80 / 225
箱庭スローライフ編
第80話 8日目⑧おっさんたちは農業計画を修正する
しおりを挟む
トマト無しのブイヤベースみたいな具だくさんの海鮮スープが完成したので、刺身の仕上げの方に取り掛かろう。
まな板を綺麗に洗い、クーラーボックスに立て掛けて水気を切り、それを待つ間に小川に行って冷たい水を酌んでくる。
まずは焼き霜造り用のアイナメの身を水気の切れたまな板の上に出し、小枝を何本かナイフで削って串にして、アイナメの身に扇状に刺していく。
それから炙った身を冷ますための冷水を中コッヘルに準備し、かまどに乾いた小枝を何本かまとめて投入して一気に炎を燃え立たせる。
燃え上がった炎でアイナメの皮側を炙っていけば、熱で縮んだ皮に引っ張られて身の縁が反り返り、皮下脂肪がパチパチと弾けて香ばしい匂いが漂う。皮に焼き目がついたところで身を中コッヘルの冷水に落とし、余熱で内部まで熱が通らないように冷ます。
もう1枚の身も同じように皮を炙って冷水で冷まし、焼き霜処理を終える。
「ほへ~これが焼き霜造りっすか。鰹のタタキと似たような感じなんすね」
「そうだな。鰹のタタキ──土佐造りの場合は皮だけじゃなくて全体を炙るところが違うが作業としてはほぼ同じだな。それじゃ、盛っていくから皿を2枚準備してもらっていいか?」
「あいあいっ!」
美岬が準備してくれた皿2枚それぞれの半分まで焼き霜造りを食べやすいサイズに切りながら盛っていく。
次いでクーラーボックスからクロソイの身も取り出す。皮を下にして頭側を右に、尾側を左にしてまな板の上に置き、尾の方から順に身を薄く削ぐようにして薄造りの刺身にしていく。
身に斜めにナイフの刃を入れ、皮に当たったら皮を切らないようにナイフの刃を寝かせて身を皮との境目で切り離して皿に盛る。
ソイの刺身はグリグリとしっかりした歯応えが特徴でフグにも似ているので、透明感のある身越しにナイフの刃が透けて見えるぐらいの薄さに削いでいくのがコツだ。あまり厚く切ってしまうと口の中で噛み切りにくく、いろいろ台無しになってしまう。
ソイの身を全部刺身にし終わって、最後に皮が残るが、この皮も熱を加えれば美味しく食べられるので、適当なサイズに切って大コッヘルのスープの中に混ぜておく。スープはまだ熱々だからこれだけですぐに熱は通るだろう。
「よし、これで一通り完成だな。食べるか!」
「わぁっ! 待ってました! もうお腹ペコペコっすよぅ」
作業を終えたまな板を洗い、クーラーボックスの上に裏返して置いてテーブルにして、真ん中に海鮮スープの大コッヘルを置き、空きスペースに刺身を盛った皿とスープ用の取り皿を並べる。
丸太の椅子を持ってきてクーラーボックスを挟んで向かい合わせに座り、二人で揃って手を合わせる。
「「いただきます」」
さっそく刺身から、と思ったところで醤油を忘れていることに気づいて拠点から昨日作ったばかりの貝出汁醤油を取ってくる。
俺が戻ってくると美岬が俺の分も海鮮スープをよそってくれていた。
「お、さんきゅ」
「どいたまっす。それにしても……ほんとに具だくさんなスープっすねぇ。いや、これをスープと呼んでいいものか」
美岬が自分の手に持った皿を見ながら小首を傾げる。殻付きのムール貝、ちぎったタコ、魚の白身、カメノテの身がてんこ盛りになっているそれは確かにスープと呼ぶには無理がある。
「そうだなー、そもそもブイヤベースはスープというよりどっちかと言えばごった煮だからな」
「そういえばブイヤベースってなんなんすか?」
「おっとそこからか。ブイヤベースは地中海に面した南フランスのプロヴァンス地方名物の海鮮煮込み料理で、魚、貝、甲殻類や頭足類なんかをハーブやトマトと一緒に煮込んだものだな。
