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事業拡大編
第35話 サミエラは仕事を割り振る
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まだ明るいうちにサンファン郊外のゴールディ商会の本拠地アレムケル農園に戻ってきた2人の荷馬車を、最年長の奴隷であり農園の監督であるルークが出迎える。
「商会長、副商会長、おかえりなさいやし」
「ただいまルーク。今日は特に問題なかったかしら?」
荷馬車の御者台から飛び降りたサミエラが荷台に積んであった火縄銃と小太刀を取りながら尋ねると、ルークはロッコと御者を交代しながら答える。
「へぇ。副商会長が昼過ぎに持ち帰った次の分の果物の仕込みも全部終わってやすぜ。今は女たちは晩飯の支度、男たちは半分が農作業でもう半分がプレハブ小屋の部品作りをやってまさ」
「え? あの量の果物の処理がもう終わってるの? ずいぶん早いのね」
「あー……新入りの連中がやったら手際がいいんでさ。アボットは仕事の段取りを組むのが上手ぇし、アニーはよく周りを見てるから手が足りねぇところのフォローが早いんでさ。ショーゴ、ゴン、ナミは手先が器用で仕事が速えくせにちっとも休憩しねぇんで結局、1人で何人分も仕事をこなしちまう」
「……ショーゴたちの仕事中毒は民族性かしらね。勤勉なのはいいけど働きすぎも考えものね。……そんなに働きづめってことは、もう壊血病は全快したと思っていいかしら?」
「へえ。もうすっかり快復してまっさ。だからこそ今は特に張り切ってるんだと思いますがね」
「ならちょうどいいわ。新人たち5人を一度母屋の応接間の方に集めてくれるかしら? 彼らには新たな仕事を与えたいと思ってたから」
「へいっ。この馬車を片付けたらすぐに連中を探して向かわせまっさ」
「うん。お願いね」
荷馬車を操って馬小屋の方に進ませるルークを見送り、サミエラはロッコと共に母屋の方に向かった。
しばらくして、アボットたち5人が母屋の応接間に集合する。ちなみにこの応接間が今はゴールディ商会のオフィスになっており、サミエラとロッコが事務作業をするための執務机があり、来客に対応するためのパーテーションで区切られた応接スペースも設けられている。
「アボット以下5名、お呼びとのことで参上しました」
「待ってたわ。じゃあ応接スペースの方で話しましょう」
サミエラが執務机から立ち上がり、アボットたちを応接スペースの方に案内して客用の椅子に座らせ、アボットたちと向かい合う形でロッコと並んで座る。
「さて、ここに来て1週間になるわけだけど、ここでの暮らしには慣れてきたかしら? 忌憚のない意見を聞かせてほしいわ」
オランダ語でのサミエラの問いかけにアボットが代表して答える。
「正直に申して、快適すぎて申し訳なく思っておるほどです。プレハブ小屋を売り出す前の試験運用とはいえ、奴隷である私共全員に1軒ずつ住まいを与えていただけたばかりか、壊血病の治療のためとはいえ、新鮮な野菜や果物をふんだんに食べさせてもらい……なんとか今後の働きでお返ししたいと思っている次第です」
アボットの言葉に全員がうんうんと頷く。
「そう。特に不満がないならいいけど、アタシはあなたたちの意見にも積極的に耳を傾けて商会の労働環境を可能な限り良いものにしていきたいと思ってるから、気づいたことや改善案があるなら遠慮せずに提案してほしいわ」
「わかりました」
「ルークから聞いたけど、みんな、ずいぶんと張り切って仕事をしてくれているようね。アボットが段取りを組むと作業の効率が上がると聞いているわ。是非ともその能力を活かしてほしいから、アボットは今後ルークの補佐として作業全体のマネージメントをしてもらえるかしら?」
「ふむ。実務的な部分の取りまとめと調整ですな。わかりました。ご期待に沿えるよう努めます」
「次にアニー」
「はいっ!」
アネッタがピシッと背筋を伸ばす。
「あなたは視野が広くてサポート役に向いていると報告が上がっているわ。それに、上流階級の相手にも通用する程度の礼儀作法も身に付いているわね。どこで習ったのかしら?」
「はい。私は父のパートナーとしてパーティに出る必要がありましたので、父と懇意の商人の奥様に教えていただきました」
「こういう礼儀作法は一朝一夕で身に付くものではないからそれがすでに身に付いているアドバンテージは大きいわ。アニー、あなたはこれからアタシの秘書として働いてもらおうと思ってるわ」
「はい。やらせていただきます」
「うん。よろしくね。アニーには商会の顔として表舞台に立ってもらうつもりだけど、組織には裏の顔も必要だわ。その裏方をショーゴ、ゴン、ナミに担当してもらいたいと思っているわ。具体的には警備、護衛、諜報ね。ショーゴ、ゴン、その箱をここに上げてちょうだい」
「「イエスマム」」
覚えたてのイングランド語で応じながらショーゴとゴンノスケが大きな木箱を持ち上げてテーブルの上に置く。
