【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
106 / 244
箱庭スローライフ編

第106話 11日目⑤おっさんは癒し癒される

しおりを挟む
 昼食後に少し休憩してから、午後からも食材集めを再開する。これまでは貝や魚を長期間保存する手段がなかったので、数日以内に消費できる分だけを捕っていたが、これからは熱風乾燥や燻蒸くんじょうにより、ただの天日干しの干物よりもずっと長く食料を保存できるようになるから今回は加工することを前提にかなり多めに捕ることにする。

 塩漬けや天日干しだけの場合、食材に付着している腐敗の原因となる菌は、活性が下がっているだけで死滅していないのであまり長くは保存できないが、熱風乾燥の場合は熱殺菌ができるし、燻す場合は煙に含まれる殺菌成分が食材の内部まで浸透して防腐効果を発揮するので腐りにくくなる。加工後にきちんと管理すれば数ヵ月単位で保つようになり、すでに火が通っているのでそのまま食べれるというのも大きなメリットだ。

 今は料理にかなりの時間を割いているが、加工保存食があれば作業に集中したい時に食事を簡単に済ませることもできるようになる。また、食事の度に拠点に戻らなくても加工保存食を携行すれば行動範囲を広げることもできる。加工保存食の開発は箱庭の奥地にまで探索の手を広げるにあたって必要なことと言えるだろう。



 今日は小潮で昼間の干潮のピークが午後の4時前ぐらいになるので、俺と美岬は潮が引いているうちにまずは潮干狩りをすることにした。乾物に加工して保存する前提なので、アサリなどの小物はとりあえず無視して、身の大きいハマグリ、赤貝、岩牡蠣などを採集することにする。

「貝掘りのついでに掘った穴を利用して楯干たてぼしのトラップも仕掛けておこうか」

「たてぼしっすか? でもあれは漁網がいるんじゃないっすか?」

「そこはまあ工夫次第ってとこだな。貝を掘って出来た潮溜まりプールの周囲を葦で囲んで、プールに獲物が留まりやすくすることができればそれで十分だと思うんだ。そんなわけで、ちょっと材料の葦を取ってくるから美岬はこのまま貝掘りを続けててくれるか?」

「あい。了解っす」

 拠点に一度戻り、今朝俺が刈り取ってきた葦を一束抱えて美岬のところに戻れば、美岬もよく心得たもので、干上がった砂地を直径1㍍ぐらいの円形に掘り、出た砂を穴の周囲に積み上げてカルデラのような形にしてくれていた。
 潮干狩りの方も疎かにはしておらず、そばに置かれた篭には大きいハマグリがすでに何個か入っている。

「……はー……あれだけの説明でよくここまで察してくれたな」

「んふふ♪ 阿吽の呼吸ってやつっすね。言葉足らずなダーリンの意図を汲み取ってこそのいい嫁っすよね」

「いい嫁だな。……ふむ。これだけ察しが良いなら、これからは言葉でわざわざ愛情表現しなくてもよさそうだな」

「は? なに言ってんすか! そんなん駄目に決まってるじゃないすか! ダーリンがあたしのことをだぁい好きなのは重々承知してるっすけど、だからと言って愛情表現を怠っていい理由にはならないっす!」

 冗談のつもりだったが地雷を踏み抜いてしまったようでガチで怒られてしまった。

「すまん。本気じゃないからそう怒るな。可愛い顔が台無し……でもないか。怒った顔も普通に可愛いな。しかも怒ってる理由が可愛すぎてつい顔がにやけてしまうな」

「……んもう! なんすかそれ!」

 怒るに怒れなくなった美岬が顔を赤らめつつも、それでもポーズとして頬を膨らませる。そんな美岬の頭に手を伸ばして撫でてやる。

「俺も作った料理を、美岬がいつも美味しいって誉めてくれるのが嬉しいからな。感謝とか愛情表現とか誉める言葉っていうのは言わなくても伝わる部分もあるけど、やっぱりちゃんと口に出して相手に伝えるのが大事だよな」

