【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
151 / 227
箱庭スローライフ編

第151話 14日目⑭おっさんは海竜を食べる

しおりを挟む
 下処理を終えた内臓肉モツを炊事場に持って戻り、その後、石鹸を手に再び小川に行って血と脂で汚れた身体と衣類を洗ってようやくさっぱりできた。

 雨は一時的に本降りになっていたが今は小雨になり、もうじき上がりそうだ。俺が水浴びから戻るのと入れ替わりで美岬がそっと抜け出して小川に向かう。ちなみにゴマフはちょうど今は遊び疲れて丸くなって眠ってしまっている。
 言ったら怒るだろうが、美岬は初日から完全にママをやってるよなぁ。ゴマフが俺にも少しは懐いてくれれば美岬の負担も減らせられるんだが。

 仮屋根の下は完全には防水じゃないのでそこかしこからポタポタと雨漏りしているが、なにもないよりはずっとましだ。

 かまどではたっぷりのお湯が入った大コッヘルがグツグツと沸騰しており、その横の小さい火床では中コッヘルに入った高濃度食塩水──鹹水かんすいが煮詰められている。まだ鹹水内では塩の結晶化は進んでいないが、飛び散った食塩水が乾いて鍋の縁は白くなり、時折吹きこぼれた塩水が燃えてオレンジの炎が立ったりしている。
 大量の肉が手に入ったのは非常にありがたいことだが、今回の件は完全に予想外のイレギュラーだったので、すでに燻製作りなどで塩をかなり消費していたこともあり、肉の保存に必要になる塩がぜんぜん足りない。今夜中にある程度まとまった量の塩を作っておかないと。

 美岬が戻ってくるのを待つ間に下処理の終わったモツを仕分けてすぐに食べられるものと、さらにアク抜きなどの処理が必要なものに分けていく。

 水洗いだけですぐに使えるものは心臓ハツ、砂肝、卵巣キンカン

 水にしばらくさらして含まれる分泌物さえ流せばすぐに使えるのが胃袋ガツ脾臓チレ

 ある程度しっかりと水にさらした上で、下茹でによるアク抜きが必要なのが肝臓レバー腎臓マメフワ。ただしレバーとマメは火を通しすぎると固くパサパサになってしまうのであくまでも軽く火を通す程度にした方がいい。焼くなら下茹では不要だ。

 臭み抜きのために何度も洗ったり茹でたりが必要になるのが大腸シロモツだ。イノシシなどの獣の場合は小麦粉や牛乳で臭み抜きをするがここでは手に入らないからとりあえず木灰を使っているが、正直、食用に適するところまで臭み抜きができるかは不明だ。
 ただ、水棲生物なので便も固形ではなく、臭いも陸の獣に比べればさほどキツくないのでたぶんなんとかなるんじゃないかとは思っている。


 とりあえず夕食は心臓ハツ肝臓レバー脾臓チレ、砂肝を使った串焼きだな。それ以外の部位は今夜中に下処理を終わらせて明日モツ鍋にしよう。

 まな板にレバーを載せ、今から食べる分だけ食べやすいサイズに切り分け、塩で揉んでからもう一度水にさらせば含まれていた血が抜けて水をピンクに染める。アク抜きの下茹でをせずにそのまま焼くなら、可能な限り水にさらして血を抜いた方がいい。

 赤血球の代謝を司る臓器である脾臓チレは多くの血液を含む臓器なので味はレバーに似ているが、食感はむしろハツに近く、火を通してもあまりパサパサにはならない。
 チレもレバーと同様に切り分けて塩揉みしてからもう一度水に漬け込んで血抜きしておく。

 ハツはただ食べやすいサイズに切り分けて塩で下味をつけておくだけ。砂肝は肉の繊維の向きに直角に切り込みを入れて筋切りしてから下味を付けておく。

 部位ごとに火を通す加減は変わるので、一本の串に同じ種類の肉だけを刺していく。
 串焼きの準備が終わったところに美岬が戻ってきた。

「ふぃー。さっぱりしたっす。雨、止んできたっすね」

「だな。まだやらなきゃいけないことは多いから雨で邪魔されないのはありがたいな。さて、みさちも戻ってきたし、プレシオサウルスのモツ焼きを食べてみるとしようか」

「あは。どんな味なのか楽しみっすね」

「俺もちょっとワクワクしてる」

 かまどから大コッヘルを退かし、火力を上げて火口の上で肉をあぶって焼いていく。
 まずはレバーから。焼きすぎるとパサパサになるし、かといって生だと寄生虫の心配もあるので、ギリギリのラインを見極めながら丁寧に全体を焙り焼きにする。

