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いつもと同じく八時過ぎに目を覚ました瑠璃はのそりと上体を起こしたところで雪斗がまだ寝ていることに気付いた。毎回彼が先に起きて朝食を用意してくれていたので、見慣れない寝姿をしばし観察する。二度目の交わりが遅い時間だったので寝過ごしてしまったのだろう。
(ふふっ、やっぱりボサボサ)
髪質なのか、風呂上がりにふわふわと揺れる茶髪は寝るたびに四方八方へと広がっている。
(もう見納めかな)
唇の端を吊り上げるだけの笑みを浮かべ、バッグを拾い上げて洗面台に向かう。洗顔と歯磨きを済ませてメイクも施した。あとは着替えて部屋を出るだけ。それもいつも通りだ。
「……ん……瑠璃ちゃ……?」
寝室で散らばった衣類を集めて着込んでいると、掛け布団の塊がもぞもぞと蠢いた。やがて持ち上がった爆発頭が辺りを見回して瑠璃を見つける。
「いた……何してるの?」
寝起きの舌っ足らずで掠れた声が可愛く思えてしまう。
「帰る支度だよ、もう八時過ぎちゃってるから。雪斗くんはそのまま寝ていて」
「……え、なんで」
「え?」
(なんでって、なんで?)
いつも帰る時間だから。それ以外に答えはない。
「寝ぼけてる? 朝の八時だよ」
「うん……」
眠たげな声を発しながらも雪斗がむくりと身体を起こす。掛け布団の隙間から柔らかく勃ち上がった股間が覗き見えて、瑠璃は慌てて視線を逸らした。
「瑠璃ちゃん、この後予定でもあるの?」
「ううん、そういうのはないけど」
「じゃあまだいてもよくない?」
「え、でもいつも帰る時間だし、それに……」
まだ眠たげに垂れた瞳が言葉の続きを待っている。
「もう、会うのはこれで最後にしようかなって」
「は……え、はっ!? え、なに言っ……なんで?」
寝起きとは思えない大声に驚く。しかし心の中で自分を落ち着けてから瑠璃は切り出した。
「昨日してるとき……愛佳のこと、思い出してたよね?」
「え……」
呆けた声を発した雪斗だが、徐々に思い当たることがあったのか、その目が大きく見開いていく。やっぱりそうだったんだ、と瑠璃は瞼を下ろして落胆した。
この場にはいない誰かを示す『あいつ』という呼称、『ドレス』というワードから導き出される女性の影。直近であった結婚式のドレス姿を思い浮かべたのか、それとも披露宴でのウェディングドレスを思い出したのか。
一度きりの憂さ晴らしなら仕方がないと水に流すことも出来た。
しかし身体を重ねるごとに蓄積される思いがある中で、別の女性を思い浮かべながらのセックスだなんて堪ったものじゃない。
「失礼だよ」
「そ、それはごめん」
「私は愛佳の身代わりになる気はないから、もうセフレはやめたい」
「セフレ!?」
過去一の雪斗の大声に面食らう。彼もまた驚愕の表情を浮かべている。
「えっ、なん……瑠璃ちゃんがセフレ? なんでそんな話に」
「月に二回、雪斗くんの部屋に夜八時に来て翌朝八時には帰って。手料理はご馳走になってるけど外に出掛けたこともないし、こういうのをセフレって呼ぶんじゃないの?」
初めてのセフレだけどそうだよね?と付け足すと雪斗が絶望色に顔を染めた。
「そ、とで会えなかったのはその通りだけど、瑠璃ちゃんとは休みが合わないからこその苦肉の策で……」
「くにくのさく?」
