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箱庭スローライフ編
第113話 12日目③おっさんはシーラカンスから脂を取る
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解体してみた結果、これは間違いなくシーラカンスだと確信した。少なくとも、俺が知っているシーラカンスの特徴は全て備えていた。
1枚あたり数㌢ある大きな鱗は表に見えている部分はごく僅かでほとんどの部分は別の鱗と重なりあって隠れており、その下の皮も厚く固いのでかなりの強度がある。まるで中世の騎士のスケイルメイルのようだ。これなら手モリでは突いても刺さらずに跳ね返されるだろう。
シーラカンスは一応は硬骨魚類に属しているが、その骨は全て軟骨質なので、強度不足を補えるよう、外骨格の要素を備えた厚く固い皮と鱗を持っているのかもしれない。
皮を剥いだ身の肉質は脂っぽい白身で、同じ白身でもソイのような筋肉質ではなく、普段からあまり動かしていないことが窺えた。全身を固い皮と鱗に覆われたシーラカンスは、普通の魚のように身体をくねらせて泳ぐのが得意ではなく、普段は手足のように発達した胸ビレや腹ビレを使って泳ぎ、尾ビレは基本的に方向転換用の舵として使っているという説はおそらく正しいのだろう。
実際、胸ビレや腹ビレは胴体の身の質とは全然違う発達した筋肉質になっていて脂っぽさも殆どない。
「この肉鰭だけはそれなりに旨そうな肉質だが、試しに食ってみるか?」
美岬の目がキランと光る。
「おぉ! ガクさんが食べられそうだと判断するなら食べてみたいっす」
「まあ、腹を下す原因はあくまで脂だから、これだけ筋肉質ならたぶん大丈夫だと思うんだよ。とりあえずこの肉鰭だけは別にしておこう」
「下痢になったら腸内洗浄のデトックスと思えばいいっすよ。んふふ、昭和天皇陛下すら侍従たちに止められて食べさせてもらえなかった幻の魚がどんな味か楽しみっすね」
「マニアックなネタ知ってるな」
胸ビレと腹ビレを関節から切り落とし、内臓を傷つけないように注意しながらまず腹を裂き、半回転させて背中をこちらに向け、軟骨でできている軟らかい脊柱に傷をつけないように注意しながら頭を付けたままの3枚卸し……いや、この場合は大名卸しだな。背中側からナイフを入れていき、脊柱から半身を剥がして内臓が腹腔内に収まったままの状態で見えるようにする。ちなみに肋骨は無かった。
内臓の状態を確認してみてまず思ったのは、構造そのものは普通の魚とほぼ同じだな、ということだ。サイズや形の差こそあれ、内臓の配置は普通の硬骨魚類のものなので、どれがどの内臓かだいたい分かる。
シーラカンスの特徴としては、浮き袋が大きくて長く、中に空気ではなく液体脂が満たされていること。肝臓が大きいこと。腸が巻き貝の殻のような螺旋型になっていることなどがあるが、それらの特徴はすべて当てはまった。
「あとは胃袋の中身を見てみたいが、ここでやるのはまずいから消化器だけ持って一旦波打ち際に移動するぞ」
「あー」
食道から直腸までの消化器だけを切り外し、中身が出ないように両端を持って波打ち際に走る。美岬もノートとシャーペンを持ってついてくる。
そこで膨らんだ胃袋を切り開いてみれば、悪臭と共に溶けかけた内容物が出てくる。
「うわっ! 臭っさ!」
「ぶっちゃけゲロだからな」
胃袋の中身は丸飲みされた15㌢ぐらいのムラソイ、磯ガニ、海草類、そして……。
「……うわ、マジか! 浅海モデルのシーラカンスがいる時点で確かにいても不思議じゃないが」
まだ消化されていない完全な形を残したままの5㌢ぐらいの甲殻類を取り出せば美岬が目を見開く。
「え? ええ!? えーと、それ……フナムシの親戚とかじゃあないっすよね?」
