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い、痛い……!

頬に伝わる痛みと感触に俺が唖然としている間に、王女はせっせと俺の体に巻き付いた鎖をほどいていく。


「重い!これ猛獣用の鎖じゃない!何でこんなの使ってるのよ!」

プンプンと怒りながらも、両手で抱えるように鎖を持ち上げて、少しずつ外していく。
何重にも掛けられた鍵が開けられ、手錠と足枷が取り除かれ、漸く優の全身は自由になった。


この時になり、初めて優の思考が現実に追い付く。
今目の前にいる少女は現実なのだ。

「何て無茶なことを………そんな格好で賊にでも間違えられたら殺され、うっ!」

胸骨が軋みを上げる痛みで口が止まった。

俺は慌てて駆け寄ってくる少女を手で制し、「大丈夫」と笑みを浮かべて、優雅に起立………しようと思ったのだが、足首に力が入らず、フラりとバランスを失った。王女様の方によろける形になって、トトロを踏んで姿勢を崩す。
全身に伝わる痛みのせいか、飲まされた凶薬のせいか、俺の体は何時もの精細を欠き、ボスンっ!と王女様の胸の谷間に顔が埋まった。

―――ヤバい!これは殴られる!

そう直感し、身構えるが、予想した衝撃は何時まで経っても来ない。代わりに来たのは王女様の優しい包容。
柔らかい肌と暖かい温もりが冷えた体を包み込む。

「ボロボロじゃない………。」

顔を上げると、その頬に暖かい雫が降ってきた。

彼女は優の顔を撫でながら、感情が堰を切って漏れ出すのを止められないようだった。
瞳に雫を一杯溜め、そこから筋を引いて涙が零れる。
可愛い顔が台無しだ。
そんな顔ですら美しく見えるんだから嫌みすら沸いてこないけど………

俺はもう少しこの顔を眺めていてもイイかもしれないと言う思いに駆られるが、その前に確かめておかねばならないことが出来た。

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