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6章.ダイン獣王国編

74話.狐人族の苦悩

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クロムのお膳立てを受けたアルテナは、自身の愚痴を聞いてもらうというていで狐人族が現在抱えている問題を告白し始めた。

「狐人族という種族は昔から搾取され続けてきましたが、その度に集落を移転させながらなんとかやってきました」

「その状況は容易に想像ができるな」

「そんな我らも先日現れたミツルという男への対応は決めかねているのです」

先日この集落にフラっと現れたミツルという男は門衛の制止を振り切って侵入し、2人の狐人族を捕まえて宣言したのだった、自分はこの近くの砦跡を拠点するものであると。
そしてミツルと対峙したディアナに対して、俺の女になれと。
拒む場合はこの場にいる全ての狐人族を絶滅させると言い、見せしめとして捕まえていた2人の狐人族の首を斬り飛ばしたのであった。

「…… その男も獣人族なのですか?」

「見た目は普通の人間…… に見えました。
 しかしとても人間とは思えない素早さの持ち主で得体のしれない恐ろしさを持っている男でした」

その話を聞いたクロムの頭の中を何やら説明しがたい嫌な予感が駆け抜けることになった。
違和感や寒気にも似た得体のしれない予感が。

「じゃあ兄貴、俺たち4人で軽く見てくるわ」

「わかった、無理はするなよ」

クロムとアキナがカルロたち4人を見送ると、アルテナとディアナが不思議そうな顔でクロムたちを見上げていた。

「まぁ、まだどうするって決めたわけではないではないのですけど……
 ここで何もしないなんてことはアキナが許してくれないでしょうね」

クロムがアキナの頭を撫でながらそういうとディアナはクロムたちの意図を悟ったようであった。

「クロム殿!!
 これは我らの問題、手出しは無用と言ったはずです!!」

クロムたちが介入することを拒絶しようとするディアナ。
これには人に借りをつくればいずれそこに付け込まれるという過去の経験則からによるものであった。
しかしそれを察した上でクロムは優しい口調で二人に語り掛けた。

「個人的にそのミツルくん? に興味が沸いただけですよ
 ただミツルくんのことを何も知りませんから彼らに偵察に行ってもらいましたが……
 できれば、何か知ってること教えてもらえませんか?」

ここで知ってる範囲の情報を教えてくれれば貸し借りなしでチャラになるでしょ?とでも言わんかの如くのクロムの言いように、ディアナとアルテナは呆気にとられながらも顔を見合わせるしかなかった。
そしてディアナの重い口がゆっくりと動き出すのである。

ディアナが話し始めたミツルの情報は決して多くはなかった。
この集落より北に数時間ほど歩いた場所にある砦跡に住み着いている人族であるということと、特出するべきとくしゅつするべき能力は尋常ではないほどの素早さがあるということの2点のみである。

この程度しか提供できる情報がないことに恐縮するディアナであったが、クロムは少々大げさに見えるほどオーバーに情報提供への感謝を伝え、そしてディアナに一つの質問をしてみた。
今回のような件に対してダイン獣王国は何も対応しないのか? と。

「実は昨日、国の高官と会い助力をお願いしたところだったのですが……」

ディアナの話によれば、助力のお願いをされた高官はその願いをバッサリと切り捨てたのであった。
この国は弱肉強食であり、強きものが奪い、弱きものは搾取されるのだと。

それを聞いたクロムはディアナたちを助けることを決意するのであった。
行き過ぎた実力至上主義に嫌悪感を抱いたのだ。

「アキナ、今後の予定決まったぞ」

「え!??」

「ミツルをぶっ飛ばしたあと、ダイン王に会いに行く」

クロムの突拍子の無いとっぴょうしのない発言に一同騒然となったが、クロムはそんなことを一切気にする素振りも見せずに言葉を繋いだつないだ

「アキナの大切な友人とその種族、それは俺にとって守るべき大切な存在だよ。
 その存在を無碍にするむげにすることを俺は許さない」

そしてクロムはアキナをそっと抱きしめて、ポツリとアキナだけに聞こえるような声量で呟いたつぶやいた
俺はアキナの笑顔をずっと見ていたいんだよ、と。
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