「かなり遠い親戚ではあるから当たらずとも遠からずではあるが……。ただ、この胴体中央部が盛り上がっていて、両サイドが薄くなっているこの構造こそが名前の由来なんだよな。中央部と両サイドの3つの部分が重なりあった3枚の葉に見える──三葉虫の」
特に古生物に詳しくなくても誰もが知っているであろう有名すぎる太古の甲殻類──三葉虫。ただ、シーラカンスやアンモナイトが滅んだとされる白亜期末の大絶滅よりもずっと昔のペルム期末の大絶滅ですでに絶滅したとされており、その生存は今に至るまで確認されていない。
だが、シーラカンスの胃袋から出てきたこいつは確実に昨日までは生きていた。そして、ここにはまず間違いなく生きた個体も棲息している。
ペルム期と白亜期の大絶滅を三葉虫が生き延びてこの島で今も棲息しているという意味──それはすなわち、この島と周辺の環境が太古の昔から今に至るまでずっと激変せずに安定していたということだ。
「ガクさん、これって大発見じゃないっすか?」
「ああ。シーラカンスどころじゃないとんでもない大発見だ! この様子ならもしかしたらアンモナイトとかもいるんじゃないか?」
「うわぁ! めっちゃ見たいっす! 生きたアンモナイトってどんな感じなんすかねぇ? イカっぽいのかタコっぽいのか、もしくは貝なのか」
「はは。ワクワクしてきたな。もしいたらなんとか捕まえてみたいな」
「是非とも味見もしてみたいっす」
「ブレないな。確かに俺も気にはなるが。……まあ、それは今は置いておこう。今はシーラカンスを調べてる途中だしな」
「この三葉虫はどうするっすか?」
「いずれ生きた個体も捕まるとは思うが、とりあえず持って帰って記録だけ取っておこう。さすがに胃袋から出てきたこれは食わんけどな」
「ですよねー」
それから胃袋や腸の内容物を出して丁寧に洗った消化器は持ってかえる。これもきちんと下茹で処理をすればモツとして食えると思う。
思わぬ大発見でちょっと脱線してしまったが、その後も記録を取りながらシーラカンスの解体を進めていく。
空気の代わりに脂が詰まった浮き袋は魚体のサイズに比較してかなり大きい。長さはだいたい30㌢ほどある。脂は水よりは軽いとはいえ、空気よりはずっと重いので、脂を浮き袋として使うにはサイズを大きくする必要があるのだろう。
もう1つの目立つ大きな内臓は肝臓だ。これは腹腔内のスペースの1/3以上を占めている。このへんの構造は鮫や深海魚とも共通する部分だから、おそらくそれらと同様に多くの脂──肝油が採れるだろう。
もしかするとこの島のシーラカンスは若いうちは比較的浅い海にいて、大きくなると深い海に移動するのかもしれない。
とまあそんな考察をしつつも、シーラカンスの解体が終わり、次は脂の回収だ。
シーラカンスから取れる脂は3種類。体表の粘液と混ざったワックス、浮き袋や脊柱内に液体状態である脂、内臓や身に含まれている脂だ。
このうち、処理の手間が少ないのが浮き袋や脊柱内の液体脂だからまずはこれを回収していこう。
直径5㌢ぐらいで長さ30㌢ぐらいの白い水風船のような浮き袋を取り出し、中コッヘルの上でその真ん中あたりに切り込みを入れれば、ドロリと半透明の液体脂が流れ出てくる。浮き袋を端からこそいで中身をしっかりと絞り出す。
シーラカンスの脊柱は中空のパイプ状になっていて、内部に脂が満たされているとのことなので、頭から繋げたままの状態で残してあったが、中コッヘルの上で軟骨質の脊柱を断ち切ってみれば、ドロドロと脂が流れ出てきて、浮き袋の脂と合わせればそれだけで中コッヘルの半分ぐらいになった。脊柱の固さはせいぜいチクワぐらいなので、ある程度自然に流れ出たら端からこそいで残った分を絞り出す。
内臓や身に含まれる脂を手っ取り早く抽出するには煮るのが一番簡単だ。ただ水から煮ると大量の灰汁が混じってしまって分離が面倒になるので、沸騰した湯に身を入れて一瞬で表面を熱で固めることで灰汁が出にくいようにする方がいいだろう。
大コッヘルで湯を沸かしながら、その間に内臓や身を細かく切っておく。それだけで手もナイフも脂でギトギトになってしまった。
