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10:12 宿屋ボダン 一階 トイレ
何とか大人の体裁を守り厠に駆け込んだ優は、ただ今賢者タイムを迎えていた。
「ふぃー…………。助かったー。にしても、汚えトイレだな。」
こんな状況じゃなければ、まず他のトイレを探そうと思うレベルだ。
トイレと呼んでいいのかすら分からない。汲み上げ式のベンキに、酷い酸臭。申し訳程度に置かれた囲い板。大人四人がやっと入れる程度の狭い空間。
男女共用なんて言えば如何にもエロティックに聞こえるが、そもそも浮浪者しか入ってこないのだ。エロもクソもあったものではない。いや、クソはある。大量にある。
何とも程度の低い下ネタを考えていると、突然衛兵が入ってきた。ガチャガチャと剣を鳴らしながら、足音は二つ。大きいものと小さいもの。
俺は咄嗟にフードを目深に被り、頭を下げた。
(くそっ!よりによって、こんな時に!見られてないよな!先手必勝!やっちまうか?いや、気づいているようには見えない!まずは、様子見だ。)
俺が腹痛の人間を装って体を屈めた所で、声が聞こえた。
「お!あった!あった!あそこじゃねえか、トイレ?」
「あ、ホントだぁ!良かったー!漏れるとこだったよ!―――て、くさっ!!うそ!!何これ!?他行こうよ、ライトォ?」
心底ホッとしたような声は入室と同時に嫌悪のものへと変わる。
どこかで聞いたことのある甘ったるい女の声だ。と言うか、俺の元部下の声に酷似している。それに答える男の声もまた聞き覚えのあるものだった。
「はぁ?お前が我慢できないって言ったんだろが!大体客でもないのに善意で貸してくれたんだ。文句言うなよ。」
「でも、臭すぎて気持ち悪くなってきたんだけどぉ~」
「あー、分かった分かった!じゃあ、そこら辺で漏らしてこい。野グソ仲間なら一杯いるぞ、たぶん?」
「たぶんって何よ!てか、仲間いても嫌なものは嫌だから!」
「だったら、諦めて此処でするんだな。」
「でも、絶対お尻とか見られるって、」
「かもしれないが、ここら辺に他に使えるトイレがあるとは思わない方がいいぞ?」
「うぅ~~~~~~。わ、分かったわよ。」
「安心しろ、俺が隠してやるよ。」
「ライトォ❤️」
(シラー。まじでリア充乙って感じだが、取り敢えず俺の後ろから退いてくれ!出れねえだろ、何時まで経っても!てか、俺さっきからずっと尻出してるんだけど。)
まあ、説得も終わったみたいだし、後は二人がトイレに夢中になってる間に逃げればいい。
流石にトイレしてる時に隣のおっさんの顔を覗こうとか考えないだろう。
程なくして、隣からチョロチョロチョロー、て音が聞こえてきたので、俺は立ち上がった。
深くコートを被り、見られないように細心の注意を払い、厠を出る。
入れ替わるように“獣堕ち“(紅色の二足歩行の虎)が入ってきたので、二人の意識は完全にそちらに移り、何事もなく逃げることができた。
10:17 宿屋ボダン 二階 自室
俺が自室に入ると二人は先程と同じ体勢で寛いでいた。
「「おかえり」なさい?」
「ただいまー。」
「随分と遅かったわね?ナニかしてたの?」
俺が椅子に腰を掛けると、エリザが大人な笑みを浮かべて聞いてくる。王女様も興味ありげに半身を起こし、依然赤みの残る顔で見上げてきた。
その口には先程とは違う桜桃のような木の実が咥えられている。
優はよく食うなー、と内心感心しながら、先程あった二つのことを思い出していた。
衛兵と獣堕ち。
どちらも避けたい相手だが、衛兵はツレションに来ただけだし、獣堕ちもトイレに来ただけだ。
敢えて不安を煽る必要もないだろうと考え、
「何か?ああ、すこしな。だが、安心しろ。万事上手くやった。少し静かにしていた方がいいが、取り立てて心配する必要はない!」
「そ、そう。上手くやったのね。そ、それなら良かったわ!」
「し、静かにした方がいいの?やっぱり?」
何故か二人の言葉がぎこちない。
エリザは、思っていた答えと違うものが返ってきたような歯切れの悪さで視線をさ迷わせ、リリーは顔を赤く染めて下半身をガン見てくる。いや、何で!