元々は売り物にならない海産物を自家消費するためにまとめて大鍋で煮た漁師たちのまかない料理がルーツらしいからこんな感じになるんだよな」
「なるほど。アクアパッツァとはまた違うんすか?」
「似たようなもんだが、アクアパッツァはイタリア料理だからイタリアらしくオリーブやニンニクやイタリアンパセリが必須になるな」
「あ、そういうことなんすね。じゃあ、そのうちここでトマトが収穫できたらもっと本格的なブイヤベースも作れるっすね」
「違いない。そういえばトマトの植え付けは……」
──ぐうぅぅぅ……。
なかなか終わらないやりとりにずっとおあずけ状態の美岬の腹の虫がついに盛大に抗議の声を上げる。
「…………あうぅ。こんなに大きい音が鳴るなんて……恥ずかしすぎるっす」
「続きは食べながら話そうか」
「……そっすね。さっそくこのブイヤベース的なのから……」
美岬が皿に直接口を付けてスープを一口啜り、ほぅっとうっとりとした表情を浮かべた。
「…………うわ、なにこれ、すごっ! さっき味見した時はまだそれぞれの具材の個性が強かったのに、今は色んな味が複雑に混ざり合いながらもきちんと調和して絶妙な美味しさになってるっす。なんと表現したらいいか……これは味のオーケストラっすよ」
「ははっ! なかなか的確な食レポだな。煮込み料理が目指すところはまさにそれだからな」
スープを調和のとれたオーケストラに例えるなら、それぞれの具材はソロパートだ。
薄茶色の魚の肝を食べてみれば、中にはしっかりと肝独特の濃厚で滑らかな風味が閉じ込められていてスープの味に刹那的な彩りを添え、それ以外の具材──干蛸もムール貝もカメノテも噛み締めた瞬間に口の中でそれぞれの個性を発揮して舌を楽しませてくれる。
2種類の魚の刺身も文句無しに旨い。
アイナメの焼き霜造りは皮の香ばしさと脂が乗った身の甘さが際立っており、対するクロソイは淡泊ながらプリプリと弾力のあるしっかりした身の歯応えがたまらない。
濃厚なハマグリ出汁で水増しした出汁醤油の旨味が刺身との相性抜群で、熟成されていない新鮮すぎる身に足りない旨味を補ってくれている。
ひとしきり食べることに集中して、ようやく人心地つき、美岬がしみじみと言う。
「……はー、どれも美味しいっすねぇ。なんか、すっかり食生活が豊かになったっすよねぇ」
「ほんとそれな。……箱庭に辿り着く直前のヨコワジャーキーを海水で煮出しただけのスープのことを考えると今の食生活はめちゃくちゃ恵まれてるよな」
「ふふ。あれはあれであの時はすごく美味しかったっすけどね。一晩中嵐と戦った後でようやく辿り着いた島に上陸できそうになくて、心が折れそうになってた時のあの温かいスープは、ダーリンの愛情と気遣いに溢れてて……うん。あれもあたしにとってすごく幸せな記憶っす」
「そうか。それならいいけどな。……そうだ、さっきの続きだけど、作物の植え付けはどんな感じだ?」
「あ、そっすね。うーんと……まず、さつま芋は芽ごとに分割して植え終わったっす。だいたい10個ぐらいになったっすね。で、芋蔓が30㌢ぐらいまで伸びたところで切って別の場所に植えればどんどん株分けで増やせるんで、最終的に焼き畑の1/3ぐらいをさつま芋スペースにしようと思ってるっす」
「ふむふむ」
「緑豆と小豆は近縁種でどっちも水はけがいい痩せた土を好むんで畑の外周に近いところに植えたっす。ちょっと育ってきたら蔓が絡むための支柱が必要になるっすね。だいたい収穫まで2ヶ月ちょっとってとこっす」
「なるほど。緑豆はもう豆苗になってるから早めに支柱が必要になるな」
