【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

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箱庭スローライフ編

第154話 15日目①おっさんは大人なキスをする

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 夜明け前、拠点の外で鳴くゴマフの声で目が覚める。

「…………キュイ。キュイキュイ」

 おそらく美岬を探して這い回っているんだろう。声が近づいたり離れたりしている。
 隣の美岬は俺の腕枕でまだぐっすり眠っているようで、ゆっくりとした深い寝息を立てている。
 昨晩、美岬の膝枕で1時間ほど仮眠させてもらい、その後二人で残っていた作業を終わらせてから改めて拠点で眠りについたのだが、その際に膝枕の返礼として腕枕を要求されて今に至る。

「キュイ。キュイィ……」

 ゴマフには悪いがまだ起きるには早すぎるし、俺もまだ眠いし、熟睡している美岬を起こしたくないので無視を決めこんで再び目を閉じる。すぐに意識が朦朧としてきてウトウトと浅い眠りに落ちる。

「キュイキュイ」

 次に意識を取り戻した時、やけにゴマフの声が近いと思ったらどうやら拠点の入り口を見つけて中に入ってきているようだった。
 美岬は俺と壁の間で寝ているから、ゴマフからは俺の身体の陰になって見えないと思うが、ゴマフの鳴き声で美岬の眠りも浅くなっていたようで、薄目を開けて寝ぼけ声で返事をする。

「……んーもぅ。もうちょっと寝かせてぇ……」

「キュイィ!」

「わ、バカ。お前やめろ」

 美岬の声が聞こえた瞬間、ゴマフが大喜びで這い寄ってきて俺の身体を乗り越えて美岬に近づこうとする。

「え? え? ちょ、どうなってんすかこれ? おふ、ゴマフ? や、待って! くすぐったい! くすぐったいから!」

 寝ぼけているところにゴマフの突撃を受け、現状把握もできないままにゴマフにまとわりつかれて弱い脇腹を鼻先でつつかれてじたばたもがく美岬。俺は腕を美岬に枕にされ、体をゴマフに踏み台にされているのでなかなか動くに動けない。
 ようやくゴマフの首根っこを掴んで美岬から引き剥がすとようやく美岬も一息つけたようだ。

「はー……もう、びっくりしたぁ。えー……なんか暗いっすけど、今何時っすか?」

「4時をちょっと回ったぐらいだな」

「……うわー。昨日は遅かったからもうちょっと寝たいっすけど、このままじゃ無理っぽいっすね」

「キュイ! キュイキュイ!」

「ゴマフが腹を空かせてるみたいだな。とりあえず餌さえ食わして落ち着かせればもう一眠りできるんじゃないかな」

「んー……了解っす。ふあぁ……とりあえず餌を食べさせましょっか。でも何を食べさせたらいいっすかね?」

「そうだな……それなら、俺が何か魚を一匹釣ってくるから、それを内臓ごと潰して海水と混ぜたペーストにしてから食わせてみたらいいんじゃないかな」

「なるほど。じゃあガクちゃんが釣ってくる間、この子はちょっと水際で遊ばせとくっすね」

「おう」

 拠点の外に出れば、辺りは一面真っ白な霧に覆われて空気がしっとりと湿っていた。霧の日は晴れるというから今日はたぶんいい天気になるだろう。

 とりあえずゴマフに食べさせる魚を釣るために釣り道具を準備して岩場に向かう。ちょうど潮が引いている時間だったので適当なカメノテを釣り餌用に採取してから岩場に上がり、根魚が潜んでいそうな良さげな穴に仕掛けを投入すれば、朝マズメの時間でもあったのですぐに竿先にアタリが来る。

 ピクン、ピクン……と竿先が何度か震え、ついにグッと大きくしなった瞬間にこちらも竿を振り上げて合わせ、針を魚の口にしっかりとフッキングさせる。
 ゴン、ゴンと抵抗する魚を水面まで引き上げてくれば、黒っぽくて丸みのある見慣れた魚。すっかりお馴染みの30㌢ぐらいのムラソイだった。
 毒はないし、サイズも手頃だからゴマフの餌にちょうどいいだろう。

 ムラソイをそのまま炊事場に持ち帰り、ゴマフ用に丸ごと潰そうかと思ったが、骨や棘を赤ん坊にそのまま食べさせて喉に刺さったり消化不良になったりしたら大変だし、硬い頭の骨を潰すのはけっこうな重労働になる。むしろ普通に捌く方が俺にとってもゴマフにとっても負担が少ない。
 そんなわけで、三枚卸にして頭と中骨を取り除き、残りの身とハラワタを一緒にサバイバルナイフで叩いてペーストにした。
 それを黒いエチケット袋に入れて波打ち際に持っていく。

 美岬はふくらはぎぐらいが浸かるぐらいまで海に入っていて、その周りをゴマフがスイスイと泳ぎ回っている。誰からも教わらずに普通に泳げるんだから本能というのは凄いな。泳ぎ方はペンギンに似ていて、水の中をさながら飛ぶように泳いでいる。

