【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる

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沈没漂流編

第12話 3日目①おっさんはJKに寝顔を観察される

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 自然に目が覚めた時、夜明け前の浅葱色の空と今にもそこに溶け込みそうなぐらいに存在感を失いつつあるいくつかの星がまず目に入る。さすがに漂流3日目ともなればこの状況にも慣れてくるので現状に混乱することもない。
 美岬は……と隣に目を向けると目が合った。ぱっちりと目を開けた美岬がじっと俺の方を見ていた。普段彼女の目を隠している前髪は重力に引かれて横に流れ、今は用を成していない。こうして見ると結構顔立ちは整っているんだよな。

「…………おはよう美岬ちゃん」

「おはよっす」

「……その感じからして、もうしばらく前から起きてたのかな?」

「あい。10分ぐらい前っすかね。おにーさんが気持ち良さそうに寝てたんでイタズラしたくてウズウズしてたっす」

「いや、やめてね?」

「ふふ、冗談っすよ」

 腕時計を確認すると午前4時半をちょっと過ぎた頃。だいたい昨日と同じぐらいの時間だ。
 エアーマットレスから身を起こして周囲を見回せば、今日は霧が出ていないのでそれなりに遠くまで見渡せる。見た感じ筏の周囲には漂流物は見当たらない。船や飛行機も見えない。島影もない。空は晴れているが昨日よりは雲が多い。もしかするとだんだん天気が下り坂になるかもしれない。

「んー、相変わらず何も見えないっすねー。……本当に捜索してもらえてるんすかねぇ?」

「美岬ちゃんがあのフェリーに乗ってたことは家族は知ってるんだろ? 俺も乗船前にフェリーの前で自撮りした写真をSNSには上げてる。フォロワーの誰かが通報してくれてるだろうから捜索はされてると思うけどな。……見当違いな場所を捜索してるって可能性は否定できんが」

「見当違い?」

「ほら、船が衝突した時、甲板には俺たちの他に人はいなかっただろ? それに救命ボートに乗ってた連中も沈んでいく船の方に気を取られてて俺たちに気付いてる様子は無かった。だからもしかすると俺たちが船に閉じ込められてるかもって前提で沈没船内の捜索がされてる可能性はあるよな」

「あー、じゃあ今ごろ本土じゃ大ニュースになってるっすよね。まだ船内に閉じ込められて空気溜まりで奇跡的に生存しているかもしれないから救出活動を急げ、とか72時間の生存リミットまであと何時間的な感じで」

「メディア的には美味しいネタだろうから煽りまくってるだろうな。俺とか指名手配犯かよってレベルで顔写真と経歴を晒されて、あることないこと書かれまくってたりして」

「あたしだって、さんざんデブスだってバカにしてたぜんぜん仲良くないクラスメイトとかがインタビュー受けて心にもないお涙頂戴な話をしてるんすよ、きっと」

「……この話、止めよか」

「……そっすね。生きて帰る意欲削がれるっすね。今日は何するっすか?」

「ちょっと雲が出てきてるからもしかすると天気が崩れるかもしれない。それまでにジャーキーを完成させたいから、まずは竹の枝で干し場を作って、塩漬けの背身を干すのが最優先だな。あとは何かいいものが流れてこないかをチェックしつつ、魚を釣るってところだな」

「了解っす。でもとりあえずおトイレしたいっす。その前に体拭きたいっす」

「あいよ。ほれ、今日の分のウェットシート。体を拭き終わったら、昨日船尾に取り付けた浮き輪を便器代わりに使って用を足せばいい」

「わーい! 至福の体拭きの時間っすー!」

 俺からウェットシートを受け取った美岬が早速嬉しそうに顔を拭き始める。俺も同じようにウェットシートで顔を拭き、無精髭が伸び始めていることに気づく。そのまま首回りや脇や体を拭き、ウェットシートがかなり垢で汚れてしまったので海水で濯いで絞る。

