、視覚的に美しく食べて楽しいを実現した料理だ。
すべての材料を詰め終わったらコッヘルごと作業台の天板にトントンと何度か打ちつけて振動で内部に残った空気を抜く。
頃合いを見計らって十分に熱くなったダッチオーブンにコッヘルを入れて蓋を被せ、下の炭火を減らしてトロ火程度にして、蓋の上に可能な限り炭火を積み上げて天火で蒸し焼きにしていく。こうすれば下面が焦げ付くことなく内部が均等に加熱される。
ダッチオーブンは名前だけのオーブンもどきではなく、正真正銘本物のオーブンなんだよな。当然、材料さえ揃えばケーキでもパンでも普通に焼ける。
ペーストがぎっしり詰まったコッヘルの中心部までしっかり火が通って焼き固まるまでは少なくとも40~50分は掛かる。
焼き上がりを待つ間に他の料理の準備も進めておこう。
続いてロースト用に取り分けておいた尾の霜降肉ブロックの調理を始める。すでに下味は付けてあるので、葛糸を使ってブロック肉をぐるぐる巻きにする。ブロック肉をそのまま焼くと肉が縮む時に不恰好になったり最悪割れたりする。肉に巻き付ける糸の役割は肉の形崩れと割れの防止だ。
昼食のステーキを焼くのに使ったスキレットをそのまま使い、葛糸でぐるぐる巻きにしたブロック肉を転がしながら表面だけをまんべんなく焼き固めていく。
こうして表面を予め焼き固めておくことで、オーブンで焼く時に肉汁と旨みが流れ出さずに内部に留まり、ジューシーに仕上がるというわけだ。
下焼きが終わったら、オーブンが空くまでしばらく待機だ。
今夜の特別な料理はあともう一品ある。むしろこれこそがメインだ。
作業用のまな板を小川に持っていって一度綺麗に洗い、戻る時にヒレ肉を一緒に持ってくる。
まな板の上に出したヒレ肉は長さ30㌢ぐらいで中心の一番太い部分の直径が10㌢ぐらいの細長い肉だ。1本500gぐらいで背骨の腰部分の左右に1本ずつあるが、脂がほとんどない赤身肉でありながら筋がなく非常に柔らかい最上位部位となる。
そんなヒレ肉の中でも一番厚みがある最もよい部分がフランス料理で重宝されるシャトー・ブリアンだ。
当然のことながら今夜用にシャトー・ブリアンを5㌢ぐらいの厚みで2枚切り出しておく。塊から切り出すためにナイフを入れた瞬間に確信する。この肉はヤバい。この柔らかさはすごい。
もちろん生の柔らかさと加熱後の柔らかさは別物だが、そこは餅は餅屋というやつで、ジビエ料理店のオーナーシェフとして多くの肉を扱ってきた俺は生肉の状態を見れば、調理後の状態もだいたい分かる。
それでも一応味見の為にヒレ肉の端っこを切り落として、串に刺して軽く炙って食べてみた。
「あ、これはすごい」
この名状しがたい柔らかさはなんだ? 歯を立てた瞬間に何の抵抗もなくあっさりと噛み千切れてしまった。これなら箸で切れるレベルだ。しかも赤身だから肉の味が濃い。この濃厚で柔らかい肉の特色はまさに俺が作ろうとしている料理にピッタリだ。
この肉を食べた美岬がどんな反応を見せてくれるか今から楽しみだな。
【作者コメント】
テリーヌは本当は料理名ではなくて、練り身を詰めて加熱調理する際に使う陶器の容器を指す言葉なのですが、日本では料理名として定着しているのであえてテリーヌと呼んでいます。
厳密には容器ごとサーブしたものがテリーヌ・ド・パテ、容器から出して切り分けてサーブしたものはただパテと呼ばれます。しかし日本では一般的にパテといえばハンバーガーに挟んであるハンバーグのことです。
そもそも、東西文化の集積地たる日本は別ルーツから入ってきた似たような料理が多いのです。例えばアメリカから入ってきたミートローフは、ハンバーグの生ダネを型に入れてオーブンで焼いたものですが、呼び方が違うだけでこれもテリーヌです。
日本には昔から魚肉の練り製品が多くありますが、カマボコなんかもフランス料理の視点だと白身魚のテリーヌに分類されるでしょう。
まあそんなわけで視点によって定義は変わると思いますが、この作中では作者なりの大雑把な分類で、練り身を丸めて焼けば成型肉(つなぎ入りはハンバーグ)、型に入れて焼けばミートローフ、層を作ってオシャレにしたらテリーヌということにしています。
作品を楽しんでいただけたら、いいねボタンやコメントで応援お願いします。
「ふあぁあ……食べたら眠くなってきたっす」
「そりゃ眠くもなるだろ。朝早くにゴマフに叩き起こされてそのままぶっ通しで作業してたんだから。そろそろマットレスもいい感じに乾燥したんじゃないか? あれを拠点に運び込んでそのまま昼寝してきたらどうだ?」
「ふあ……いいっすねぇ。ならガクちゃんも一緒にお昼寝しましょうよ」