「この中には奴隷商人のジョージさんから預かったあなたたちの私物と武器が入ってるから返しておくわ。ショーゴの刀とゴンの銃は修理しておいたから不具合がないか見てくれる?」
サミエラが木箱を開けると、ショーゴたちは戸惑いを隠せない様子でアボットに何事が耳打ちし、アボットが頷いてサミエラに言う。
「ご主人様、私共にはあなたへの叛意はありませんが、それでもあまりにも信用しすぎではありませんか? 奴隷に戦いの時だけでなく、普段から武器を持たせておくなど考えられませんぞ?」
「あは。それをわざわざ言ってくれる時点で十分信用に値するのだけど、そうね、じゃあそろそろネタバレしようかしら」
そしてにんまりと笑ってオランダ語から日本語に切り替える。
「アタシが日ノ本の言葉が分からないなんて言ったことがあったかしら?」
「な!? 俺たちの国の言葉!?」「なんじゃと?」「うそやろ?」
「「…………っ!」」
想定もしていなかったサミエラの爆弾発言にショーゴたちは思わず日本語での驚きを口々にし、日本語の習得難易度を知っているアボットとアネッタは絶句し、ロッコは頭痛を堪えるように眉間を押さえた。
「なぜアタシがそれを知ってるかを今は説明する気はないけど、アタシは日ノ本という国と言葉を知っているし、その気質も理解しているわ。あなたたち3人がアボットとアネッタの為に身売りしようとしていた時点で、アタシは主人の為なら命すら惜しまないサムライ魂をあなたたちが受け継いでいると気づいたし、信用できると判断したわ」
「あ、主様が俺たちの言葉を知っておるなら……よもや、これまでも」
恐る恐る伺ってくるショーゴが何を言わんとしているか察したサミエラがニッコリと笑う。
「ええ。あなたたちがアタシの前でこっそり日本語でしていたやり取りは全部聞いていたわよ。アタシのことを密かに『姫様』呼ばわりしてることもねっ! あなたたち、アタシに知られていないと思って……」
サミエラがぐるりと若者たちの顔を見回すと、全員がギクリと挙動不審になり、きまり悪そうな表情を浮かべる。
「あなたたち、アタシのことを好きすぎるでしょぉお! なんなのよ、あの合言葉はっ!」
「うげ」「バレとるやん」
「おい、どうした嬢ちゃん!?」
いきなり声を荒げたサミエラに驚いたロッコにサミエラが説明する。
古来より日本の水軍衆では味方を見分け、結束を強める為に合言葉が用いられており、その習慣はショーゴたち周防衆にも受け継がれていた。そして、今回、奴隷となったショーゴたち3人にアネッタを加えた4人で日本語の合言葉を決めていた。それは七七七五の都々逸形式で、誰かが『たとえ此の身が朽ち果てるとも』と呼びかけると他の者が『姫の為なら惜しくなし』と応じるものだった。
それをショーゴたち4人が事あるごとに言っているので他の奴隷たちまで意味も分からぬまま真似し始め、奴隷たちが仕事を始める時のかけ声のようになりつつあった。
「……あー、なにやら最近聞き慣れねぇことを言ってるな、とは思っていたがこいつらが元凶だったのか。で、どういう意味なんだ?」
「…………うー……、意味は『アタシの為なら死ねる』よ」
「ぶはっ! そりゃまた大した忠誠心じゃねぇか。だが、意味が分かってて毎回聞かされるのは堪ったもんじゃねぇな!」
腹を抱えて笑い転げるロッコにサミエラが頬を膨らませてむくれる。
「すまんかったのじゃ。怒っておるかのぅ?」
申し訳なさそうに伺うゴンノスケにサミエラがヤケクソ気味に応じる。
「怒ってはないけどねっ! でもあんなのを毎回聞かされてあなたたちの動機を疑い続けるのはアホらしくなるわよ! そんなわけであなたたちを信用して武装を許可するから、武士の名に恥じぬように精進しなさい!」
「ははっ! たとえ此の身が朽ち果てるとも!」
「「「姫の為なら惜しくなしっ!」」」
「もうそれはいいわよっ!」
~~~~
【その時、歴史を動かしたCh 考証解説Vol.7 パーソナリティー:Sakura&Nobuna】
Nobuna「うははははっ! いやぁ最高じゃのぅ! 妾はこのノリは大好きなのじゃ!」
Sakura「ノブナはこういうん好きじゃけんねぇ……」
──俺も好き
──ほんと、こいつらサミエラのこと好きすぎやろw
──気持ちは分かるけどねw そりゃこれだけ面倒見のいい主人なら懐くっしょ
──サミエラがどのタイミングで日本語が分かることをバラすのかな~と思ってたけどここだったかぁ
──これ以上はサミエラが耐えられんてw
──姫様呼ばわりはどさくさ紛れで既成事実化したな
──……
Sakura「ねえノブナ、合言葉って元々は水軍衆が使っとったと?」
Nobuna「む、そうじゃな~。水軍衆に限らず、忍びなんかも使っておったのじゃ。有名どころじゃと、風魔の小太郎なんかは紛れ込んだ敵の忍びを炙り出すために合言葉を言ったら全員が座る、あるいは立ち上がるという方法を使っておったのぅ」
──合言葉を言え! 「かぜ!」
──「たにーっ!」ってなに言わすねん!
