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第6話 模擬戦
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「模擬戦、ねぇ……」
翌日。
メアは特に何事も起床し、部屋を訪ねてきたリリーと連れ立って朝食を摂りに食堂へと向かった。そしてリューク達と朝食を摂っている時、リュークから実力を確認したいから模擬戦をしようと言われたのだ。特に断る理由も見つからなかったメアは模擬戦を了承し、今に至る。
「魔法は使わないとしよう。剣でどこまでやれるのか確認したいからな。武器はリュークの武器よりランクが低いほうがいいか。よし、とりあえず初期武器の片手剣でいこう。模擬戦で死にはしないだろうし」
そういってメアはインベントリから片手剣を取り出す。一見すればどこにでもありそうな片手剣。実際今メアが握っている片手剣はLaDOにおける初期装備、すなわちゲーム開始時に持っている武器だ。PVPで使おうものなら間違いなく挑発行為ととられる武器でもある。
「うん、扱い方が分かるな」
部屋の中で一通り片手剣を扱ってみるメア。その動きはまさに百戦錬磨の戦士が見せる動きのそれであり、万人を魅了するだけの美しさがあった。
「確認はこれでいいか。後はある程度力量を抑えて模擬戦に挑めば良いな。さて、行くとしよう」
一通り確認し終え、頃合いだと感じたメアは、あらかじめ場所を聞いていた中庭へと向かう。
「ここだっけかな?」
廊下を通り抜け、中庭へと入る。中々の広さを誇っており、石畳で舗装され、訓練に適している場所になっている。端の方にはところどころ花が植えられている花壇もあり、石畳の中庭という殺風景な風景に彩りを与えていた。
「やあ、待ってたよ」
メアが中庭に入り、辺りを見渡していると声を掛けられる。声がした方向へ振り向くと、木製のベンチに腰かけているリューク達4人がいた。イリアだけは目にくまを作って如何にも眠そうにしてはいるが。
「おまたせしました」
「大丈夫だよ。そろそろかなって思ってたところだし」
「そういっていただけると助かります」
敵意と警戒を込めた目線を向けてくるイリアを尻目にメアは返答する。
「それじゃ、早速やりたいんだけどいいかい?」
「ええ、わかりました」
言葉を交わしつつも、2人は開けている中央へ向かい、適度な距離を開けるために離れていく。対向10mほどでお互い静止し、武器を構えて睨み合う形となった。
(大丈夫だ。これは模擬戦。怪我をすることはあるだろうが死ぬことはないだろう)
先ほど扱っていた片手剣を軽く握り、自分に模擬戦だと言い聞かせるメア。彼女は特に力むことなく、傍から見てもとてもリラックスしている様子だ。
(この感覚は……)
対してリュークは決して表情には出していないものの、内心では戦慄していた。妻であるリリーから彼女は異質な存在だとは聞いていたが、実際相対してみると痛烈に感じ取ったのだ。まるで巨大な塊となって押し寄せてくるような、異質な感覚を。
そしてリューク自身、この感覚がどういうものか知っていた。まだ自分がAランク冒険者になる前、自分よりも格上の存在を相手にした時の感覚のそれなのだ。しかも今感じる感覚は、今まで感じ取ったものの中でも群を抜いているもの。
たかが模擬戦。メアを見ても特に気負うことなくリラックスしている状態。そんな状態の彼女からでもこれほどの感覚が襲ってくることにリュークは少しの恐怖を抱く。実際の戦場で、もし彼女を敵に回していたらどれほどのものが押し寄せてくるのかと。
「ふぅっ!」
そんな自分の心に巣食いだした恐怖を吹き飛ばすように、そしていつの間にか全身に立っていた鳥肌を抑え込むように、短く強く息を吐く。そして両手剣を握りしめ────
「行くよっ!」
リュークが駆け出す。常人からしてみれば目にも留まらない速度で。だが相手はレベル100、すなわち一個体として究極の存在。そんな存在からしてみれば、その程度の速度など、蟻の行進にさえ劣る速度だった。
(遅い。実力者っぽいリュークがこの程度なら割と生きていけそうだ)
