【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

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箱庭スローライフ編

第148話 14日目⑪おっさんは海竜を計測する

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 産まれたばかりにプレシオサウルスの子竜はその模様からゴマフという名前になった。抱き上げていたゴマフを地面に降ろしながら美岬が俺に訊ねてくる。

「そういえばガクちゃんはあたしに用事だったんじゃないっすか?」

「あ、そうだ。母竜の血抜きと内臓の処理だけは今日のうちにしておきたいから手伝ってもらいたくてな。内臓を抜く前にきちんと記録もつけておきたいし」

「あー、そっすよね。じゃあ……ゴマフちゃんはどうしましょっかね?」

 相変わらず美岬の足下にじゃれついてキュイキュイ甘えているゴマフ。この様子だと絶対に付いてくるよな。

「うーん、まさかこんなにみさちに懐いてるとは思わなかったからなー。仕方ない。ちょっと大変だけど俺だけでやってみるしかないかな」

「んー……いや、やっぱりあたしも手伝うっす。そもそもあたしがゴマフに四六時中付きっきりなんてできないんすから、あたしが一緒に居られないこともあるってことは早い段階で教えておくべきだと思うっす」

「なるほど。だがどうするつもりだ? 置いていってもたぶん付いてくるぞコイツ」

「とりあえず今日のところは素潜り漁用の蓋付きの浮き篭で我慢してもらおうかなって」

「ああ、あれならちょっと窮屈だろうけど一応入るか。蓋を閉めてトグルボタンを留めておけば自力で逃げ出すことはできないだろうし」

「作業時間もそんな何時間もかからないっすよね?」

「そうだな。今日は下処理だけだから作業全体でも1時間もあれば終わると思う」

「なら大丈夫っすよ。この皮膚の質感からして、イルカやクジラみたいに体表が乾いたら死ぬような感じじゃないっすよね?」

「うん。水棲とはいえ爬虫類だからな。ワニやウミガメと同じで体表は乾いても問題なさそうだな。身体の構造は泳ぐのに特化しているから陸上での運動能力は低そうだけど」

「砂浜や岩場に上がって日向ぼっこなんかもしてるのかもしれないっすね。ワニみたいに」

「そういう習性もあるかもな」

 美岬が砂に両膝をつき、前屈みになってゴマフと目を合わせる。

「さてゴマフちゃん、今から篭に入ってもらうっすけどいい子でお留守番してるんすよ?」

「キュッ! キュウゥッ!」

 美岬にそんなつもりはなかっただろうが、前屈みになって上から顔を近づけ、話しかけるために口を開く動作はゴマフにとってはまったく違う意味があったようだ。

「むぐっ!? やめっ! 何を!」

 ゴマフが首を伸ばして頭を美岬の口に中にねじ込もうとして、美岬が目を白黒させながら慌てて飛び退く。

「キュウゥ!」

 離れた美岬に抗議するように鳴くゴマフの様子に思わずほほうと唸る。

「……これは興味深いな。なるほど、そういうスタイルか」

「げほげほっ! な、なにがなるほどなんすか?」

「いや、今のゴマフには歯がないだろ? だから餌をどうやって食べるのか気になってたんだが、この感じからするとペンギンやペリカンみたいなスタイルっぽいな。親が食べた物を吐き戻して半消化状態で与えるんだろう」

「うげ。じゃあ今のってあたしのゲロを所望してたってことっすか」

「ゲロ言うな。こういうスタイルの生き物は親から半消化の食べ物と共に今後生きていく上で必要な消化酵素やら常在菌なんかも受け継ぐから、産まれたばかりのゴマフにとっては親の吐いた餌を食えるかどうかは割と死活問題だと思うぞ」

「えーでも、それなら人間あたしの吐いたものじゃまずいんじゃないっすか?」

「まあ駄目だろうな。でも幸い、母竜の身体は確保できているからな。胃の内容物をとりあえずゴマフに食べさせてみよう。それで必要な消化酵素なんかを受け継いでくれることを期待するしかないな」

「あー……なるほど。それじゃ母竜の処理も急がなきゃっすね。ゴマフもだいぶお腹空かせてるみたいっすし」

「だな」

 浮き篭にゴマフを入れて蓋を閉め、湿った干潟の砂の上に置く。今はまだ潮が引いている途中だし、干潮のピークは19時過ぎになるはずだからまだしばらくはこのまま置いていても問題ない。

