【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

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箱庭スローライフ編

第138話 14日目①おっさんは手と口を滑らせる

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 隣で寝ていた美岬の身動みじろぎで意識が浮上する。でも今日はやけに眠たくて、意識はあるのになかなか身体が起きてくれない。普段は眠りが浅くてすぐに起きられる俺にしてはこういうのは珍しい。
 ごそごそと美岬が起き出すのが分かったが、俺はまだ夢現ゆめうつつの境界でまだ寝ていたいという欲望に抗えずにいた。

「……ふぁぁ……んー……あれ? 珍しい……ガクちゃんがまだ寝てるなんて……ふふっ」

 美岬の独り言と俺の頬に触れる手の感触に引き上げられるように急速に意識が覚醒していき……。

──……チュッ

 俺の唇をついばむような柔らかい感触に思わず目を開けば、まだ薄暗い拠点の見慣れた岩天井を背景に視界いっぱいの美岬の顔がまず目に入り、至近距離でバッチリ目が合った美岬がいたずらが見つかった子供のように分かりやすく『しまった』という表情を浮かべ、照れ隠しでにへらっと笑う。

「あ……っちゃあ。起こしちゃったっすか」

「…………んー…………うん、今起きた。なんというかあれだな。愛する嫁ちゃんのキスで目覚めるとか、考えうる限り最高の朝だな」

「ふふっ。そう思うんならあたしのこともそうやって起こしてくれてもいいんすよ?」

「んー? いや、普段からしてるんだけどな。寝ぼすけの誰かさんはそれぐらいじゃ起きないんだよ」

「ぬな? え? ちょっと待って! なにそれ? あたしが寝てるのをいいことにそんなことしてるんすか?」

「おっと、口が滑った」

 そのままおもむろに手を伸ばして美岬の頭の後ろからぐっと引き寄せて唇を奪う。

「んんーっ!? ……ぷはっ。もぉ! いきなり強引っすよ」

「すまん。手が滑った」

「絶対それ、口も手も滑ってない故意犯っすよね」

「なぜバレたし」

「隠す気すらないじゃないっすか。……おふざけはこれぐらいにして、ガクちゃんがあたしより起きるのが遅かったのは、体調が悪いとかそういうのじゃないっすよね?」

 ちょっと心配そうな表情を浮かべる美岬の頭を撫でてやる。

「おう。体調はいいぞ。……そうだな、昨日はみさちに話を聴いてもらって……なんか心が軽くなってぐっすり眠れたからだろうな。いつもより眠りが深かった気がする。ありがとな」

「へへっ。そういうことならいいっすけど。でもそろそろ起きないと」

「だな。起きようか。でもその前に……もうちょっと嫁分補充させて」

 美岬を抱き寄せてギュッとハグする。

「…………なんか……いや別に嫌とかじゃなくてむしろ嬉しいんすけど、なんか昨日までと距離感というか、甘々感が増してません?」

 ちょっと戸惑い気味の美岬。

「そう……かな? 言われてみればそうかもな」

 ずっと心の中でしこりとなっていた菜月の件を美岬に受け入れてもらえたことで、知らず知らずのうちに美岬との間にあった透明な壁がなくなったように感じる。きっとこれは理屈とか理論じゃなく、俺が本当の意味で美岬に対して心を開けたということなのかもしれない。

 だから俺は美岬を抱きしめたまま素直な気持ちでその言葉をささやく。

「愛してるよ美岬。絶対に幸せにするからな」

「…………ガクちゃん、それは違うでしょ」

「え? なんで?」

「そこは幸せにするじゃなくて、一緒に幸せになろうじゃないっすか? あたしもガクちゃんを幸せにしたいと思ってるんすよ?」

「ふふ。そうだな。二人で一緒に幸せになろうな」

 そして二人で至近距離で見つめあい、もう一度唇を重ねる。




 拠点の外に出れば、空は一面に薄雲がかかっていた。これはだんだん天気が下り坂になっていって雨になる感じかな。濡れたら困る作業は今日中に終わらせておかないといけないな。