「……むぅ。それを分かってて、あたしをからかったんすね」

 頭を撫でていた手を背中に滑らせて軽く抱き寄せる。

「ごめんて。……俺は本当に美岬のことが大好きだし、一緒にいられて本当に嬉しいし、心から信頼してるし、これからもずっと一緒にいたいと思ってる。毎日美岬の新たな一面を知って日々惚れ直してるんだ。こんな最高に可愛い彼女を持てて俺は本当に果報者だと思ってるよ」

「…………っ!」

 詫びの気持ちも込めて本心を打ち明けると、美岬が俺の背中に両手を回し、グリグリと頭を押し付けてきた。

「……もう、好きすぎて辛いっす。好きって気持ちが大きくなりすぎて、この気持ちを伝える言葉を持ってなくて、どうしようもなくもどかしいっす! まるで子供みたいっすけど、大大大大大だいっ好きっす!」

「大丈夫、大丈夫。美岬のその言葉にできない部分も態度でちゃんと伝わってるから。俺も美岬への想いは言葉と態度でちゃんと伝えるように努力するからな」

「んふ♪ じゃあ、次にすることは分かるっすよね?」

 美岬が顔を上げて目を閉じて唇をんっと付き出してきたので、俺も黙って唇を重ね、美岬の頭を優しく撫でてやった。

 やがて、どちらともなく自然に離れ、美岬が照れくさそうにはにかむ。

「……へへ。なんかうまく言えないっすけど、幸せで満たされてるっていうか、愛されてる感がすごくて……お腹一杯食べた後みたいに満ち足りてしまったっす」

「心の必要が満たされた感じ?」

「そう、それっす!」

「それを、癒された状態っていうんじゃないか?」

「それだっ! めっちゃ癒されてしまったっす。これで午後からも頑張れるっす」


 お互いに癒し癒された後で、美岬が円形のカルデラ状に掘ってくれた穴を利用して楯干しトラップを作っていく。

 ちなみに楯干しというのは潮の干満差を利用して、満潮時には海に沈むが干潮時には干上がる場所に『コ』の字や『く』の字型に網を仕掛けて、満潮時に網の内側に入り込んだ魚が干潮時にそこに取り残されているのを捕まえる漁法のひとつだ。

 俺たちがやる楯干しトラップは、カルデラ状に掘った穴の陸地に向いた側を開けてΩオメガ型にして、開口部以外に30㌢ぐらいに切った葦を2、3㌢の等間隔で地面に刺して柵で囲むというものだ。
 潮が引く時、海水と小さな魚は柵の隙間から出て行くが、大きな魚は柵の内側のプールに留められる。潮が完全に引く前に入った場所から出ていけば問題ないが、うっかりプールに留まってしまった間抜けな奴は干潮の間ずっとそこに閉じ込められるというわけだ。
 この内湾は波が穏やかで貝掘りのために掘った穴が数日間は埋まらずに残っているからこそできる方法だな。
 通常の波のある海岸でやる場合は美岬が言っていたように、支柱となる太い柱を海中に立て、その間に網を張って魚が逃げられないようにする。

 何ヵ所か場所を移動しながら貝掘りをして、貝掘り跡の潮溜まりを利用した楯干しトラップをさらに仕掛けておく。このトラップのいいところは魚を弱らせず、放っておいても自然消滅するので環境に優しいところだ。
 ロストしたり放置されたりした釣具や漁具による環境破壊は大きな問題になっているが、こういうトラップはメンテナンスをすれば使い続けることができるが放置すればすぐに自然に還るから環境破壊の心配はしなくていい。

「こういう罠を仕掛けるのって何が捕れるかワクワクするっすよね」

「そうだな。ヒラメとかカレイみたいな平たい砂地の魚が捕れたらいいなとは思ってるけどな」

「なるほど~。ヒラメ美味しいっすもんね。捕れたらいいっすね」


 干潮が終わるまでに砂地でハマグリと赤貝、岩場で岩牡蠣を集めて一度拠点に戻ってきた。日が暮れる頃のマズメ時を狙って岩場で釣りをしようと思っているが、それまでにはまだ数時間あるので今のうちに捕ってきた貝類の下処理を終わらせ、主食のジュズダマやスダジイのドングリ集めをしておこう。





しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...