リュークが突進してきているにもかかわらず、メアはゆっくりと思考する。それは、それほどまでに実力差があるということを如実に示していた。
「ふっ!」
「っ……」
リュークの振り下ろしに対応するメア。メアが力を入れて剣を振り抜こうものならリュークが持つ剣は真っ二つになるだろう。かといって力を抜きすぎれば押し切られてしまう。メアは絶妙とも言える力加減によってリュークの攻撃を防いだのだ。
(普段はこの程度の力量で剣士としてやっていくことにするか)
メアが暢気に思考している間にも、剣と剣が何度も交差し、剣戟の音が中庭に何度も鳴り響く。軽くやるつもりだったのであろうリュークも、模擬戦前のような余裕のある表情は見る影もなく、鬼気迫る表情でメアに切りかかっている。それに対してメアは一切表情を変えることなく、まるで流れ作業をこなしているかのようにリュークの猛攻を受け流していた。
「なんなのよ、彼女……」
「予想以上ですね…… リュークさんがあんなに……」
中庭の端のほうで静かに模擬戦の行く末を見守っていたリュークの妻達も、目の前に広がる光景にくぎ付けになっていた。
自分達が隣で見てきた、リューク自慢の攻撃が、まるで無価値とでも言うかのように防がれていく。戦闘の経験のないイザベラも、目の前の光景を見てどちらが圧倒的強者なのか一目でわかってしまっていた。
(ここまで圧倒的なのか……)
リュークは荒い息を吐きながら、また一手、また一手と剣をメアに打ち込む。結果なんて分かりきっている。まるで分かっていますとでもいうかのように防がれるだけ。そしてそこから追撃するわけでもなく、ただ防御に徹しているメア。まるで嘲笑われているかのような感覚に、リュークは無意識に奥歯に込める力を強めていく。
「くっ! ≪クロススラッシュ≫!」
リュークがスキルを使用したのを見てわずかに目を見開くメア。そのメアの様子を見たリュークもまた、わずかに口角を上げる。ようやくメアに変化をもたらすことができたと知って。だが────
「ぁっ……」
結果は同じ。なんら問題なく防いだメア。その様子を見て無意識にリュークの口から小さく嗚咽が漏れた。自分のスキルさえ、メアにとって防ぐことになんら問題はないという無情な現実を突きつけられて。
「これで終わりですかね?」
リュークが気が付いたころには首筋に冷たいものが突きつけられていた。最終的にはこうなると心の中では理解していたのだ。怒りや悔しさなんてものは浮かぶはずがない。あるのはただ虚無感だけだった。
「……僕の負けだよ。ここまで実力差があるなんてね」
「お手合わせありがとうございました」
リュークは少々力なく、メアは少しばかりの歓喜を含ませて礼をする。
「リューク様……」
「リュークさん……」
「リューク……」
模擬戦も終わり、リュークの妻である3人も2人へと近づいていく。リュークに対しては心配を、メアに対しては恐怖と警戒をにじませながら。
「みんな、メアに失礼だよ」
妻達がメアに恐怖と警戒を抱いていることに目聡く気が付いたリュークは3人を咎める。3人から帰ってきた反応は複雑な表情というものだった。
「分かってるけど……」
「大丈夫ですよ? 私は」
メア自身、やりすぎたのではという思いはあった。そして自分達の夫という頼れる存在が一方的にやられていたとしたら、複雑な気持ちを抱くのは当然なんじゃないかと思ったのだ。
「ごめんね。実を言うと僕も少し君が怖い。その若さでそこまでの実力を持っているなんて」
「隠していてすみません…… 私自身、自分がどれくらいの力量なのか掴みかねていまして……」
申し訳なさそうに心情を吐露するリュークに対し、メアもまた申し訳なさそうに心情を吐露する。
「答えられるならでいいんだけど、君の実力はどこで培ってきたものなんだい?」
自分よりも若く、それでいて自分を圧倒するだけの実力の持ち主。そんな者が目の前に現れれば、どこでその実力を培ってきたのかを聞きたくなるのは至極当然の事であった。
「祖父に教わりました」
「そうか……」
リュークは嘘だと分かるメアの返答をあっさりと受け入れる。自分の強さを秘訣を教えたがる者はいないと分かっていたがゆえに。
「あっ。そういえば、僕は昼食後にギルドに行く予定だけど、君も来るかい?」