「仕事に出る前に瑠璃ちゃんの寝起きの姿を見て朝の挨拶をするのが日曜の俺の活力源だから、俺都合なのは申し訳なかったけど」
「仕事に、出る、前?」
何のことだろうと瞬きを繰り返すのは瑠璃だけではなく雪斗も同じだった。
「……もしかして覚えてない? 披露宴の二次会で話したよね?」
「ごめん、何の話かよくわからない」
「メッセージアプリのIDを交換するときに話したでしょ? 経営してる美容室の名前がIDになってるけど個人的な連絡先だから、って」
「……雪斗くん、美容師さん、なの?」
「えっ、本当に覚えてないの!?」
記憶にない。何せ彼から初めてメッセージが届いたときにも考えたのだ。連絡先を交換した覚えがない、と。
俄には信じられない事実の列挙に瑠璃が呆然と立ち尽くしていると、雪斗が前のめりで言葉を紡ぐ。
「じゃ、じゃあ、あのとき瑠璃ちゃんに『可愛いね、俺に口説く時間をちょうだい』って言ったのも?」
覚えていない、という意味を込めて首を横に振る。
「俺、技術講師も請け負っていて月の半分は全国を飛び回ってるから会えるのがせいぜい月二回で。瑠璃ちゃんの仕事に影響が出ないようにするなら土曜から日曜に掛けての半日しかなくて」
ちょっと待ってて、と言い置いて雪斗が掛け布団を飛ばす勢いで寝室を飛び出した。一瞬だけ見てしまった股間のあれは平常の落ち着きを取り戻したようだ。洗面所の方から慌ただしい水音がして、やがて全裸のままで戻ってきた。
「良かった、いた」
「んむっ」
両腕を伸ばした雪斗に固く拘束され、激しいキスを落とされる。瑠璃の唇ごと吸い尽くすような口づけは爽やかな朝の空気にまるで相応しくない。
「やっと定休日と祝日が重なって瑠璃ちゃんとずっと一緒にいられると思ってたのに。一日中瑠璃ちゃんを抱き尽くすって決めてたのに」
より強く抱き締められ、ぐっと押し付けられた下腹部に熱い塊がある。ミント味のキスを何度も繰り返しながら雪斗が囁く。
「俺のこと、フラないで。セフレなんかに降格しないで。好きだよ、瑠璃ちゃん」
私も好き、という言葉すらも雪斗の唇に奪われて、二日目の睦み合いを初めて経験する。瑠璃の上でゆさゆさと揺れる爆発頭が堪らなく愛おしかった。
本当は尋ねるのが怖かったけれど、どうしても気になってセックス中に愛佳を思い出した理由を訊いてみた。
「愛佳が披露宴で撮影した写真をダチの結婚式のときに持って来てさ。その中には俺たちに関係ない写真も何枚か混じってて」
ピロートークの最中にサイドテーブルの引き出しに手を伸ばした雪斗が大判の写真を取り出した。写っているのは二人の女性で、一方は純白のウェディングドレスに身を包んだ新婦。その隣には他の誰でもない黄色のパーティドレスを纏った瑠璃がカメラ目線で微笑んでいた。
「写真をくれって頼んだら『五千円で売ってもいいよ』って」
「えっ!?」
「追加の祝儀だと思って払ったよ。マスカットももらったし、何より瑠璃ちゃんに出会わせてくれたんだからね」
ふんわり微笑んだ雪斗は写真の瑠璃に目を落とす。
「このドレス、超似合ってて好き。あの日も着たままハメようかって思ったくらい。汚したら悲しむだろうから諦めたけど。でも写真を何度も見返しては妄想してる」
愛佳発信ではあるけれど、瑠璃のことを思い出していたらしい。紛らわしいな、と素肌の腕をペチンと叩くと不思議そうな表情ながらも笑みを絶やさない。