よく分からんが、俺はさっとジョニーを隠すように足を組み、置きっぱなしになっていた今後の話を切り出した。
「それじゃあ、早速これからの事について話し合おうか。」
☆
俺は二人が居を正すのを見とどけてから、王都とその周辺の描かれた簡易地図を広げて、よく見えるように持った。
お嬢様には既に知ってる説明になるが、エリザが何処まで知ってるのか分からないので、一から説明をする。
「まず、今俺達がいる王都がこれだ。見ての通り十メートル級の城壁で囲まれた城塞都市で、現実的にここからよじ登るのはまず不可能。必然、脱出には東西南北の何れかの関所を通らなければならない訳だが警備が厳しい。」
「まあ、そうねえ?」
「おまけに日の入り前には完全に門が閉められるから深夜の脱出も不可能ときた。」
「あらあらぁ、八方塞がりねえ?また強行突破かしら?分かりやすくて良いのだけど?」
「出来れば避けたいが、そうなる心の準備はしておいてくれ。」
「それでもし出るとしたら、どの門から出るつもり?見た感じ国を出るなら東門か北門が良さそうだけど?」
「出来るなら北門の方がいいな。」
「その心は?」
「俺がよく知ってるからだ!」
「実に単純、稚拙、捻りない。」
「土地勘のない場所で逃げるより安全だろう?何より街道の外れに森があるから身を隠すのには打ってつけだ。」
「この国に残るって選択は?」
「論外だ。確かにローゼン王国は小国だし、裂けられる捜索の数も限られてくる。が、俺の罪状を知ってるか?王女凌辱罪、誘拐罪、逃亡罪、私物窃盗罪、および器物破損罪だ。」
「犯罪のオンパレードねぇ?ここまでの悪党は流石にそうそう見ないわよ?」
「ほっとけ!まずいのは俺が黄金姫を凌辱・誘拐したと言う事実だ。リリー王女は珍しくも、平民奴隷問わずに人気だったからな。それを凌辱し、あまつさえ誘拐したこの俺は王国中の人間の恨みを買っていると言っていい。
つまりは王国民全てが潜在的な衛兵足りうると言うことなのだよ。」
「………貴方と別れた方が長生きできそうな気がしてきたわぁ。」
エリザは脚を組み換えて、やれやれとため息。
「どうしてこんな男に付いてきてしまったのか?」とでも言いたげな表情だ。
さらに唇に指を添え、思案げに数秒考えた後、
「まあ、大体の事情は把握したわ。不幸を愚痴っても仕方ないし、取り敢えずは貴方の傷が癒えるまで此処で隠れていましょう。」
そう話を締め括ったのだった。
何とか大人の体裁を守り厠に駆け込んだ優は、ただ今賢者タイムを迎えていた。
「ふぃー…………。助かったー。にしても、汚えトイレだな。」
こんな状況じゃなければ、まず他のトイレを探そうと思うレベルだ。
トイレと呼んでいいのかすら分からない。汲み上げ式のベンキに、酷い酸臭。申し訳程度に置かれた囲い板。大人四人がやっと入れる程度の狭い空間。
男女共用なんて言えば如何にもエロティックに聞こえるが、そもそも浮浪者しか入ってこないのだ。エロもクソもあったものではない。いや、クソはある。大量にある。
何とも程度の低い下ネタを考えていると、突然衛兵が入ってきた。ガチャガチャと剣を鳴らしながら、足音は二つ。大きいものと小さいもの。
俺は咄嗟にフードを目深に被り、頭を下げた。
(くそっ!よりによって、こんな時に!見られてないよな!先手必勝!やっちまうか?いや、気づいているようには見えない!まずは、様子見だ。)
俺が腹痛の人間を装って体を屈めた所で、声が聞こえた。
「お!あった!あった!あそこじゃねえか、トイレ?」
「あ、ホントだぁ!良かったー!漏れるとこだったよ!―――て、くさっ!!うそ!!何これ!?他行こうよ、ライトォ?」
心底ホッとしたような声は入室と同時に嫌悪のものへと変わる。
どこかで聞いたことのある甘ったるい女の声だ。と言うか、俺の元部下の声に酷似している。それに答える男の声もまた聞き覚えのあるものだった。
「はぁ?お前が我慢できないって言ったんだろが!大体客でもないのに善意で貸してくれたんだ。文句言うなよ。」
「でも、臭すぎて気持ち悪くなってきたんだけどぉ~」
「あー、分かった分かった!じゃあ、そこら辺で漏らしてこい。野グソ仲間なら一杯いるぞ、たぶん?」
「たぶんって何よ!てか、仲間いても嫌なものは嫌だから!」
「だったら、諦めて此処でするんだな。」
「でも、絶対お尻とか見られるって、」
「かもしれないが、ここら辺に他に使えるトイレがあるとは思わない方がいいぞ?」
「うぅ~~~~~~。わ、分かったわよ。」
