【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
26 / 227
沈没漂流編

第26話 4日目⑥おっさんは火山の火口に迷いこむ

しおりを挟む
「正面に暗礁! ブレーキっす!」

「おう!」

「右の進路はヤバそうなんで左に進路を取るっす!」

「任せた!」

 正面の暗礁に釣竿を突いた美岬が筏の慣性力を上手く利用して進路をずらし、筏の右側を暗礁が通りすぎていく。

「次、左前方の岩礁。海中の暗礁が筏前方まで伸びてるっすから今度は右に進路を取るっす! ブレーキ今っす!」

「おう!」

 美岬の合図に合わせてシーアンカーを引いてブレーキをかける。

「すいません! ちょっと舵取り甘かったっす! 左側ちょっと擦るかもっす!」

「当たるぞ! 衝撃に備えろ!」

──ガツン! ガリッ! ガリッ!

「ちょっと外枠の竹を擦っただけだ。問題なしっ!」

「前方しばらく暗礁なしっす」

「おう。ブレーキ弛めるぞ」

 シーアンカーのロープをするするっと繰り出していく。進行方向に目を向ければ、海底火山の最頂部である沖磯がかなり近づいている。
 一番大きな岩礁が幅30㍍ぐらいで水から出ている部分は高さ20㍍ぐらいありそうだ。それから3㍍ぐらい離れた場所に幅20㍍ぐらいで高さ8㍍ぐらいの少し小さな岩礁が並んで立ち、三重県の伊勢にある夫婦岩を彷彿させる。特に目立つのはその二つの岩礁で、それ以外にも小さな岩礁は無数にあって俺たちの行く手を阻んでいる。あの辺りは特に水深も浅く、浅いとそれだけ波が大きくなるので、岩に打ち付ける波もかなり激しい。

「……なんか、近づいてみるとまるで壁というか柵みたいな感じで岩礁が横並びにずっと続いてるっすね。通れそうな場所がほとんど無いっすよ」

「そうだな。元々はそれこそ城壁みたいな横長の岩礁だったのが長年の侵食で今みたいな感じになってるみたいだな」

 見た感じ、例の夫婦岩の間ぐらいしかこの筏が通り抜けられそうな隙間はない。そして、筏を乗せた潮の流れそのものも二つの岩礁の間に向かって流れている。まるで城壁とそこにある門のようだ。

「あの夫婦岩みたいな岩礁が大きすぎて、その向こうが完全に死角になっててここからじゃ見えから、この先がどうなってるかがわからないのが怖いっすけど、あそこを通る以外に選択肢無いっすもんね?」

「そうだよな。出たとこ勝負になるが、気をつけて行くしかないな。ここは俺も舵取りに参加した方がよさそうだな。俺が後ろで筏が旋回しないように調整するから、美岬は進行方向の障害物を避けることに集中してくれ」

「了解っす」

 俺はシーアンカーを握る手を離し、両手に革手袋を着けて筏の一番狭くなっている船首に陣取る。今は船尾を前にして進んでいるからこちらが後ろになる。
 前で美岬が舵取りをして、筏が勢い余って旋回して岩にぶつかりそうになったら、この手袋を着けた手で岩を押して軌道修正するつもりだ。ここなら左右どちらにも対応できる。


「そろそろ突入っすよ!」

「おう。深さはどうだ?」

「十分っすね。ここは普段から水の通り道になってるんすね。海流で自然に浚渫しゅんせつされてるみたいっすから漁船でも通れるぐらい水深あるっす。邪魔な暗礁も無さそうっすよ」

「分かった。じゃあ気を付けるのは左右の岩壁だけだな」

「よーそろー」

 風と海流に推されて筏は岩礁と岩礁の間の幅3㍍ほどの水道に入っていく。この場所は流れが速く、ウォータースライダーのようなスリルがある。この勢いで岩礁にぶつかったら下手したら筏はバラバラになるだろう。命懸けのウォータースライダーに俺も美岬も一言も発さずにただただ筏の操作に集中する。
 筏の下も同じ方向に水が流れているのでここではシーアンカーがまったく役に立たず、ともすれば回転しそうになる筏を美岬が左右の岩を棒で突くことで、その都度 修正しながら流されていく。美岬が左右の岩礁を突き、勢い余って筏が回りそうになったら俺が岩を手で押して岩に当たらないようにする。筏の全長が3㍍ぐらいあるので横向きになって岩と岩に挟まりでもしたら詰みだ。

