【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
142 / 227
箱庭スローライフ編

第142話 14日目⑤おっさんは弁解する

しおりを挟む
 昼食の片付けをざっと済ませて、空いた大コッヘルに水を入れてそこに午前中に拾ってきたスダジイのドングリをざざーと袋から流し入れて水選別にかけている間に焼き物用の火床に向かう。

 火床の中心部で燃やしていた小枝や落ち葉や枯れ草はすでにすっかり燃え尽きて灰の山になっている。
 革手袋を装着し、スコップを手に俺だけ火床に降りる。焚き火を囲うように並べていた土器は素手では触れないぐらい熱くなっていた。これなら内部の水分もしっかり抜けているだろう。

「いい頃合いだな」

 スコップで灰の山を掘り、そこに土器を固めて置いてから熱い灰を被せて覆い、それをさらに覆うように薪を組んでいく。
 まずは松ぼっくりと松の小枝、その外側にやや太めの小枝を被せ、その外側に少し大きめの薪を組んでいく。

 火をつければ松ぼっくりと松の小枝が一気に燃え上がって周囲の小枝に燃え移り、やがて大きい薪にも火が移ってメラメラと燃え始める。

「熱っつ! まあこんなとこだろ」

 火の傍が熱くなってきたので火床の外の美岬のところまで退避する。

「こんな普通の焚き火でいいんすか。もっと特殊な焼き方をするのかと思ってたっす」

「焼きの第一段階はこれでいいんだ。これが燃え尽きたあとの第二段階では、灰から掘り出した土器の周囲に薪を井桁いげたに組んでがっちり覆って焼くけどな」

「あ、なるほど。そういうことっすか」

「さて、火力も安定したし、一旦戻って第二段階の焼き用の薪だけ準備したら休憩しようか。だいたい1時間ぐらいはゆっくりできるだろ」

 そう言うと美岬がすかさず腕を組んでくる。

「ご休憩っすね」

「ごを付けるだけで何故かやらしい感じになるけど、今回はあくまで昼寝なのでそこんとこは間違えないように」

「はぁい。でもイチャイチャはするのであった」

 イタズラっぽく笑いながら上目遣いでペロッと舌を出してみせる美岬。女というのは何処でこういうあざとい仕草を覚えてくるんだろう? 確かに可愛いけどさ。


 炊事場に戻ってきて、まずはやりかけのドングリの水選別の続きをする。これはなにも難しくはない。虫食いや未熟果は軽くて水に浮くから、そういうドングリだけを掬って取り除くだけだ。この時、混ざっていた小枝や枯れ葉も一緒に浮いてくるからついでに取り除く。

 水に沈んでいるドングリは水切りして干しておく。
 ただ、この水選別をしたドングリは皮が水分を吸ってしまっているのですぐにカビてくる。今日のように曇っている日はちゃんと乾かないから早めに処理しないといけないだろうな。

 そして土器を焼くための薪も準備する。といっても薪そのものは十分にあるので、井桁に組んだ時に下の方になる大きめの薪が、あまり早く燃えてしまわないように水を掛けて濡らしておく程度だ。

「さて、とりあえずこれで一区切りだな。昼寝はどこでする?」

「ここの屋根の下が落ち着くんでここで!」

「おけ。じゃあ、丸太椅子とかけてスペースを確保しようか」

 この炊事場も下は砂地だから昼寝するのには特に支障はない。今までは屋根がなかったから日が照っている時は眩しくて暑くて昼寝出来るような環境じゃなかったが、今は屋根もあるし曇っているから外気もそう暑くない。

 椅子やクーラーボックスなどを除けて、かまどの前に横になれるぐらいのスペースを作る。

「それで、俺はどういう風にすればいいのかな?」

「ガクちゃんは普通に仰向けに寝転がってほしいっす」

「はいよ」

 両手を頭の後ろで組んで仰向けに寝そべると、美岬は俺の右横に膝をついて座り、俺の腹の上にそっと手を伸ばしてきたので思わず腹筋に力が入る。  
 そして美岬の手のひらがシャツの上から俺の腹を撫でる。

「おお、シャツ越しでも分かるすごい腹筋っすね。でも、今これ力入れてるっすよね? 力抜いてほしいっす」

「お、おう」

 意識して腹の力を抜けば、美岬が手のひらで何度か撫でたり押したりして、にへらっと笑う。

「あは。硬すぎず柔らかすぎず、いい感じっすね。えへへ、じゃあ失礼して……」

 美岬が顔を俺の方に向けたまま、右側を下にした姿勢で横になって俺の腹を枕にし、ふぃーと満足気に息を吐く。

「はうぅ……至福っす」

 リラックスモードで身体の力が抜けるのに伴い、腹に美岬の頭の重さがかかってきて、案外人間の頭って重いんだなぁという、かなりどうでもいい感想が頭によぎる。

 俺の腹に右側の頬を乗せて枕にしている美岬は、なんかめちゃくちゃ嬉しそうに俺の腹に頬擦りしていて、その仕草に昔実家で飼っていた猫を思い出した。
 そいつもかなりの甘えん坊で、俺が寝に行くといつもベッドに潜り込んできては、俺の懐のお気に入りポジションで喉をゴロゴロ鳴らしながらスリスリと甘えるのが常だった。その姿と今の美岬が重なり、俺は昔猫にしていたのと同じように手を伸ばして美岬の喉から顎にかけてを軽く掻いてやる。

「やん。それはちょっとくすぐったいっすよぅ」

「あ……つい癖で」

「むっ! まさか、今あたしになっちゃんを重ねた?」

 美岬の身体がピクッと強ばり、腹に感じていた重さがふっと軽くなり、やや剣呑な雰囲気を感じたので慌てて弁解する。

「違う違う! 猫! 昔、実家で飼ってた猫!」

「…………」

 俺の目をジーッと見てくる美岬をまっすぐに見返すと、やがて美岬の目がふっと和らぐ。

「…………猫ちゃんならいいっすけど、スキンシップ中こういうときに元カノと重ねられるのはちょっと……というか、かなりざっくりと女心が傷つくっすからね?」

「……おう。肝に銘じておくよ。誰よりも大事な嫁さんを傷つけるなんて俺も望んでないからな」

「……まあその、どうしても思い出しちゃう時はあると思うっすけど、その時はせめてあたしに気付かれないようにしてほしいっす」

「…………おけ。優しいな美岬は」

 美岬の顎に触れていた手を頭の方に移動させ、優しく髪を撫でてやれば、次第に強ばっていた身体から力が抜けていき、美岬は柔らかく微笑み、再び俺の腹に重さを預けてきた。
 この重さは彼女からの信頼の重さだ。そのことを忘れないようにしようと決意を新たにした昼下がりだった。







【作者コメント】
 前にも書いたかもですが、虫入りドングリは外見からは分かりません。いわゆる穴開きドングリは、すでに虫が出ていった後の状態なので、まだ中にドングリ虫が入ってるヤツにはまだ穴が開いていないのです。
 親虫はドングリがまだ未成熟なうちにごく小さな穴を開けてドングリ内に卵を産み付けるので、最初の穴はドングリの成長と共に塞がって分からなくなります。
 ただ、虫が食ってるドングリは軽いので水に浮かびます。虫入りドングリを避けたいなら、水に入れて浮いたヤツだけを取り除く水選別が一番手っ取り早いです。子供が拾ってきたドングリから虫が出てくるとか無理! と思う親御さんにもおすすめの方法ですよ。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...