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8章.神々の黄昏編

130話.結婚式

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 クロムは動揺していた。
この時が近い未来にくることはわかっていたが、まさかそれが今日であるとは微塵も考えていなかったのである。

「はぁぁ……
 ついに…… か。
 せめて式が無事終わるまでは誰にも悟られないようにしないとな」

 クロムは先ほど聞いた言葉が空耳ではなく、現実であるということは受け入れていた。
その上でみんなのお祝いムードを壊したくもなかったし、幸せに包まれているアキナに心配をかけたくもなかった。

「アキナには言わなきゃいけなくなるけど…… せめて式が終わるまでは……」

 クロムは自身の動揺を悟られることがないように、時間をかけて心を落ち着かせながら、アキナが待つ部屋まで帰るのだった。

「クロム殿!!
 こんな大切な日に花嫁を残してどこに行っているんですか!!!」

 部屋に戻ったクロムを待っていたものは、ディアナの怒号どごうであった。
まさか部屋に戻った早々で怒号を浴びることになるとは夢にも思っていなかったクロムがディアナに言い訳と謝罪をしようとすると、背中に衝撃があり振り返った。

「いた!!!!
 もぉ、式当日の朝にどこに行ってたのよ!!!!」

 振り返ったクロムは、その声の主を静かに抱き寄せながら落ち着いた声で謝罪する。

「ごめんな、アキナ。
 朝早く目が覚めちゃったから、街の様子を確認がてら散歩してたんだ」

「ぶぅ……
 散歩なら私も誘ってくれたらいいのに!!」

「すごく気持ちよさそうな寝顔だったから、起こすのが忍びなくて……」

 クロムの言葉に顔を赤らめて黙り込むアキナ。
そんな二人のやり取りを見ていたディアナは苦笑するしかなかった。

「はぁ……
 お二人とも仲が良いのはわかりましたから、目の前でいちゃつくのはやめてください。
 アキナさんは、そろそろ式の準備に向かいますよ」

 ディアナの声で我に戻ったアキナは、クロムに先に行ってるねと告げてディアナと共に式場へと急ぐのだった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 クロムが結婚式の会場に到着したのは、式開始時刻の1時間ほど前であった。
そして、アキナの様子を伺うために声をかけにいったクロムはそこで固まることとなる。

「クロム??
 どうしたの、そんな部屋の入口で固まって……
 入っておいでよ」

 アキナのそんな言葉で我に戻るクロム。

「あ、あぁ、すまない。
 アキナがあまりにも綺麗すぎて……
 想像以上すぎて固まってしまった」

「あ、ありがとね……
 嬉しいけど、すっごく照れる……」

 すっかり二人だけの世界を作り出して、いちゃつく二人。
しかしそんな甘い空気は一人の言葉で霧散することとなった。

「はぁ……
 もういちゃつくのは好きにしてください、でもクロム殿。
 ご自分の準備をお急ぎください」

 ディアナにそう促されてクロムは自分が準備をしていないことを思い出した。
そして、急ぎ衣装替えなどを行っているところにカルロが訪ねてきた。

「兄貴、アキナ、本当におめでとうな!」

 カルロといつもの軽口の挨拶を交わすと、カルロは急に改まった口調で話し始めた。

「本日は配下一同を代表して、竜人族族長カルロが僭越せんえつですが、神父を務めさせていただきます。
 そろそろお時間ですので、こちらにどうぞ」

 カルロの急変に驚くクロムとアキナ。
しかしすでに開始時刻を迎えようとしているため、追及することもできぬままカルロに連れられる形で式場へと向かうのだった。
そして、クロムたちはカルロに招かれるまま祭壇の前まで移動した。

「皆様、ご静粛にお願いします。
 ただいまより、クロム様とアキナ様の結婚式を始めさせて頂きます。

 なんじクロムは、この女アキナを妻とし、
 良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
 病める時も健やかなる時も、
 共に歩み、他の者に依らず、
 死が二人を分かつまで、愛を誓い、
 妻を想い、妻のみに添うことを、
 神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」

「汝《なんじ》アキナは、この男クロムを夫とし、
 良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、
 病める時も健やかなる時も、共に歩み、
 他の者に依らず、死が二人を分かつまで、
 愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、
 神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」

「皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、
 結婚の絆によって結ばれた このお二人を
 神が慈しみ深く守り、助けてくださるよう
 祈りましょう
 今日結婚の誓いをかわした二人の上に、
 満ちあふれる祝福を注いでください」

 カルロの宣言を受けて、出席者から歓喜の声と盛大な拍手が沸き起こる。
そして、クロムが出席者へ感謝の言葉を伝えて、無事に結婚式は終わりを迎えた。
幸せいっぱいの顔をしているアキナが隣にいることの幸せに浸るクロムであったが、頭の片隅で<神に誓い、神の祝福を受ける>という一連の誓いがなんとも苦々しいにがにがしいと思うのであった。

 そして、アキナと共に二人のみで部屋の戻ったクロムは、ついにアキナに告げるのだった。
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