【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

文字の大きさ
上 下
12 / 227
沈没漂流編

第12話 3日目①おっさんはJKに寝顔を観察される

しおりを挟む
 自然に目が覚めた時、夜明け前の浅葱色の空と今にもそこに溶け込みそうなぐらいに存在感を失いつつあるいくつかの星がまず目に入る。さすがに漂流3日目ともなればこの状況にも慣れてくるので現状に混乱することもない。
 美岬は……と隣に目を向けると目が合った。ぱっちりと目を開けた美岬がじっと俺の方を見ていた。普段彼女の目を隠している前髪は重力に引かれて横に流れ、今は用を成していない。こうして見ると結構顔立ちは整っているんだよな。

「…………おはよう美岬ちゃん」

「おはよっす」

「……その感じからして、もうしばらく前から起きてたのかな?」

「あい。10分ぐらい前っすかね。おにーさんが気持ち良さそうに寝てたんでイタズラしたくてウズウズしてたっす」

「いや、やめてね?」

「ふふ、冗談っすよ」

 腕時計を確認すると午前4時半をちょっと過ぎた頃。だいたい昨日と同じぐらいの時間だ。
 エアーマットレスから身を起こして周囲を見回せば、今日は霧が出ていないのでそれなりに遠くまで見渡せる。見た感じ筏の周囲には漂流物は見当たらない。船や飛行機も見えない。島影もない。空は晴れているが昨日よりは雲が多い。もしかするとだんだん天気が下り坂になるかもしれない。

「んー、相変わらず何も見えないっすねー。……本当に捜索してもらえてるんすかねぇ?」

「美岬ちゃんがあのフェリーに乗ってたことは家族は知ってるんだろ? 俺も乗船前にフェリーの前で自撮りした写真をSNSには上げてる。フォロワーの誰かが通報してくれてるだろうから捜索はされてると思うけどな。……見当違いな場所を捜索してるって可能性は否定できんが」

「見当違い?」

「ほら、船が衝突した時、甲板には俺たちの他に人はいなかっただろ? それに救命ボートに乗ってた連中も沈んでいく船の方に気を取られてて俺たちに気付いてる様子は無かった。だからもしかすると俺たちが船に閉じ込められてるかもって前提で沈没船内の捜索がされてる可能性はあるよな」

「あー、じゃあ今ごろ本土じゃ大ニュースになってるっすよね。まだ船内に閉じ込められて空気溜まりで奇跡的に生存しているかもしれないから救出活動を急げ、とか72時間の生存リミットまであと何時間的な感じで」

「メディア的には美味しいネタだろうから煽りまくってるだろうな。俺とか指名手配犯かよってレベルで顔写真と経歴を晒されて、あることないこと書かれまくってたりして」

「あたしだって、さんざんデブスだってバカにしてたぜんぜん仲良くないクラスメイトとかがインタビュー受けて心にもないお涙頂戴な話をしてるんすよ、きっと」

「……この話、止めよか」

「……そっすね。生きて帰る意欲削がれるっすね。今日は何するっすか?」

「ちょっと雲が出てきてるからもしかすると天気が崩れるかもしれない。それまでにジャーキーを完成させたいから、まずは竹の枝で干し場を作って、塩漬けの背身を干すのが最優先だな。あとは何かいいものが流れてこないかをチェックしつつ、魚を釣るってところだな」

「了解っす。でもとりあえずおトイレしたいっす。その前に体拭きたいっす」

「あいよ。ほれ、今日の分のウェットシート。体を拭き終わったら、昨日船尾に取り付けた浮き輪を便器代わりに使って用を足せばいい」

「わーい! 至福の体拭きの時間っすー!」

 俺からウェットシートを受け取った美岬が早速嬉しそうに顔を拭き始める。俺も同じようにウェットシートで顔を拭き、無精髭が伸び始めていることに気づく。そのまま首回りや脇や体を拭き、ウェットシートがかなり垢で汚れてしまったので海水で濯いで絞る。