「岩の間を抜けるっすよ!」

「前方への注意を怠るなよ!」

「いえっさー!」

 狭い岩の間の水道を抜け、広い場所に出る。水道から抜けた瞬間、水の流れが緩やかになり、筏の速度もゆっくりになったので周囲を見回す余裕ができた。
 そこは、直径200㍍はありそうな、岩礁がドーナッツ状の大きな輪になっている環礁の内側だった。

「え? なんでこんな地形になってるんすかね?」

「うーん、これは……たぶんカルデラだ。ここはずっと昔は火山島だったんだろう。火山の噴火で地下が空洞化したところで地面が陥没してクレーター状になったところに海水が流れ込んで海に沈んだって感じじゃないかな」

「あー、なるほど。ここは昔の火口だったんすね。あたしの実家の島にも小さなカルデラがあるっすけど、ここはカルデラがでかすぎて島のほとんどが沈んじゃって、壁みたいにここを囲んでる岩礁帯が陸地の名残……カルデラの外縁山ってわけっすね」

「そういうことだろうな……おぉっ!?」

「うぇ!? な、なんすか!? 座礁するような暗礁なんて無かったっすよ!?」

 呑気に話しているといきなり筏に急制動がかかり、二人揃ってつんのめりそうになる。座礁したわけではない。慌てて調べてみればシーアンカーが流れが緩やかになったので沈んでしまい、海中の暗礁に根掛かりしてしまったらしいということが判明する。

「あっちゃあ。根掛かりっすか。どうするっすか?」

「うーん、そうだなー」

 改めて周囲を見回せば、幸いにしてこの辺りには座礁しそうな浅い暗礁はないし、カルデラ内はうねりが入ってこないので外海よりはだいぶ波も緩やかだし、巨大な夫婦岩の風裏になるので風もあまり強くない。これはむしろ台風からの待避場所としてはかなり理想的じゃないか?

「……なんか、このままここで台風をやり過ごすのがいいような気がするんだがどう思う?」

「……あたしも今それに思い至ったっす。ここって割りと理想的な停泊地っすよね。むしろここから流されないように根掛かりを強化したいぐらいっす」

「根掛かりの強化はまた考えるとして、とりあえず一段落ということでちょっと一休みするか?」

「賛成っす。ふわぁー、ずっと神経尖らしてたから疲れたっす」

 美岬がエアーマットレスにこてんとひっくり返る。俺も仰向けに寝転がるとすぐそばに美岬の顔がある。足はそれぞれ船首と船尾に向いていて顔だけがそばにある状態だ。

「……舵取りお疲れ。おかげで無事に安全地帯にたどり着けた」

「ガクさんのブレーキ操作が絶妙だったからあたしも舵取りしやすかったっす。シーアンカーでのブレーキ操作、むっちゃしんどかったんじゃないすか?」

「まあそれなりにな」

「あ、痛そう」

 右手を目の前に掲げて見れば、ずっとロープを握りっぱなしだった手のひらには赤くまめができている。道理でヒリヒリするはずだ。
 その手のひらの向こうに見上げる空は相変わらず分厚い雲に覆われているが、幸いにして今は雨は降っていない。だが上空の風が強いようで流れは速い。

「……台風本番はこれからだからな。今夜はおそらくまともには寝られないだろうから、今のうちにもし寝れるなら寝て体力温存しておいた方がいいぞ」

「そっすよねー。今は割りと穏やかなこの環礁内も台風が近づいてきたらかなり荒れるっすよね」

 そのままなんとなく会話も途切れ、俺も目を閉じて体力温存に努めているうちにいつの間にか意識を失っていたのだった。




【作者コメント】

 熱帯や亜熱帯の海には環状に発達した珊瑚礁である環礁ラグーンが多く見られますが、日本の緯度は高いので火山活動によるカルデラ地形としました。
 ちなみに美岬の故郷の島のイメージは伊豆諸島の青ヶ島で、二人がたどり着いた岩礁帯やカルデラ式海底火山も同じ伊豆諸島にあるベヨネース列岩や孀婦岩そうふいわをイメージしていますが、実際にこういう場所があるわけではありません。それでも、孀婦岩はそこに実在するカルデラ式海底火山の外縁山の一部ではあるので、二人がたどり着いたカルデラ環礁という地形は可能性としては十分にありえました。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...