湯が沸いたら、一番最初にさっき海で洗ってきた消化器を茹でる。これは一応食用にするつもりだから脂で湯が汚れる前に優先して下茹でをする。茹でるうちに浮いてきた脂をお玉で掬って中コッヘルに移し、茹で上がったホルモンは別に取り分けておく。
次いで肝臓を茹でると大量の脂が浮いてきたのでそれもお玉で掬って中コッヘルに移し、茹で上がった肝臓そのものは一旦篭に別にして冷ましておきながら身や皮も茹でて浮いた脂をどんどん回収していく。
最初に表皮を覆っていたワックスも湯で一度溶かし、分離した脂だけを回収する。
ここまでで茹でる作業は終わりだが、茹で上がった肝臓や身にはまだ脂が含まれているので、身を搾って残った脂も集めることにする。
不織布で冷めた身を包んで手でゆっくりと握って圧をかけていけば内部に残っていた水分と脂が混ざった液体がにじみ出てくるので、その液体を大コッヘルに残った湯に落としていく。水分は湯に混じり、脂は浮かぶので簡単に分離できる。
「うわー、手がべとべとのギトギトっすよ」
「すごい脂だな。だが、これだけあればしばらくは石鹸や灯油に不自由しないな」
「それはありがたいっす。ところで、今回作る石鹸に精油で匂いつけちゃダメっすか?」
「そりゃかまわんが、俺は精油の抽出はやったことがないから分からんぞ」
「大丈夫っす。それはあたしが部活でやってたんで。たぶん漂流中に作った簡易蒸留器の応用でできると思うんす」
「そうか。なら、この脂を取り終わったら、美岬は精油作りをやってもらっていいか? 俺はまだ不純物が多い脂を精製する作業をしておくから」
「おまかせられ!」
最終的に1匹のシーラカンスから採れた脂は1㍑近くになった。
【作者コメント】
ラードが欲しい時とか、作者は豚バラを茹でて浮いた脂を回収して使います。ただ、浮いた脂を回収しただけだと水分も多く含まれるので、その水混じりの脂を一旦冷蔵庫に仕舞います。冷やせばラードは固体になり水は液体のままなので、水だけ捨ててラードを残します。残ったラードを鍋で加熱してわずかに残った水分を蒸発させ、不織布で濾して肉片などを取り除けば純粋なラードが残ります。
1枚あたり数㌢ある大きな鱗は表に見えている部分はごく僅かでほとんどの部分は別の鱗と重なりあって隠れており、その下の皮も厚く固いのでかなりの強度がある。まるで中世の騎士のスケイルメイルのようだ。これなら手モリでは突いても刺さらずに跳ね返されるだろう。
シーラカンスは一応は硬骨魚類に属しているが、その骨は全て軟骨質なので、強度不足を補えるよう、外骨格の要素を備えた厚く固い皮と鱗を持っているのかもしれない。
皮を剥いだ身の肉質は脂っぽい白身で、同じ白身でもソイのような筋肉質ではなく、普段からあまり動かしていないことが窺えた。全身を固い皮と鱗に覆われたシーラカンスは、普通の魚のように身体をくねらせて泳ぐのが得意ではなく、普段は手足のように発達した胸ビレや腹ビレを使って泳ぎ、尾ビレは基本的に方向転換用の舵として使っているという説はおそらく正しいのだろう。
実際、胸ビレや腹ビレは胴体の身の質とは全然違う発達した筋肉質になっていて脂っぽさも殆どない。
「この肉鰭だけはそれなりに旨そうな肉質だが、試しに食ってみるか?」
美岬の目がキランと光る。
「おぉ! ガクさんが食べられそうだと判断するなら食べてみたいっす」
「まあ、腹を下す原因はあくまで脂だから、これだけ筋肉質ならたぶん大丈夫だと思うんだよ。とりあえずこの肉鰭だけは別にしておこう」
「下痢になったら腸内洗浄のデトックスと思えばいいっすよ。んふふ、昭和天皇陛下すら侍従たちに止められて食べさせてもらえなかった幻の魚がどんな味か楽しみっすね」
「マニアックなネタ知ってるな」