──あー、昔から合言葉で風と谷ってセットだけど元ネタなんなん?
──知らね。ググったら出てくるんじゃない?
──サミエラの奴隷たちの合言葉カッコいいよね
──毎回聞かされるサミエラは恥ずかしいと思うよ
──畑に行く時とか作業始めるタイミングでいつも言ってるもんなぁ
──七五調ってリズムいいから覚えやすいんだよね
──……
Nobuna「これは日本の和歌の形式の1つで七七七五の26字から成る都々逸じゃな。他にも五七五の俳句や川柳、五七五七七の短歌なんかもあるのぅ。七五調は確かにリズムが良いから覚えやすいんじゃよなぁ」
Sakura「ふふ。ルークの息子のブラウンが一緒になって「ヒメノタメナラオシクナシ~」って言うてるの可愛いかよねぇ」
──ブラウンちゃんはあたしの癒し枠!
──あれはマジで可愛い
──ブラウンがそれを言ってるのを目撃した時のサミエラのなんともいえん顔が忘れられんw
──むしろ今のサクラさんに癒されたんだが
──それなw
──……
【作者コメント】
ショーゴたちは現時点では英語はまだ全然で、オランダ語は片言なので、日本語での会話じゃないとセリフがないのです。片言だと誰がしゃべってるか分からなくなりますし。ここからようやくサミエラとの会話で日本語解禁なので会話に参加させられます(*´∀`)♪
気に入っていただけたら❤️や⭐で応援いただけると嬉しいです。
「商会長、副商会長、おかえりなさいやし」
「ただいまルーク。今日は特に問題なかったかしら?」
荷馬車の御者台から飛び降りたサミエラが荷台に積んであった火縄銃と小太刀を取りながら尋ねると、ルークはロッコと御者を交代しながら答える。
「へぇ。副商会長が昼過ぎに持ち帰った次の分の果物の仕込みも全部終わってやすぜ。今は女たちは晩飯の支度、男たちは半分が農作業でもう半分がプレハブ小屋の部品作りをやってまさ」
「え? あの量の果物の処理がもう終わってるの? ずいぶん早いのね」
「あー……新入りの連中がやったら手際がいいんでさ。アボットは仕事の段取りを組むのが上手ぇし、アニーはよく周りを見てるから手が足りねぇところのフォローが早いんでさ。ショーゴ、ゴン、ナミは手先が器用で仕事が速えくせにちっとも休憩しねぇんで結局、1人で何人分も仕事をこなしちまう」
「……ショーゴたちの仕事中毒は民族性かしらね。勤勉なのはいいけど働きすぎも考えものね。……そんなに働きづめってことは、もう壊血病は全快したと思っていいかしら?」
「へえ。もうすっかり快復してまっさ。だからこそ今は特に張り切ってるんだと思いますがね」
「ならちょうどいいわ。新人たち5人を一度母屋の応接間の方に集めてくれるかしら? 彼らには新たな仕事を与えたいと思ってたから」
「へいっ。この馬車を片付けたらすぐに連中を探して向かわせまっさ」
「うん。お願いね」
荷馬車を操って馬小屋の方に進ませるルークを見送り、サミエラはロッコと共に母屋の方に向かった。
しばらくして、アボットたち5人が母屋の応接間に集合する。ちなみにこの応接間が今はゴールディ商会のオフィスになっており、サミエラとロッコが事務作業をするための執務机があり、来客に対応するためのパーテーションで区切られた応接スペースも設けられている。
「アボット以下5名、お呼びとのことで参上しました」
「待ってたわ。じゃあ応接スペースの方で話しましょう」
サミエラが執務机から立ち上がり、アボットたちを応接スペースの方に案内して客用の椅子に座らせ、アボットたちと向かい合う形でロッコと並んで座る。
「さて、ここに来て1週間になるわけだけど、ここでの暮らしには慣れてきたかしら? 忌憚のない意見を聞かせてほしいわ」
オランダ語でのサミエラの問いかけにアボットが代表して答える。
「正直に申して、快適すぎて申し訳なく思っておるほどです。プレハブ小屋を売り出す前の試験運用とはいえ、奴隷である私共全員に1軒ずつ住まいを与えていただけたばかりか、壊血病の治療のためとはいえ、新鮮な野菜や果物をふんだんに食べさせてもらい……なんとか今後の働きでお返ししたいと思っている次第です」
