【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
154 / 227
箱庭スローライフ編

第154話 15日目①おっさんは大人なキスをする

しおりを挟む
 夜明け前、拠点の外で鳴くゴマフの声で目が覚める。

「…………キュイ。キュイキュイ」

 おそらく美岬を探して這い回っているんだろう。声が近づいたり離れたりしている。
 隣の美岬は俺の腕枕でまだぐっすり眠っているようで、ゆっくりとした深い寝息を立てている。
 昨晩、美岬の膝枕で1時間ほど仮眠させてもらい、その後二人で残っていた作業を終わらせてから改めて拠点で眠りについたのだが、その際に膝枕の返礼として腕枕を要求されて今に至る。

「キュイ。キュイィ……」

 ゴマフには悪いがまだ起きるには早すぎるし、俺もまだ眠いし、熟睡している美岬を起こしたくないので無視を決めこんで再び目を閉じる。すぐに意識が朦朧としてきてウトウトと浅い眠りに落ちる。

「キュイキュイ」

 次に意識を取り戻した時、やけにゴマフの声が近いと思ったらどうやら拠点の入り口を見つけて中に入ってきているようだった。
 美岬は俺と壁の間で寝ているから、ゴマフからは俺の身体の陰になって見えないと思うが、ゴマフの鳴き声で美岬の眠りも浅くなっていたようで、薄目を開けて寝ぼけ声で返事をする。

「……んーもぅ。もうちょっと寝かせてぇ……」

「キュイィ!」

「わ、バカ。お前やめろ」

 美岬の声が聞こえた瞬間、ゴマフが大喜びで這い寄ってきて俺の身体を乗り越えて美岬に近づこうとする。

「え? え? ちょ、どうなってんすかこれ? おふ、ゴマフ? や、待って! くすぐったい! くすぐったいから!」

 寝ぼけているところにゴマフの突撃を受け、現状把握もできないままにゴマフにまとわりつかれて弱い脇腹を鼻先でつつかれてじたばたもがく美岬。俺は腕を美岬に枕にされ、体をゴマフに踏み台にされているのでなかなか動くに動けない。
 ようやくゴマフの首根っこを掴んで美岬から引き剥がすとようやく美岬も一息つけたようだ。

「はー……もう、びっくりしたぁ。えー……なんか暗いっすけど、今何時っすか?」

「4時をちょっと回ったぐらいだな」

「……うわー。昨日は遅かったからもうちょっと寝たいっすけど、このままじゃ無理っぽいっすね」

「キュイ! キュイキュイ!」

「ゴマフが腹を空かせてるみたいだな。とりあえず餌さえ食わして落ち着かせればもう一眠りできるんじゃないかな」

「んー……了解っす。ふあぁ……とりあえず餌を食べさせましょっか。でも何を食べさせたらいいっすかね?」

「そうだな……それなら、俺が何か魚を一匹釣ってくるから、それを内臓ごと潰して海水と混ぜたペーストにしてから食わせてみたらいいんじゃないかな」

「なるほど。じゃあガクちゃんが釣ってくる間、この子はちょっと水際で遊ばせとくっすね」

「おう」

 拠点の外に出れば、辺りは一面真っ白な霧に覆われて空気がしっとりと湿っていた。霧の日は晴れるというから今日はたぶんいい天気になるだろう。

 とりあえずゴマフに食べさせる魚を釣るために釣り道具を準備して岩場に向かう。ちょうど潮が引いている時間だったので適当なカメノテを釣り餌用に採取してから岩場に上がり、根魚が潜んでいそうな良さげな穴に仕掛けを投入すれば、朝マズメの時間でもあったのですぐに竿先にアタリが来る。

 ピクン、ピクン……と竿先が何度か震え、ついにグッと大きくしなった瞬間にこちらも竿を振り上げて合わせ、針を魚の口にしっかりとフッキングさせる。
 ゴン、ゴンと抵抗する魚を水面まで引き上げてくれば、黒っぽくて丸みのある見慣れた魚。すっかりお馴染みの30㌢ぐらいのムラソイだった。
 毒はないし、サイズも手頃だからゴマフの餌にちょうどいいだろう。

 ムラソイをそのまま炊事場に持ち帰り、ゴマフ用に丸ごと潰そうかと思ったが、骨や棘を赤ん坊にそのまま食べさせて喉に刺さったり消化不良になったりしたら大変だし、硬い頭の骨を潰すのはけっこうな重労働になる。むしろ普通に捌く方が俺にとってもゴマフにとっても負担が少ない。
 そんなわけで、三枚卸にして頭と中骨を取り除き、残りの身とハラワタを一緒にサバイバルナイフで叩いてペーストにした。
 それを黒いエチケット袋に入れて波打ち際に持っていく。

 美岬はふくらはぎぐらいが浸かるぐらいまで海に入っていて、その周りをゴマフがスイスイと泳ぎ回っている。誰からも教わらずに普通に泳げるんだから本能というのは凄いな。泳ぎ方はペンギンに似ていて、水の中をさながら飛ぶように泳いでいる。

