【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

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箱庭スローライフ編

第162話 15日目⑨おっさんは海竜の肉の加工をする

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 バラ肉の骨取りを終わらせ、背骨などの骨にこびり付いた肉片をスプーンやナイフで削ぎ取り、なんとか午後1時までにはすべての解体作業を終えることができた。
 お次は昼食作りと平行して、保存用の肉の加工や夕食用の仕込み作業をしていくとしよう。

 さて、解体で取れた肉は以下の通りだ。

 まず首肉が約5kg。普段からよく動かす部位だけに、ほどよく引き締まっていて脂がほとんど乗っていない深紅の棒状の肉。白い皮下脂肪との色のコントラストが美しい。
 鮫による咬み傷もほとんどなく肉の状態は非常にいい。これはベーコンに加工するためにすでに塩漬けして冷蔵済みだ。

 尾肉が約3kg。赤身にまんべんなく脂のサシが入ったいかにも高級そうな霜降り肉だが、首肉と違って鮫による咬み傷も多く、無事な肉はおよそ半分ってとこだろう。無事な部分は一部を夕食用に別にしてあるが、大部分は塩漬けにした。傷のある部分は早めに消費するために取り分けてある。

 前ヒレと後ヒレの胴体との付け根付近のすね肉が約2kg。この部位はすじが多いというか、ほとんど筋ばかりで脂っぽさがほとんどない硬い肉だ。この肉はジャーキーにすれば旨くなると思ったので、筋繊維を断ち切るようにスライスしてからナイフの背で叩いて延ばし、塩とスパイスで味付けまでしてある。天日干しである程度乾かしてから燻製にすれば数ヶ月単位で保つようになる。今は干し網がシイタケに占領されているので一旦冷蔵してある。

 前ヒレの肩肉が約4kg、むね肉が3kg、ささみが1kg。胸部から一塊で外した肉から骨を外して部位ごとで分ければだいたいこれぐらいになった。これらの肉は胴体内部の肉なので当然、鮫にも咬まれていない状態のいい肉だ。
 後ヒレの胴体内部のもも肉と尾の付け根付近の尻肉が合わせて約6kgほどでこれも状態はおおむねいいが、体表に近い辺りに肉まで到達する咬み傷がいくつかあったのでその辺りだけは屑肉として切り落としてある。
 これらは全部一旦塩漬けにして、後日保存食に加工するつもりだ。

 背中の厚い脂肪層の下、背骨周りで取れたヒレ肉が約1kg。これは保存食にするのはもったいないから今夜のメイン食材に一部使い、残りは冷蔵して数日のうちに食べ切ろうと思っている。

 バラ肉は約2kg。骨取りの際にだいぶ素手で触りまくっているので早めに使った方がいいだろう。これは塩漬けにはせずに表面に軽く味付けてから生のまま高温の煙で燻して、しっかりと火の通ったスモークミートにして、向こう1週間ぐらいで食べ切るのがいいかな。

 あとは骨から削ぎ取った肉片が全部で1kgぐらい。これに前述の肉から除いた咬み傷のある屑肉2kgぐらいを加えれば屑肉は3kgほどになる。これらは叩いてミンチにしてから、一部は腸詰めにして残りは成型肉にするつもりだ。

 はかりがないので目分量ではあるが、取れた肉は全部で30kg弱。これに加えて脂身もたくさんある。
 脂身も油を絞って残った部分は肉として食べるつもりだ。氷砂糖と出汁で甘辛く炊いておけば常温でもしばらく保つ佃煮のような常備菜になる。
 昨日のうちに下処理を終えてあるモツもある。本当は今日モツ鍋にしようと思っていたが、より優先度が高い屑肉が思っていたより多く出たから後回しだな。すでに冷蔵してあるから数日は猶予がある。

 骨も無駄にする気はない。一度しっかりと焼いてから煮出せば骨の出汁フォン・ド・ボウが取れる。
 ヒレや軟骨や傷物の皮はにかわに加工して接着剤にしよう。徳助氏から大工道具を引き継げたおかげで俺たちの家作りの予定を前倒しできそうだから、その時に大いに役立ってくれるはずだ。

 大量の肉と素材が手に入ったのは本当に嬉しいしありがたいことなのだが、生物ナマモノなので加工は時間との勝負になる。冷凍庫が欲しいと切実に思うがそれは贅沢な悩みというもの。幸いにしてビニール袋に入れて小川の冷水に沈めておけば冷蔵できるし、俺には保存食に加工するための知識もあるから、せっかくの大量の肉を腐らせて無駄にしないように最善を尽くそう。
 いずれにせよ向こう数日間は忙しくなるだろうな。