「そっすね。そんなに大きく育たないので高い支柱はいらないっすけどね。あと、いんげん豆っすけど、これは蔓なし種っていうめっちゃ早く育つ品種なんでだいたい1ヶ月半で収穫できるっす。枝豆と同じで株が自立するんで支柱がなくても大丈夫っすけど、倒れないようにまっすぐな支柱に紐で結んで添え木みたいにする方が間違いないっすね」
「1ヶ月半で収穫できるのはすごいな」
「初心者向け品種っすからね。もしかすると葛豆より早く収穫できるかもっす。それと大豆なんすけど、大豆は土に石灰を混ぜた方がよく育つんで、先に焼いた貝殻を土に混ぜこんで土作りしたいなーと思ったんで今日はまだ植えてないっす。植えたらだいたい2ヶ月半で枝豆として収穫を始められて、3ヶ月半で大豆として収穫できるっすね」
「貝殻石灰か。おっけ。貝殻もぼちぼち溜まってきたから晩メシが終わったら焼いて作っておこう」
「あとは、トマト、唐辛子、アブラナ、胡麻、玄米っすね。この中でトマトと唐辛子は乾燥した痩せた土を好むナス科なんで、芽が出たらそのまま焼き畑に植えようと思ってるっす」
「ナス科ってそうなのか」
「ナス科は強いっすよ。原産がアンデスの乾燥した高地なんで救荒作物向けっすからね。トマト、唐辛子、ジャガイモなんかは多少寒くても平気で育つっすし。それとアブラナっすけど、これはぶっちゃけハマダイコンと同じ扱いでいいと思うんであえて畑に植えなくてもいいかな、と思うんすよね」
「確かに菜の花は海浜植物としてよく浜辺に自生してるイメージだな」
「なので、ハマダイコンが自生してるあたりの地面を軽く耕して種蒔きしようと思ってるっす」
「うん。それでいいと思う。……ってことはあとは胡麻と米か」
「胡麻の方は焼き畑の一部に腐葉土を混ぜて土作りをしてから植えようと思ってるっすけど、問題は米なんすよね。葦の湿地を開拓して田んぼにしようかと思ってたっすけど、ちょっとここ水温が低すぎるんすよね」
「それは俺も気になってた。なんかいい方法はないかな?」
「それなんすけど、米ってバケツでも栽培できるんすよ。なので、なんとか桶みたいなものが作れればそれに湿地の泥を入れて水を張って米作りができるかなって思うんす。桶ごと陽当たりのいい場所に置いておけばいい感じに温まってよく育つと思うんすよね」
「なるほど。水漏れしない桶だな。分かった、なんとか作ってみよう」
「あざっす。とりあえず作物の植え付けと栽培の予定はこんな感じっすかね」
「よく分かった。ありがとな。作物の方は引き続き美岬に任せるけど、労働力が必要だったり、何か道具が必要になったら遠慮なく言ってくれよ」
「あい、お任せられ」
【作者コメント】
土佐造りと焼き霜造りの目的の違いについて。
鰹のタタキでお馴染みの土佐造りと、今回作中で登場したアイナメの焼き霜造りは似ていますが目的が違います。
鰹は赤身魚であり、血抜きされずに流通することが多いので新鮮な身でも生臭さが強くなりがちです。その生臭さを打ち消すために表面を火で焙って焼き目と焼き味を付け、さらに葱や生姜やミョウガなどの薬味を添えるのが土佐造りの目的ですね。
対して焼き霜造りの場合は、そのままでは食べられない皮に火を通して食べれるようにすることが一番の目的なので、アイナメや鯛などの淡泊な白身魚によく用いられる手法です。こちらは、いかに皮だけに熱を通すかが重要になります。
まな板を綺麗に洗い、クーラーボックスに立て掛けて水気を切り、それを待つ間に小川に行って冷たい水を酌んでくる。
まずは焼き霜造り用のアイナメの身を水気の切れたまな板の上に出し、小枝を何本かナイフで削って串にして、アイナメの身に扇状に刺していく。
それから炙った身を冷ますための冷水を中コッヘルに準備し、かまどに乾いた小枝を何本かまとめて投入して一気に炎を燃え立たせる。
