【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

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箱庭スローライフ編

第157話 15日目④おっさんはお宝を見つける

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『……これを読んでいるということは、俺はもう死んでいるのだろう。もしあなたが俺を捜索してくれていたのだとしたら、せっかく捜し出してくれたのに救助が来るまで待てなかったことを申し訳なく思う。

もしあなたが偶然にこの島に辿り着いた漂流者なら、おそらく近くに転がっているであろう俺の死体を弔ってくれると嬉しい。そしてもし可能であればでいいが、俺の死を家族に伝えてほしい。

報酬と言ってはなんだが、この場所にある俺の私物はすべてあなたに差し上げよう。俺はこの島を開拓するために必要と思われる物を色々と揃えて持ち込んであるから、きっとそれはここでの暮らしに役立つはずだ。是非使ってくれ。加えて、この島についての俺の知りうる限りの情報をこのノートに記しておく。どうか役立ててほしい。

あなたのここでの暮らしが良いものとなるよう願っている。

俺が生きた記録としてこのノートを記す。平成○年11月10日 浜崎徳助。以下住所と連絡先……』



 洞窟から運び出した遺品の長持ながもちを開けると一番上にノートが置いてあった。その最初のページに書かれていたのがこの文だった。続くページからの詳しい内容を精査するのは時間のある時に回すとして、結果的に順番は前後したとはいえ、俺たちは徳助氏の依頼を達成してその報酬として彼の遺品を正式に引き継いだということになる。
 
 その遺品の内容は、期待をはるかに上回るもので、どれも今の俺たちにとって喉から手が出るほど欲しいものばかりだった。


 そもそも徳助氏はすでに何度かこの場所に来ており、最終的にはここに移住するつもりで開拓に必要な道具や物資を運び込んでいたらしい。軽く流し読みしたノートにその辺の経緯も書かれていた。

 ただ、まだ移住の準備段階でしかなく、荷物を降ろしてから帰る予定だったのがトラブルにより帰れなくなってこの場所に閉じ込められ、元より長居するつもりではなかったので持病の薬を数日分しか持っておらず……おそらく発作で落命したものと思われる。

 
 長持には上の方に毛布や雨具や防寒着、ブルーシートやロープなどが入っており、下の方にはスコップや斧や釣竿やタモ網といった長柄の道具が入っていた。

 200㍑の大型クーラーボックスの中には釣り道具一式を納めた釣具箱やバケツが入っていた。

 ジュラルミン製の道具箱にはノコギリや金づちやノミやカンナやバールやプライヤーといった大工道具一式が納められており、電気を使わない手回し式のハンドドリルや未使用の釘の箱なんかもあった。
 
 大型のリュックサックには型は古いが質のいいキャンプ道具ギアが詰まっていた。今では廃盤になっていてマニアの間で高額で取引されているギアなんかもある。
 徳助氏が遭難したのはちょうど日本では平成のキャンプブームの真っ只中だった頃だろう。当時のハイエンドモデルで固めているあたり、かなりのガチ勢であったことが伺える。そういえば美岬の親父さんもアウトドア好きだったって話を前に聞いたな。

 荷物の陰に隠れていたが、奥に徳助氏がベースキャンプにしていた場所も見つかった。そこには砂塵が積もっているが、折り畳み式のテーブルと椅子が置かれ、崩れたテントの中にマットレスと寝袋があり、ガラスの一升瓶が何本か転がっていて、焚き火跡には未使用の薪の束や薪割り用のなた鋳物のフライパンスキレットやダッチオーブンなどの調理器具もあった。

 テーブルの上にはブリキとガラスのキャンドルランタンとまな板とナイフが置かれていて、ここで調理していたことが伺え、燃え尽きた焚き火跡の上にあるダッチオーブンの蓋を取って中を見れば炭化した魚のような物が残っていたので、徳助氏は料理の途中で何かの用事で外に向かう、あるいは戻ってきたタイミングで洞窟の入り口近くで発作に見舞われて倒れたのだろうと推察された。

 テントが潰れたのは、ポールが経年劣化で折れたのが原因のようだが、太陽の紫外線や風雨の影響のない洞窟内ということもあり、化学繊維の防水布製であるテントそのものは劣化しておらず、その中のマットレスと寝袋は問題なく使えそうな状態だった。

 20年というのは決して短い期間ではないが、野晒しではなく洞窟の中で保管され、しかも徳助氏自身が長く使うことを前提に選んだ質の良いアイテムばかりなので思った以上に保存状態が良く、ほとんどの物は手入れすれば再利用できそうなものばかりだった。

 塩以外の調味料はさすがに使えそうになかったが、それでもある程度まとまった量の精製塩が手に入ったのは有り難い。それと、おそらく彼が自分の楽しみ用に持ち込んだものと思われるブランデーとウイスキーのまだ中身の入っている瓶が見つかったので、これはもしかしたらまだ飲めるかもしれないと取っておく。