「ねぇ瑠璃ちゃん、今度良い店を予約するからこれ着てきてよ。もう一度見たい」
「でも、忙しいんだよね? 大丈夫?」
「年明けには講師から外れるから今よりずっと会えるよ。デートも行けるし、時間の融通も利くようになるから」
大事そうに写真をしまう雪斗の背中を見つめて小さく呟く。
「雪斗くんは愛佳が好きなんだって思ってた」
「へ? どうして」
「二次会で『なんであんな男を選んだんだ』って落ち込んでたから、失恋したんだろうなって……」
「ないない! 絶対ない!」
必死な雪斗に新郎のことを覚えているかと問われて、こくんと頷いた。高校の教員で優しく誠実そうな男性だった。瑠璃や愛佳たちよりも年上で大人の包容力を感じたことも。
「あいつ、俺たちが高二のときの副担任。その頃から愛佳とデキてたんだよ」
「え……えっ、そうなの?」
「しかも当時から校舎内でヤリまくり」
友人の知られざる過去を明かされて瑠璃は動揺を隠せなかった。常々年上の彼氏がいると惚気られてはいたけれど、高校生で先生と学校で、だなんて。
「そんなヤツが今も女子高生に囲まれた環境で働いてるんだよ。浮気の可能性がありまくるって俺たちの間では懸念点だったの」
「そ、そうだったんだ……」
「まぁ今なら外野の声なんてどうでもいいって気持ちはわかるんだけどね」
すりすりと頭頂部に頬ずりされて、それはそうだと納得する。
今日までの雪斗との関係を誰かに相談していたら、きっとやめろと止められていたはずで、でも素直には従えなかっただろう。
(美容師さんも女の人に囲まれてるイメージがあるけどなぁ)
心の中でこっそり思う。が、指摘はせずにおいた。少なくとも今の時点で彼を疑う必要がないくらいに今日一日たっぷりと愛情を注がれたから。
「名残惜しいけどこれ以上遅くなったら明日に響くよなぁ」
残念そうに雪斗が唇を尖らせる。時刻はまもなく午後十時。そろそろ帰宅して散々愛された身体を休めなければ明日の仕事に差し支えるだろう。
「瑠璃ちゃんの家まで送ってく。いい?」
そうして支度を整えて二人は雪斗の部屋を後にする。彼と連れ立ってこの部屋を出るのは初めてのことだった。
「これ、俺の部屋の合鍵ね」
瑠璃の自宅前でさらりとキーを手渡され、瑠璃も慌てて自室に保管していた合鍵を雪斗に差し出す。受け取り際の満面の笑顔にきゅんと来て思わず彼に手を伸ばしたら、それよりも早く掻き抱かれてキスの雨を降らされた。
「帰りたくないな。合鍵だけじゃもたないかも……」
優に十分は続いた口づけのあとに雪斗が熱く囁く。
彼の伴侶という最高ランクに到達するのはそう遠くないかもしれない。
―完―
(ふふっ、やっぱりボサボサ)
髪質なのか、風呂上がりにふわふわと揺れる茶髪は寝るたびに四方八方へと広がっている。
(もう見納めかな)
唇の端を吊り上げるだけの笑みを浮かべ、バッグを拾い上げて洗面台に向かう。洗顔と歯磨きを済ませてメイクも施した。あとは着替えて部屋を出るだけ。それもいつも通りだ。
「……ん……瑠璃ちゃ……?」
寝室で散らばった衣類を集めて着込んでいると、掛け布団の塊がもぞもぞと蠢いた。やがて持ち上がった爆発頭が辺りを見回して瑠璃を見つける。
「いた……何してるの?」
寝起きの舌っ足らずで掠れた声が可愛く思えてしまう。
「帰る支度だよ、もう八時過ぎちゃってるから。雪斗くんはそのまま寝ていて」
「……え、なんで」
「え?」
(なんでって、なんで?)
