【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
109 / 227
箱庭スローライフ編

第109話 11日目⑧おっさんはだっこする

しおりを挟む
 最後にシーラカンスとしか思えない怪魚を釣り上げたことで釣り対決は美岬の勝利で終わり、美岬は賞品である俺の“腹筋を枕にする権利”を手に入れた。まあ俺にとってはいずれにせよ美岬といちゃつけるのでどっちに転んでも得しかなかったわけだが。

 とりあえず持って帰るのはアイナメ6匹とタケノコメバル2匹と暫定ざんていではあるがシーラカンス1匹。
 希少なシーラカンスをリリースしないのか、と環境保護団体の怒りの声が聞こえてきそうだが、そもそもこれが本当にシーラカンスかどうかも調べてみないと分からないしな。
 もし本当にシーラカンスだった場合、身はめちゃくちゃ不味い上に食べたら下痢になるらしいから食用にはできないが、代わりに俺たちにとって必要なある素材・・・・が手に入るはずだから決して無駄にはならない。

 獲物を持って拠点に一度戻るが、燻製にするつもりのないシーラカンスだけは〆て血抜きだけしてから小川の冷水に沈めにいく。一晩ぐらいならふやけたり痛んだりはしないから、明日、明るくなってからきちんと記録を取りながら解体しようと思う。

 ということで、シーラカンスは先送りにして、それ以外の釣ってきた魚の燻製への加工を始めよう。もうすっかり暗くなっているのでスウェーデントーチに火を灯して火明かりで作業する。
 
 魚の加工に先駆けて、吊るして干す場所を準備する。
 いつも使っている干し網の方は、今は葛粉の乾燥に使っているので、別に簡単な物干し竿のようなものを作った。まずは3本の同じぐらいの長さの木の棒を束ねて端の方を1箇所ゆるく縛り、縛っていない方を拡げて三脚トライポッドにする。
 同じものをもう1つ作り、2つのトライポッドの間に真っ直ぐな棒を渡せば物干し竿の完成だ。

 じゃあ次は燻製用の魚の下処理と味付けだ。晩飯の仕度もしなくちゃいけないから協力してさっさと終わらせるとしよう。
 まずは魚の入ったクーラーボックスとまな板を波打ち際に持っていき、そこで2人で魚の鱗をナイフでこそぎ落とし、頭を切り落とし、内臓を抜いて海水で腹腔内を洗って綺麗にした。
 クーラーボックス内を洗ってから綺麗な海水を入れ、そこに処理の終わった魚の身を漬け込んで塩味を浸透させておく。とりあえずこのまま夕食が終わるまで置いておけばいい感じに味が付くだろう。

 残った魚の頭と内臓だが、内臓の方は処分し、頭の方は出汁取り用に残しておく。
 小川の冷蔵用の石囲いから昼に処理して冷やしてあったタケノコメバルの身とアラを回収してきて、まずはアラと魚の頭を大コッヘルに入れてヒタヒタの水で火に掛けて加熱していく。

 浮いてくる灰汁アクをお玉で掬いながらしばらく煮ればいい感じに出汁が出るので、料理用の小篭と不織布を使って出汁を濾し、骨に付いていた食べられる身は丁寧に骨から外して出汁に戻しておく。その出汁に昼の残りのスープを混ぜればもうそれだけでかなり旨い。

 俺が出汁取りをしている間、美岬にはジュズダマの殻剥きをしてもらっていた。ペンチを使って1つ1つ手作業で剥いていくのでまだまだ先は長そうだが、すでに剥き終わっている分から晩飯に使う分を少し貰う。

 魚のほぐし身がたっぷり入ったスープにジュズダマも加えてしばらくグツグツと煮て柔らかくする。
 塩で味を調えてから、乾燥中の葛粉を少し水で溶いて加えてとろみをつけ、最後に細かく刻んだ三つ葉を散らせばシンプルな雑炊の完成だ。

 骨取りして冷やしてあったタケノコメバルの身はほどよく締まっていたのでそのまま刺身にして牡蠣皿に盛り付け、貝出汁醤油を垂らしかける。……もう晩飯はこれだけでいいかな。

「今回はシンプルに雑炊と刺身だけな。本当は他のメニューも考えてたんだが、なんか今日はやけに疲れたから簡単なものだけになってしまった」

 そう言うと美岬に呆れられてしまった。

「いや、そりゃ疲れるでしょうよ。だってガクさんあたしが起き出す前から雑木林に行って作業してたじゃないっすか。お昼にちょっと休憩しただけでその後もずっと働きづめだったんすから疲れて当然っすよ。あたしはこれで十分っす。ガクさんの美味しい料理が食べれるだけで幸せっすよ」

「……そうか、ありがとう。だが、今はまだやらなきゃいけないことが多すぎてそうそう休んでもいられんからな」

 スローライフというものはただでさえ時間と手間がかかるものだが、俺たちはまだその前段階。その日を生きていくのに必要な物資をかき集めつつ、生活に必要な道具を手作りで準備しているところだからのんびりなんてしていられない。うかうかしているとすぐに冬になってしまうだろう。

「確かにまだまだ色々足りてないっすもんね。あたしにも仕事割り振っておいてくれたら手空きの時にやっとくっすよ?」

「そうだな。今でも十分やってくれてると思うが、またやってもらえることを考えておく。さあ、すっかり遅くなったが夕食にしようか。腹へっただろ?」

「そっすねー。なんか疲れたのと眠いのとお腹すいたのがごっちゃになって変な感じっす……ふぁ」

「美岬もだいぶお疲れモードだな」

「そっすね、あたしもけっこう疲れてるっす」

 なんかふわふわしながらあくびをする美岬。
 電池切れ寸前だな。これは飯食ったら寝落ちするやつだ。

 夕暮れ時に釣りをして、釣った魚の処理をして、それから夕食作りに取りかかったからすでに時間は9時近くなっている。食べ終わったら美岬には先に寝てもらってもかまわないが、俺はクーラーボックス内の塩水に漬け込んでいる魚を干すだけはしなきゃいけないな。