──パシャッ……トプンッ

「おお、跳んだ」

 ほんの数十センチだが、イルカのように跳ぶこともできるようだ。

「なかなか上手に泳ぐっすよね」

 ばちゃばちゃと波打ち際に美岬が戻ってくるとゴマフも後を追って這い上がってくる。

「この袋に魚の身とハラワタをペーストにしたやつが入ってる。このままだとまだちょっと固いと思うから海水を足して緩くした方がいいと思う」

「了解っす。あざっす」

 美岬が袋の口で海水を掬って中身と混ぜてゴマフを呼ぶ。

「ゴマフ、ご飯っすよ~」

「キュイッ!」

 どうやって餌やりをするのかな、と見守っていると、美岬はゴマフの頭上に顔を近づけてカパッと大きく口を開く。

「キュイィ!」

 ゴマフが喜んで美岬の口に顔を突っ込もうとするのをサッとかわして代わりに餌の入ったエチケット袋にゴマフの顔を突っ込ませる。
 そして袋をゆっくり斜めにして内容物がゴマフの顔の方に流れて行くようにすると、ゴマフが流れてきた物をガツガツと食べるというか飲み込み始める。

「あは。食べてる食べてる」

「ほー、なるほど。昨日の胃袋の中身もこんな感じで食わしたのか」

「そうなんすよ。胃袋だけ差し出しても顔を突っ込んでくれなかったんで、フェイントを駆使して食べさせたっす」

「やるじゃん」

「へっへー」

 ムラソイのペーストを1匹分平らげてゴマフは満足したようだ。空になったエチケット袋から顔を抜いてそれ以上食事をねだる様子も見せない。
 だが、頭から首にかけて魚の汁にまみれてすっかり生臭くなってしまったので、再び美岬が海の中に連れて行き、自由に泳がせて自然に汚れが落ちるようにさせる。

「さて、ゴマフへの餌やりは終わったがみさちはどうする? もう一眠りするか?」

「いやー、なんか完全に目が覚めちゃったんでもうこのまま活動始めるっす。あとでお昼寝は必須だと思うっすけど」

「そうだな。じゃあそうしようか。俺はゴマフの餌用に魚をもう何匹か釣ってから、午前中いっぱいでプレシオサウルスの解体を終わらせようと思ってる。みさちは?」

「んー……そっすね、とりあえずは畑仕事をしてから……あたしたちが相手をしてやれない時にゴマフを入れておくための大きめの篭を作っておくっす」

「ああ。それは必要だな。今朝みたいに寝てるのを邪魔されるのもかなわんし」

「それもっすけど……夫婦の寝室にペットが出入り自由だと、その、困る時もあるじゃないっすか。特に、今夜からは……その、あれですし」

 真っ赤になってゴニョゴニョと言葉を濁す美岬にこっちも顔が熱くなる。

「あ、ああ。うん。そうだな。二人のプライベートな時間はなるべく邪魔が入らないようにしないといけないよな」

「…………」

「…………」

 昨晩、寝る前に精製済みのテレビン油は避妊ゼリーに加工してあるし、頸管粘液の状態を毎日チェックしている美岬いわく、排卵日から確実に一日以上経過しているから危険日は終わったとのこと。つまり、もうこの時点で俺たちのセックスを阻む障害はすべて取り除かれている。

 お互いにそれが分かっているので、そのまま不自然に会話が途切れ、黙ったまま話題を探す微妙に居心地の悪い時間が流れる。
 やがて、美岬が無言のままそっと手を伸ばして俺の手に触れてきたので、俺も黙ったまま手のひら同士を合わせて指を絡めて、恋人繋ぎで握り返す。

 美岬が照れ臭そうに笑い、期待するような眼差しで俺の目をじっと見てから目を閉じて、んっと唇を尖らせる。
 俺は空いた手を美岬の頬に添え、少し屈んで唇を重ねる。

 いつもならこの触れるだけのキスで終わりにするのだが、今日はもう少し先に進み、舌で彼女の唇を軽く突いてみる。すると、彼女の唇も少し開き、恐る恐る出てきた舌が俺の舌に遠慮がちに一瞬だけ触れてすぐに引っ込み、またすぐに出てきて舌の先端同士でチロチロと触れ合う。

 そのまま激しく美岬の唇を貪りたい衝動をなんとか抑えて顔をゆっくりと離せば、透明な唾液が糸を引き、半開きの口元に舌を覗かせたままトロンと潤んだ瞳で頬を赤く染めた美岬が、今まで見たことがないほど“女”の顔をしていて、その色気に一瞬で理性を持っていかれそうになる。
 だが、今はまだダメだ。先にやるべきことをきちんと終わらせないと。
 なけなしの理性をなんとかかき集めて囁く。

「この続きは……また夜にな」

「…………はい」






【作者コメント】
 さて、恋愛パートとしてもグルメパートとしても物語としても大きな区切りになる15日目がいよいよスタートです。予定している内容を全部ちゃんと落とし込めるよう丁寧に描いていきたいと思いますので引き続き応援いただけると嬉しいです。


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