 小さい麻袋が幾つかあったので中を見るとスダジイのドングリとジュズダマが詰まっており、彼も俺たちと同様にこれらを主食にしようとしていたことが分かった。ただ、俺たちと違って準備期間のあった彼はしっかり石臼まで持ち込んでいて、その用意周到さには思わず唸らされた。
 今の俺たちが一時的に本土に戻って再びここに戻ってくるとしたらきっとこういうアイテムを持ち込むであろう、まさに痒いところに手が届くようなチョイスだった。

「いやぁ…………大叔父さんマジパネェっすねー」

「ほんとそれなー。よくここまで揃えたもんだなー」

 と二人で若干遠い目をしてしまう。

「ここを自分専用の快適なプライベートキャンプ場にする気まんまんっすよね」

「男は幾つになっても秘密基地とか大好きだからな。夢半ばで亡くなってさぞや無念だったろうな。まあノートを読むに亡くなる直前まで目一杯エンジョイはしてたようだが」

「あうぅ、もっと早くここを調べてたらあたしたちも最初からイージーモードだったのに、あたしが洞窟を調べるのを後にしたいって言ったばかりに……」

 凹んだ様子の美岬の頭を撫でる。

「気にするな。あの時は俺も納得してのことだったし、2人で苦労しながら手探りで拠点を整備したり、必要な物を作ったりするのも楽しかったじゃないか。俺はあれが無駄な時間だったとは思わないぞ」

「……うー、確かに充実はしてたし、かけがえのない時間だったとは思うっすよ」

「とりあえず危機的な状況を乗り越えて、これから生活面を充実させていこうと考えていた矢先のこれはむしろタイムリーと言えるんじゃないか?」

「うん。それもそっすね! このタイミングだからこそ有り難みが分かるものもあるっすよね。ちょうど欲しいと思ってた石臼も手に入ったっすし」

「今後必要になると思ってた防寒具とか毛布がすぐに使える状態で手に入ったのも有り難いな。個人的にはダッチオーブンが嬉しすぎる」

「ダッチオーブンってただの鍋とどう違うんすか?」

「おう。これは分厚い鋳物製だから普通に鍋として使っても全体にまんべんなく火が通るし、冷めにくいから保温性も高い。蓋が重いから圧力鍋に近い使い方もできるし、蓋の上に炭火を乗せて上から加熱することでオーブンとして蒸し焼き調理もできるし、本体の底に脚があるからトライポッドや五徳ゴトク要らずで直接焚き火に掛けられる。重すぎて携行するのは難しいが、今の俺たちみたいに拠点を中心に活動する場合は極めて有用な調理器具だ」

「へぇー。聞いてる限りすごい万能鍋っすね。ガクちゃんがそこまで言うんだから実際に良いものなんすよね。期待しちゃうっすよ」

「ああ。これがあれば料理のバリエーションが広がるから期待してていいぞ」

 そんなことを話しているうちに崖の上に昇った太陽の光が箱庭の底へ差し始め、一気に散らされた朝霧の残滓がキラキラと空気中で輝く。時計を見るとすでに8時を回っている。
 遺品の整理とすぐに使えるようにメンテナンスもしたいところだが、今の優先順位はまずはプレシオサウルスの解体だ。

「……正直、後ろ髪は引かれるんだが、俺はそろそろ解体に行かないと後に予定してる作業に影響が出そうだ」

「いいっすよ。こっちはあたしがすぐに使いたい道具の手入れとかしとくんで。ガクちゃんはダッチオーブンをなる早で使いたいんすよね?」

「そうだな。でも、みさちはいいのか? ゴマフ用の篭を作るんじゃなかったか?」

「それはとりあえず解決したっす」

「キュイ?」

 美岬がゴマフをひょいと抱き上げて蓋を外した大型クーラーボックスに入れる。クーラーボックスの寸法は幅100㌢、奥行き50㌢、深さ40㌢といったところだが、頭から尻尾までの全長で100㌢弱のゴマフでは縁に前ヒレを掛けて立ち上がることは出来ても乗り越えて脱走はできない。

「うん。やっぱりちょうどいいサイズっすね」

「なるほど。これはいい水槽だな」

「普段は放し飼いでいいと思うっすけど、邪魔されたくない時はここに入ってもらっとけばいいかなって」

「そうだな。この子がもう少し大きくなってこのボックスが手狭になったら海の方に柵で囲ったスペースを作ってやるのもいいかもな。大工道具も手に入ったからさほど手間をかけずに作れるだろうし」

 このクーラーボックスについては別の用途も考えていたのだが、まあそれについては後でいいだろう。
 俺は遺品の管理は美岬に任せ、プレシオサウルスを解体するべく小川に向かった。





【作者コメント】
 初期プロットでは二人が遺棄された廃村を見つけてそこで色々と必要なアイテムを物色する予定でしたが、本編ではこの通り徳助大叔父さんから引き継いだという形になりました。
 美岬が洞窟の調査を後回しにしたいと言った件は6日目⑤にあります。
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