「……うぅ、けっこう体が汚れてるっすねぇ。服も汗くさいし、恥ずかしいっす」

「気にするな。俺だって同じだし、この状況でそれを気にする余裕があるだけでも十分恵まれてる」

「……あー、まぁそうっすよねぇ。そういえば今って生きるか死ぬかの割りと危機的な状況なんすよね。おにーさんが頼もしすぎてなんか危機感薄れちゃってるっすけど」

「生きて帰って風呂に入るのを楽しみにしておけ。生き残ってしたいことってのは生き延びるためのモチベーションになるからな」

「そっすね。考えてみるとあれだけ大量の水を使うお風呂ってすごい贅沢っすよね。日本での当たり前な生活ってすごく恵まれてるってすごく納得したっす」

「いい勉強になったな。この極限を経験して日常に戻ったら大抵の問題は些細なことに思えるようになるだろうな」

「確かに。ごく当たり前のことにいちいち感動しそうっす。さて、じゃあちょっとおトイレしたいので断熱シート貸して欲しいっす」

「はいよ。終わったら俺も交替で使うわ」

「……えっと、その、そろそろお腹が張ってるのでおトイレにちょっと時間がかかると思うんすけど」

「ああ。気にするな。俺はそっちに背中を向けて食事の準備をしてるからゆっくりすればいい」

 俺はそのまま座ったまま体を回転させて船首の方に体を向け、ついでに昨日から海中に沈めっぱなしのプランクトン採取器を引き揚げる。中を覗くと甲殻類の幼生体のようなプランクトンが手のひら一杯分ぐらい溜まっていた。

 クーラーボックスから昨日作った魚肉ハンバーグを1袋取り出し、浅型のコッヘルに出してシングルバーナーで焼き、表面に軽く焦げ目をつける。
 ナイフで適当なサイズに切り分けて二人分に分けて皿代わりのコッヘルの蓋に乗せ、朝の分の飲料水を100ccずつ深皿タイプのコッヘル二つに注ぐ。それを食卓代わりのクーラーボックスの上に並べたところで美岬が戻ってくる。

「お待たせしましたっす。出すもの出してスッキリしたっす」

「……そうか、良かったな。先に食事にしよう。俺はその後で用を足しに行くから」

「わーい! お腹ぺこぺこっす」

「まずはプランクトンだ。手を出して」

 美岬が差し出した手のひらにプランクトンを乗せる。残った半分を自分の手のひらに乗せて一気にぱくりと食べる。

「もぐもぐ……。うーん、なんというかなんとも言えない味と食感っすよね」

「それな。もうこれに関してはビタミン剤とでも思うしかないな」

「……味はともかく長靴一杯食べたいっす」

「……またずいぶん古いネタ知ってんな」

「そっすか? 島だと公民館でレーザーディスク上映会たまにやってたっすけどナ○シカよりもっと古いのもやってたっすよ」

「今時レーザーディスクってまじか。ちなみに他にはどんなのをやってたんだ?」

「アイヌモチーフの太陽の王子のやつとか、文明崩壊後の未来の少年のやつとか」

「……本当に古いな。それは俺の親世代が子供の頃のやつだぞ」

「あはは。うちの島ではそのくらいの人たちが普通に現役世代っすからね」

 次いで魚肉ハンバーグを摘まむ。柔らかい中に胃腸のグリグリとした歯応えがあり、あっさりとした魚肉からハーブとスパイスとオリーブ油の風味が感じられる。玉ねぎが入ってないからハンバーグというよりテリーヌっぽくなったが、ポテチのおかげで固くなりすぎずこれはこれで悪くない。

「なるほど。こんな感じになるんすね。洋風なカマボコって感じっすね。あっさりしてて美味しいっす」

「屑肉だけで作ったと思えば上等だろう?」

「もちろん! さすがっす! ただ、やっぱりもうちょっと量は欲しいっすね」

「今日の食事は残念ながらこれだけだ。もし今日も魚が釣れたらそれはそれで追加の食事にできるけどな」

「それなら、なんとか今日も釣りたいっすね」

 そんな会話をしつつ食事を終え、俺も船尾のトイレで用を済まし、その後、美岬と残った竹の枝を使って干場作りにいそしむ。

 竹の枝3本を一箇所で縛って広げれば独立する三脚トライポッドとなる。同じ物をさらに2つ作り、トライポッドが3個完成する。

 別の竹の枝3本を尖らせて竹串を作り、それに塩漬けの魚肉スライスを少しずつ間隔を空けながら刺していく。
 すべての魚肉スライスを刺し終わったら、筏の船首側の空きスペースに断熱シートを広げ、その上にトライポッド3個をそれぞれ三角形の角の位置になるように設置し、魚肉スライスの刺さった竹串をトライポッド同士を繋ぐように掛けて干し始める。
 夏の日差しと銀ピカの断熱シートからの反射熱で数時間も干せば立派なジャーキーになるだろう。









【作者コメント】
 刺身で食べられるぐらい新鮮な魚の身を、厚みを揃えてスライスし、全体にまんべんなく濃い目の塩味を染ませ、短時間で水分を飛ばして乾燥させれば、加熱なしでそのまま食べられるジャーキーになります。乾燥しやすいようにある程度薄くスライスするのがコツです。燻煙材で燻せば完璧ですがこの状況ではそこまでできませんね。

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