──パシャッ……トプンッ

「おお、跳んだ」

 ほんの数十センチだが、イルカのように跳ぶこともできるようだ。

「なかなか上手に泳ぐっすよね」

 ばちゃばちゃと波打ち際に美岬が戻ってくるとゴマフも後を追って這い上がってくる。

「この袋に魚の身とハラワタをペーストにしたやつが入ってる。このままだとまだちょっと固いと思うから海水を足して緩くした方がいいと思う」

「了解っす。あざっす」

 美岬が袋の口で海水を掬って中身と混ぜてゴマフを呼ぶ。

「ゴマフ、ご飯っすよ~」

「キュイッ!」

 どうやって餌やりをするのかな、と見守っていると、美岬はゴマフの頭上に顔を近づけてカパッと大きく口を開く。

「キュイィ!」

 ゴマフが喜んで美岬の口に顔を突っ込もうとするのをサッとかわして代わりに餌の入ったエチケット袋にゴマフの顔を突っ込ませる。
 そして袋をゆっくり斜めにして内容物がゴマフの顔の方に流れて行くようにすると、ゴマフが流れてきた物をガツガツと食べるというか飲み込み始める。

「あは。食べてる食べてる」

「ほー、なるほど。昨日の胃袋の中身もこんな感じで食わしたのか」

「そうなんすよ。胃袋だけ差し出しても顔を突っ込んでくれなかったんで、フェイントを駆使して食べさせたっす」

「やるじゃん」

「へっへー」

 ムラソイのペーストを1匹分平らげてゴマフは満足したようだ。空になったエチケット袋から顔を抜いてそれ以上食事をねだる様子も見せない。
 だが、頭から首にかけて魚の汁にまみれてすっかり生臭くなってしまったので、再び美岬が海の中に連れて行き、自由に泳がせて自然に汚れが落ちるようにさせる。

「さて、ゴマフへの餌やりは終わったがみさちはどうする? もう一眠りするか?」

「いやー、なんか完全に目が覚めちゃったんでもうこのまま活動始めるっす。あとでお昼寝は必須だと思うっすけど」

「そうだな。じゃあそうしようか。俺はゴマフの餌用に魚をもう何匹か釣ってから、午前中いっぱいでプレシオサウルスの解体を終わらせようと思ってる。みさちは?」

「んー……そっすね、とりあえずは畑仕事をしてから……あたしたちが相手をしてやれない時にゴマフを入れておくための大きめの篭を作っておくっす」

「ああ。それは必要だな。今朝みたいに寝てるのを邪魔されるのもかなわんし」

「それもっすけど……夫婦の寝室にペットが出入り自由だと、その、困る時もあるじゃないっすか。特に、今夜からは……その、あれですし」

 真っ赤になってゴニョゴニョと言葉を濁す美岬にこっちも顔が熱くなる。

「あ、ああ。うん。そうだな。二人のプライベートな時間はなるべく邪魔が入らないようにしないといけないよな」

「…………」

「…………」

 昨晩、寝る前に精製済みのテレビン油は避妊ゼリーに加工してあるし、頸管粘液の状態を毎日チェックしている美岬いわく、排卵日から確実に一日以上経過しているから危険日は終わったとのこと。つまり、もうこの時点で俺たちのセックスを阻む障害はすべて取り除かれている。

 お互いにそれが分かっているので、そのまま不自然に会話が途切れ、黙ったまま話題を探す微妙に居心地の悪い時間が流れる。
 やがて、美岬が無言のままそっと手を伸ばして俺の手に触れてきたので、俺も黙ったまま手のひら同士を合わせて指を絡めて、恋人繋ぎで握り返す。

 美岬が照れ臭そうに笑い、期待するような眼差しで俺の目をじっと見てから目を閉じて、んっと唇を尖らせる。
 俺は空いた手を美岬の頬に添え、少し屈んで唇を重ねる。

 いつもならこの触れるだけのキスで終わりにするのだが、今日はもう少し先に進み、舌で彼女の唇を軽く突いてみる。すると、彼女の唇も少し開き、恐る恐る出てきた舌が俺の舌に遠慮がちに一瞬だけ触れてすぐに引っ込み、またすぐに出てきて舌の先端同士でチロチロと触れ合う。

 そのまま激しく美岬の唇を貪りたい衝動をなんとか抑えて顔をゆっくりと離せば、透明な唾液が糸を引き、半開きの口元に舌を覗かせたままトロンと潤んだ瞳で頬を赤く染めた美岬が、今まで見たことがないほど“女”の顔をしていて、その色気に一瞬で理性を持っていかれそうになる。
 だが、今はまだダメだ。先にやるべきことをきちんと終わらせないと。
 なけなしの理性をなんとかかき集めて囁く。

「この続きは……また夜にな」

「…………はい」






【作者コメント】
 さて、恋愛パートとしてもグルメパートとしても物語としても大きな区切りになる15日目がいよいよスタートです。予定している内容を全部ちゃんと落とし込めるよう丁寧に描いていきたいと思いますので引き続き応援いただけると嬉しいです。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

処理中です...