燃え上がった炎でアイナメの皮側を炙っていけば、熱で縮んだ皮に引っ張られて身の縁が反り返り、皮下脂肪がパチパチと弾けて香ばしい匂いが漂う。皮に焼き目がついたところで身を中コッヘルの冷水に落とし、余熱で内部まで熱が通らないように冷ます。
もう1枚の身も同じように皮を炙って冷水で冷まし、焼き霜処理を終える。
「ほへ~これが焼き霜造りっすか。鰹のタタキと似たような感じなんすね」
「そうだな。鰹のタタキ──土佐造りの場合は皮だけじゃなくて全体を炙るところが違うが作業としてはほぼ同じだな。それじゃ、盛っていくから皿を2枚準備してもらっていいか?」
「あいあいっ!」
美岬が準備してくれた皿2枚それぞれの半分まで焼き霜造りを食べやすいサイズに切りながら盛っていく。
次いでクーラーボックスからクロソイの身も取り出す。皮を下にして頭側を右に、尾側を左にしてまな板の上に置き、尾の方から順に身を薄く削ぐようにして薄造りの刺身にしていく。
身に斜めにナイフの刃を入れ、皮に当たったら皮を切らないようにナイフの刃を寝かせて身を皮との境目で切り離して皿に盛る。
ソイの刺身はグリグリとしっかりした歯応えが特徴でフグにも似ているので、透明感のある身越しにナイフの刃が透けて見えるぐらいの薄さに削いでいくのがコツだ。あまり厚く切ってしまうと口の中で噛み切りにくく、いろいろ台無しになってしまう。
ソイの身を全部刺身にし終わって、最後に皮が残るが、この皮も熱を加えれば美味しく食べられるので、適当なサイズに切って大コッヘルのスープの中に混ぜておく。スープはまだ熱々だからこれだけですぐに熱は通るだろう。
「よし、これで一通り完成だな。食べるか!」
「わぁっ! 待ってました! もうお腹ペコペコっすよぅ」
作業を終えたまな板を洗い、クーラーボックスの上に裏返して置いてテーブルにして、真ん中に海鮮スープの大コッヘルを置き、空きスペースに刺身を盛った皿とスープ用の取り皿を並べる。
丸太の椅子を持ってきてクーラーボックスを挟んで向かい合わせに座り、二人で揃って手を合わせる。
「「いただきます」」
さっそく刺身から、と思ったところで醤油を忘れていることに気づいて拠点から昨日作ったばかりの貝出汁醤油を取ってくる。
俺が戻ってくると美岬が俺の分も海鮮スープをよそってくれていた。
「お、さんきゅ」
「どいたまっす。それにしても……ほんとに具だくさんなスープっすねぇ。いや、これをスープと呼んでいいものか」
美岬が自分の手に持った皿を見ながら小首を傾げる。殻付きのムール貝、ちぎったタコ、魚の白身、カメノテの身がてんこ盛りになっているそれは確かにスープと呼ぶには無理がある。
「そうだなー、そもそもブイヤベースはスープというよりどっちかと言えばごった煮だからな」
「そういえばブイヤベースってなんなんすか?」
「おっとそこからか。ブイヤベースは地中海に面した南フランスのプロヴァンス地方名物の海鮮煮込み料理で、魚、貝、甲殻類や頭足類なんかをハーブやトマトと一緒に煮込んだものだな。
元々は売り物にならない海産物を自家消費するためにまとめて大鍋で煮た漁師たちのまかない料理がルーツらしいからこんな感じになるんだよな」
「なるほど。アクアパッツァとはまた違うんすか?」
「似たようなもんだが、アクアパッツァはイタリア料理だからイタリアらしくオリーブやニンニクやイタリアンパセリが必須になるな」
「あ、そういうことなんすね。じゃあ、そのうちここでトマトが収穫できたらもっと本格的なブイヤベースも作れるっすね」
「違いない。そういえばトマトの植え付けは……」
──ぐうぅぅぅ……。
なかなか終わらないやりとりにずっとおあずけ状態の美岬の腹の虫がついに盛大に抗議の声を上げる。
「…………あうぅ。こんなに大きい音が鳴るなんて……恥ずかしすぎるっす」
「続きは食べながら話そうか」