「よし。こんなとこだろう。一串ずつ順番に焼きながら焼き立てを食べていこうか」

「待ってました」

 焼いている間に美岬が牡蛎皿を二人分準備してくれていたので、そこに串から焼きレバーを外していく。表面はほどよく焼き色と焦げ目が付き、しかし十分な弾力も残っていて、串から抜いた穴からは赤みがかった肉汁が流れ落ち、いかにも旨そうに焼けている。

「さて、じゃあ食べてみるか。味付けはシンプルに塩だけにしてるから」

「いただきますっ!」

 噛んだ瞬間に噛み切れる柔らかい肉の食感と滑らかな舌触り。水にしっかりさらしてなお濃厚な味わい。牛や豚のレバーに比べると臭みやクセはぜんぜん無く、ただクリーミーで旨みが強くて口の中で溶けていくようで。

「うまっ! ちょ、マジすか。これめっちゃ美味しくないっすか!」

「……ホントに旨いな。ちょっと鶏レバーにも似てるけど、それより柔らかくて脂がけっこう乗ってるから……強いて似てる物を挙げるとすればフォアグラかな」

「フォ・ア・グ・ラ! めっちゃ高級品じゃないっすか! あたし食べたことないっすけど、フォアグラってこんな感じなんすか」

「……いや、正直、俺が過去に食べたことがあるどのフォアグラより旨いぞ。フォアグラはもっと脂っこくて味そのものは薄いから、この適度な脂具合と濃厚な旨みはちょっと比べ物にならないな」

「うひゃあ。トリュフに続いてフォアグラ……に似たフォアグラ以上の高級食材を食べてしまったっす」
 
「ちょっとこれは想定外だったな。下処理してる段階で旨そうだとは思っていたがこれほどとは思わなかった。分かっていたらこんな串焼きなんて雑な方法じゃなくてもっとこういい感じの料理にしたのになー」

「あはは。ガクちゃんの中の料理人魂が不満タラタラっすねー。レバーはこれで全部っすか?」

「いや、さすがに全部は多いから1/3ぐらいは残してあるぞ」

「じゃあ、それに期待しとくっす。でもこのシンプルな串焼きもめっちゃ美味しいっすからぜんぜん不満なんてないっすけどね」

「おまかせられ、だ。せっかくだから明日みさちがトリュフを採ってきてくれたら残りのレバーを使って最高に贅沢なメニューを作ってやるよ」

「わぉ! ガクちゃんの本気メニューとかもう期待感しかないっすね。分かったっす。良さげなトリュフを探してくるっすよ。……あたしたちの特別な夜のための特別なディナーっすね?」

 一瞬言われた意味が分からなかったが、頬を赤らめて目を潤ませている美岬の様子にすぐに理解が追い付く。

「……お、おぅ。そうだな。そういう話なら本当に本気でかからなきゃだな」

「うふふ。すっごく楽しみっすね」

「ああ。期待していてくれ。……じゃあぼちぼち次の串も焼いていくとしようか」

 それから、ハツと砂肝とチレを順番に焼いて食べていったが、どれも非常に旨く、久しぶりの肉料理に二人で舌鼓を打ったのだった。





【作者コメント】
 そういえば、魚とかスッポンとか捌いていても脾臓ひぞうはあるけど膵臓すいぞうらしきものは見たことないなーと思って調べてみたら、脾臓が膵臓の役割を兼ねている生物ってけっこういるようですね。勉強になりました。

 あ、ちなみに脾臓ってマイナー臓器なので役割はおろか存在すら知らない人も多いようですね。人間の場合は胃の裏側にありますが、古くなった赤血球を分離して破壊したり、血小板をストックしておいて必要が生じたら血中に送り出すような役割を担っているようですね。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~

霧氷こあ
SF
 フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。  それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?  見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。 「ここは現実であって、現実ではないの」  自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...