 お互いにお疲れモードなのであまり会話もなく黙々と食事を食べ終わると、案の定美岬が膝の上に空の牡蠣皿とスプーンを乗せたままコックリコックリと船を漕ぎ始める。地面に落とす前に食器は取り上げておく。

「おーい、寝るなら寝床に行って寝ろー」

「…………んー……でも、お魚の……作業が……」

「無理すんな。それぐらい俺がやっとくから先に寝ていいぞ」

「……うぅ……でもぉ……歯磨きもしなきゃ……」

「はいはい。じゃあ歯ブラシ取ってきてやるから歯磨きして寝に行きな」

 拠点から美岬の歯ブラシを取ってきて渡すがボーッとしていて一向に歯を磨く様子がないから俺が歯磨きをしてやる。

「ほれ、歯をイーッてして」「いー」

──わしわしわし……

「はい、次はアーンして」「あー……」

──わしわしわし……

「ほい、終わり。最後はゆすいで」「んー……クチュクチュ……ペッ」

 寝ぼけながらも素直に言われるままに歯磨きを終えた美岬を撫でてやる。

「はい、よくできました。じゃあもう寝に行きな」「だっこして」「……はいはい」

 俺の首の後ろに両腕を回して正面から抱きついてきた美岬を持ち上げて拠点に運んで行くが、触れ合っている胸から服越しでも美岬にバクバクとした心音が伝わってくる。

「……寝ぼけた振りしてるのは分かってるぞ」

「う……バレてたっすか」

「そりゃこれだけ心臓バクバクさせてりゃなぁ。まあ可愛かったし美岬の柔らかさを堪能できてるから俺は一向にかまわんけどな。うん。あの「だっこして」はめっちゃ可愛かった」

「……うう~、もう降ろしてほしいっす」

 今になって恥ずかしくなってきたのだろう。美岬が身体を離してずるりと地面に降り立つ。顔が真っ赤になっているのが暗くても分かる。

「残念」

「何が残念っすか。もぅ。ガクさんはたまにイジワルっす」

 拗ねた口調でそう言いながら美岬が拠点ではなくかまどの方に戻ろうとする。

「おや、寝に行くんじゃないのか?」

「今ので目が覚めちゃったっすよ。だから食事の片付けと魚を干すのを終わらせてから寝るっす」

「そうか、すまんな。じゃあそれだけ一緒に終わらせるか」

 使った食器と調理器具を洗って乾かし、魚の処理の続きをする。

 頭を落として腹を裂いた状態で塩水に漬け込んでいたアイナメとタケノコメバルの表面の水分を拭き取り、爪楊枝ぐらいの小枝を腹腔内でつっぱり棒にして腹腔を開いた状態にして、尻尾の付け根のくびれ部分を輪にした紐で縛り、その紐の輪に物干し竿を通すことで、魚を尻尾を上にして物干し竿から吊るす。
 8匹の魚を全部同じようにして物干し竿に吊るせば今日の作業はすべて終了だ。この魚はある程度水分が抜けるまで干してから燻して燻製にする。とりあえず明日1日も干せば十分だと思うが。

「終わったっすねぇ……ふぁ」

 一時的には目が覚めたものの、作業をしているうちにまた眠気を催してきたらしい美岬があくびをする。

「おう、お疲れさん。最後まで手伝ってくれてありがとな。これでやることは全部終わったから気兼ねなく寝ていいぞ」

「んー……ダーリンももう寝るっすか?」

「ああ。俺も歯磨きとトイレだけ済ましてから寝るぞ」

「あー……じゃああたしもおトイレだけ行ってくるっす」

 LEDライトを持ってトイレに向かう美岬を見送り、俺も歯磨きを済ませ、戻ってきた美岬と交代でトイレを使ってから2人で寝床に向かう。
 盛り砂の上に断熱シートを被せただけの寝床もいいかげんになんとかしたいと思いつつもなかなか改善できずにいる。1日の活動を終えて寝るときには疲れきっているので寝心地の悪さがあまり気にならないというのもあるが。

 寝床に並んで横になれば、美岬がモゾモゾと動いていつものお気に入りのポジション──俺の左腕を枕にして身体ごとこちらに向けて膝を曲げるいわゆる胎児の姿勢、に落ち着く。本人曰く一番安心できるらしい。

 美岬が活動限界なのは言うまでもなく、俺も疲れていたので横になった瞬間に睡魔が襲ってくる。
 普段は寝る前にちょっと会話したりもするのだが、今日はお互いにおやすみの挨拶すら交わさず、水に落とした石が一瞬で沈むように、俺の意識は深い闇に沈んでいった。








【作者コメント】

いつも仕入れにいく業務用スーパーで緑豆を見つけたので買ってきてちょっと試しに育ててみたら、なんか水に浸けた次の日には芽が出始めてあっという間に育ちはじめて、先日ついに豆の収穫ができました。水に浸けた日を記録していなかったので確かなことは言えませんが、2ヶ月も経っていないような気がします。収穫した豆を水に浸けたらまたすぐに芽が出たので今度はちゃんと記録を取りつつ収穫までの期間を計ってみます。

11日目が終了なのでリザルト回も投稿します。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...