いつも帰る時間だから。それ以外に答えはない。
「寝ぼけてる? 朝の八時だよ」
「うん……」
眠たげな声を発しながらも雪斗がむくりと身体を起こす。掛け布団の隙間から柔らかく勃ち上がった股間が覗き見えて、瑠璃は慌てて視線を逸らした。
「瑠璃ちゃん、この後予定でもあるの?」
「ううん、そういうのはないけど」
「じゃあまだいてもよくない?」
「え、でもいつも帰る時間だし、それに……」
まだ眠たげに垂れた瞳が言葉の続きを待っている。
「もう、会うのはこれで最後にしようかなって」
「は……え、はっ!? え、なに言っ……なんで?」
寝起きとは思えない大声に驚く。しかし心の中で自分を落ち着けてから瑠璃は切り出した。
「昨日してるとき……愛佳のこと、思い出してたよね?」
「え……」
呆けた声を発した雪斗だが、徐々に思い当たることがあったのか、その目が大きく見開いていく。やっぱりそうだったんだ、と瑠璃は瞼を下ろして落胆した。
この場にはいない誰かを示す『あいつ』という呼称、『ドレス』というワードから導き出される女性の影。直近であった結婚式のドレス姿を思い浮かべたのか、それとも披露宴でのウェディングドレスを思い出したのか。
一度きりの憂さ晴らしなら仕方がないと水に流すことも出来た。
しかし身体を重ねるごとに蓄積される思いがある中で、別の女性を思い浮かべながらのセックスだなんて堪ったものじゃない。
「失礼だよ」
「そ、それはごめん」
「私は愛佳の身代わりになる気はないから、もうセフレはやめたい」
「セフレ!?」
過去一の雪斗の大声に面食らう。彼もまた驚愕の表情を浮かべている。
「えっ、なん……瑠璃ちゃんがセフレ? なんでそんな話に」
「月に二回、雪斗くんの部屋に夜八時に来て翌朝八時には帰って。手料理はご馳走になってるけど外に出掛けたこともないし、こういうのをセフレって呼ぶんじゃないの?」
初めてのセフレだけどそうだよね?と付け足すと雪斗が絶望色に顔を染めた。
「そ、とで会えなかったのはその通りだけど、瑠璃ちゃんとは休みが合わないからこその苦肉の策で……」
「くにくのさく?」
「仕事に出る前に瑠璃ちゃんの寝起きの姿を見て朝の挨拶をするのが日曜の俺の活力源だから、俺都合なのは申し訳なかったけど」
「仕事に、出る、前?」
何のことだろうと瞬きを繰り返すのは瑠璃だけではなく雪斗も同じだった。
「……もしかして覚えてない? 披露宴の二次会で話したよね?」
「ごめん、何の話かよくわからない」
「メッセージアプリのIDを交換するときに話したでしょ? 経営してる美容室の名前がIDになってるけど個人的な連絡先だから、って」
「……雪斗くん、美容師さん、なの?」
「えっ、本当に覚えてないの!?」
記憶にない。何せ彼から初めてメッセージが届いたときにも考えたのだ。連絡先を交換した覚えがない、と。
俄には信じられない事実の列挙に瑠璃が呆然と立ち尽くしていると、雪斗が前のめりで言葉を紡ぐ。
「じゃ、じゃあ、あのとき瑠璃ちゃんに『可愛いね、俺に口説く時間をちょうだい』って言ったのも?」
覚えていない、という意味を込めて首を横に振る。
「俺、技術講師も請け負っていて月の半分は全国を飛び回ってるから会えるのがせいぜい月二回で。瑠璃ちゃんの仕事に影響が出ないようにするなら土曜から日曜に掛けての半日しかなくて」
ちょっと待ってて、と言い置いて雪斗が掛け布団を飛ばす勢いで寝室を飛び出した。一瞬だけ見てしまった股間のあれは平常の落ち着きを取り戻したようだ。洗面所の方から慌ただしい水音がして、やがて全裸のままで戻ってきた。
「良かった、いた」
「んむっ」
両腕を伸ばした雪斗に固く拘束され、激しいキスを落とされる。瑠璃の唇ごと吸い尽くすような口づけは爽やかな朝の空気にまるで相応しくない。
「やっと定休日と祝日が重なって瑠璃ちゃんとずっと一緒にいられると思ってたのに。一日中瑠璃ちゃんを抱き尽くすって決めてたのに」
より強く抱き締められ、ぐっと押し付けられた下腹部に熱い塊がある。ミント味のキスを何度も繰り返しながら雪斗が囁く。