「はい。自分の宿なども確保しないといけませんから」
「そっか。出て行っちゃうんだね」
「さすがにいつまでもお世話になっていられません」
一息つき、ふと思い出したかのようにリュークが声をあげメアに問いかける。メアの返答を聞いたリュークは一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべたが、すぐにそれを隠すように普段通りの調子に戻った。
♦
「はぁ~…… にしても、やっちまったよなぁ」
昼食を摂り終え、身支度をするとリュークに言って客室に戻ってきたメアは、ベッドに腰かけながら先程行った模擬戦について後悔していた。いくら主力である魔法を封印し、さらにある程度力量を抑えて短剣を使っていたとはいえ、実力者であるリュークを圧倒してしまったのだ。それによりリュークの妻達には警戒され、リューク本人にも恐怖を抱かれてしまった。おかげで昼食は非常に気まずい雰囲気となり、ろくに味も分からない料理を口に詰め込むだけになってしまったのだ。
「気まずくなったし、ますます今日中に宿を見つけなきゃいけなくなったな」
先程の昼食の風景を思い起こしながら今後の目標を定める。
「ギルドで簡単な依頼を受けて宿に泊まれるだけの金を稼ぎたいところだ。どんな依頼があるんだろうな。やっぱり昨日の盗賊崩れみたいな奴らを掃討してこいみたいな依頼もあるんだろうか」
メアは自分で発した言葉にため息を吐きたくなった。盗賊崩れを掃討しろと言う事はつまるところ人殺し。いくら殺人が正当化されるといっても、前世の色を濃く残しているメアが忌避感を持つのは当然の事だった。
「やらなきゃいけない時に、やれなかったら後悔するのは自分なんだけどなぁ」
ベッドに倒れ込みつつ、自分を戒めるように呟く。そして頭の中に浮かぶ、人間の首が宙を舞ったあのときの情景。
「人を殺してもリュークは何も思い詰めてなかった。彼に聞いてみるのもいいか。人を殺めても悩まない方法を」
考えが一段落したところで、そろそろ頃合いではないかと思い立ち、メアはベッドから立ち上がる。
「そろそろ頃合いだな。行くとしよう」
翌日。
メアは特に何事も起床し、部屋を訪ねてきたリリーと連れ立って朝食を摂りに食堂へと向かった。そしてリューク達と朝食を摂っている時、リュークから実力を確認したいから模擬戦をしようと言われたのだ。特に断る理由も見つからなかったメアは模擬戦を了承し、今に至る。
「魔法は使わないとしよう。剣でどこまでやれるのか確認したいからな。武器はリュークの武器よりランクが低いほうがいいか。よし、とりあえず初期武器の片手剣でいこう。模擬戦で死にはしないだろうし」
そういってメアはインベントリから片手剣を取り出す。一見すればどこにでもありそうな片手剣。実際今メアが握っている片手剣はLaDOにおける初期装備、すなわちゲーム開始時に持っている武器だ。PVPで使おうものなら間違いなく挑発行為ととられる武器でもある。
「うん、扱い方が分かるな」
部屋の中で一通り片手剣を扱ってみるメア。その動きはまさに百戦錬磨の戦士が見せる動きのそれであり、万人を魅了するだけの美しさがあった。
「確認はこれでいいか。後はある程度力量を抑えて模擬戦に挑めば良いな。さて、行くとしよう」
一通り確認し終え、頃合いだと感じたメアは、あらかじめ場所を聞いていた中庭へと向かう。
「ここだっけかな?」
廊下を通り抜け、中庭へと入る。中々の広さを誇っており、石畳で舗装され、訓練に適している場所になっている。端の方にはところどころ花が植えられている花壇もあり、石畳の中庭という殺風景な風景に彩りを与えていた。
「やあ、待ってたよ」
メアが中庭に入り、辺りを見渡していると声を掛けられる。声がした方向へ振り向くと、木製のベンチに腰かけているリューク達4人がいた。イリアだけは目にくまを作って如何にも眠そうにしてはいるが。
「おまたせしました」
「大丈夫だよ。そろそろかなって思ってたところだし」
「そういっていただけると助かります」
敵意と警戒を込めた目線を向けてくるイリアを尻目にメアは返答する。
「それじゃ、早速やりたいんだけどいいかい?」
