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    俺の名前は赤羽優。
    転生者だ。
    前世は特質することがない普通の高校生。死因は事故死。車に引かれそうになってる近所の女児を守って死んだのだ。

    まあまあの死に方だろう。

    対して今世の俺は普通とは言いがたい人生。
    スラムの捨て子として生を受け、親兄弟全く知ることなく、泥を啜り、残飯を漁りながらの生活。
    衛生環境は最悪で、犯罪は蔓延り、毎日が暴力と空腹の日々。
    当然の既決として病に掛かった。
    決して治せない病気ではない。
    しかし、金も医者も薬もないスラム孤児では致命的な欠陥。
    全てに絶望し、何もかも諦めていたとき、一人の少女に出会った。
    その少女は『黄金姫』と呼ばれるこの国の第二王女。
    大陸に名を轟かせる『三大美女』が一人。

    何の気まぐれか、その少女は俺を助けてくれた。
    どころか、金と権力を使い軍隊見習いにまでしてくれた。

    理由は分からない。しかし、その日から俺は恩に報いるため最強の騎士になるべく、あらゆる努力見参を積んだ。

    転生補正なのか何なのか?
    俺はぐんぐんと成長し、ローゼン王国騎士試験を受けられる最低年齢の十三才(詐称、実齢十歳)で試験を受け、合格。十五歳(十二才)で部隊長になり、現在彼女の護衛騎士を勤めている。

    これが今までの俺の概略だ。

    ちなみに今の年齢は十八才(十五才)だ。



ローゼン王国第二王女リリー・V・エンペリアル・デ・ローゼン姫の自室

    そこは物語に出てくるような煌びやかな部屋だった。
    大きさはそこそこ大がかりなパーティーが開けるくらい。
    王国中から取り寄せた、名品やら人形やら香水やら化粧が整然とおかれている。
    その中央に一際大きなピンクのベッド。
    その上で淫らな格好で、怠惰に寝そべるのが我が主、リリー第二王女だ。

    金色の髪を腰辺りまで伸ばし、白雪のような美しい肌をしている。

『黄金姫?』
『淑女の中の淑女?』
『女神の落とし子?』

    誰だそれは。
    残念ながらそんな女性は居なかった。

    彼女はどこまでも怠惰で、堕落した人間である。

    しかし、その外面の暑さと美貌は本物だった。
    ぶっちゃけて言って恐ろしいほど美しい。

    さらさらとしたくせっ毛のない金髪は腰辺りまでのび、その毛先一本一本が絹糸のように艶がある。
    身長は百六十五センチほど。
    薄い唇と整った目鼻立ちは芸術品を思わせ、シースルーの透け透けのドレスから覗く肌は男も危険も知らないような傷の一つすら存在しない。

    王女は体が埋もれるような弾力性のベッドに寝そべりながら、超一級のフカフカの枕に埋めていた顔を不意に上げる。

    俺がその顔を見ると、薄い唇を子悪魔的に揺らし、大きな紅蓮の瞳で愉しげに此方を見返した。

「ねえ、優。」
「何でしょうか、お嬢様。」
「ちょっと腰が凝っちゃったからマッサージしてくれない?」
「メイドを呼んできましょう。」
「いーや。そんなん呼ばれたら腰だけじゃなくて肩まで凝っちゃうわ。私にまた『完璧な淑女』の演技をさせるつもり?」
「出来ればそうしていただけると幸いです。」
「いやだいやだいやだいーやーだー!」

    子供のように駄々をこねる王女に俺は頭を抱える。
    本来はマッサージこういうことはそれ専門の職人の仕事なのだが、この駄王女は外面を着けるのをめんどく下がって全部俺に押し付けるのだ。それどころか、執事やメイドのやる仕事まで俺に一任してくる。
     着替えや夜の読み聞かせまで俺の仕事である。

     此方の苦労も考えて欲しいと、優は思う。

    実際どう考えても過分な仕事量だ。普通の人間なら発狂しているだろう。
    しかし、それも恩返しと思えば安いものであった。
    問題は、王女様の無防備さ。
    同い年の男に服を着替えさせたり、透け透けの寝巻き姿で寝転んだり、

    前世、日本の常識がこびりついた優には彼女の行動はいささか刺激が強すぎた。

    毎日、自らの沸き上がってくる性欲と格闘しながら着替えやマッサージをしている優である。
    まさに生殺し。

    今日も自分で慰めねばならないな、と内心ぼやきながら俺は王女殿下のお尻の上に乗った。
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