「俺のこと、フラないで。セフレなんかに降格しないで。好きだよ、瑠璃ちゃん」
私も好き、という言葉すらも雪斗の唇に奪われて、二日目の睦み合いを初めて経験する。瑠璃の上でゆさゆさと揺れる爆発頭が堪らなく愛おしかった。
本当は尋ねるのが怖かったけれど、どうしても気になってセックス中に愛佳を思い出した理由を訊いてみた。
「愛佳が披露宴で撮影した写真をダチの結婚式のときに持って来てさ。その中には俺たちに関係ない写真も何枚か混じってて」
ピロートークの最中にサイドテーブルの引き出しに手を伸ばした雪斗が大判の写真を取り出した。写っているのは二人の女性で、一方は純白のウェディングドレスに身を包んだ新婦。その隣には他の誰でもない黄色のパーティドレスを纏った瑠璃がカメラ目線で微笑んでいた。
「写真をくれって頼んだら『五千円で売ってもいいよ』って」
「えっ!?」
「追加の祝儀だと思って払ったよ。マスカットももらったし、何より瑠璃ちゃんに出会わせてくれたんだからね」
ふんわり微笑んだ雪斗は写真の瑠璃に目を落とす。
「このドレス、超似合ってて好き。あの日も着たままハメようかって思ったくらい。汚したら悲しむだろうから諦めたけど。でも写真を何度も見返しては妄想してる」
愛佳発信ではあるけれど、瑠璃のことを思い出していたらしい。紛らわしいな、と素肌の腕をペチンと叩くと不思議そうな表情ながらも笑みを絶やさない。
「ねぇ瑠璃ちゃん、今度良い店を予約するからこれ着てきてよ。もう一度見たい」
「でも、忙しいんだよね? 大丈夫?」
「年明けには講師から外れるから今よりずっと会えるよ。デートも行けるし、時間の融通も利くようになるから」
大事そうに写真をしまう雪斗の背中を見つめて小さく呟く。
「雪斗くんは愛佳が好きなんだって思ってた」
「へ? どうして」
「二次会で『なんであんな男を選んだんだ』って落ち込んでたから、失恋したんだろうなって……」
「ないない! 絶対ない!」
必死な雪斗に新郎のことを覚えているかと問われて、こくんと頷いた。高校の教員で優しく誠実そうな男性だった。瑠璃や愛佳たちよりも年上で大人の包容力を感じたことも。
「あいつ、俺たちが高二のときの副担任。その頃から愛佳とデキてたんだよ」
「え……えっ、そうなの?」
「しかも当時から校舎内でヤリまくり」
友人の知られざる過去を明かされて瑠璃は動揺を隠せなかった。常々年上の彼氏がいると惚気られてはいたけれど、高校生で先生と学校で、だなんて。
「そんなヤツが今も女子高生に囲まれた環境で働いてるんだよ。浮気の可能性がありまくるって俺たちの間では懸念点だったの」
「そ、そうだったんだ……」
「まぁ今なら外野の声なんてどうでもいいって気持ちはわかるんだけどね」
すりすりと頭頂部に頬ずりされて、それはそうだと納得する。
今日までの雪斗との関係を誰かに相談していたら、きっとやめろと止められていたはずで、でも素直には従えなかっただろう。
(美容師さんも女の人に囲まれてるイメージがあるけどなぁ)
心の中でこっそり思う。が、指摘はせずにおいた。少なくとも今の時点で彼を疑う必要がないくらいに今日一日たっぷりと愛情を注がれたから。
「名残惜しいけどこれ以上遅くなったら明日に響くよなぁ」
残念そうに雪斗が唇を尖らせる。時刻はまもなく午後十時。そろそろ帰宅して散々愛された身体を休めなければ明日の仕事に差し支えるだろう。
「瑠璃ちゃんの家まで送ってく。いい?」
そうして支度を整えて二人は雪斗の部屋を後にする。彼と連れ立ってこの部屋を出るのは初めてのことだった。
「これ、俺の部屋の合鍵ね」
瑠璃の自宅前でさらりとキーを手渡され、瑠璃も慌てて自室に保管していた合鍵を雪斗に差し出す。受け取り際の満面の笑顔にきゅんと来て思わず彼に手を伸ばしたら、それよりも早く掻き抱かれてキスの雨を降らされた。
「帰りたくないな。合鍵だけじゃもたないかも……」
優に十分は続いた口づけのあとに雪斗が熱く囁く。
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