「んー……いや、今はやめとこうかな。まだ生ダネも残ってるし別の仕込みもしたいから、俺はこのまま作業を続けるよ。みさちが休んでる間にある程度切りのいいところまで終わらせて、それから交替でちょっと休ませてもらおうかな」
「むぅ~」
俺が誘いを断ると美岬はちょっと拗ねたように軽く頬を膨らませたが、それでも俺の言うことにも一理あると納得したようで寝に行くために立ち上がる。
「……分かったっす。旦那さまに同衾を断られた新妻は独りで寂しくお昼寝に行くっす」
「言 い 方! 一人寝が寂しいならゴマフでも連れていったらどうだ?」
「分かっててわざと言ってるっすね! それ絶対寝れないやつじゃないっすか! ゴマフの相手はお昼寝後にするっすよ」
べぇっと舌を出して美岬が干してあるマットレスの方に歩き出そうとしたのでその背中に声をかける。
「……タイミング見てちゃんと起こしてやるからゆっくりお休み」
美岬が立ち止まり、くるりと振り向いてにっこりと笑う。
「あざっす。……あたしの後でガクちゃんもちゃんと休んでくださいよ? もし休憩しないでお疲れモードでも今夜はすぐには寝かさないっすからね?」
「お、おう。分かった。そうするよ」
「んふふ」
美岬の笑顔の圧力に気圧されながら頷くと、美岬はすっかりご機嫌になってふんふんと鼻唄を歌いながら洞窟の方に歩いていって昼前から干していたマットレスを抱えて拠点の中に入っていった。
さて、美岬にも釘を刺されたことだし、ちゃんと自分も休憩できるようにさっさと晩の仕込みを進めるとしよう。
だがその前に美岬がさっきまで頑張ってくれていた採油作業の後片付けをする。
美岬は洞窟で見つけた一升瓶に油を集めてくれていた。この油にはまだ水分や肉片などの不純物が混ざっているから放っておくとすぐに腐ってしまう。保存性を高めるには更なる精製が必要だ。
とはいっても、どうしても今日やらなきゃいけないほど急ぎの作業じゃないから、一旦後回しで一升瓶ごと小川の冷水に浸けておく。
油を絞って残った脂身の山は佃煮っぽく甘辛く炊く予定だが、これも別に急ぎの作業じゃないから、一旦袋に集めて冷蔵。
空いたコッヘルを洗い、大コッヘルで再び湯を沸かし始め、沸騰を待つ時間を利用して追加の食材──葛の新芽を採りに行き、帰ってくる途中の小川で、冷蔵してあった生レバーと卵巣を回収して炊事場に戻る。
まず、沸騰している湯で葛の新芽を茹でて柔らかくし、新芽を引き上げた後の残り湯でキンカンを下茹でする。
さらに残った湯に朝ゴマフ用に捌いた魚のアラを投入して煮出して出汁を取り、そこに朝採ってきた岩牡蠣を殻ごと入れて殻の蓋が開くまで茹でる。
岩牡蠣を殻ごと引き上げ、鍋に残ったアラとアクを濾して出来た出汁を味見してみれば、魚と岩牡蠣の出汁がしっかり出て、そこに葛とキンカン由来の味も加わり、なかなか複雑で深みのあるスープになっていた。しかし、もう一味欲しいと感じたので、半生の干しシイタケを細かく刻んでスープに加え、さらにしばらく煮出す。
スープがだいぶ煮詰まったところで味見してみれば、濃厚な旨みの理想的な仕上がりになっていた。今日はこれをスープではなく料理の味付け──ソースとして活用しようと考えている。
ソースを煮詰めている間に、レバーの処理はすでに進めてあった。
昨日の味見で最高級のフォアグラにも匹敵すると判明したレバーの塊から、ソテーにするためにハムステーキぐらいの厚みのスライスを2枚切り出してそれだけ別にしておき、それ以外は岩牡蠣の身と一緒にナイフで叩いて細かくし、さらにすり鉢で擂り潰しでペースト状にした。
それが終わる頃にちょうどソースも煮詰まっていたので、少し冷ましたソースをレバーペーストに混ぜ込んで味を調えた。
レバーペーストとは別に、茹でた葛の新芽も細かく刻んで叩いてペーストにした。こちらは──便宜上グリーンペーストと呼ぼう。ペーストにした後でレバーペーストと同様にソースで味を調え、こちらには加熱すれば固まるように葛粉を混ぜておいた。
昼食で使った残りの生ダネ、茹でた卵巣、レバーペーストとグリーンペースト。これらを使って今回作る料理はずばりテリーヌだ。中コッヘルにこれらの材料を順番に詰めていって層を形成し、それをコッヘルごとダッチオーブンで焼き固めて作る。
しっかり火を通したテリーヌは常温のままでも数日間は食べられるから、一度作っておけばしばらく俺たちの食卓を賑やかしてくれるだろう。
以前に作った木炭をかまどに入れて着火し、赤々と燃える炭火を火床に移してその上に空のダッチオーブンを掛け、被せた分厚い鋳物の蓋の上にも炭火を積み上げて下と上の両方から予熱を始める。