「ええ、わかりました」
言葉を交わしつつも、2人は開けている中央へ向かい、適度な距離を開けるために離れていく。対向10mほどでお互い静止し、武器を構えて睨み合う形となった。
(大丈夫だ。これは模擬戦。怪我をすることはあるだろうが死ぬことはないだろう)
先ほど扱っていた片手剣を軽く握り、自分に模擬戦だと言い聞かせるメア。彼女は特に力むことなく、傍から見てもとてもリラックスしている様子だ。
(この感覚は……)
対してリュークは決して表情には出していないものの、内心では戦慄していた。妻であるリリーから彼女は異質な存在だとは聞いていたが、実際相対してみると痛烈に感じ取ったのだ。まるで巨大な塊となって押し寄せてくるような、異質な感覚を。
そしてリューク自身、この感覚がどういうものか知っていた。まだ自分がAランク冒険者になる前、自分よりも格上の存在を相手にした時の感覚のそれなのだ。しかも今感じる感覚は、今まで感じ取ったものの中でも群を抜いているもの。
たかが模擬戦。メアを見ても特に気負うことなくリラックスしている状態。そんな状態の彼女からでもこれほどの感覚が襲ってくることにリュークは少しの恐怖を抱く。実際の戦場で、もし彼女を敵に回していたらどれほどのものが押し寄せてくるのかと。
「ふぅっ!」
そんな自分の心に巣食いだした恐怖を吹き飛ばすように、そしていつの間にか全身に立っていた鳥肌を抑え込むように、短く強く息を吐く。そして両手剣を握りしめ────
「行くよっ!」
リュークが駆け出す。常人からしてみれば目にも留まらない速度で。だが相手はレベル100、すなわち一個体として究極の存在。そんな存在からしてみれば、その程度の速度など、蟻の行進にさえ劣る速度だった。
(遅い。実力者っぽいリュークがこの程度なら割と生きていけそうだ)
リュークが突進してきているにもかかわらず、メアはゆっくりと思考する。それは、それほどまでに実力差があるということを如実に示していた。
「ふっ!」
「っ……」
リュークの振り下ろしに対応するメア。メアが力を入れて剣を振り抜こうものならリュークが持つ剣は真っ二つになるだろう。かといって力を抜きすぎれば押し切られてしまう。メアは絶妙とも言える力加減によってリュークの攻撃を防いだのだ。
(普段はこの程度の力量で剣士としてやっていくことにするか)
メアが暢気に思考している間にも、剣と剣が何度も交差し、剣戟の音が中庭に何度も鳴り響く。軽くやるつもりだったのであろうリュークも、模擬戦前のような余裕のある表情は見る影もなく、鬼気迫る表情でメアに切りかかっている。それに対してメアは一切表情を変えることなく、まるで流れ作業をこなしているかのようにリュークの猛攻を受け流していた。
「なんなのよ、彼女……」
「予想以上ですね…… リュークさんがあんなに……」
中庭の端のほうで静かに模擬戦の行く末を見守っていたリュークの妻達も、目の前に広がる光景にくぎ付けになっていた。
自分達が隣で見てきた、リューク自慢の攻撃が、まるで無価値とでも言うかのように防がれていく。戦闘の経験のないイザベラも、目の前の光景を見てどちらが圧倒的強者なのか一目でわかってしまっていた。
(ここまで圧倒的なのか……)
リュークは荒い息を吐きながら、また一手、また一手と剣をメアに打ち込む。結果なんて分かりきっている。まるで分かっていますとでもいうかのように防がれるだけ。そしてそこから追撃するわけでもなく、ただ防御に徹しているメア。まるで嘲笑われているかのような感覚に、リュークは無意識に奥歯に込める力を強めていく。
「くっ! ≪クロススラッシュ≫!」
リュークがスキルを使用したのを見てわずかに目を見開くメア。そのメアの様子を見たリュークもまた、わずかに口角を上げる。ようやくメアに変化をもたらすことができたと知って。だが────
「ぁっ……」
結果は同じ。なんら問題なく防いだメア。その様子を見て無意識にリュークの口から小さく嗚咽が漏れた。自分のスキルさえ、メアにとって防ぐことになんら問題はないという無情な現実を突きつけられて。
「これで終わりですかね?」