アボットの言葉に全員がうんうんと頷く。
「そう。特に不満がないならいいけど、アタシはあなたたちの意見にも積極的に耳を傾けて商会の労働環境を可能な限り良いものにしていきたいと思ってるから、気づいたことや改善案があるなら遠慮せずに提案してほしいわ」
「わかりました」
「ルークから聞いたけど、みんな、ずいぶんと張り切って仕事をしてくれているようね。アボットが段取りを組むと作業の効率が上がると聞いているわ。是非ともその能力を活かしてほしいから、アボットは今後ルークの補佐として作業全体のマネージメントをしてもらえるかしら?」
「ふむ。実務的な部分の取りまとめと調整ですな。わかりました。ご期待に沿えるよう努めます」
「次にアニー」
「はいっ!」
アネッタがピシッと背筋を伸ばす。
「あなたは視野が広くてサポート役に向いていると報告が上がっているわ。それに、上流階級の相手にも通用する程度の礼儀作法も身に付いているわね。どこで習ったのかしら?」
「はい。私は父のパートナーとしてパーティに出る必要がありましたので、父と懇意の商人の奥様に教えていただきました」
「こういう礼儀作法は一朝一夕で身に付くものではないからそれがすでに身に付いているアドバンテージは大きいわ。アニー、あなたはこれからアタシの秘書として働いてもらおうと思ってるわ」
「はい。やらせていただきます」
「うん。よろしくね。アニーには商会の顔として表舞台に立ってもらうつもりだけど、組織には裏の顔も必要だわ。その裏方をショーゴ、ゴン、ナミに担当してもらいたいと思っているわ。具体的には警備、護衛、諜報ね。ショーゴ、ゴン、その箱をここに上げてちょうだい」
「「イエスマム」」
覚えたてのイングランド語で応じながらショーゴとゴンノスケが大きな木箱を持ち上げてテーブルの上に置く。
「この中には奴隷商人のジョージさんから預かったあなたたちの私物と武器が入ってるから返しておくわ。ショーゴの刀とゴンの銃は修理しておいたから不具合がないか見てくれる?」
サミエラが木箱を開けると、ショーゴたちは戸惑いを隠せない様子でアボットに何事が耳打ちし、アボットが頷いてサミエラに言う。
「ご主人様、私共にはあなたへの叛意はありませんが、それでもあまりにも信用しすぎではありませんか? 奴隷に戦いの時だけでなく、普段から武器を持たせておくなど考えられませんぞ?」
「あは。それをわざわざ言ってくれる時点で十分信用に値するのだけど、そうね、じゃあそろそろネタバレしようかしら」
そしてにんまりと笑ってオランダ語から日本語に切り替える。
「アタシが日ノ本の言葉が分からないなんて言ったことがあったかしら?」
「な!? 俺たちの国の言葉!?」「なんじゃと?」「うそやろ?」
「「…………っ!」」
想定もしていなかったサミエラの爆弾発言にショーゴたちは思わず日本語での驚きを口々にし、日本語の習得難易度を知っているアボットとアネッタは絶句し、ロッコは頭痛を堪えるように眉間を押さえた。
「なぜアタシがそれを知ってるかを今は説明する気はないけど、アタシは日ノ本という国と言葉を知っているし、その気質も理解しているわ。あなたたち3人がアボットとアネッタの為に身売りしようとしていた時点で、アタシは主人の為なら命すら惜しまないサムライ魂をあなたたちが受け継いでいると気づいたし、信用できると判断したわ」
「あ、主様が俺たちの言葉を知っておるなら……よもや、これまでも」
恐る恐る伺ってくるショーゴが何を言わんとしているか察したサミエラがニッコリと笑う。
「ええ。あなたたちがアタシの前でこっそり日本語でしていたやり取りは全部聞いていたわよ。アタシのことを密かに『姫様』呼ばわりしてることもねっ! あなたたち、アタシに知られていないと思って……」
サミエラがぐるりと若者たちの顔を見回すと、全員がギクリと挙動不審になり、きまり悪そうな表情を浮かべる。
「あなたたち、アタシのことを好きすぎるでしょぉお! なんなのよ、あの合言葉はっ!」