「安心しろ、俺が隠してやるよ。」
「ライトォ❤️」
(シラー。まじでリア充乙って感じだが、取り敢えず俺の後ろから退いてくれ!出れねえだろ、何時まで経っても!てか、俺さっきからずっと尻出してるんだけど。)
まあ、説得も終わったみたいだし、後は二人がトイレに夢中になってる間に逃げればいい。
流石にトイレしてる時に隣のおっさんの顔を覗こうとか考えないだろう。
程なくして、隣からチョロチョロチョロー、て音が聞こえてきたので、俺は立ち上がった。
深くコートを被り、見られないように細心の注意を払い、厠を出る。
入れ替わるように“獣堕ち“(紅色の二足歩行の虎)が入ってきたので、二人の意識は完全にそちらに移り、何事もなく逃げることができた。
10:17 宿屋ボダン 二階 自室
俺が自室に入ると二人は先程と同じ体勢で寛いでいた。
「「おかえり」なさい?」
「ただいまー。」
「随分と遅かったわね?ナニかしてたの?」
俺が椅子に腰を掛けると、エリザが大人な笑みを浮かべて聞いてくる。王女様も興味ありげに半身を起こし、依然赤みの残る顔で見上げてきた。
その口には先程とは違う桜桃のような木の実が咥えられている。
優はよく食うなー、と内心感心しながら、先程あった二つのことを思い出していた。
衛兵と獣堕ち。
どちらも避けたい相手だが、衛兵はツレションに来ただけだし、獣堕ちもトイレに来ただけだ。
敢えて不安を煽る必要もないだろうと考え、
「何か?ああ、すこしな。だが、安心しろ。万事上手くやった。少し静かにしていた方がいいが、取り立てて心配する必要はない!」
「そ、そう。上手くやったのね。そ、それなら良かったわ!」
「し、静かにした方がいいの?やっぱり?」
何故か二人の言葉がぎこちない。
エリザは、思っていた答えと違うものが返ってきたような歯切れの悪さで視線をさ迷わせ、リリーは顔を赤く染めて下半身をガン見てくる。いや、何で!
よく分からんが、俺はさっとジョニーを隠すように足を組み、置きっぱなしになっていた今後の話を切り出した。
「それじゃあ、早速これからの事について話し合おうか。」
☆
俺は二人が居を正すのを見とどけてから、王都とその周辺の描かれた簡易地図を広げて、よく見えるように持った。
お嬢様には既に知ってる説明になるが、エリザが何処まで知ってるのか分からないので、一から説明をする。
「まず、今俺達がいる王都がこれだ。見ての通り十メートル級の城壁で囲まれた城塞都市で、現実的にここからよじ登るのはまず不可能。必然、脱出には東西南北の何れかの関所を通らなければならない訳だが警備が厳しい。」
「まあ、そうねえ?」
「おまけに日の入り前には完全に門が閉められるから深夜の脱出も不可能ときた。」
「あらあらぁ、八方塞がりねえ?また強行突破かしら?分かりやすくて良いのだけど?」
「出来れば避けたいが、そうなる心の準備はしておいてくれ。」
「それでもし出るとしたら、どの門から出るつもり?見た感じ国を出るなら東門か北門が良さそうだけど?」
「出来るなら北門の方がいいな。」
「その心は?」
「俺がよく知ってるからだ!」
「実に単純、稚拙、捻りない。」
「土地勘のない場所で逃げるより安全だろう?何より街道の外れに森があるから身を隠すのには打ってつけだ。」
「この国に残るって選択は?」
「論外だ。確かにローゼン王国は小国だし、裂けられる捜索の数も限られてくる。が、俺の罪状を知ってるか?王女凌辱罪、誘拐罪、逃亡罪、私物窃盗罪、および器物破損罪だ。」
「犯罪のオンパレードねぇ?ここまでの悪党は流石にそうそう見ないわよ?」
「ほっとけ!まずいのは俺が黄金姫を凌辱・誘拐したと言う事実だ。リリー王女は珍しくも、平民奴隷問わずに人気だったからな。それを凌辱し、あまつさえ誘拐したこの俺は王国中の人間の恨みを買っていると言っていい。
つまりは王国民全てが潜在的な衛兵足りうると言うことなのだよ。」
「………貴方と別れた方が長生きできそうな気がしてきたわぁ。」
エリザは脚を組み換えて、やれやれとため息。
「どうしてこんな男に付いてきてしまったのか?」とでも言いたげな表情だ。
さらに唇に指を添え、思案げに数秒考えた後、
「まあ、大体の事情は把握したわ。不幸を愚痴っても仕方ないし、取り敢えずは貴方の傷が癒えるまで此処で隠れていましょう。」
そう話を締め括ったのだった。
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