胸ビレと腹ビレを関節から切り落とし、内臓を傷つけないように注意しながらまず腹を裂き、半回転させて背中をこちらに向け、軟骨でできている軟らかい脊柱に傷をつけないように注意しながら頭を付けたままの3枚卸し……いや、この場合は大名卸しだな。背中側からナイフを入れていき、脊柱から半身を剥がして内臓が腹腔内に収まったままの状態で見えるようにする。ちなみに肋骨は無かった。
内臓の状態を確認してみてまず思ったのは、構造そのものは普通の魚とほぼ同じだな、ということだ。サイズや形の差こそあれ、内臓の配置は普通の硬骨魚類のものなので、どれがどの内臓かだいたい分かる。
シーラカンスの特徴としては、浮き袋が大きくて長く、中に空気ではなく液体脂が満たされていること。肝臓が大きいこと。腸が巻き貝の殻のような螺旋型になっていることなどがあるが、それらの特徴はすべて当てはまった。
「あとは胃袋の中身を見てみたいが、ここでやるのはまずいから消化器だけ持って一旦波打ち際に移動するぞ」
「あー」
食道から直腸までの消化器だけを切り外し、中身が出ないように両端を持って波打ち際に走る。美岬もノートとシャーペンを持ってついてくる。
そこで膨らんだ胃袋を切り開いてみれば、悪臭と共に溶けかけた内容物が出てくる。
「うわっ! 臭っさ!」
「ぶっちゃけゲロだからな」
胃袋の中身は丸飲みされた15㌢ぐらいのムラソイ、磯ガニ、海草類、そして……。
「……うわ、マジか! 浅海モデルのシーラカンスがいる時点で確かにいても不思議じゃないが」
まだ消化されていない完全な形を残したままの5㌢ぐらいの甲殻類を取り出せば美岬が目を見開く。
「え? ええ!? えーと、それ……フナムシの親戚とかじゃあないっすよね?」
「かなり遠い親戚ではあるから当たらずとも遠からずではあるが……。ただ、この胴体中央部が盛り上がっていて、両サイドが薄くなっているこの構造こそが名前の由来なんだよな。中央部と両サイドの3つの部分が重なりあった3枚の葉に見える──三葉虫の」
特に古生物に詳しくなくても誰もが知っているであろう有名すぎる太古の甲殻類──三葉虫。ただ、シーラカンスやアンモナイトが滅んだとされる白亜期末の大絶滅よりもずっと昔のペルム期末の大絶滅ですでに絶滅したとされており、その生存は今に至るまで確認されていない。
だが、シーラカンスの胃袋から出てきたこいつは確実に昨日までは生きていた。そして、ここにはまず間違いなく生きた個体も棲息している。
ペルム期と白亜期の大絶滅を三葉虫が生き延びてこの島で今も棲息しているという意味──それはすなわち、この島と周辺の環境が太古の昔から今に至るまでずっと激変せずに安定していたということだ。
「ガクさん、これって大発見じゃないっすか?」
「ああ。シーラカンスどころじゃないとんでもない大発見だ! この様子ならもしかしたらアンモナイトとかもいるんじゃないか?」
「うわぁ! めっちゃ見たいっす! 生きたアンモナイトってどんな感じなんすかねぇ? イカっぽいのかタコっぽいのか、もしくは貝なのか」
「はは。ワクワクしてきたな。もしいたらなんとか捕まえてみたいな」
「是非とも味見もしてみたいっす」
「ブレないな。確かに俺も気にはなるが。……まあ、それは今は置いておこう。今はシーラカンスを調べてる途中だしな」
「この三葉虫はどうするっすか?」
「いずれ生きた個体も捕まるとは思うが、とりあえず持って帰って記録だけ取っておこう。さすがに胃袋から出てきたこれは食わんけどな」
「ですよねー」
それから胃袋や腸の内容物を出して丁寧に洗った消化器は持ってかえる。これもきちんと下茹で処理をすればモツとして食えると思う。
思わぬ大発見でちょっと脱線してしまったが、その後も記録を取りながらシーラカンスの解体を進めていく。
空気の代わりに脂が詰まった浮き袋は魚体のサイズに比較してかなり大きい。長さはだいたい30㌢ほどある。脂は水よりは軽いとはいえ、空気よりはずっと重いので、脂を浮き袋として使うにはサイズを大きくする必要があるのだろう。
もう1つの目立つ大きな内臓は肝臓だ。これは腹腔内のスペースの1/3以上を占めている。このへんの構造は鮫や深海魚とも共通する部分だから、おそらくそれらと同様に多くの脂──肝油が採れるだろう。