「今日は曇りっすねぇ。まだ晴れ間は見えてるし雲も薄いからすぐには降らないと思うっすけど」

「そうだな。だんだん崩れてくるかもな。とりあえず炊事場の上に簡単な屋根を付けるのと、土器を焼くのは午前中に終わらせなきゃだな」

「そっすね。とりあえず、まずはおトイレに行ってそのまま畑仕事を先に済ましてくるっすね」

「おう。行ってら」

 交替でトイレで用を足し、美岬が畑の世話をしに行ってくれている間に俺はかまどの火を起こして湯を沸かし始め、また新居の建設用に取り分けてある丸太と乾燥中の葦と藤蔓を使ってかまどを含む炊事場の上に簡易の屋根を掛ける。

 日差しやちょっとした雨程度ならしのげる程度の簡易小屋──あずま屋みたいなものだからお湯が沸くのを待つ間の20分程度ですぐできる。

 まず3本の丸太を丈夫な藤蔓で束ねて三脚トライポッドにする。これを4セット作り、かまどを中心に四隅に配置し、4本の丸太をトライポッド同士を繋ぐように上の三又部分に掛けて互いに渡して、上から見れば四角形の辺を構成するようにする。
 トライポッド同士を繋ぐ4本の丸太を梁材として、その上に別の丸太を並べていって仮屋根とする。といってもまだ確保している丸太の数が少ないので屋根というより骨組みみたいなものだ。
 そしてその上に、並べた丸太と交差する向きで乾燥中の葦の束をそのまま並べていく。葦の束もまだ数が少ないので隙間なくとまではいかないが、それでも日除けとある程度の雨宿りができるぐらいの屋根にはなった。

 そうこうしているうちに畑から美岬が戻ってくる。

「やー、すごいっすね。なんかみるみるうちに炊事場に屋根ができちゃってワクワクしたっす」

「トライポッドを組んでその上に丸太や葦をただ載せただけだからな。ただ、この構造の場合、トライポッドを束ねて結んでいる紐が切れたらすべてが崩れ落ちるから、この部分だけは丈夫にするのが大事だけどな」

「なるほど。だから篭に使うぐらいの太い藤蔓を何重にも巻いてるんすね」

「そういうことだ。この簡易屋根は新居作りの時にまたバラして建材に使う予定だからな。すぐにバラせるようにほとんど固定しない簡単な構造にしてるんだ」

「ふむふむ。屋根の葦は干すのも兼ねてるんすか?」

「正解だ。冬枯れしていない青葦は立て掛けて乾かしてると曲がってくるし、かといって地面に並べてると接地面が腐ってくるから、こんな風に宙に浮いた状態にしておく方がいいと思ってな」

「んー、それなら束のままより一度ほどいてバラバラにしといた方がよく乾くんじゃないすかね?」

「確かにそうだな。あとでほどいておこう。とりあえず軽く腹ごしらえしようか」

 今日もやることは多いので、葛粉で強めにとろみをつけた燻製魚のスープだけの簡単な朝食で済ませる。ちなみに葛粉は同じ重さの砂糖とほぼ同量のカロリーがあり、多めの葛粉でとろみをつけたスープは消化吸収も早いので即効性の高いエネルギー源となる。その分腹が減るのも早いが。

「昨日の夜がめっちゃ贅沢だった分、朝はこれぐらいでちょうどいいっすね」

「やっぱり昼間の明るいうちにやりたい作業は多いからなー。特に朝は食事の支度は手早く終わらせたいんだよな。晩飯はそれなりに凝ったものを作る時間もあるけど」

「簡単でも凝ってても全部美味しいから文句なんかないっすけどね」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。さて、じゃあぼちぼち動こうか」

「そっすね。ごちそうさまっす」









【作者コメント】
 以前は分かっててわざとやる悪戯の比喩として確信犯という言葉をよく使っていたのですが、最近は専ら故意犯という言葉を使っています。

 なんか確信犯という言葉の本来の意味は、信念に基づいて正しいと信じて犯罪を行う人ってことらしいですね。例えば宗教信条に基づいて聖戦と信じて自爆テロをするテロリストとか、人類の進化に必要と信じて非道な人体実験をするマッドなサイエンティストとか。
 対する故意犯という言葉は、悪いと分かってて、自分のやることの結果を理解した上で犯罪をする人を指す言葉なので、一般的な用法として使われる、比喩としての確信犯のニュアンスはむしろこっちかなーと思いまして。
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