予熱を待つ間に、型となる中コッヘルの内側に油をたっぷり塗り、まず生ダネの半分を詰めて一層目とし、その上に茹でたキンカンを並べてレバーペーストを詰めて二層目、グリーンペーストを詰めて三層目、最後に残った生ダネを詰めて四層目。テリーヌは味と見た目の違う素材で層を作ることで、視覚的に美しく食べて楽しいを実現した料理だ。
すべての材料を詰め終わったらコッヘルごと作業台の天板にトントンと何度か打ちつけて振動で内部に残った空気を抜く。
頃合いを見計らって十分に熱くなったダッチオーブンにコッヘルを入れて蓋を被せ、下の炭火を減らしてトロ火程度にして、蓋の上に可能な限り炭火を積み上げて天火で蒸し焼きにしていく。こうすれば下面が焦げ付くことなく内部が均等に加熱される。
ダッチオーブンは名前だけのオーブンもどきではなく、正真正銘本物のオーブンなんだよな。当然、材料さえ揃えばケーキでもパンでも普通に焼ける。
ペーストがぎっしり詰まったコッヘルの中心部までしっかり火が通って焼き固まるまでは少なくとも40~50分は掛かる。
焼き上がりを待つ間に他の料理の準備も進めておこう。
続いてロースト用に取り分けておいた尾の霜降肉ブロックの調理を始める。すでに下味は付けてあるので、葛糸を使ってブロック肉をぐるぐる巻きにする。ブロック肉をそのまま焼くと肉が縮む時に不恰好になったり最悪割れたりする。肉に巻き付ける糸の役割は肉の形崩れと割れの防止だ。
昼食のステーキを焼くのに使ったスキレットをそのまま使い、葛糸でぐるぐる巻きにしたブロック肉を転がしながら表面だけをまんべんなく焼き固めていく。
こうして表面を予め焼き固めておくことで、オーブンで焼く時に肉汁と旨みが流れ出さずに内部に留まり、ジューシーに仕上がるというわけだ。
下焼きが終わったら、オーブンが空くまでしばらく待機だ。
今夜の特別な料理はあともう一品ある。むしろこれこそがメインだ。
作業用のまな板を小川に持っていって一度綺麗に洗い、戻る時にヒレ肉を一緒に持ってくる。
まな板の上に出したヒレ肉は長さ30㌢ぐらいで中心の一番太い部分の直径が10㌢ぐらいの細長い肉だ。1本500gぐらいで背骨の腰部分の左右に1本ずつあるが、脂がほとんどない赤身肉でありながら筋がなく非常に柔らかい最上位部位となる。
そんなヒレ肉の中でも一番厚みがある最もよい部分がフランス料理で重宝されるシャトー・ブリアンだ。
当然のことながら今夜用にシャトー・ブリアンを5㌢ぐらいの厚みで2枚切り出しておく。塊から切り出すためにナイフを入れた瞬間に確信する。この肉はヤバい。この柔らかさはすごい。
もちろん生の柔らかさと加熱後の柔らかさは別物だが、そこは餅は餅屋というやつで、ジビエ料理店のオーナーシェフとして多くの肉を扱ってきた俺は生肉の状態を見れば、調理後の状態もだいたい分かる。
それでも一応味見の為にヒレ肉の端っこを切り落として、串に刺して軽く炙って食べてみた。
「あ、これはすごい」
この名状しがたい柔らかさはなんだ? 歯を立てた瞬間に何の抵抗もなくあっさりと噛み千切れてしまった。これなら箸で切れるレベルだ。しかも赤身だから肉の味が濃い。この濃厚で柔らかい肉の特色はまさに俺が作ろうとしている料理にピッタリだ。
この肉を食べた美岬がどんな反応を見せてくれるか今から楽しみだな。
【作者コメント】
テリーヌは本当は料理名ではなくて、練り身を詰めて加熱調理する際に使う陶器の容器を指す言葉なのですが、日本では料理名として定着しているのであえてテリーヌと呼んでいます。
厳密には容器ごとサーブしたものがテリーヌ・ド・パテ、容器から出して切り分けてサーブしたものはただパテと呼ばれます。しかし日本では一般的にパテといえばハンバーガーに挟んであるハンバーグのことです。
そもそも、東西文化の集積地たる日本は別ルーツから入ってきた似たような料理が多いのです。例えばアメリカから入ってきたミートローフは、ハンバーグの生ダネを型に入れてオーブンで焼いたものですが、呼び方が違うだけでこれもテリーヌです。
日本には昔から魚肉の練り製品が多くありますが、カマボコなんかもフランス料理の視点だと白身魚のテリーヌに分類されるでしょう。
まあそんなわけで視点によって定義は変わると思いますが、この作中では作者なりの大雑把な分類で、練り身を丸めて焼けば成型肉(つなぎ入りはハンバーグ)、型に入れて焼けばミートローフ、層を作ってオシャレにしたらテリーヌということにしています。
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