もしかするとこの島のシーラカンスは若いうちは比較的浅い海にいて、大きくなると深い海に移動するのかもしれない。
とまあそんな考察をしつつも、シーラカンスの解体が終わり、次は脂の回収だ。
シーラカンスから取れる脂は3種類。体表の粘液と混ざったワックス、浮き袋や脊柱内に液体状態である脂、内臓や身に含まれている脂だ。
このうち、処理の手間が少ないのが浮き袋や脊柱内の液体脂だからまずはこれを回収していこう。
直径5㌢ぐらいで長さ30㌢ぐらいの白い水風船のような浮き袋を取り出し、中コッヘルの上でその真ん中あたりに切り込みを入れれば、ドロリと半透明の液体脂が流れ出てくる。浮き袋を端からこそいで中身をしっかりと絞り出す。
シーラカンスの脊柱は中空のパイプ状になっていて、内部に脂が満たされているとのことなので、頭から繋げたままの状態で残してあったが、中コッヘルの上で軟骨質の脊柱を断ち切ってみれば、ドロドロと脂が流れ出てきて、浮き袋の脂と合わせればそれだけで中コッヘルの半分ぐらいになった。脊柱の固さはせいぜいチクワぐらいなので、ある程度自然に流れ出たら端からこそいで残った分を絞り出す。
内臓や身に含まれる脂を手っ取り早く抽出するには煮るのが一番簡単だ。ただ水から煮ると大量の灰汁が混じってしまって分離が面倒になるので、沸騰した湯に身を入れて一瞬で表面を熱で固めることで灰汁が出にくいようにする方がいいだろう。
大コッヘルで湯を沸かしながら、その間に内臓や身を細かく切っておく。それだけで手もナイフも脂でギトギトになってしまった。
湯が沸いたら、一番最初にさっき海で洗ってきた消化器を茹でる。これは一応食用にするつもりだから脂で湯が汚れる前に優先して下茹でをする。茹でるうちに浮いてきた脂をお玉で掬って中コッヘルに移し、茹で上がったホルモンは別に取り分けておく。
次いで肝臓を茹でると大量の脂が浮いてきたのでそれもお玉で掬って中コッヘルに移し、茹で上がった肝臓そのものは一旦篭に別にして冷ましておきながら身や皮も茹でて浮いた脂をどんどん回収していく。
最初に表皮を覆っていたワックスも湯で一度溶かし、分離した脂だけを回収する。
ここまでで茹でる作業は終わりだが、茹で上がった肝臓や身にはまだ脂が含まれているので、身を搾って残った脂も集めることにする。
不織布で冷めた身を包んで手でゆっくりと握って圧をかけていけば内部に残っていた水分と脂が混ざった液体がにじみ出てくるので、その液体を大コッヘルに残った湯に落としていく。水分は湯に混じり、脂は浮かぶので簡単に分離できる。
「うわー、手がべとべとのギトギトっすよ」
「すごい脂だな。だが、これだけあればしばらくは石鹸や灯油に不自由しないな」
「それはありがたいっす。ところで、今回作る石鹸に精油で匂いつけちゃダメっすか?」
「そりゃかまわんが、俺は精油の抽出はやったことがないから分からんぞ」
「大丈夫っす。それはあたしが部活でやってたんで。たぶん漂流中に作った簡易蒸留器の応用でできると思うんす」
「そうか。なら、この脂を取り終わったら、美岬は精油作りをやってもらっていいか? 俺はまだ不純物が多い脂を精製する作業をしておくから」
「おまかせられ!」
最終的に1匹のシーラカンスから採れた脂は1㍑近くになった。
【作者コメント】
ラードが欲しい時とか、作者は豚バラを茹でて浮いた脂を回収して使います。ただ、浮いた脂を回収しただけだと水分も多く含まれるので、その水混じりの脂を一旦冷蔵庫に仕舞います。冷やせばラードは固体になり水は液体のままなので、水だけ捨ててラードを残します。残ったラードを鍋で加熱してわずかに残った水分を蒸発させ、不織布で濾して肉片などを取り除けば純粋なラードが残ります。
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