【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
132 / 227
箱庭スローライフ編

第132話 13日目⑩おっさんは高級食材を料理する

しおりを挟む

 素潜り漁を終えて拠点に戻ったのが午後6時頃。箱庭は日が陰っているとはいえ、まだ日暮れまでは時間があるので十分明るい。

「潮で身体中ベッタベタなんでちょっと先に小川で水浴びしてきていいっすか?」

「もちろん。美岬が行ってる間に俺は食材の下処理とかやっとくからゆっくりしてきな」

「わぁい。あざっす! じゃ、ちょっとさっぱりしてくるっすね」

 美岬が石鹸と着替えを持って軽い足取りで小川に向かうのを見送り、俺は晩飯の支度を始めた。

 晩飯用の食材はまずトリュフ、そしてトリュフを活かすためにわざわざ釣ってきたムラソイ。これは外せない。以前、フレンチの店で食べたのは白身魚のムニエルに薄くスライスしたトリュフがトッピングされたものだったが、淡白な白身魚がトリュフの風味をよく引き立てていた。今回はムニエルにはできないが、白身の淡白さをトリュフの風味が活きるように活用すればいいわけだから蒸し調理がいいと思う。

 そして美岬が素潜り漁で獲ってきたアワビとタイラギ貝。これは鮮度こそ命の食材だから刺身一択だろう。アワビは可食部位が多いから一部はムラソイの身と共に蒸してもいいだろう。

 さっそく魚と貝の下処理から始めよう。

 ムラソイは鱗を落とし、三枚に卸し、中骨とあばら骨を除去して、皮を剥いで可食部位のみになった半身が二枚。これが今日のメイン食材だ。塩とハマゴウの粉をまぶして下味をつけておく。
 骨や皮やカマなどのアラはいつものように水で煮て出汁取りをしておく。

 ムラソイの次はアワビだ。アワビの腹足には砂や藻などが付着しているので、最初に塩を刷り込み、水洗いして汚れとぬめりを落とす。
 アワビの殻には片側に穴が並んでいるが、その反対側の殻の裏に貝柱があって殻と身を繋いでいるので、ナイフを縁から差し入れて貝柱を切り離せば身が殻から綺麗に外れる。

 殻が外れたアワビの身は、中心に貝柱があり、その周りをぐるりと囲むように消化器や肝などの内臓がある。この内臓は手で簡単に取り外せる。一番大きい内臓が一般的に肝と呼ばれているが、実はこれは肝臓ではなく生殖器官であり、オスの精巣は白く、メスの卵巣は緑がかった黒をしている。珍味であるが人によって好き嫌いが別れる部位でもあるので使うかどうかは美岬に聞いてからにしよう。

 内臓を取った後、口や触角や神経系などが集中している頭部をナイフでV字に切り取って残った部分──腹足と貝柱が可食部位となる。
 この処理の簡単さと可食部位の多さがアワビの食材としての優秀な部分だな。

 そして最後はタイラギ貝だ。見た目は巨大なムール貝で、殻は黒っぽい緑色をしている。サイズは殻長30㌢、殻幅15㌢のなかなかの大物だ。まったく人手の入っていないこんな海でもなければこんな浅い場所にこんな大物はまずいないだろう。
 ただ、このタイラギ貝は殻の大きさの割に意外と可食部位は少ない。大小の二つある貝柱と外套膜がいとうまく──貝ヒモぐらいだ。
 殻は薄く光を透かすので、貝柱の場所はすぐに分かる。ナイフで貝柱を切り離して殻を開け、貝柱を外し、貝ヒモを他の内臓から外す。貝柱と貝ヒモはそのまま生食できる。特に大きい方の貝柱をスライスしたものは高級寿司ネタだ。

 とりあえず食材の下処理としてはこんなところだな。ちょうど美岬も戻ってきたし、ここから本格的に料理していこうか。

「ありゃ、下処理全部終わっちゃってる? ゆっくりしすぎちゃったっすか?」

「そんなことないぞ。アワビとタイラギ貝の下処理なんてすぐ終わるからな。ちょうど良かった、ハマダイコンのカイワレを10本ぐらい採ってきてもらえるか?」

「あい。おまかせられっ」

 タイラギ貝の貝ヒモを食べやすいサイズに切り分け、美岬が採ってきたカイワレを刻んで叩いてペーストにして貝ヒモと和え、塩味で調えてとりあえず1品『貝ヒモのみぞれ和え』完成だ。

「そうだ、ちょっと聞こうと思ってたんだが、美岬はアワビの肝の味は苦手じゃないか? いけるなら刺身用の肝醤油にしようと思ってるが」

「大丈夫っす。普通にいけるクチっす」

「おけ。じゃあ肝醤油だな」

 このアワビはオスだったらしく白い肝をすりつぶして出汁醤油と混ぜて肝醤油を作る。味見してみれば極めて新鮮なので生臭さはまったく無くまろやかで深みのある味わいのソースになっていた。

 タイラギ貝の殻は皿として良さげなので、タイラギ貝の貝柱とアワビの身の半分を刺身にして盛り付け、貝ヒモのみぞれ和えも添える。

「わぁ。めっちゃ贅沢な刺身っすね」

「これは本土じゃ気楽には食えんぞ」

「あは。この島、食材のレベルじゃ完全に上流階級っすもんね」

「料理人としてはこういう食材を気楽に扱えるってのはめっちゃ幸せなんだけどな。あとは調味料さえ揃ってれば文句なしなんだが」

 仕込んだ調味料が使えるようになるまでにはまだしばらくはかかる。せっかく高級食材が色々あるのに調味料の種類の少なさは俺にとってはかなり不満なのだが、美岬にはそうでもなかったようだ。

「そうすか? これだけ豊富なバリエーションでお料理を作れるならもう十分すぎるぐらいだと思うっすよ。ダーリンが毎回美味しいお料理を作ってくれるから、あたしつい食べ過ぎちゃうんすけど」

 嬉しいことを言ってくれる美岬に口許がにやけるのを感じ、照れ隠しに美岬の頭をわしゃわしゃとする。

「言っとくけど、今日のメインはこっちじゃないからな。これから作る白身魚とトリュフの料理がメインディッシュだ」





【作者コメント】

 昔から肝って呼ばれてるからてっきり肝臓だと思ってたのにまさか卵巣や精巣だったとは。執筆の為に資料を調べてて初めて知りました。巻き貝って両性具有だと思いこんでいましたが雌雄あるやつもいるんですね。

 サザエとかでも個体によって肝が白かったり緑だったりする長年の謎が解けました。そして、肝が苦かったり苦くなかったりする理由も。卵巣の方が苦味が強くて精巣の方はそうでもないらしいのでどうぞご参考までに。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...