「うげ」「バレとるやん」
「おい、どうした嬢ちゃん!?」
いきなり声を荒げたサミエラに驚いたロッコにサミエラが説明する。
古来より日本の水軍衆では味方を見分け、結束を強める為に合言葉が用いられており、その習慣はショーゴたち周防衆にも受け継がれていた。そして、今回、奴隷となったショーゴたち3人にアネッタを加えた4人で日本語の合言葉を決めていた。それは七七七五の都々逸形式で、誰かが『たとえ此の身が朽ち果てるとも』と呼びかけると他の者が『姫の為なら惜しくなし』と応じるものだった。
それをショーゴたち4人が事あるごとに言っているので他の奴隷たちまで意味も分からぬまま真似し始め、奴隷たちが仕事を始める時のかけ声のようになりつつあった。
「……あー、なにやら最近聞き慣れねぇことを言ってるな、とは思っていたがこいつらが元凶だったのか。で、どういう意味なんだ?」
「…………うー……、意味は『アタシの為なら死ねる』よ」
「ぶはっ! そりゃまた大した忠誠心じゃねぇか。だが、意味が分かってて毎回聞かされるのは堪ったもんじゃねぇな!」
腹を抱えて笑い転げるロッコにサミエラが頬を膨らませてむくれる。
「すまんかったのじゃ。怒っておるかのぅ?」
申し訳なさそうに伺うゴンノスケにサミエラがヤケクソ気味に応じる。
「怒ってはないけどねっ! でもあんなのを毎回聞かされてあなたたちの動機を疑い続けるのはアホらしくなるわよ! そんなわけであなたたちを信用して武装を許可するから、武士の名に恥じぬように精進しなさい!」
「ははっ! たとえ此の身が朽ち果てるとも!」
「「「姫の為なら惜しくなしっ!」」」
「もうそれはいいわよっ!」
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【その時、歴史を動かしたCh 考証解説Vol.7 パーソナリティー:Sakura&Nobuna】
Nobuna「うははははっ! いやぁ最高じゃのぅ! 妾はこのノリは大好きなのじゃ!」
Sakura「ノブナはこういうん好きじゃけんねぇ……」
──俺も好き
──ほんと、こいつらサミエラのこと好きすぎやろw
──気持ちは分かるけどねw そりゃこれだけ面倒見のいい主人なら懐くっしょ
──サミエラがどのタイミングで日本語が分かることをバラすのかな~と思ってたけどここだったかぁ
──これ以上はサミエラが耐えられんてw
──姫様呼ばわりはどさくさ紛れで既成事実化したな
──……
Sakura「ねえノブナ、合言葉って元々は水軍衆が使っとったと?」
Nobuna「む、そうじゃな~。水軍衆に限らず、忍びなんかも使っておったのじゃ。有名どころじゃと、風魔の小太郎なんかは紛れ込んだ敵の忍びを炙り出すために合言葉を言ったら全員が座る、あるいは立ち上がるという方法を使っておったのぅ」
──合言葉を言え! 「かぜ!」
──「たにーっ!」ってなに言わすねん!
──あー、昔から合言葉で風と谷ってセットだけど元ネタなんなん?
──知らね。ググったら出てくるんじゃない?
──サミエラの奴隷たちの合言葉カッコいいよね
──毎回聞かされるサミエラは恥ずかしいと思うよ
──畑に行く時とか作業始めるタイミングでいつも言ってるもんなぁ
──七五調ってリズムいいから覚えやすいんだよね
──……
Nobuna「これは日本の和歌の形式の1つで七七七五の26字から成る都々逸じゃな。他にも五七五の俳句や川柳、五七五七七の短歌なんかもあるのぅ。七五調は確かにリズムが良いから覚えやすいんじゃよなぁ」
Sakura「ふふ。ルークの息子のブラウンが一緒になって「ヒメノタメナラオシクナシ~」って言うてるの可愛いかよねぇ」
──ブラウンちゃんはあたしの癒し枠!
──あれはマジで可愛い
──ブラウンがそれを言ってるのを目撃した時のサミエラのなんともいえん顔が忘れられんw
──むしろ今のサクラさんに癒されたんだが
──それなw
──……
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