 尾肉のうち、今夜用に取り分けてあった400gぐらいの霜降りの塊肉をまな板の上に乗せ、木の枝を尖らせた串をプスプスとまんべんなく刺してから塩をまぶして揉み込み、ビニール袋に入れて一旦冷蔵へ。
 これはせっかくダッチオーブンが手に入ったのだからローストビーフ風にしてみようと思っている。

 屑肉を全部まな板の上にぶちまけ、サバイバルナイフと鉈の二刀流で叩き潰してミンチにしていく。ある程度細かくなったら、ハマゴウの粉やハマボウフウのみじん切りも混ぜ、さらに塩とカレー粉も少し入れて練っていく。
 カレー粉はたくさん入れるとカレー味になるが、隠し味程度に少しだけ使えばいい感じに肉の臭みを消してくれる。
 これだけだとタネがまだ固いので、美岬が脂身から取っている油を少し貰って混ぜ込み、固さを調整する。

 そうして出来上がった生ダネだが、腸詰めが優先だからまずはそれを先に作り、残ったもので別の料理を作っていこう。

 昨日のうちに小腸は腸詰めの皮ケーシングに加工して塩漬けにしてあったので、まずは水洗いで塩分を抜く。そして3㍍ほどあるケーシングを3分割してそれぞれを1㍍ぐらいにする。
 そして割り箸ぐらいの細い小枝にケーシングを被せていく。1㍍のケーシングがだるだるにたるませることで数㌢まで圧縮される。……昔、一世を風靡したルーズソックスを思い出す見た目だな。

 生ダネをビニール袋に入れ、袋の角を切り落として即席の絞り袋にして、弛ませて圧縮したケーシングを絞り口に被せる。
 ケーシングの端を結び、絞り袋を握って生ダネをケーシングの中にゆっくりと詰めていく。
 10㌢ぐらい詰まったらそこでケーシングを数回転ねじって区切りとし、次の10㌢が詰まったら再び捻って区切りとする。
 そんな作業を繰り返して生ソーセージが10個連結した腸詰めが出来上がる。
 残りの2本のケーシングも同様に生ダネを詰めていって、10個連結の生ソーセージが3セット完成した。
 
 生ソーセージはそのままボイルして食べることも可能だが、今回は保存食にするつもりなので、バラ肉のブロックと共に熱い煙で燻して火を通すと同時に熱乾燥を進めようと思っている。
 長時間の熱乾燥によって水気が抜けて固くなったソーセージがドライソーセージいわゆるサラミとなる。

 バラ肉のブロックと生ソーセージを燻製小屋に持っていき、内部に吊るす。そして地下ボイラーに燻煙材となるスダジイの薪だけを入れる。今回は煙を直接食品にかける都合上、燃やすと大量のススが出る松は焚き付けに使えない。松ボックリも同様だ。
 炊事場のかまどから火種を貰ってきて地下ボイラーの薪に火をつける。燃焼効率のいいダコタ式ファイヤーホールなので薪にたちまち火が移り、メラメラと燃え始める。
 燻製小屋の床から盛り上った火山型煙突から煙と熱く乾いた燃焼ガスが小屋の内部に吹き出し始める。

 燻製にするのならわざと不完全燃焼させて煙が多く出るようにするのだが、スモークミートの場合、煙で燻すのは保存性を高めるためではなく熱い煙で内部までしっかり熱を通すことが目的のなんちゃって燻製だし、ドライソーセージも熱く乾いた空気にさらされることこそが重要で煙の有無はさほど重要ではないので、長時間燃え続けるだけの薪をくべたらあとはこのまま放置だ。



「ガクちゃーん、さすがにお腹ペコペコっすよぅ」

 燻製小屋から戻った俺を両手でお腹を押さえて眉を情けなくへんにょりとさせた美岬が出迎える。

「ああ。すまん。待たせたな。ここにある肉は好きなだけ食っていいけど……どれだけ食う?」

 ソーセージ1個につき使った生ダネは約50gってところだろう。50g×30個で約1.5kgを消費して残った生ダネはそれでもまだ約1.5kgある。

「まだ生じゃないっすか」

「これをスキレットで焼けば成型肉のステーキになるぞ。好きなサイズで焼いてやるけどどうする?」

「わぁお! 心ときめく提案っすねー! まさかのポンドステーキもありっすか?」

「食べきれるならありだぞ。ただ、晩は俺も本気で料理するから昼はこれだけで簡単に済ましたいけどな」

「あー、じゃあ腹ごしらえ程度にした方がいいかもっすね。でも、お腹空いたし……じゃあこれぐらいで!」

「はいよ」

 美岬が指で指定した範囲の肉を千切って丸めて平たく延ばす。

「だいたい300gぐらいかな。これでいいか?」

「あい。これでお願いするっす」

「んじゃ、俺も同じぐらいにしとくかな」

 自分用にも同じぐらいの肉を千切って成型する。じゃあさっそくスキレットで焼くとするか。




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