「……うぅ、けっこう体が汚れてるっすねぇ。服も汗くさいし、恥ずかしいっす」

「気にするな。俺だって同じだし、この状況でそれを気にする余裕があるだけでも十分恵まれてる」

「……あー、まぁそうっすよねぇ。そういえば今って生きるか死ぬかの割りと危機的な状況なんすよね。おにーさんが頼もしすぎてなんか危機感薄れちゃってるっすけど」

「生きて帰って風呂に入るのを楽しみにしておけ。生き残ってしたいことってのは生き延びるためのモチベーションになるからな」

「そっすね。考えてみるとあれだけ大量の水を使うお風呂ってすごい贅沢っすよね。日本での当たり前な生活ってすごく恵まれてるってすごく納得したっす」

「いい勉強になったな。この極限を経験して日常に戻ったら大抵の問題は些細なことに思えるようになるだろうな」

「確かに。ごく当たり前のことにいちいち感動しそうっす。さて、じゃあちょっとおトイレしたいので断熱シート貸して欲しいっす」

「はいよ。終わったら俺も交替で使うわ」

「……えっと、その、そろそろお腹が張ってるのでおトイレにちょっと時間がかかると思うんすけど」

「ああ。気にするな。俺はそっちに背中を向けて食事の準備をしてるからゆっくりすればいい」

 俺はそのまま座ったまま体を回転させて船首の方に体を向け、ついでに昨日から海中に沈めっぱなしのプランクトン採取器を引き揚げる。中を覗くと甲殻類の幼生体のようなプランクトンが手のひら一杯分ぐらい溜まっていた。

 クーラーボックスから昨日作った魚肉ハンバーグを1袋取り出し、浅型のコッヘルに出してシングルバーナーで焼き、表面に軽く焦げ目をつける。
 ナイフで適当なサイズに切り分けて二人分に分けて皿代わりのコッヘルの蓋に乗せ、朝の分の飲料水を100ccずつ深皿タイプのコッヘル二つに注ぐ。それを食卓代わりのクーラーボックスの上に並べたところで美岬が戻ってくる。

「お待たせしましたっす。出すもの出してスッキリしたっす」

「……そうか、良かったな。先に食事にしよう。俺はその後で用を足しに行くから」

「わーい! お腹ぺこぺこっす」

「まずはプランクトンだ。手を出して」

 美岬が差し出した手のひらにプランクトンを乗せる。残った半分を自分の手のひらに乗せて一気にぱくりと食べる。

「もぐもぐ……。うーん、なんというかなんとも言えない味と食感っすよね」

「それな。もうこれに関してはビタミン剤とでも思うしかないな」

「……味はともかく長靴一杯食べたいっす」

「……またずいぶん古いネタ知ってんな」

「そっすか? 島だと公民館でレーザーディスク上映会たまにやってたっすけどナ○シカよりもっと古いのもやってたっすよ」

「今時レーザーディスクってまじか。ちなみに他にはどんなのをやってたんだ?」

「アイヌモチーフの太陽の王子のやつとか、文明崩壊後の未来の少年のやつとか」

「……本当に古いな。それは俺の親世代が子供の頃のやつだぞ」

「あはは。うちの島ではそのくらいの人たちが普通に現役世代っすからね」

 次いで魚肉ハンバーグを摘まむ。柔らかい中に胃腸のグリグリとした歯応えがあり、あっさりとした魚肉からハーブとスパイスとオリーブ油の風味が感じられる。玉ねぎが入ってないからハンバーグというよりテリーヌっぽくなったが、ポテチのおかげで固くなりすぎずこれはこれで悪くない。

「なるほど。こんな感じになるんすね。洋風なカマボコって感じっすね。あっさりしてて美味しいっす」

「屑肉だけで作ったと思えば上等だろう?」

「もちろん! さすがっす! ただ、やっぱりもうちょっと量は欲しいっすね」

「今日の食事は残念ながらこれだけだ。もし今日も魚が釣れたらそれはそれで追加の食事にできるけどな」

「それなら、なんとか今日も釣りたいっすね」

 そんな会話をしつつ食事を終え、俺も船尾のトイレで用を済まし、その後、美岬と残った竹の枝を使って干場作りにいそしむ。

 竹の枝3本を一箇所で縛って広げれば独立する三脚トライポッドとなる。同じ物をさらに2つ作り、トライポッドが3個完成する。

 別の竹の枝3本を尖らせて竹串を作り、それに塩漬けの魚肉スライスを少しずつ間隔を空けながら刺していく。
 すべての魚肉スライスを刺し終わったら、筏の船首側の空きスペースに断熱シートを広げ、その上にトライポッド3個をそれぞれ三角形の角の位置になるように設置し、魚肉スライスの刺さった竹串をトライポッド同士を繋ぐように掛けて干し始める。
 夏の日差しと銀ピカの断熱シートからの反射熱で数時間も干せば立派なジャーキーになるだろう。









【作者コメント】
 刺身で食べられるぐらい新鮮な魚の身を、厚みを揃えてスライスし、全体にまんべんなく濃い目の塩味を染ませ、短時間で水分を飛ばして乾燥させれば、加熱なしでそのまま食べられるジャーキーになります。乾燥しやすいようにある程度薄くスライスするのがコツです。燻煙材で燻せば完璧ですがこの状況ではそこまでできませんね。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...