「キュイィィィ! キュイィィィ!」

「うう、ゴマフちゃん、ごめんよぅ。今回は連れていけないんすよぅ」

 置いていかれると悟ったゴマフが篭の中から悲壮感溢れる大声で鳴きまくっているが、今回ばかりは我慢してもらわないとな。

 一度拠点に戻り、すでにだいぶ暗くなってきているのでLEDライトと松明、吊り下げる為のパラコード、記録を付けるための筆記具などの必要な道具を準備して小川のそばの母竜のところに戻る。

「……キュイ……キュイ……」

 この場所からはゴマフは見えないが親を呼ぶ声は断続的に聞こえている。

「胸が痛いっす。早く終わらせてお迎えに行ってあげないと」

「そうだな。急いで終わらせよう」

 この前のシーラカンスの時と同じようにノートに大雑把なシルエットを描き、まずは各部の長さを計測してノートに書き込んでいく。

「全長こそ3㍍あるっすけど、胴体部はウミガメよりスマートだし、首と頭はニシキヘビみたいな感じだからあまり大きいとは感じないっすね。一応これで成体なんすよね」

「ゴマフとは体型も模様も全然違うからな。性成熟していることからも間違いなく成体だな。どこまで大きくなるかは分からんが、たぶん種としてそこまでは大きくならないとは思うぞ」

「なんでそう思うんすか?」

「例えば白亜期のワニ【サルコスクス】は全長11㍍あったし、ウミガメ【アーケロン】は全長4㍍、サメ【メガロドン】は全長16㍍あったが、現生種はどれもずっと小さくなってるだろ? とすれば最大で10㍍ぐらいだった首長竜の現生種が3㍍ぐらいになっていてもおかしくない」

「まあ確かにそう考えるのが妥当っすね」

「あとはゴマフのサイズとの比較だな。化石の記録からもプレシオサウルスが母体に対してかなり大きな子供を産んでたことは確かで、実際にゴマフの場合、母親3㍍に対してだいたい1㍍ぐらいはあるから比率的にも化石の記録と合致する。この母竜がここから更に成長して5㍍や6㍍ぐらいになるってことはたぶんないだろうとは思うな」

「なるほど。生き残るために小さくなったか、元々小さめの種が生き残ったかって感じなんすね」

「俺は元々小さめの種が生き残った説しだな。白亜期末期の大型種のエラスモサウルス属に比べるとかなり首が短いから、別種の小型プレシオサウルス属だと思うんだよな」

「フタバスズキリュウとは違うんすか?」

「フタバスズキリュウもエラスモサウルス属だから胴体より首がだいぶ長いから別種だろうな」

「ほーん。つまり完全な新種なんすね。さしずめカミシマタニガワリュウってとこっすか」

「ハマザキは入れなくていいのか?」

「もう結婚してるからあたしもタニガワっすよ。谷川美岬……うへへ」

「あー……そういえばそうだったな」

 しゃべりながらも計測は進めていき、出揃ったデータはこんな感じだ。

 全長3㍍,うち頭部が20㌢,首が1㍍,胴体が1.3㍍,尾が50㌢。
 胴体の一番太い辺りの横幅が70㌢で胴回りが2.2㍍。
 ヒレは前肢が1枚辺り長さ1㍍で最大幅30㌢の笹型,後肢も形は同じだが長さ80㌢で最大幅25㌢とややスケールダウン。ただし後肢はかなり食い千切られているので推定値となる。
 尾は横幅に比べて縦幅がある偏平状になっており、泳ぐ時の舵の役割も担っているようだった。この尾の構造は化石からの復元想像図には無い特徴だな。骨格以外の軟組織の特徴はミイラ化石でも出土しない限り想像に頼るしかないから実物と復元想像図が違うことはよくあることだ。

 とりあえず外見の計測はできたから次は内臓を調べてみるとしよう。









【作者コメント】
 この作品はあくまでフィクションです。プレシオサウルスに関する描写もあくまでこの作中限定のものですゆえ、へぇープレシオサウルスの生態ってそうなんだーとか真に受けちゃダメですよ。もちろんある程度は事実をベースにしていますが作者の想像と仮定で補っている部分もかなりありますので。

 
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