「……そっすね。さっそくこのブイヤベース的なのから……」
美岬が皿に直接口を付けてスープを一口啜り、ほぅっとうっとりとした表情を浮かべた。
「…………うわ、なにこれ、すごっ! さっき味見した時はまだそれぞれの具材の個性が強かったのに、今は色んな味が複雑に混ざり合いながらもきちんと調和して絶妙な美味しさになってるっす。なんと表現したらいいか……これは味のオーケストラっすよ」
「ははっ! なかなか的確な食レポだな。煮込み料理が目指すところはまさにそれだからな」
スープを調和のとれたオーケストラに例えるなら、それぞれの具材はソロパートだ。
薄茶色の魚の肝を食べてみれば、中にはしっかりと肝独特の濃厚で滑らかな風味が閉じ込められていてスープの味に刹那的な彩りを添え、それ以外の具材──干蛸もムール貝もカメノテも噛み締めた瞬間に口の中でそれぞれの個性を発揮して舌を楽しませてくれる。
2種類の魚の刺身も文句無しに旨い。
アイナメの焼き霜造りは皮の香ばしさと脂が乗った身の甘さが際立っており、対するクロソイは淡泊ながらプリプリと弾力のあるしっかりした身の歯応えがたまらない。
濃厚なハマグリ出汁で水増しした出汁醤油の旨味が刺身との相性抜群で、熟成されていない新鮮すぎる身に足りない旨味を補ってくれている。
ひとしきり食べることに集中して、ようやく人心地つき、美岬がしみじみと言う。
「……はー、どれも美味しいっすねぇ。なんか、すっかり食生活が豊かになったっすよねぇ」
「ほんとそれな。……箱庭に辿り着く直前のヨコワジャーキーを海水で煮出しただけのスープのことを考えると今の食生活はめちゃくちゃ恵まれてるよな」
「ふふ。あれはあれであの時はすごく美味しかったっすけどね。一晩中嵐と戦った後でようやく辿り着いた島に上陸できそうになくて、心が折れそうになってた時のあの温かいスープは、ダーリンの愛情と気遣いに溢れてて……うん。あれもあたしにとってすごく幸せな記憶っす」
「そうか。それならいいけどな。……そうだ、さっきの続きだけど、作物の植え付けはどんな感じだ?」
「あ、そっすね。うーんと……まず、さつま芋は芽ごとに分割して植え終わったっす。だいたい10個ぐらいになったっすね。で、芋蔓が30㌢ぐらいまで伸びたところで切って別の場所に植えればどんどん株分けで増やせるんで、最終的に焼き畑の1/3ぐらいをさつま芋スペースにしようと思ってるっす」
「ふむふむ」
「緑豆と小豆は近縁種でどっちも水はけがいい痩せた土を好むんで畑の外周に近いところに植えたっす。ちょっと育ってきたら蔓が絡むための支柱が必要になるっすね。だいたい収穫まで2ヶ月ちょっとってとこっす」
「なるほど。緑豆はもう豆苗になってるから早めに支柱が必要になるな」
「そっすね。そんなに大きく育たないので高い支柱はいらないっすけどね。あと、いんげん豆っすけど、これは蔓なし種っていうめっちゃ早く育つ品種なんでだいたい1ヶ月半で収穫できるっす。枝豆と同じで株が自立するんで支柱がなくても大丈夫っすけど、倒れないようにまっすぐな支柱に紐で結んで添え木みたいにする方が間違いないっすね」
「1ヶ月半で収穫できるのはすごいな」
「初心者向け品種っすからね。もしかすると葛豆より早く収穫できるかもっす。それと大豆なんすけど、大豆は土に石灰を混ぜた方がよく育つんで、先に焼いた貝殻を土に混ぜこんで土作りしたいなーと思ったんで今日はまだ植えてないっす。植えたらだいたい2ヶ月半で枝豆として収穫を始められて、3ヶ月半で大豆として収穫できるっすね」
「貝殻石灰か。おっけ。貝殻もぼちぼち溜まってきたから晩メシが終わったら焼いて作っておこう」