リュークが気が付いたころには首筋に冷たいものが突きつけられていた。最終的にはこうなると心の中では理解していたのだ。怒りや悔しさなんてものは浮かぶはずがない。あるのはただ虚無感だけだった。
「……僕の負けだよ。ここまで実力差があるなんてね」
「お手合わせありがとうございました」
リュークは少々力なく、メアは少しばかりの歓喜を含ませて礼をする。
「リューク様……」
「リュークさん……」
「リューク……」
模擬戦も終わり、リュークの妻である3人も2人へと近づいていく。リュークに対しては心配を、メアに対しては恐怖と警戒をにじませながら。
「みんな、メアに失礼だよ」
妻達がメアに恐怖と警戒を抱いていることに目聡く気が付いたリュークは3人を咎める。3人から帰ってきた反応は複雑な表情というものだった。
「分かってるけど……」
「大丈夫ですよ? 私は」
メア自身、やりすぎたのではという思いはあった。そして自分達の夫という頼れる存在が一方的にやられていたとしたら、複雑な気持ちを抱くのは当然なんじゃないかと思ったのだ。
「ごめんね。実を言うと僕も少し君が怖い。その若さでそこまでの実力を持っているなんて」
「隠していてすみません…… 私自身、自分がどれくらいの力量なのか掴みかねていまして……」
申し訳なさそうに心情を吐露するリュークに対し、メアもまた申し訳なさそうに心情を吐露する。
「答えられるならでいいんだけど、君の実力はどこで培ってきたものなんだい?」
自分よりも若く、それでいて自分を圧倒するだけの実力の持ち主。そんな者が目の前に現れれば、どこでその実力を培ってきたのかを聞きたくなるのは至極当然の事であった。
「祖父に教わりました」
「そうか……」
リュークは嘘だと分かるメアの返答をあっさりと受け入れる。自分の強さを秘訣を教えたがる者はいないと分かっていたがゆえに。
「あっ。そういえば、僕は昼食後にギルドに行く予定だけど、君も来るかい?」
「はい。自分の宿なども確保しないといけませんから」
「そっか。出て行っちゃうんだね」
「さすがにいつまでもお世話になっていられません」
一息つき、ふと思い出したかのようにリュークが声をあげメアに問いかける。メアの返答を聞いたリュークは一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべたが、すぐにそれを隠すように普段通りの調子に戻った。
♦
「はぁ~…… にしても、やっちまったよなぁ」
昼食を摂り終え、身支度をするとリュークに言って客室に戻ってきたメアは、ベッドに腰かけながら先程行った模擬戦について後悔していた。いくら主力である魔法を封印し、さらにある程度力量を抑えて短剣を使っていたとはいえ、実力者であるリュークを圧倒してしまったのだ。それによりリュークの妻達には警戒され、リューク本人にも恐怖を抱かれてしまった。おかげで昼食は非常に気まずい雰囲気となり、ろくに味も分からない料理を口に詰め込むだけになってしまったのだ。
「気まずくなったし、ますます今日中に宿を見つけなきゃいけなくなったな」
先程の昼食の風景を思い起こしながら今後の目標を定める。
「ギルドで簡単な依頼を受けて宿に泊まれるだけの金を稼ぎたいところだ。どんな依頼があるんだろうな。やっぱり昨日の盗賊崩れみたいな奴らを掃討してこいみたいな依頼もあるんだろうか」
メアは自分で発した言葉にため息を吐きたくなった。盗賊崩れを掃討しろと言う事はつまるところ人殺し。いくら殺人が正当化されるといっても、前世の色を濃く残しているメアが忌避感を持つのは当然の事だった。
「やらなきゃいけない時に、やれなかったら後悔するのは自分なんだけどなぁ」
ベッドに倒れ込みつつ、自分を戒めるように呟く。そして頭の中に浮かぶ、人間の首が宙を舞ったあのときの情景。
「人を殺してもリュークは何も思い詰めてなかった。彼に聞いてみるのもいいか。人を殺めても悩まない方法を」
考えが一段落したところで、そろそろ頃合いではないかと思い立ち、メアはベッドから立ち上がる。
「そろそろ頃合いだな。行くとしよう」
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