【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
21 / 227
沈没漂流編

第21話 4日目①おっさんはJKを死なせてしまい、後悔で打ちのめされる

しおりを挟む
 筏が大きく揺れて目を覚ます。やはり台風が近づいているようだ。海のうねりが昨日よりも大きくなっている。まだ荒れ模様というほどではないが、小さな筏は上がったり下がったり傾いたりしている。
 美岬はもう起きているのか、と隣に目をやれば、そこに彼女の姿はなかった。

『…………?』

 起き出してトイレにでも行っているのか? と首を巡らしてみるも姿が見えない。嫌な予感にぞわりと背筋が寒くなる。

『…………!? 嘘だろ? まさか!?』

 身を起こして見回してみても美岬の姿が無い。彼女が枕にしていたスポーツバッグはそのままそこにあるのに、美岬だけがいなくなっていた。
 うねりで筏が傾いた拍子に海に転がり落ちてしまったのか!? だとしたらいったいいつ?

『美岬! どこだ? どこにいる?』

 筏の周囲の海上を見回しても美岬の姿は見当たらない。一面の曇り空と鉛色の海がどこまでも広がっているだけで、待っても浮かび上がってくる様子もない。
 昨晩、俺の手を包み込んでくれていたあの温かな手がまるで嘘みたいに、あまりにも呆気なく美岬はいなくなってしまっていた。

『嘘……だろ……』

 あまりの喪失感と絶望で身体中から力が抜けてしまう。
 何も持たずにこの筏から大海原に放り出された美岬が生き延びられる可能性はまずない。
 例えとっさに昨日の着衣水泳を実践できていたとしても、それは助けてもらえるのが大前提だし、そもそも冷静に着衣水泳ができているなら筏にだってすぐに戻れるし、俺に助けを求めることもできたはずだ。
 それが無く、今も目に見える範囲内に姿が見えないということは、おそらく眠ったまま落水して、そのままパニックになり、何が起きているのかもわからないまま助けを求めることもできずに溺れてしまったということなのだろう。

 なぜこの可能性を想定していなかったのか、と過去の自分を殴りたくなる。せめて命綱だけでもつけていれば、美岬をむざむざと死なせることになんかならなかったのに。俺の認識の甘さが美岬を死なせてしまったのだ。
 筏に一人残された俺はといえば、筏の上で食料も水も道具もあり、美岬の持ち物まである。俺一人ならむしろ生き残りやすくなったともいえる状況だが、そんなことを俺は望んでいない! 俺は例え自分がどんな犠牲を払ってでも美岬を生き残らせたかったんだ。

 美岬をみすみす死なせて、その死を利用するような形で俺だけがおめおめと生き延びるなんて耐えられない。
 くそっ、なんで逆じゃなかったのか。もし、今からでも俺の命と引き換えに美岬を助けられるなら、俺は喜んでそうするのに。

『美岬……なんでこんなに呆気なく……』

 妹が死んだ時に俺の心はバラバラに砕けたように感じた。俺にとって妹は家族の最後の一人、そして俺にとって最後の大切な人間だった。だからあれほどの悲しみはもう二度と経験することはないだろうと思っていた。
 それなのに、心の準備さえできなかった美岬の死に、俺は自分の肢体が引きちぎられるかのような痛みと喪失感で打ちのめされていた。
 見知らぬ他人だったら、こんなにダメージは受けなかった。
 たったの三日で、俺の中で美岬はこんなにも大きな存在になってしまっていたのだ、と気づくがもう遅い。
 美岬は死んでしまった。俺は再び独りぼっちになってしまった。

 生きたいと強い決意を抱いていた美岬。お腹を鳴らしてへんにょりと情けない顔をしていた美岬。ヨコワを食べてとろけた笑顔を見せていた美岬。俺の膝にすがって子供みたいに泣いていた美岬。素直に甘えるようになってきた美岬。
 この三日間、美岬はずっと俺の側にいた。俺は美岬を助けているつもりだったが、むしろ逆に美岬の存在に俺は支えられていたんだ。
 こみ上げる悲しみに堪えられずに俺は慟哭どうこくした。

「みさきぃぃぃぃ!」

「……さん、ガクさん、大丈夫っすか?」



 目を開くとそこには心配そうに俺を覗きこむ美岬の顔があった。

「…………」

 何が起きたのか分からずに完全にフリーズしてしまった俺に、ますます心配そうに眉を八の字にした美岬が言う。

「……ガクさん、大丈夫っすか? めっちゃうなされてたんすよ? 妹さんを亡くした時の夢を見ちゃったんすか?」

「…………」

 俺は恐る恐る美岬に手を伸ばし、その頬に触れる。ふにっとした柔らかい感触と温かさが伝わってくる。
 そのまま手を美岬の頭の後ろに回して引き寄せると、美岬が体勢を崩して俺に倒れこんでくる。

「ひゃっ!? が、ガクさん! 寝ぼけてんすか!? いきなり何を……」

 俺の胸に掛かる確かな重みに、ようやく俺はこれが夢じゃないと理解した。

「……すまん。もう少し、もう少しだけこのままでいさせてくれ」

「や、それは別に……いいっすけど」

 強張っていた美岬の身体から力が抜け、俺はその背中に両手を回してしっかりと抱き締める。夢とはいえ一度は死んだと思って絶望した美岬が生きているということを確かに実感して、俺は感情を抑えることが出来なかった。

「美岬……本当に良かった……」

「ふえっ? ……え? ガクさん泣いてるんすか?」

「ははは、情けないところを見せちまったな。これより下は無いってぐらいの最低の悪夢だったからホッとしてつい、な」

「……えっと、あたしにはこれぐらいしかできないっすけど、ガクさんの気持ちが落ち着くなら……」

 美岬がそろそろと俺の背中に手を回して抱き締め返してくれる。その優しさと温もりが嬉しくて、俺はあの悪夢を絶対に現実にしないと決意を新たにするのだった。
 だが、考えようによってはあの悪夢を見て良かったといえるかもしれない。ある意味あの夢は最悪の状態のシミュレーションになったからだ。何かの拍子に美岬が海に転がり落ちて、俺がすぐに助けられなかったらあれと同じ状況になることは十分にありうる。あの夢は俺が気づいていなかったリスクに気づかせてくれたのだ。
 そして、美岬を死なせてしまったら俺がどれほどのダメージを受けることになるかも思い知った。美岬が死んだと思った瞬間のあの身を引き裂かれるような悲しみと絶望と後悔は正直筆舌に尽くしがたいものだった。あの瞬間、俺は確かに死にたいとまで思った。
 失って初めてその大切さに気づくというのはよくある話だが、失う前に気づくことができたのは本当に幸いだった。俺の腕の中にいるこの少女が俺にとってどれほど掛け替えのない存在なのか気づけて良かった。










【作者コメント】

 とりあえずスイマセンとまず謝っておきます。夢オチって卑怯ですよね。分かってます。でも、ヒロインをここで本当に死なせるわけにはいかなかったので、いやほんとスイマセン。

 夢オチが許されるのは1回だけだと思っておりますのでもうしません。そして、その1回こっきりの夢オチという爆弾を投下する以上、物語のターニングポイントにすべきだとも思っておりますので次話、乞うご期待!

 

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...