「あとは、トマト、唐辛子、アブラナ、胡麻、玄米っすね。この中でトマトと唐辛子は乾燥した痩せた土を好むナス科なんで、芽が出たらそのまま焼き畑に植えようと思ってるっす」
「ナス科ってそうなのか」
「ナス科は強いっすよ。原産がアンデスの乾燥した高地なんで救荒作物向けっすからね。トマト、唐辛子、ジャガイモなんかは多少寒くても平気で育つっすし。それとアブラナっすけど、これはぶっちゃけハマダイコンと同じ扱いでいいと思うんであえて畑に植えなくてもいいかな、と思うんすよね」
「確かに菜の花は海浜植物としてよく浜辺に自生してるイメージだな」
「なので、ハマダイコンが自生してるあたりの地面を軽く耕して種蒔きしようと思ってるっす」
「うん。それでいいと思う。……ってことはあとは胡麻と米か」
「胡麻の方は焼き畑の一部に腐葉土を混ぜて土作りをしてから植えようと思ってるっすけど、問題は米なんすよね。葦の湿地を開拓して田んぼにしようかと思ってたっすけど、ちょっとここ水温が低すぎるんすよね」
「それは俺も気になってた。なんかいい方法はないかな?」
「それなんすけど、米ってバケツでも栽培できるんすよ。なので、なんとか桶みたいなものが作れればそれに湿地の泥を入れて水を張って米作りができるかなって思うんす。桶ごと陽当たりのいい場所に置いておけばいい感じに温まってよく育つと思うんすよね」
「なるほど。水漏れしない桶だな。分かった、なんとか作ってみよう」
「あざっす。とりあえず作物の植え付けと栽培の予定はこんな感じっすかね」
「よく分かった。ありがとな。作物の方は引き続き美岬に任せるけど、労働力が必要だったり、何か道具が必要になったら遠慮なく言ってくれよ」
「あい、お任せられ」
【作者コメント】
土佐造りと焼き霜造りの目的の違いについて。
鰹のタタキでお馴染みの土佐造りと、今回作中で登場したアイナメの焼き霜造りは似ていますが目的が違います。
鰹は赤身魚であり、血抜きされずに流通することが多いので新鮮な身でも生臭さが強くなりがちです。その生臭さを打ち消すために表面を火で焙って焼き目と焼き味を付け、さらに葱や生姜やミョウガなどの薬味を添えるのが土佐造りの目的ですね。
対して焼き霜造りの場合は、そのままでは食べられない皮に火を通して食べれるようにすることが一番の目的なので、アイナメや鯛などの淡泊な白身魚によく用いられる手法です。こちらは、いかに皮だけに熱を通すかが重要になります。
74
お気に入りに追加
531
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
強制無人島生活
デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。
修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、
救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。
更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。
だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに……
果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか?
注意
この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。
1話あたり300~1000文字くらいです。
ご了承のほどよろしくお願いします。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる